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第7話『崩れかけの橋と崖の下の小道』

 谷を越える細い道の先に、古びた木橋が現れた。

 踏板のいくつかはすでに割れ、手すりも斜めに歪んでいる。下をのぞけば、ごつごつとした岩が並ぶ谷底が、深く口を開けていた。


「……これは、ちょっと無理かも」


 リアナが地図を手に、橋の手前で立ち止まった。記録されている通り、ここは谷を越える要所だったが、橋の状態までは記されていない。


 ライロが橋の方へ歩み寄り、足元を確かめるように板を軽く踏んだ。


「この橋、数年前に一度崩れたって話を聞いたよ。補修されてたとしても、あんまり長くはもたないだろうね」


 そのとき、ホシがふわりと尾を揺らしながら、橋の脇にある岩の隙間にぴょんと降りた。


「ホシ?」


 エルミナが驚いて近づくと、ホシは振り返ってこちらを見たあと、再び細い道を進み出した。


「道……あるの?」


 岩陰を覗き込むと、かろうじて獣が通ったような細い獣道が、崖沿いに続いているのが見えた。


 ライロがひと目でそれを見て頷く。


「これは使える。谷を回り込むには十分だよ。足場は悪いけど、気をつけて進めば通れなくはない」


「ちょっと湿ってるね。苔も生えてるから、滑らないように気をつけて」

 エルミナが岩肌に手を添えながら言う。足元を確かめる仕草に、慎重な経験がにじむ。


 一行はゆっくりと小道を進みはじめた。崖沿いに風が吹き抜けるたび、草の葉が揺れ、陽の光がちらちらと差し込んだ。


 途中、ホシがぴたりと止まり、鼻をひくつかせた。

 尾を立てて、じっと一点を見つめている。


「ホシ、何か見つけた?」


 リアナが近づいて視線の先を追うと、岩の影に、透き通るような白い花が咲いていた。


「これは……」


 ライロが目を細めて屈みこむ。


「ユウレイバナ、だな。珍しい草だ。炎症を抑える効き目がある。乾かしておけば長く保つよ」


「見つけた場所、いいね。風通しがよくて湿りすぎてない。根が浅いから、ここでは群生するかも」

 エルミナがそう言ってしゃがみ込み、指で土の湿り具合を確かめながら、リアナに声をかけた。

「この茎は短めに切るよ。根は残しておく」


 彼女は丁寧に花の根元を押さえ、小刀で数本を摘み取る。


 リアナはその様子を見ながら、地図の余白に小道の線と薬草の位置を描き込んだ。


「岩場のくぼみ、風通し、そして日当たり……なるほど、こういう場所に生えるんだ」


「場所だけじゃなくて、風向きや石の割れ方でも変わるよ。花が好きな場所を、先に覚えておくと楽」


 エルミナの言葉に、リアナは素直に頷いた。


 小道は緩やかに谷を回り込み、やがて再び元の道と合流した。橋のある道と、いま歩いた崖下の道。リアナの地図には、その両方が並んで記されていた。


「もし橋が崩れてなかったら、こっちは通らなかったよね」


 リアナが笑うと、ライロも肩をすくめた。


「道は選べるだけいいさ。選んだ先に何かがあるなら、それを記せばいい」


 ホシは尾をふわりと揺らし、先へと進む。

 リアナは振り返り、今歩いてきた崖の道に細い線を描き足す。

 新しく記されたその道は、地図の空白を確かに埋めていた。

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