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場違いな夢想家  作者: TSU
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第5話 — 甘さと小麦粉


嵐は突然やって来た――外ではなく、マロー&クラムの中に。


最初に飛び込んできたのはセオだった。両腕に本を抱え、もう降っていない霧で髪を濡らしながら。


「レン!」彼は叫ぶ。「チョコ入りの何か作ってあるだろ!」


カウンターの奥からレンが顔を出す。まだ片方の手にはオーブンミトン。

「君には二つの気分しかない。劇的な空腹と二日酔いの後悔。今日は両方だな。」


セオは本を椅子にどさっと置いた。

「働いてるんだよ。研究、生活、体験。だから餌をくれ。」


「その本、タイトルは《にんにくの秘められた力》って書いてあるけど。」


「知恵はどこにでもある。」


レンが返す前に、ドアのベルが再び鳴った。今度は静かに。


エリオットが入ってきた。前と同じ慎重な気配で――マフラーを整え、ノートを抱え、足を止める。

突然の声と湯気に包まれて、一瞬だけ動きを止めた。


セオは振り向き、眉を上げた。

「おお、二人目のお客だ。歴史的瞬間だな。」


レンが手を振る。「セオは覚えてるだろ。」


「一度会ったわね」とエリオット。「カモメと口論してた時。」


「あの鳥には意見があった。」


レンは吹き出し、カウンター前のスツールを示す。

「混沌の渦だけど、よければどうぞ。」


「混沌なら大丈夫。」彼女は言った。「紅茶さえあれば。」


「前と同じブレンドで?」


彼女は小さくうなずいた。


厨房には膨らむ生地とローストシナモンの香りが広がる。

セオはスナック効率を最大化するためにテーブルを勝手に並べ替え、エリオットはノートを机に置くが開かない。

ただ見ていた――小さな、生活の匂いに満ちた店の姿を。


彼女の頭にスケッチが浮かぶ。

袖に粉をつけたまま瓶に手を伸ばすレン。

バターナイフでブラウニーを切ろうとするセオ。

五分遅れたまま時を刻む曲がった時計。

部屋は不完全だった。けれど、ちゃんと生きようとしていた。


セオが一口かじって唸った。

「これは違法級だ。なんだこれ?」


「焦がしバターのかぼちゃスコーン。くるみのグレーズ付き。」


「結婚してくれ。」セオは本気の声で言った。


レンはエリオットの方を向いた。

「聞かないで。彼、去年はリゾットにプロポーズしたから。」


「振られたけどな」とセオはぼそり。「重すぎるって言われた。」


エリオットは紅茶に笑みを落とした。


空気が少し温まる。


その瞬間だけは、通りすがりの三人ではなかった。

どこか柔らかな場所の光景――怠惰な記憶が目の前でほどけていくような。


外では霧が晴れ始め、石畳と金色の光がのぞく。

手をつないだカップルが、何でもないことで笑いながら店の前を通った。


「ウィロウムーアは不思議ね」とエリオットがつぶやく。

「時間に置き去りにされた場所みたい。」


「物語に留められてるんだよ」とレン。「ここから離れる人は少ない。」


「君は、出たいと思う?」


レンは折りたたんだ生地を見下ろした。

「ときどき。でも、この町には引力がある。」


彼を見つめるエリオット。粉が宙に舞うのを見ながら。

「なんでも詩的に聞こえるわね。」


「半分は焦がすけど。それで謙虚になれる。」


セオは椅子にもたれ、腕を後ろに組んだ。

「僕らはみんな、ちょうどいい具合に壊れてる。」


静けさが落ちた――息を整えられる種類の。


エリオットはついにノートを開き、文字を書き始めた。

ほんの少し。ほとんど何もない。

けれどペンは優しく動いた――正直である方法を思い出すように。

作者コメント


「いくつかの場所は、私たちを直すわけじゃない――ただ壊れた欠片を支えてくれるだけ。」


癒しは答えや大きな行為から始まるとは限らない。

ある日はスコーンと、にぎやかな声と、

静かでありながら見つめてもらえる部屋から始まるのだ。

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