25日目
胃の中はもう、空っぽだ。
この数日、まともな食事は一切していない。代わりに、部屋の隅の「皿」たちが、僕の代わりに不浄な湿気を吸って、どろどろと肥大している。
第25日目。死の、三日前。
今日の課題は【血縁ならざる縁の結紮と、肉の同化】
幽霊として特定の場所に留まるには、強固な「杭」が必要だ。それも、自分自身の肉体ではない、他者の生体を用いた呪術的な杭が。
致死量に近いカフェインの血中濃度と、鉛の毒が脳を焼いている。僕は今、かつてないほどの多幸感と高揚感に包まれていた。手の震えさえ、神経が極限まで研ぎ澄まされた結果だと確信している。
「……ふふ、あはは! 結衣さん、やっと、やっと重なるんだね」
僕は、机の上に置かれた小さなビニール袋を、愛おしそうに眺めた。
中には、数本の、細くて茶色い髪の毛が入っている。先週、彼女が僕を心配して部屋に来た時、採取した彼女の「一部」だ。
僕は、数日前から放置され、饐えた臭いを放つ「生の牛レバー」を、腐りかけた卵の皿の横に並べた。
ドロリとした暗赤色の肉の塊。
僕は狂ったような笑みを浮かべながら、結衣さんの髪の毛を一本ずつ、丁寧に、深く、ピンセットでレバーの繊維の中へ埋め込んでいく。
そして、僕は狂気の仕上げに取り掛かった。
灰色のスウェットを脱ぎ捨て、剥き出しの自分の腹部や胸に、その「髪入りのレバー」を直接貼り付けていく。
「あったかい……。結衣さん、君が僕を抱きしめているみたいだ」
粘り気のあるレバーの血が、僕の青白い肌を汚しながら伝い落ち、股の間を濡らしていく。僕はその上から強力な透明テープを何周も巻き付け、レバーを自分の身体に「固定」した。
僕の体温で、レバーの腐敗が加速する。肉から滲み出るドロドロとした体液が、テープの中で煮え、酸っぱい異臭が部屋中に立ち込める。
この「肉」は、三日後の僕だ。
僕の死体が首から吊り下げられ、崩れていく過程で、彼女の髪を飲み込んだこのレバーは、僕の腐肉と完全に溶け合い、一体化する。
ピコン
血まみれのスマホが、レバーの血に汚れながら激しく震える。
01(結衣さん)
『結衣:佐藤くん! 明日、お掃除の道具とお母さんの梅干し、持って行ってもいいかな? 玄関の前に置くだけでもいいから。顔、見たいな。』
梅干し。殺菌。清潔。
あまりに卑俗で、あまりに健全なその申し出に、僕は嘔吐しそうなほどの優越感を感じた。
僕はレバーを弄った血だらけの指で、液晶を真っ赤に汚しながら、速射砲のような速さで返信を打つ。
『佐藤:結衣さん、ありがとう。でも、明日は来ないで。誰にも会いたくないんだ。絶対に。約束はできないよ。』
すぐに既読がつく。画面の向こうで、彼女の心が砕ける音が聞こえるようだ。
『……そっか。ごめんね。でも本当に心配だよ。一人で大丈夫?』
『佐藤:大丈夫。今は、一人で集中しなきゃいけない「準備」があるんだ。邪魔されたくない。連絡も、控えてほしい。』
あえて突き放す。最高のトッピングだ。
彼女はこの瞬間、一生消えない「後悔の種」を、僕の手によって脳に直接植え付けられた。
結衣さん。明後日、この部屋はついに、鏡という「増殖の鏡面地獄」へと変貌する。
三日後。君が「あの時、無理にでも入っていれば」と自分を責めながら、このドアを開ける時。
君は、君の髪を閉じ込めたまま、腹部に真っ黒な腐肉を巻き付けて「くの字」に固まった僕という完成品と、永久に交わることになるんだ。
【記録:第25日目】終了
遺体の胴体部分からは、死後、身体に何周も巻き付けられた粘着テープの痕跡と、その内側に閉じ込められた「重度に腐敗した牛レバー」の残骸、および微量の「被害者以外の女性の毛髪」が発見された。被害者は死の3日前からこれらを身体に密着させていた。体温による腐敗の促進と重金属中毒による異常高揚により、極めて凄惨な「自らの剥製化」を試みていたことが推測される。




