第8話 — 二つのカップ、ひとつの台所
ウィローモアの朝日は、一度に昇るわけではなかった。
屋根の上に淡い桃色の霞がかかり、それから花鉢や窓の鎧戸、昨夜の雨でまだ濡れた石畳の上に、金色の光がこぼれていく。
町はゆっくりと伸びをするように目を覚ます。
窓が開き、カーテンが息をし、鳥たちは歌う前にささやきを交わした。
二階では、シナモンの匂いが染み込んだ壁に、焦げたトーストの香りが反抗するように広がっていた。
エリオットが客間の扉を開けると、カン、と金属の軽い音と「違う違う……先にひっくり返してから塩だ、バカ」と誰かの小さな呟きが聞こえた。
彼女はまだ眠気の残る目をこすりながら、細い階段を降りていった。
パン屋はまだ開店前。
カウンターは静まり返っていた。
だが、その奥の小さな台所は、朝の琥珀色の光で温かく満ちていた。
レンはコンロの前に立ち、裏切られたかのようにフライ返しを握っていた。
髪は乱れ、肘には小麦粉がつき、フライパンの中では何かがかすかに煙を上げていた。
「起きたんだな」
彼は振り返らずに言った。
「その卵、攻撃されてる」
「違う。創作してるんだ」
彼はむきになった声で答える。
「グルメな……惨事を」
エリオットは戸口に寄りかかった。
「いつもこんなふうに料理するの?」
「誰かに見られてるときだけ」
ようやく彼は振り向き、皿を掲げた。
不揃いなトースト二枚、少し傷ついた卵、かつて野菜であろうと夢見た何かがのっている。
「お茶も淹れた。そっちは安全」
二人は窓際の小さなテーブルに並んで座った。
やわらかな陽が押し寄せるように差し込む。
エリオットはひと口かじり、少し驚いた顔で彼を見た。
「……悪くない」
レンは本気で傷ついたような顔をした。
「朝食だぞ。心の支えなんだ」
「“悪くない”って悪い意味じゃない」
彼女はかすかに笑って付け加えた。
「ただ……思ったより食べられる」
彼はお茶を注ぎながら言った。
「朝の君は容赦ないな」
「いつも容赦ないわ。ただ、今やっと気づいただけ」
しばらくの間、二人は静かに食べた。
フォークの音だけが間を埋める。
エリオットの髪はざっくりと束ねられ、灰色のスウェットを着ていた。
瞳はいつもより澄んでいた。
軽くなったわけではない。ただ、守りを少し解いたように見えた。
レンは短い視線で彼女を盗み見た。
紅茶をかき混ぜるときは必ず時計回り。
一口食べるたびに、必ず一瞬ためらう。
まるで味わうことが肉体的な行為だけでなく、心の確認でもあるかのように。
「部屋はどう?」
「狭い。埃っぽい。でも完璧」
レンはうなずいた。
「本の引き出し、気に入った。……呪われてるのも」
「読んだの?」
「流し読みした。間違いなく呪われてる」
陽射しがテーブルの端まで届き、光のかたまりが彼女の手や袖に重なった。
彼女は手を引かず、そのままにしていた。
「こんなに長く、同じ場所にいるのは何年ぶりかしら」
エリオットがぽつりと言った。
レンは顔を上げる。
「たいていの町は騒がしすぎる。好奇心が強すぎる。……でもウィローモアは」
彼女は少し迷ってから続けた。
「もっと静かな問いかけをしてくる」
レンは何と答えていいかわからなかった。
だから正直なことだけを言った。
「住んでると、馴染んでくる」
彼女はゆっくりとうなずき、ささやくように言った。
「……たぶん、馴染んでみてもいいかも」
それ以上、多くは語らなかった。
二人は朝食を終え、自然と洗い物を分担し、互いを避けるでもなく譲るでもなく、静かな空気の中で不思議にかみ合った。
やがてエリオットはノートを手に、お茶を足して二階へ戻っていった。
レンは静まり返った台所を見回す。
久しぶりに、空虚には感じなかった。
そこには「分かち合う」という感覚があった。
作者より
「ときに、二つのカップと少しの沈黙が、まったく新しい始まりになる。」
“家”はいつも場所として訪れるわけではない。
あるときは朝の光として。
失敗した卵として。
そして、何も変えてほしいと求めず、ただそばにいてくれる誰かとして。