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幽霊になる方法  作者:


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15/30

15日目

胃の底が、焼け付くように熱い。

世界を遮断するための「決意」に、僕の卑しい肉体がまだ追いついていなかった。


第15日目。死の、十三日前。


今日の課題は【生体維持の拒絶と、代謝の停止】


学食の椅子に座っているだけで、尻の骨が硬い座面に当たって痛む。数日前から始めた絶食のせいで、僕の身体は予備の脂肪を使い果たし、いよいよ自分の筋肉を食い潰し始めていた。


目の前には、学食のカレーライスがある。


かつては好物だったはずのスパイスの匂いが、今は下水のような不快な臭気となって鼻腔を突き、脳の芯を掻き回す。


周囲の学生たちは、内定やサークルの話に花を咲かせ、大きな口を開けて肉を咀嚼している。


その咀嚼音、飲み込む音、舌が鳴る生々しい音が、今の僕にはたまらなく卑俗で、吐き気がした。


「佐藤くん、食べないの? 具合、悪いのかな」

 

向かい側に座った結衣さんが、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。


彼女が味噌汁を啜る「ズズッ」という微かな音が、静まり返った僕の神経に釘を打ち込む。


「……いや、少し胃が重いだけだよ。大丈夫」


僕は嘘をついた。実際は、空腹が限界を超え、胃液が自分自身の胃壁を溶かしているような激痛に耐えていた。

幽霊になるためには、この「食べたい」という獣のような執着を抜き取らなければならない。だが、僕の身体は僕の意思を裏切り、目の前のカレーを見て口内に汚い唾液を溢れさせている。そんな自分に、猛烈な嫌悪感が込み上げた。

学食を逃げ出した僕は、ドラッグストアで高濃度のカフェイン錠とビタミン剤、そして強力な下剤を買い込んだ。

部屋に戻ると、僕はそれらを机にぶちまけた。白、黄色、橙色。無機質な粒が、木目の上で転がる。

それは食事ではなく、肉体を強引に黙らせるための「調律の楔」だ。

「これだけでいい。僕を動かすのは、栄養ではなく、純粋な『呪い』だけだ」

 

一粒、また一粒。水なしで噛み砕くと、凄まじい苦味と化学薬品の味が舌を焼き、喉を通り過ぎる。

次第に、過剰なカフェインが中枢神経を叩き、指先が不自然に震え始めた。視界の端が白く光り、現実感が遠のいていく。


ピコン

 

静寂を裂いて、スマホが震える。


『結衣:さっきはごめんね。元気になったら、またあの駅前のパン屋さんに行こう! 佐藤くんの好きなカレーパン、奢るよ(笑)』


カレーパン。


その言葉を読んだ瞬間、胃の奥から酸っぱいものがせり上がってきた。僕はトイレに駆け込み、何も入っていない胃を絞り出すようにして、黄色い胆汁を吐き捨てた。喉が焼け、涙が溢れる。

胃液で荒れた口内から、腐った生ゴミのような酷い口臭が立ち昇る。

 

結衣さん。


君が僕を「生」の側へ引き戻そうとするたび、僕の体はそれを劇物として拒絶する。

君がくれる優しさが、僕の胃壁を焼き、僕を死へと急き立てる純度の高い燃料になる。

 

僕は便器を抱えたまま、肋骨をなぞった。

肉が削げ、骨が皮を突き破らんばかりに浮き彫りになっている。

床のタイルに映る僕の瞳は、すでに死後数日経過した遺体のような濁った光を宿していた。


「……あと、十三日」

 

十三日後。


君がこの部屋で見つける「くの字」の僕。

その体内に残された最後の残留物は、君がくれた言葉を拒絶して吐き出した、この苦い胆汁の味だけだ。


【記録:第15日目】終了

現場のゴミ箱からは、大量の空のサプリメント容器と、強引な排泄を試みた形跡(下剤の空殻)が発見された。被害者の身体は、死の二週間前から深刻な低血糖と電解質異常に陥っており、慢性的なめまいや幻覚症状の中で、執拗に自らの身体を「削ぎ落とす」ことに没頭していたことが推測される。

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