第十三話 『魔術』
「魔術への適正なんてあったのか、僕は。」
フィリアの言葉に驚きが隠せない。
母さんに教えてもらった簡単な治癒魔術は使えるけど、正直剣術よりも苦手だったしな。
「はい、マスター。マスターが私を起動させた際、私の中に記録されているフィルタニア王家の術式がマスターの血中遺伝情報と共鳴し、マスターの体に眠っていたフィルタニア王家の術式が覚醒いたしました。」
術式?覚醒?そんな自覚あんまりなかったけど…??
「つまり、どういうことだ…??」
「つまり、マスターはフィルタニア王家にのみ使用可能な魔術、身体強化魔術とその付与が使用可能です。すでに使用していませんでしたか?」
身体強化魔術…?
ていうか、使用したって、いつ??全然使ったことないよ?
「そんな魔術使えるなんて知らないし、覚醒した自覚もないし、なんなら使ってなんてないよ…?」
フィリア、なんかちょっとだけ眉をひそめてない?気のせい?
僕があまりに自覚なさすぎて困惑してる?気のせいかこれは?
「マスターが私を起動させる際、共鳴反応が発生していたはずです。ぼんやりと何かが光ったりしませんでしたか?」
「あ…」
そういえば、あの時は気を失いかけていたからあんまり記憶がないけど、僕の血がフィリアの胸元に触れた瞬間、フィリアと僕の体がぼんやりと発光したような…。
「そういえば光ったね、体が。」
「それです。それが共鳴反応です。」
本当に自覚なかったよ。ごめんねフィリア…
「でも、使用していたってのはなんのこと?僕別に使用したことなんてないと思うけど。自覚なかったんだし…。」
「私とエルナ様で試験を行った際、使用していたと思いますが。何か心当たりはありませんか?」
あの決闘の時…?
僕は別に特に魔術を発動させようなんて意識はなかったけどな。
ただ、フィリアがエルナに怪我させないか心配で、かなり集中して見ていたけど…。
僕がうんうんと唸り続けていると、フィリアは答えを教えてくれた。
「…いつもより、動きがよく見えませんでしたか?」
…確かに。
父さんに剣術の稽古をつけてもらっていたとはいえ、実戦経験のほとんどない僕が、なんであの二人の決闘の様子を目で追うことができたんだろう…。
全部捉えられたわけじゃないけど、でも普段よりもよく見えた。何をしているかも理解できた。
「…見えた。普段じゃ全く目で追えない速度で二人とも動いていたのに、見えた。」
「おそらく、私がエルナ様に怪我をさせたりしないか不安で、無意識に身体強化魔術による視神経と脳神経の強化を発動していたのでしょう。」
話を聞いていたエルナが驚いたような、怒ったような表情でこちらを見る。
やめて。別になめてたわけじゃない。フィリアが規格外すぎるからさ…。
「身体強化魔術って、力を強くしたり動きを素早くしたり、みたいな魔術かと思ったけど、そんなこともできるんだ。」
「可能です。もちろん、単純な筋力強化や移動速度の向上なども可能ですが、ハル様の身体能力からしてそちらはあまり期待しない方がよろしいでしょう。」
ああ、そうですか…。
僕にも剣術が使えたらなと思ったけど、そっちの道は厳しそうだな…。
「とはいえ、決して非力すぎるというわけではありません。体を鍛え、技術と経験を積みさえすれば、今のエルナ様くらいにはなれると思います。」
なんか、ズバズバ言い過ぎでエルナが怒らないかどうか心配だな。
っていうか、今のってどういう意味だろうか。
「私もそれなりに研鑽を積んできたつもりです。失礼を承知で言わせていただきますが、フィリア殿。
ハル様にシュタイン流剣術の心得がありルーク様の教えを受けていたとしても、幼い頃より努力を続けてきた私を『今のエルナくらい』などと言われてしまうのは、いささか気分が良くありませんね。」
ああ、ほら、エルナが怒ってるよ。
フィリアどうするんだよこの状況。
「お怒りはもっともです、エルナ様。ですから、『今の』と申し上げたまでです。エルナ様のあの踏み込みと剣筋は見事なものでした。
しかしまだ粗がありました。私はあの時、体の位置をずらして間合いを僅かに乱し、最高速度に乗る前の剣筋に介入し、技を崩したにすぎません。
エルナ様であれば、より洗練された動きが可能なはずです。そうなってしまえば、私も避けることは困難でしょう。」
おお、フィリアがエルナを褒めてる!エルナも驚いた顔をしてる!
なんでそこまでわかっちゃうの…なんて顔してるな。
「…アドバイス、ありがとうございます。フィリア殿。その、良ければ、今度また試合してもらえませんか?修練の一環として…。」
「マスターが許可するのであれば、問題ありません。」
二人してこっち見ないで。
全然いいから、好きにやってくれていいから。
「い、良いと思いますよ?なんなら僕も稽古つけて欲しいかなって…、思ってましたし…?」
僕の出した許可に、エルナは小さくガッツポーズをして喜んでいた。
――――
「そういえば、魔術もいくつか種類あるんだよね?」
僕の疑問にエルナが回答する。
初歩的すぎたか。
「はい。私はあまり魔術の方面に関して詳しくはないのですが、基礎的な知識は教えられると思います。」
一応、聞いておくか…。
基本的なことは母さんから聞いたことあるけど、認識が違ったりしたら後から困りそうだし、これも擦り合わせておこう。
――――
魔術に関して、エルナから聞いたことを整理しよう。
魔術は大きく分けて4つ
・攻撃魔術
・治癒魔術
・結界魔術
・召喚魔術
200年前、魔道国家フィルタニアの技術と知識を吸収した結果、現代においては生活インフラを魔術によって安定させることに魔術が使用されているとのこと。治水とか防災とか防衛とか…
その影響か、攻撃魔術に関する研究は200年前の全盛期に比べてかなり落ち着いているそうだ。(全くされていないわけではないらしい)
基本的には治癒・結界の魔術の研究が盛んらしい。
怪我で死んじゃうみたいな可能性は低そうで安心だ。
基本的に魔術の発動には詠唱か魔法陣が必要。現代の魔術師はほとんど詠唱を使用している。
これは母さんから聞いたから知ってる。
一つ一つ、整理していこう。
■攻撃魔術
火・水・土・風・雷の五系統の魔術がメインで、それぞれの系統に剣術と同じく5級から0級まで存在するらしい。
ちなみに僕はまだどれも使えないよ。
詠唱とか知らないし。
あと、魔術も等級が分けられているけど、0級の攻撃魔術師はほとんどいないんだそうだ。
剣術や戦闘術の界隈には必ず各流派に1人はいるって話だったけど、こと魔術においては火・水・雷の三系統にしか0級がいないらしい。
たぶん魔術の界隈ではめちゃめちゃ有名人なんだろうな。
ちなみに0級の魔術師はその力で地形を変えてしまうことすら可能なんだとか…。おそろしい…。
■治癒魔術
治癒・解毒の二系統に分かれている。
それぞれ攻撃魔術と同じく5級から0級まで存在する。
それぞれの等級で治療できる範囲や規模が異なるってのは母さんから聞いた通りだな。等級があるのは知らなかったけど。
そして衝撃の事実。
なんと、0級治癒術師であればちぎれた四肢を現物がなくとも再生可能らしい。父さんの腕も治せる可能性が見えてきた。
フィリアもそんなことが可能だとは知らなかったようだ。
村が襲われたあの時、現物があれば接合は可能だと言っていたけど、200年の間に魔術が進化したんだな…。フィリアの時代は接合が限界だったのだ。
解毒魔術は、魔術というよりも科学的な技術としての側面が強い。薬学や人体に関する膨大な知識を必要とするため、治癒魔術師よりもその人数が少ないんだとか。
まぁその多くは治癒魔術師と兼任らしいけど…。
これも一応母さんから聞いていた話と近いな。
ちなみに、解毒魔術は「既知の毒や病」にしか効果がないよ。
これはエルナも知らなかったらしい。
■結界魔術
現代のラミリアント王国において最も盛んに研究されている魔術体系の一つ。
古い時代の防衛魔術が発展したものなんだそうだ。
200年前、魔導国家フィルタニアに勝利したラミア王国がその防衛魔術の技術を利用して、インフラ・気象・防災・防衛に使用するため研究を行っているとのこと。
5級から0級まで存在するが、基本的に結界魔術は個人での使用を前提とされていないらしい。つまり個人による結界魔術の発動は不可能ってことか。
それぞれの研究施設や国の機関に設置された魔法陣で使用することを前提としているため、「3級結界魔術機関」のような呼称をされているみたいだ。魔術師というか、組織なんだな。
エルナもあまり詳しくは知らなかったが、国の重要な機関らしい。
■召喚魔術
様々な場所から物体や精霊・魔物などの召喚を行う魔術。
他魔術と同様に5級から0級まで存在する。
ただ、召喚魔術に関する文献は少ないらしく、あんまり研究がされていない魔術なんだそうだ。ただ、割と熟練した魔術師が召喚魔術の研究を行うことが多いらしい。
村を襲った甲冑男の話をしたら、おそらくそいつはラミア派の貴族に仕えていた1級召喚魔術師のシーボルトという騎士だそうだ。
ラミア流剣術3級でもあるらしい。
文武両道かよ…。
通りで父さんが勝てなかったわけだ。
というか、1級の召喚術師を難なく倒すフィリアはすごいな…。
…というか、僕の身体強化の魔術に関しては説明されなかったな。
「僕の身体強化の魔術はどこに分類されるの?」
そんな質問を投げてみると、答えをくれたのはフィリアだった。
「身体強化魔術はフィルタニア王家の一族に伝わる固有の魔術です。故に、今エルナ様に解説していただいたどの魔術にも分類されません。」
そうだったのか…。
結構研究され尽くしたりしてそうなもんだけどな。
「その他、付与魔術や解析魔術なども存在していますがこのお話の様子では現代にまで受け継がれてこなかったようですね。」
付与魔術に解析魔術…?
詳しく聞いてみよう。
■付与魔術
フィルタニア王家の人間に受け継がれてきた魔術だそうだ。
対象となる物質や人間に様々な魔術効果を付与することが可能で、魔導人形の研究も、この魔術の理論や技術が応用されているらしい。
基本的にフィルタニア王家の直系しか扱うことはできないという。
■解析魔術
魔力、物質、生命、空間を“測る”ための魔術。
戦闘力は皆無だが、周囲の状況や対象物の状態解析などに使用され、戦術面・研究面において非常に役に立つ魔術なんだそうだ。
フィルタニアで発達し、この魔術によってフィルタニアは「魔導国家」と恐れられたという。
ちなみにフィリアも解析魔術の使用が可能だそうだ。
本人曰く、魔術ではなく魔力を使用した演算だと言っているが、まぁ似たようなものだろう。
そういえば『概論』にも演算がどうとか書いてあったな…。
「フィルタニア王家の術式が覚醒したマスターは、魔術への適性が大きく上昇しております。今後、魔術の研鑽を積めば使用が可能でしょう。」
そうなのか…!
今まで魔術なんて全然使ってこなかったから、せめて攻撃魔術を身につけて自分の身くらい守れるようにはなりたいな…。
命を狙われることも多くなるだろうし…。
「ですが、魔術を身につけても決して積極的に戦おうなどとは思わないでください。私がお守りいたしますので、下手に攻撃を行って襲撃者に隙を見せることに繋がっては意味がありませんので。」
釘を刺されてしまった。
すみません。
――――
そんな話をしていたらあっという間に時間が経ってしまった。
日も落ち始めている。
「今日はこの辺で野営をしましょう。」
エルナの指示で別の馬車に乗っていた騎士たちが野営の準備を始める。
…改めて見ると結構な数がいるな。15人か。
道中も5つの馬車で隊列を組んで移動していたもんな。
わざわざこんな人数で村まで来ていただいてありがとうございます。本当に。
野営の準備を見ているだけというのも暇だったので、準備を進める騎士の一人に何か手伝えることはないかと聞いてみたが、やんわりと断られてしまった。
まぁ僕が突然手伝っても逆に邪魔になるか…。
申し訳なさがあるけど、今回の旅は甘えることにさせてもらおう。
ただ、手持ち無沙汰ではあったので、フィリアに魔術でも教わってみようかな。
「ねぇフィリア、僕に魔術を教えて…よ…?」
僕のそばで寝床の用意を行うフィリアに声をそう声をかけようとした。
というか、フィリアは戦闘だけじゃなくてそんなこともできたのか…。いやまぁ自由に動けるんだから寝床の準備くらいはできるだろうけど。
なんか、めちゃくちゃ手際がいいな。
「えっ、フィリアって野営とかしたことあるの?」
フィリアが作業の手を止めてこちらに向き直る。
「いいえ、マスター。そういった経験はありませんが、私はフィルタニア王家に付き従うことを前提に設計されておりますので、家事やマスターの身の回りの世話は完璧にこなせるようにプログラムされております。」
な、なんだと…。
フィリアは戦いだけじゃなくて、家事全般も完璧なのか…。
機能盛り盛りすぎるだろうどう考えても。
フィルタニアの魔導人形技術はどうなってるんだよ。
「それとマスター、魔術を教えるのは構いませんが、私が使用するのは厳密には『魔術』ではなく、『魔力を使用した演算』でございます。
詠唱などの知識はデータとして持っておりますのでお教えすることは可能ですが、実際の魔術の使用はできませんので、あまり上手く教えることはできないかと思いますが…。」
実際の魔術は使用できない。どこか仕組みが少し違うのか。
でも魔力を使用することには変わりないんだろうし、なんか上手く解釈したり分析しさえすれば問題ないとは思うんだけど、どうなんだろうか…。
「うーん、やってみないことにはわからないし、できる限りでいいから魔術を教えてくれない?」
フィリアは少し悩んでいるような雰囲気を見せたが、すぐに返事をしてくれた。
「かしこまりました。それでは、基礎的な攻撃魔術からお教えいたしましょう。」
こうして、僕とフィリアの魔術の特訓が始まった。
時間がある時にエルナに剣術も教わってみよう…。




