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亡国王子とオートマタ  作者: あおいみなみ
第二章 首都ラミアへ
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第十四話 『剣・魔術練・敵』

すみません。週末ドッタンバッタンゼットンしていて金曜日に更新ができませんでした。

 フィリアやエルナに魔術と剣の訓練をつけてもらうようになってから1週間と少しが経った。


 フィリアの言う通り僕には魔術の適性があったようで、教えてもらった基本的な魔術はすぐに扱えるようになった。とは言っても、まだまだ実戦で咄嗟に使えるようなモノでもないけどね。


 逆に剣術の方はあまり芳しくなく、どうも体がついていかない。

 身体強化魔術の使用方法もフィリアから聞かされ意識して使用するようにしているのだが、剣術と組み合わせるというのがまだなかなか難しい。というより、このシュタイン流剣術、とんでもない集中力が必要とされるので魔術にまで気が回らない。


 シュタイン流剣術は一撃一殺を中心に据えた剣術だ。一回の攻撃に全てを乗せ、相手を断ち切る。防御されたり回避された際にはもう一度距離をとり、再び一撃を狙いに行くというスタイル。故に一撃に凄まじい集中力をこめなければならず、魔術に回す脳のリソースがない。


 まぁ、僕がまだ本格的な剣術を習い始めて一週間少ししか経っていないし、魔術だってまともに使い始めて一週間だ。どちらも急に上手くできるようになるはずがない。これは地道な訓練が必要だな…。


「今日はここまで!」

「「「ありがとうございました!」」」


 今日の訓練が終了した。


 僕だけがエルナに剣術を教わるというわけにもいかず、他の馬車に搭乗しているシュタイナー家の面々も訓練に参加してる。魔術の方は僕だけがフィリアに教わっているが…。というか、彼女は魔術が使用できない分、人に魔術を教えるのが下手だった。


 まず、『魔術』を使用できないので、お手本を見せることができない。

 詠唱を教えることや、魔術の基礎理論に関しての知識を人に教えることはできるが、そこまでだ。彼女の操る『魔術演算』は、僕らの使用する魔術とは別物で、結果として同じに見えたとしてもその発動までのプロセスが大きく異なっていた。


 そして、説明が難しすぎる。

 フィリアなりにわかりやすく噛み砕いて説明してくれているんだろうけど、それが結局論理構造を複雑にしてしまって却ってわかりにくくなってしまっている。

 例え話で説明する、というようなことをしてくれないのだ。


 お手本問題はどうにもならないとして、説明に関しては持ってきていたノートにまとめているので、そのうち難しい言葉を使用した説明も理解ができるようになるだろう。


 そんなこんなで剣術と魔術のどちらも一足跳びに上達するということはなかったが、まぁまだ訓練を開始して一週間だ。焦らずゆっくり進めていこう。


 そんなことを考えながら訓練後に近くの川で水浴びをして汗を流し、野営地に戻るとエルナがフィリアと訓練を行っていた。



 二人の訓練…というか、手合わせか。

 あれは見ていて気持ちが良い。


 あくまでも訓練という名目で行われているので、フィリアもかつての決闘のように一撃で終わらせるという真似はしない。何度もエルナの攻撃を捌き、反撃し、エルナの一瞬の致命的な隙をついて組み伏せる、という形だ。


 相変わらずフィリアは丸腰で(厳密には全身武装されているので丸腰ではないが…)エルナの目にも止まらぬ速さの剣戟を両足の刃で捌いている。

 様々な方向から振り下ろされ、または振り上げられる剣を、フィリアは必要最低限の動きで避け、いなし、あるいは防ぐ。フィリアはそのエルナの攻撃全てにカウンターを飛ばし、徐々に劣勢に追い込んでいく。


 エルナがフィリアのカウンターと攻撃に耐える余裕がなくなってきた時、エルナはカウンターを放とうとするフィリアの軸足に足払いをかけ、バランスを崩す。その隙をついて必殺の一撃を叩き込むエルナ。

 しかし、フィリアはあろうことかすぐさま床に手をつき、重心をそちらに乗り換えた。頭上から首へと振り下ろされかけていたフィリアの足が、急な体重移動とともにその力の指向性を変え、腕をバネのように使いエルナの鳩尾へフィリアの蹴りが放たれる。


 2mほどエルナは吹き飛ばされ、首筋に刃が添えられる。


「はぁ…はぁ…ありがとう、ございました…。」


 エルナは汗だくでフィリアへお礼を言う。


「お疲れ様です。こちらこそ、ありがとうございました。エルナ様、着実に剣の腕が上達しております。この一週間で見違えるほどに。」


「そんなお世辞は結構です…。まだフィリアさんから一本も取れていないのに…。」


「お世辞ではありません。現に、今回私はエルナ様に手を着かされましたから。あの動きはよかったですよ。」


「…ありがとう、ございます。」


 エルナはまだ納得していない様子だったが、その口角が少し上がっている。嬉しいんだな。


「立てますか?」

「疲れました。立たせてください。」


 フィリアに手を借りながら立つエルナ。なんか仲良くなっている(?)みたいでこっちも嬉しいな。


「次は尻餅つかせてやりますからね。」

「はい、期待しております。」


 フィリアは相変わらず冷静で事務的だけど…。



 ――――



 3日後、僕ら一行は深い山道に入った。

 クネクネと曲がる道は見通しが悪く、道の状況も悪かった。


「…トキナ村へ向かう途中、この道で襲撃に遭いました。警戒は常にしておりますが、この道は特に注意が必要です。少なくとも日没までには見通しのいい場所まで出たいですね…。」


 エルナはそう言って周囲の警戒を怠らない。

 確かに、こんな見通しの悪い所だと奇襲をかけやすいだろうな。

 このまま何事もなければいいのだが…。


 山道に入って2時間ほど経った頃、フィリアがつぶやいた。


「…敵です。次の曲がり角を越えた先。数は10名といった所でしょうか。潜伏している敵も3名ほどいます。」


 馬車内に緊張が走る。

 エルナはすぐさま他の馬車に報告を飛ばし、一行は警戒体制を敷きながら道を進む。


 フィリアの指定したポイントには数台の馬車が待ち構えていた。

 武装した兵士が何人か外に配置されている。

 10人…には見えないな。馬車の中にまだ何人か待機しているのだろう。それと、伏兵か…。


「馬車を下げろ。御者はそのまま待機!」

 僕ら一行の馬車が停止し、エルナが隊列の先頭へ歩みを進める。


 先頭へと辿り着きいたエルナは、その芯の通った声で誰何する。


「こちらはシュタイナー家の家紋を掲げた馬車である!無用な誤解や戦闘は望まぬ!道を譲れ!」


「…。」

 相手は答えない。


「街道を封鎖する権限は王命にのみ属する!名乗れ。さもなくば敵対行為と見なす。」


 返答はない。

 ただ、前列の中央に立つ兵士がゆっくりと剣の柄に手をかけた。


「最後に今一度問う!道を開ける気はあるか!」


「…ない!」


 相手がそう叫ぶと、戦闘が始まった。



 ――――



「皆の者!剣を抜け!敵襲だ!」

 エルナが号令をかけ、即座に隊列が組まれる。

 僕が乗る馬車を中心に前方に7名、横にそれぞれ3名、そして後ろに2名が配置される。

 僕とフィリアは中央の馬車内だ。


 敵がどの程度の強さなのかはわからないが、剣術も魔術も未熟な僕は戦闘の邪魔になるので待機だ。そもそも敵は僕を狙ってきているみたいだし、わざわざターゲットが外に出る意味も薄い。


 フィリアはいつも通り。敵襲だと言うのに澄ました顔で僕の隣に座っている。


「フィリアは戦わないのか?」

 少し疑問に思ったので聞いてみる。いくら僕を守るために横にいるとはいえ、戦闘に参加しないのもどうなんだ?一応、護衛という目的で連れてきているし…。


「必要でしょうか?あの程度の連中であれば私が出るまでもありません。」

「戦力的な問題というよりも、助け合い精神的な気持ちの問題だと思うけど…。」


 キョトンとした顔でこちらを眺めるフィリア。

 そんな顔しないで欲しい。いや、別に表情自体大して変わっていないんだが…。


「先日、野営の際にエルナ様に頼まれました。敵襲があっても、可能な限り自分たちで対処したい、と。」


「もちろん、マスターの身に危険が及ぶようであれば私も対処にあたります。しかし、しかし今は特にその心配もないでしょう。」


 ふむ…。

 エルナがそんなことを言っていたのか…。矜持というやつだろうか。

 まぁ、フィリアが問題ないと判断するのであれば、大丈夫だろう。


 そんな話をしていると、フィリアが突然手を目の前に突き出した。

 一瞬のことで理解が追いつかなかったが、見るとフィリアの手には一本の矢が握られていた。


 ゾッとした。

 鏃には毒のようなものが塗られている。


「伏兵ですか。お怪我はありませんか?マスター。」

「あ、ああ…。」


 何を油断しているんだ僕は。

 戦力に余裕があろうと、相手も命をかけて僕らに戦闘を仕掛けているんだ。

 常に「死」と隣り合わせの場所にいるんだ。しかも敵勢力は全員僕を狙っている。


 隣にフィリアがいるからって、自分が戦闘に参加していないからって、あまりにも油断しすぎている。いや、「戦場にいる」という実感が足りなさすぎる。

 これじゃあ、ダメだ。


「少し離れた場所からボウガンでこちらを狙っていますね。矢には毒も塗布されています。解毒は可能ですが、触れないように気をつけてください。」


 フィリアはそう言うと、矢を飛んできた方向へ弾き飛ばし返した。

 …なんで矢を手で飛ばせるんだ…。


「矢は持ち主に返しておきました。死ぬほど嬉しそうにしていますよ。」

「…フィリアもジョーク言えるようになったんだ…?」

「ええ、会話も重要な機能の一部でございます。それと、マスターがあまりにも緊張されているように見えたので。マスターのメンタルケアも私の業務の一環です。」


 フィリアはそういうと優しく微笑んだ…ように見えたが、瞬きをした次の瞬間にはいつもの無表情に戻っていた。


「さて、離れた場所にいる伏兵は少し厄介そうですね。私の方で処理しておきましょうか。」

「あれ?フィリアは手出ししないんじゃないの?」

「そう協力を願われただけで、特に禁止されているわけでもありませんので。それに、戦闘はあまり長引かせるものでもありませんから。」


 フィリアは馬車の外へと目をやると、パチンと指を鳴らした。

 少し離れた場所で短い断末魔と何かが地面へ落ちる音が二つ聞こえた。

 木の上から僕らを狙っていたらしい。


「残りはエルナ様たちに任せておけば問題ありません。」


 ――――


 約5分が経過した。

 敵の「撤退!」という声が聞こえてくる。


 こちらも無駄に追うことはせず、エルナが馬車内の様子を確認しにきた。


「ハル様、お怪我はありませんか?」

「無事だよ。エルナも怪我はない?」


 エルナは返り血を多少浴びているものの、目立った外傷はない。

 フィリアの言葉に間違いはなかったようだ。


「ええ、問題ありません。幸いこちらの被害は大きくありません。数名が傷を負いましたが、致命傷ではありません。フィリア殿、治療をお願いできますか?」

「承知いたしました。」


 フィリアと共に馬車を出る。

 確かに、4人ほど怪我をしているが歩けないほどの傷ではない。

 地面に何人か転がっているのも、敵勢力の死体だ。


「敵は、どこの者なんですか?」

「鎧の襟首に家紋を発見しました。メイナード下級大臣の私兵です。撤退判断の速さや、戦力的に見ても本気でハル様を殺しに来たとは思えませんでした。おそらく様子見でしょう。もし殺害できればラッキー程度の襲撃だったように見えます。」


 メイナード下級大臣…。

 エルナの家を裏切って敵側に寝返ったことで大臣職を手に入れたんだったな。

 そして今回は、様子見…。


「僕が生きているかどうかの確認ということだろうか。」

「そうでしょう。奴らは撤退しました。馬車の大きさや積荷の程度で判断するに、素早く移動することに長けた装備でした。首都に入る頃には、ハル様への何かしらの対抗策が取られてしまっていると考えられます。今回のような派手な襲撃は無いと思いますが…。」


 首都に安全な場所は少ないってことね。


 周囲の安全とさらなる襲撃者に警戒しつつ、死体は道の端に並べておく。

 こうしておくことで、この辺りの山や道中を行き来する盗賊や山賊が死体の処理をするらしい。鎧や剣などの装備品は、その処理費用の代金のようなものだそうだ。


 とは言っても、山の中や洞窟の中などで死体を放置しているとアンデッドやゴーストになりかねない。この辺りを縄張りにする山賊たちにはそれも面倒ごととなるので、結局死体処理はされるそうだが…。


「基本的には私たちだけで襲撃の対処はいたしますが、フィリア殿がいるので最悪の自体にはならないでしょう。私たちが危なったら、お願いいたします。」


 負傷者の治療を終え、僕らのところに戻ってきたフィリアに声をかける。


「承知いたしました。この程度の敵であればエルナ様たちだけでも問題はないとお思いますが…。」

「私もまだまだです。今回より激しい襲撃が起こる可能性も未だ捨てきれませんので。」


 トキナ村を出発してから2週間、ここからまだ襲撃が来る可能性があるのか…。

 不安だ。早く僕も強くならないと。

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