14日目
その日、僕の部屋から「足の踏み場」が消えた。
第14日目。死の、十四日前。
今日の課題は、【聖域の資材調達と、視線の集積】
外側の「檻」を作る準備は今日から始まっていた。
昼過ぎ、狭いアパートの前に、一台の大きな配送トラックが停まった。
ネットオークションやリサイクル業者から買い集めた、大小さまざまな「鏡」の山。姿見、壁掛け鏡、正方形のタイルミラー。梱包されたそれらが次々と運び込まれ、六畳一間の壁際に、高く、不気味に積み上げられていく。
「……多いな」
業者が去った後、僕は段ボールの山を見つめて呟いた。その数は、すでに二百枚を超えている。
まだ、壁には貼っていない。
今の段階では、それらはただの「銀色の積木」のように部屋の隅に鎮座し、梱包材の隙間から、断片的な僕の姿を無機質に反射しているだけだった。
しかし、その存在感だけで、部屋の空気は確実に変質していた。
「無限の合わせ鏡」は完成していない。けれど、積み上げられた鏡の塊が、僕が動くたびに「視線の断片」を投げかけてくるのだ。
ピコン
段ボールの上に置いたスマホが震える。
『結衣:佐藤くん、ヤッホー! 今日ね、アンティークショップですごく綺麗な鏡を見つけたんだ。何枚も重なって見える不思議なデザインでね。佐藤くんなら、きっとこの美しさがわかってくれると思って!』
鏡。
結衣さん、君が「綺麗」だと言って見つめているその光は、やがてこの部屋で、君を何百回も切り刻む「視線の刃」になるんだよ。
君がその鏡を覗き込むとき、君は自分の笑顔を見るだろう。
でも、僕がこの二百枚の鏡を準備するとき、僕は自分の「死」を全方位から記録するためのカメラを設置している気分なんだ。
十四日後。
この積み上げられた鏡たちが、壁を、天井を、床をすべて埋め尽くしたとき。
君がこのドアを開けて一歩踏み込んだ瞬間。
君は、ただ一人の僕の死体を見るんじゃない。
無限に連なり、あらゆる角度から君を凝視する、数百人の「くの字」の僕に包囲されることになる。
僕は返信を打った。
「鏡はいいね。自分を、自分以上に証明してくれるから。僕の部屋も今、君に見せたいくらい『僕の欠片』でいっぱいなんだ」
送信。
僕はまだ梱包されたままの大きな鏡の隙間に、自分の顔を映してみた。
そこには、やつれ、目が血走った、けれど恍惚とした表情の男がいた。
まだ、準備は始まったばかりだ。
あと十四日。
この銀色の山を、僕の血と脂で汚れた「聖域」に作り変えるまで。
僕は照明を消した。
暗闇の中で、裸の鏡たちが街灯の光を拾い、ナイフのような鋭い反射を部屋中に散らしていた。
それは、十四日後に僕を処刑するための、冷たい刃の群れに見えた。
【記録:第14日目】終了
後の調査により、被害者は死の2週間前から計画的に鏡を収集し始めていたことが判明。この時期の隣人の証言では、「毎日重い荷物が届く音がして、不気味だった」と述べられている。




