第7話 — 行くあてのない夜
雨はやはりやって来た。
雷を伴う嵐ではなく、屋根の隙間をすり抜け、触れるものすべてをやわらかく包む、静かな雨だった。
夕方になると、ウィローモアの街灯は霧の中に低く垂れた金色の果実のように光りはじめた。
石畳には水たまりが広がり、波紋が絶えず揺れる。
人々は足早に通り過ぎ、コートをしっかりと合わせ、傘を静かな抗議のように差し広げていた。
マロウ&クラムの店内には、別の季節から借りてきたような温もりがあった。
レンがエプロンの裾でトレイを拭いていると、扉がせわしなく揺れて開いた。
そこに立っていたのはエリオットだった。
ずぶ濡れで、少し震えていて、片手にはスーツケース。
ウィローモアに来て以来、初めて無防備な姿を見せていた。
「大丈夫?」
レンは瞬きをしながら尋ねた。
彼女の声は小さく、どこか気恥ずかしげだった。
「宿が……配管の故障で。部屋が水浸しになって、数日閉めるって」
レンは眉をひそめて一歩近づいた。
「代わりの部屋は?」
「探してくれたけど……一番近い空き部屋はブライアトンで。バスは朝までないの」
レンは一瞬ためらった。
いや、泊まってほしくないからではなく、大事なことを言うときほど、言葉が不器用になるから。
「うちの二階に泊まればいいよ。客間がある。豪華じゃないけど……シナモンと忘れられた本の匂いがする」
エリオットはすぐには答えず、スーツケースの持ち手をぎゅっと握った。
「迷惑になりたくない」
「迷惑じゃない」
考える前に、そう口にしていた。
エリオットは彼を見つめた。
そしてほんの少し、表情がやわらいだ。
笑顔ではない。まだ。
けれど、世界と折り合いをつけたような顔だった。
---
二階の客間は、階段幅とほとんど変わらないほど狭かった。
壁紙は端からめくれ、窓の外には雨樋と広場の街灯がちらちらと見える。
細いベッドと一脚の肘掛け椅子——どちらも長い間、人を受け入れてきたような使い込まれ方をしていた。
レンはスーツケースを運び上げ、戸口に立ったまま言った。
「毛布はチェストの中に。引き出しには本がいくつか……ただ、赤い背表紙のは読まないで。呪われてるから」
エリオットはじっと彼を見た。
「本当に?」
レンは首を振った。
「まあ、ちょっとだけ」
ふたりの間に、落ち着かない静けさが流れる。
不快ではなく、何かが変わりはじめたときの空気だった。
「お茶を淹れるよ」
そう言って、彼は階段を降りていった。
---
一階はすでに閉店の支度が終わっていた。
椅子は逆さに上げられ、オーブンは止まり、窓には雨がやわらかく叩き続けている。
レンは湯を沸かし、ちぐはぐなカップを並べながら、余計なことを考えないようにしていた。
こんなふうに人が泊まるのは慣れていない。
こんなに近くに。
菓子と一時間の会話以上に関わることなんて、ほとんどなかった。
ちょうどカップを置いたとき、階段を下りてくる足音。
エリオットはバッグから取り出した大きめのセーターに包まれていた。
二人は向かい合って座り、湯気だけが間を満たす。
壊す必要のない、静かな仕切りのように。
ひと口すすったあと、彼女が言った。
「ありがとう。……変にしないでくれて」
レンはくぐもった笑いをもらした。
「そのうち変になるかも」
「本気で言ってるの」
彼はうなずき、カップを包む彼女の手を見つめた。
「誰かと同じ空間にいて……埋め合わせの会話が要らないって思ったことある?」
エリオットは少し考えて、首を振った。
「ないわ」
彼も口にはしなかったが——なかった。
二人は会話を足さずに、ゆっくりとお茶を飲み終えた。
彼女が階段に向かう前、振り返って言った。
「……シナモンの匂いがする」
「言っただろ」
そのとき、初めて——ほのかな笑み。
ほんの一瞬。
けれどレンは、その笑みを、どんな言葉よりも長く覚えているだろう。
作者より
「ときに、知らない場所こそが、いちばん真実の避難所になる。」
嵐はいつも雷鳴とともに訪れるわけではない。
人を近づけ、屋根を与え、沈黙を与え、そして——ゆっくりと「安心」の始まりを与えてくれることもある。