第九話 『撃退と来訪』
静寂がその場を支配した。
フィリアの放った「光」が、せまり来る魔物と逃げた甲冑男を完全に消し去った。
残ったのはフィリアから直線状に伸びた「光の軌跡」だけ。
削られた地面は完全にそこから削られていた。
まるで、丁寧にやすりで磨かれたように、「光」に触れたであろう場所からなくなっていた。
「起動後の迎撃プログラムのチェック、80%ほどが完了いたしました。問題はありません。」
フィリアは服についた土ぼこりを払いながら、淡々と報告を終える。
……。
今のはなんだ…?
さっきまでいた魔物や甲冑男が完全に消失している。
「い、今のって…??」
ふと、そんな疑問が生じたのでフィリアに聞いてみた。
僕の知っている「知識」の答え合わせがしたかったのかもしれない。
フィリアは答える。
「はい。ただいま行った機能のチェックは、
『迎撃プログラム:無属性魔力砲』の両腕を使用した砲撃でございます。
先ほどからも片腕での使用とチェックは行っていたのですが、
両腕を使用した機能のチェックは行っていなかったため、実行いたしました。
30%ほどの出力でしたが、砲撃機能が確認できれば問題ありません。」
…答え合わせはできた。これも僕は知っている。
『概論』にフィリアの迎撃プログラムの項目が存在したのだが、そのプログラムの一つにこんなものがあった。
『高威の純粋な魔力を打ち出し、対象を分子レベルで分解し、
完全に消滅させる高威力無反動魔力砲、「無属性魔力砲システム」』
しかし、その威力は僕の想像の何百倍もいっていた…。
こんなものがバンバン放たれていたら世界がもたない。
それに、さっきから片腕では使用していた…?
あの最初の魔物の眉間を貫いた「何か」の正体はこれか…。
「…そ、それは両腕で使っちゃダメだ!
周りにとんでもない被害が出かねない!!」
ひとまず、忠告はしておこう…。本当に危ないから…。
「…承知いたしました。以後、両腕を使用しての迎撃は行いません。」
はぁ…。本当に使わないよな…?
「それより、フィリア、ありがとう。助けてくれて。」
「礼には及びません。マスター。」
何はともあれ、両親の無事は確保できた…。
あそこで二人で目を丸くしてるけど…。
――――
「父さん!母さん!」
僕は両親に駆け寄り、その安否を確認する。
「おお、ハル…。それに…」
父さんがフィリアに向き直り、頭を下げる。
「お嬢さん、息子を守ってくれてありがとう。
正直、あの甲冑男の相手はかなりきつかった。助太刀感謝する。
それとお嬢さん、お名前は…?」
父さんと母さんはあの甲冑男を相手にずっと戦っていたのだろう。
村から爆発音が聞こえてから、僕が魔物に襲われて、気絶して。
フィリアが起動して、村に来て、魔物を殲滅しながら家に向かって…。
おおよそ1時間くらいか…?
それまでずっと、父さんと母さんはあの甲冑男や魔物と戦っていたのかもしれない。
強いとは思っていたけど、ここまでだなんて…。
フィリアは父さんの瞳をじっと見つめ、返事をする。
「礼など必要ありません。
名前に関してですが、私は『戦闘用…」
「わー!!お父さん!この人はフィリア!フィリアって名前なんだ!」
両親は怪訝な表情でフィリアを見つめ、首をかしげる。
しかしすぐに頭を下げて、礼を言った。
「フィリアさんか。本当に助けてくれてありがとう。」
危なかった。
『戦闘用自律型魔導人形:零式』なんて両親に聞かせたら
ただでさえ心労が大きい両親がさらに疲弊してしまう。
何を言っているのかはわからないと思うが…。
「それより父さん、その腕…!」
父さんの左腕は二の腕の半分程度のところから完全になくなっている。
母さんの治癒魔術のおかげで、傷自体は塞がっているが、傷の跡が痛々しい。
「…ああ、あの甲冑男の魔物に食われてな…。
問題ない、母さんの治癒魔術で傷は塞がってるし、死ぬことはないよ。」
「でもあなた…、私をかばって…。」
母さんが泣きそうな顔で父さんを見つめる。
「そんな顔するなって。左腕一本で済んだんだ。
お前やハルが死ぬことに比べたら、安いもんだよ。」
父さんはそう言っているが、やはり腕を失うのはつらい。
「フィリア、父さんの腕の治療、できないかな…?」
フィリアの高度な魔術演算なら、あるいは…。
「マスター。大変申し訳ありませんが、私の治癒魔術演算では
欠損部位の再生や死者の蘇生といったことはできません。
ちぎれた腕があれば問題ありませんが。」
「でも腕は…」
「ああ。魔物に食われた。」
つまり、腕の再生は不可能。
くそっ…あの甲冑男め…。
ふとフィリアが口を開く。
「マスター。先ほどの甲冑男を消滅させたことにより、周囲の魔物の反応が消えております。もう脅威はありません。ご安心ください。」
良かった…。ひとまず、村は助かった…。
――――
その後、村の消火活動や怪我人の搬送・治療を(ほとんどフィリアが)行い
村は何とか脅威から脱することができた。
村の大人たちが使う集会場を避難所にし、皆不安そうに身を寄せ合っていた。
怪我はフィリアが治療したから問題はないものの、家族を失ってしまった人、大切なものを破壊された人、みなそれぞれ悲しみに暮れていた。
それと、皆は最初はフィリアのことを強く警戒していたが、村の救護活動にあたる彼女の姿を見て、徐々にその警戒を解いていった。
相変わらず謎の女性であることに変わりはないのだが…。
僕も微力ながらその手伝いを懸命に行い、日が完全に沈んだころには疲れて避難所でそのまま眠ってしまった。
――――
翌朝、目が覚めるとフィリアが僕のすぐ隣で僕を見つめていた。
距離が近い。正直かなりびっくりした。
「おはようございます。マスター。お体に問題はなさそうですね。」
「ああ、おはよう…。」
一回寝ると、頭が多少はすっきりする。
昨日は同時多発的にいろんなことが起きすぎた。
魔物に襲われ、魔導人形が起動し、なぜか僕を守って、空を飛んで村に行き、フィリアに魔物を倒してもらって、でも村のいろんな人が死んで、父さんの左腕がなくなって…。
情報量が多すぎる。
それと自分が無力すぎてイライラしてくる…。
「マスター。どうかされましたか?」
まだ起き上がらない僕の顔をフィリアが覗き込む。
近い近い。
「だ、大丈夫だよ…。」
ゆっくりと体を起こすと、フィリアも少し距離をとる。
父さんと母さんは昨日の戦闘で疲れているだろうに、もう起きて薬の調合や炊き出しにあたっていた。
「ん…?」
ふと避難所の入口の方でざわざわと声がする。
なんだ…?
逆光でよく見えないが、甲冑を着た騎士のような人間が5人、入口にいた。
「甲冑…!?新たな敵か!?」
僕は一気に警戒心を強める。
「マスター、安心してください。彼らから敵意は観測できません。」
フィリアがそうう告げる。
敵意がない…?
つまり近くの街から派遣された騎士か…?
村の様子を伺いに来たのだろうか…。
でも街からここまで馬車で2日はかかるぞ…。
つまり、街の騎士ではない…?
「ルーク殿とイリア殿はおられるか!?」
女の声だ。
凛々しく芯の通った声だ。
ルーク、イリア。
僕の両親の名前だ…。
なぜ僕の両親に用が…?
両親は女騎士に呼ばれ、彼女に近づく。
三人は何やら会話をすると、僕に視線を向ける。
…なんだ???
「ハル!こっちへおいで」
父さんに呼ばれ、フィリアと共に女騎士のもとへ向かう。




