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亡国王子とオートマタ  作者: あおいみなみ
第二章 首都ラミアへ
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第十二話 『馬車に揺られ』

首都ラミアには順調に街道沿いを行けばおおよそ1か月の時間がかかるらしい。

天候の影響で多少は前後するかもしれないが、僕の存在を良く思わない勢力の妨害による影響を加味するともう少しかかる可能性もある、とはエルナさんの言葉だ。


僕らの乗り込んだ馬車は、やはり貴族を乗せる馬車だけあってかなり堅牢な作りになっている。

村で使用している馬車とは大きさや乗り心地も違う。

たまに村にやってくる商人が使っている馬車をもっと丈夫にした感じだが…。意外と装飾は地味だった。

「あまり目立つと野盗などの面倒ごとに巻き込まれますので」とエルナさん。まぁ余計な面倒ごとは避けたほうが賢明だな。


トキナ村を出立して30分ほど経っただろうか。

エルナさんが口を開く。


「…ハルベルト様を首都へとお連れする理由についてです。」


そういえばちゃんとした理由を聞いていなかったな。

なし崩し的に連れ出されたし、おそらく政治に関することだとは思うけど…。


「200年前にハルベルト様のご先祖様が治めていた国、『魔導国家フィルタニア王国』は、当時のラミア王国が些細な理由をきっかけにして侵略戦争を起こし、現在のラミリアント王国へと併合されました。」


それは僕でもなんとなく知っている。


「村のおじいさんが聞かせてくれたことがあるので、それは知っています。」


あんまり詳しい話は覚えてないんだけど、一応歴史や情勢に関してのすり合わせは必要だろう。ちゃんと聞こう。


それにしても『魔導国家フィルタニア』か…。そりゃフィリアみたいなとんでもない魔導人形を作っちゃうわけだよ…。


「フィルタニア王国と同盟を結んでいた『シュタイン公国』『ディルミナ王国』の二か国の支配家である、シュタイナー家・ディルミナ王家、そしてフィルタニア王家は、現在のラミリアント王国でも貴族の位は与えられました。元フィルタニア王国の国民感情を抑えるという目的もありますが…。」


ふむ。

「私たちラミアはフィルタニアを侵略しました。あなたたちの国のお偉いさん方は今日から一般市民扱いです。」じゃ国民も納得はしないもんな。反乱なんか起こしかねない。


「貴族の位とは言っても、所詮は中級貴族止まりです。シュタイナー家に関しては、公国領だったこともあり下級貴族です。多少の領地と権限は与えられますが、国政に関与できるだけの発言権や力は持ち合わせておりません。」


まぁ、そうだろうな。

あんまり力を持たせても元ラミア王国の貴族連中はいい顔をしないだろう。


「しかし、ハルベルト様のご誕生をきっかけに、元フィルタニア王国の貴族たちの間でフィルタニア王家を擁立してラミリアント王国の政権を奪おうとする勢力が現れ始めました。」


僕が生まれたのをきっかけに…。


「フィルタニア派の貴族たちは少しづつ力を蓄え、ハルベルト様が成人なさる頃にはラミリアント内での土台を固めている状態を用意するつもりでした。」


「しかし、ラミア派貴族とつながっていたこちら側の派閥の貴族がラミア派貴族に情報を流し、ハルベルト様のご両親は嵌められ、国家転覆罪の容疑で処刑されてしまいます。」


「つまり、裏切られたと…。」


エルナさんは苦しそうな表情で目をそらす。

別に、エルナさんも当時は幼かっただろうし責任を感じる必要はないと思うのだが…。


「裏切者は、私たちシュタイナー家と懇意であった家の者です。私たちが手綱を握り切れていなかったばっかりに…。本当に申し訳ありません。」


エルナさんは深々と頭を下げ謝罪する。

実の両親の死因が謀殺とは、非常に不快だし憤りすら感じる。

まだ冷静でいられるのは育てられたという感覚が薄いからだろうが、それでも到底良い気分にはならない。


しかし、それとエルナさんの責任は切り離して考えるべきだ。彼女に罪はない。


「とはいっても、当時エルナさんはまだ幼かったでしょう。政治のことも分かっていなかったはずだし、エルナさんが気に病むことはないと思います。」


エルナさんの苦しそうな表情は少し和らいだが、罪悪感はまだあるのだろう。まだまだ表情は固い。


「寛大なお言葉、ありがとうございます。」


なんか、全体的に雰囲気が固すぎるな。

そりゃこんな話してるから固い雰囲気にもなるか…。


「それと、「エルナ」と呼び捨てにしていただいて構いません。現代における貴族階級もハルベルト様は中級貴族、私は下級貴族でございますし、シュタイナー家はフィルタニア王家の方々に筆舌に尽くしがたい御恩がありますので。」


貴族階級ねぇ…。


僕にとっては貴族の階級なんてどうでもいいんだけどな…。

ついさっきまでただの薬師の息子だと思って生きてきてたし…。


というか、こっちもあんまり敬語使われたり「ハルベルト」って名前にどうも慣れない。なんとかならんのかこれは。


「…うーん、貴族の階級とか正直まだ実感ないし、そのシュタイナー家と僕の家系の関係もまだ全然わかってないし…。」


僕としては、1ヶ月もこんな堅苦しい雰囲気の中で過ごしたくはない。何か歩み寄るきっかけを作らないと…。


「じゃあ、エルナも僕のことを「ハル」って呼んでくれると嬉しいな。ハルベルトはまだ慣れないや…。」


エルナは少し驚いた様子ではあったが、すぐに微笑むと何か納得したかのようにうなずいた。


「かしこまりました。ハル様。」

「本当はその敬語も堅苦しいからやめてほしいんだけどね。」


そう言って微笑み返す。


「いえ、これは続けさせてください。家のことを抜きにしても、ハル様には敬うべき理由がありますので。」


「そんな理由ある…?まだ出会って全然日も経っていないのに…。」


エルナはその言葉を聞くと少しいたずらっぽく笑いながら指を唇に当てた。


「ふふ、ナイショです」


なんか調子狂うな…。


――――


「話を戻します。」


エルナはそういうと背筋を整え直した。

真面目モードってやつか。


「ハル様の実のご両親であるバーンズ様とマーサ様は、味方の裏切りにより処刑されますが、ハル様はなんとかご両親の決死の尽力により一命を取り留め、トキナ村のルーク様とイリア様の元へ逃がされることになります。」


それは今僕がこうして生きているのが何よりの証拠だろう。

4人のおかげで僕は今生きている。

本当に命懸けで逃がしてくれたんだろうな…。


「裏切り者、メイナード下級大臣ですが、彼はフィルタニア派を裏切りラミア派についたことで大臣職を手にすることになりました。下級貴族ではありますが、国政に関与し、発言力と権力を手にいれることに成功いたしました。」


ふむ。

うまい話に釣られて裏切ったわけか…。

大臣職とやらがどれくらいすごいのかはわからないけど、聞く限りは権力がすごいみたいな感じだな…。


「下級貴族ってことは、中級貴族である僕の方が階級的には上になるんじゃないの?僕はまだ全然影響力なんてないだろうけど、他の味方の貴族にも中級はいるんでしょう?」


政治にはあんまり詳しくないけど、こうやって気になったことはどんどん質問していこう。

今のうちに少しでも知識身につけておかないとな…。


「一対一なら、その通りです。」


ふむ。


「しかし、メイナードが繋がっているラミア派のものはギルバート上級大臣であり、一対一での戦略は通用しない状態です。」


「つまり、後ろ盾が強力すぎるから僕らには手が出しにくいと。」


エルナは頷く。


「しかし、フィルタニア王家謀殺の証拠はある程度抑えられております。ハル様という正統な跡取りもご存命です。メイナードの裏切りを報いるタイミングは、今なのです。」


エルナの手が強く握りしめられるのが見える。

よほど悔しい思いをしてきたんだろうな…。


「なるほど、わかった。僕にできることはなんでもやるつもりだ。強力させて欲しい。」


エルナの手から力が少し抜け、こちらに微笑みかける


「ありがとうございます。しかし、矢面に立っていただくのはハル様ご自身になります。何卒、よろしくお願いいたします。」


そうか、立場的には僕が前に立たないと話にならないのか…。

不安だな…。


――――


「話は変わりますが…先日は失礼いたしました。突然フィリア殿にあんな失礼な申し出を行なってしまって…」


そういえば、昨日フィリアを連れて行きたいと言ったら急に決闘を申し入れたんだったな。まぁエルナに怪我がなくてよかったけど…。


「問題ありません。マスターを守るためのテストは必要であれば、いつでも実施していただいて構いません。大切なことですので。」


フィリアはずっとこんな感じで淡々と答えている。

さすがにまだちょっと慣れないな…。もう少し感情らしきもの見せてくれたらいいんだけど、感情フィルターが最高レベルにまで設定されてるんだっけか。

というかエルナも怒ってなかったらいいんだけど…。


「しかし、私もそれなりに剣の修行を行ってきましたが、まさかあそこまで何もさせてもらえないとは思ってもみませんでした…。さらに修行を行う必要がありますね…。」


あ、やっぱり悔しかったんだ。そりゃそうか。

文字通り赤子の手をひねるような決闘だったしな…。

というか、フィリアの戦いは一方的すぎて横から見ていると相手の力量を測りかねてしまうな。

あの甲冑男との戦いもそうだし、エルナとの戦いもそう。心強くはあるけど、いざという時に油断してあっさり殺されちゃいました〜、なんてことにならないように僕も真面目に鍛えた方がいいかな…。


「僕もちゃんと剣術をちゃんと学ぼうと思う。父さん母さんにもらったこの剣を無駄にしたくないし、一回も振るえずに死んじゃうなんてことにはなりたくないからね。」


腰に下げた剣に触れる。

まだ剣を帯びることには慣れないけど、手や体に馴染むこの感覚は不思議だけど嫌いじゃない。なんでこんなに馴染むんだろうな…。

フィルタニア王家に伝わる剣、だったか…。


「…私が扱う流派で良ければ、多少の指南は可能です。シュタイン家に伝わる剣術ですが、ハル様なら家の者も誰も文句は言いません。少々特殊な剣術ですが…。」


特殊な剣術…。

剣術とか魔術のこととか全然知らないな。父さんに教えてもらってた剣術は確か…。


「シュタイン流剣術という剣術です。そういえば、ルーク様もその剣術をお使いになられているはずです。」


そうだ。シュタイン流剣術。

技術ばかり教わってあまり名前とかちゃんと教えてもらってなかったな。

あんまり剣術の流派とか歴史とかは重視しない人だったし…。


「父親から学んだよ。一本も取れたことはないけどね…。」


「それはそうでしょう。ルーク様はシュタイン流剣術の2級剣士ですから。」


2級?そんな階級まであったのか。

父さんはいつも大事なことを伝えないな本当に…。

まぁ、本人があんまり気にしてなかったのもあるんだろうけど…。


「2級?それはすごいんですか?」


エルナは少し驚いた表情をした。

そんなことも知らないのか、とでも言いたそうな顔だな…。


「世界にはさまざまな剣術や魔術がありますが、その多くは5から0の等級で分類されています。数字が少なくなるほど、より洗練された能力を持っているということになります。ちなみに、私は3級剣士です。」


「そうなのか…。通りで父さんは強かったわけだ…。」


「はい。ハル様が今日まで平和に暮らせていたのも、ルーク様の守護があったからこそでしょう。」


――――


エルナは世界における剣術に関する知識を教えてくれた。

あまりにもそっち方面の知識がなかったのでエルナは少々驚いていたが、父さんから教わったのは薬草学の知識と解剖学の知識くらいなもんだ。剣術も技術的な部分しか教わらなかったしな…。


エルナが教えてくれた剣術に関する知識はだいたいこんなものだ。



現在ラミリアント王国で主に使用される剣術や戦闘術は以下の三つ。


・ラミア流剣術

・鋼流戦闘術

・流星拳


一つずつ、聞いた話を整理していこう。


⚪︎ラミア流剣術


200年以上前から旧ラミア王国で受け継がれてきた剣術で、現在ではラミリアント王国の騎士や軍の標準的な剣術として広く普及しているらしい。

攻めと守りのバランスに優れた剣術だそうだ。


長い時間をかけて発達してきており、様々な状況に対応できる技や型が開発されてきた。しかし、その分他の流派からはきっちりと対策がなされており、万能というわけでもないらしい。


ラミリアント王国で一番使っている人間が多い流派らしい。

首都には他の流派と比べてもかなりの数の道場があるそうだ。


⚪︎鋼流戦闘術


ここ数十年で発達してきた『戦闘術』。盾を軸に据えた「守るため」の流派だそうだ。

まだまだ発展途上な戦闘術ではあるがその防御力は凄まじく高く、同じ等級の他剣士にならほとんど負けることはないとのこと。

一方で攻めの技術はまだまだ未熟な部分があり、同じ等級の他剣士に勝つこともまた難しいという。まぁ守ってるだけじゃ勝てないしな。


名前の通り丈夫な盾や鎧を着用して戦闘を行うことが多いため、その動きは遅い。

相手の動きをよく観察し、剣や魔術の軌道を予測して万全の体勢で受ける。


冒険者たちの間でも近年魔物の攻撃を受け止める役割として使用されるようになっているんだとか。

ちなみに戦闘術と名付けられているのは、別に剣を使用しなければならないという決まりがないかららしい。槍とかメイスを使う人がいるんだろうか。


⚪︎流星拳


旧ラミア王国建国以前より古くから続く拳法。

基本的には己の体ひとつで戦うことを主軸に置いているが、独自の武器を使用した戦闘も得意だと。

古来より続く武術のため様々な状況に対応した技術が残されており、熟練した流星拳の使い手は腕や足を奪われたり、視界を奪われた状態でも戦う術を持っているらしい。凄すぎるだろう。


元々は別の呼称で階級が定められていたが、国の近代化にともない5級から0級までが制定された…という。


一応はラミリアントで使用される主要な流派に分類されるそうだけど、流星拳の流派自体はかなり衰退してしまっているらしい。まぁ体一つで戦うなんて無茶だもんな。

僕だったら嫌だ。




それぞれがシュタイン流剣術と同じく5級から0級まで存在しており、0級に関しては各流派に1人しか存在しないそうだ。その流派のボスみたいなもんだな。


というか、シュタイン流剣術は3大流派に属さないんだな…。


「シュタイン流剣術は基本的にシュタイン家の人間か、それと関わりの深い人間にしか継承されません。ルーク様も、シュタイナー家の遠い親戚に相当します。貴族の階級こそありませんが、それなりに由緒正しい家系なのですよ。」


知らなかった…。

そういえば僕の生みの親の騎士だったとか言ってたけど、そんなすごい家の出身だったのか…。なんで今更どんどん父さんの謎が解き明かされていくんだ。


「エルナは僕の父さんのことをどこで知ったの…?」


「ハル様がルーク様とイリア様に預けられる際に、お二人の来歴や情報は事細かに調べられておりますので。」


エルナが優しく微笑みながらそう言った。

父さん、ずっと一緒にいたからなんでも知っていた気でいたけど、色々と知らないことがあったんだな…。


「…ハル様の15歳のお誕生日まで、国の政治やそれぞれの家系などに関するお話はしないようにと緘口令が敷かれておりましたので、ハル様が知らないのも無理はありません。ルーク様とイリア様は命令をきちんとお守りしただけですよ。」


僕が両親の素性を知らなかったことを気にしてか、そんな言葉をかけてくれた。

いや、まぁ、そりゃショックだけど?でもちょっとくらい教えてくれてもいいよね?


「マスターに余計な知的好奇心が旺盛な方です。少しでも情報を与えるとそこからどんどん知識を掘り下げようとするきらいがあるので、ご両親は警戒していたのでしょう。」


横からフィリアがツッコミを入れてくる。

なんでそんなこと知ってるんだ。


「なんで僕の知識欲に関してそんな知ったふうな口を聞くのさ」

「マスターが私に関する研究資料を読み漁っていたのを感知しておりましたので。」

「感知…?当時はまだ起動していなかったのにそんなことできるはずないだろう」


フィリアは起動する前から僕があの部屋に出入りしていることを知っていたというのか…??


「あの研究室は、入り口と私が安置してあった部屋の扉にもフィルタニア王族の血中遺伝情報マナ・コードを読み取る機構が施されています。それぞれ段階的にセキュリティレベルが上がりますが…。」


そうだったのか…。

だからフィリアがいた部屋には簡単に入れなかったわけだ…。

たぶん、あの時魔物に襲われて血が出ていたから、それが何かのきっかけでフィリアの眠る部屋へ繋がる扉の開錠条件を満たしたのだろう。


「マスターが最初の扉を開けた瞬間から、私は待機状態スタンバイ・モードへと以降が完了しておりました。起動にはマスターの血中遺伝情報マナ・コードを直接読み取る必要がありますが。」


しかし見られていたなんてちょっと恥ずかしいな。

ぼそぼそ独り言を話していたような記憶があるし…。


「それと、お話は戻りますが、マスターは私がお守りいたしますので剣術を学ぶ必要はありません。それに、マスターには剣術の適性はさほどありません。魔術の方に適性があります。」


突然フィリアがそんなことを言った。


魔術への適正?僕が?

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