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第21話『昼の影と夜の星』

 丘を越えた先に、小さな台地のような場所があった。まるで誰かが手を入れたかのように平らで、周囲には大小さまざまな岩が円を描くように配置されている。自然の風化にしては整いすぎていて、人工の名残にしては崩れすぎている。だが、その不完全さがかえって「何かの意味」を想像させた。


「……不思議な配置。中心、決まってるね」


 リアナが静かに言った。足元の砂を払い、中心の岩を軽く叩いて響きを確かめる。


「誰かが作ったと思う?」


「ううん、そこまでは……でも、重なる瞬間がある気がして」


 エルミナはしゃがみこみ、岩と岩の間を覗き込んでいたホシを呼び戻しながら、辺りを見回した。風は抜けず、空はひらけていた。昼の太陽も、夜の星も、遮るものなく見える場所。


「時計みたいなもの……かもしれない?」


「うん、そう見えたなら、それも記す理由になる」


 リアナは一歩下がって岩の配置を見渡し、ノートを取り出した。そして、それぞれの石に刻まれたような線や窪みに目を留める。微かな彫り跡がいくつかあり、一定の方向に向いているようにも見えた。


 陽が傾きはじめていた。リアナはその動きを追いながら、各石の影の落ち方を観察し始める。ホシは岩の間をくるくると歩き、エルミナは薬草の芽を探すふりをしながら、その様子を見守っていた。


「もう少しで……重なりそう」


 太陽が西へ傾いた瞬間、ひとつの窪みに影がぴたりと落ちた。リアナは即座にその位置を図に記し、方位と角度を測る。


「やっぱり、影がここに届くように並べられてる。計算じゃなくて、感覚かもしれないけど……偶然とは思えない」


 日が沈みかける台地の上に、岩と影が織りなす規則が浮かび上がる。


 その夜、空はよく晴れていた。雲ひとつなく、四分儀の糸がまっすぐに星の角度を示す。


「北の第三星、角度……よし。ここで……」


 リアナは昼に記録した窪みに立ち、星を見上げた。その足元、影が落ちた延長線上に、夜の星があった。


「重なってる。昼の影と、夜の星が、同じ向きを持ってる」


 星と石が、まったく別の時間に、同じ方を指していた。それは測量の基準にもなり得る、貴重な一致だった。


 一方、エルミナは台地の端で、小さな草に目を留めていた。ふわりと夜風に乗って漂う香りは、どこかユラギソウに似ていた。だが葉の形は少し異なり、花の咲く時間も違う。


 彼女はそっと姿を写し取り、保存用の紙に貼りつける。


  ※類似種。採取見送り


 ホシが、ゆっくりと台地の外周をまわっていたが、途中で足を止め、まっすぐに一点を見つめてしっぽを立てた。その先は、昼の影と夜の星が交差した場所と、ほぼ重なっていた。


「ホシ……そこが“交点”かもしれない」


 リアナは小走りに近づき、ホシの立っていた位置に立ってみた。視線の延長には、昼の窪み、そして夜空の星。


 無言のまま、三人はその地点を囲んだ。


「ここ、記しておく。星の線と影の線が交わった場所」


 リアナはノートに赤い点を打ち、「交点」と小さく書き添えた。


 翌朝、空気は澄み、空の青が眩しいほどだった。太陽は高く昇り、台地の中心に影を落とす。


 リアナは地図を広げ、コンパスと四分儀で西北西を確認する。そして、次の目標を声にした。


「星と影が、両方残ってた。この場所みたいに、痕跡が残ってるところ、ほかにもあるはず。だったら――また、見つけられる」


 エルミナは微笑み、ホシはしっぽを立てた。


「見つけて、記す。それが、わたしたちの旅だね」


「うん。あの丘の向こうにも、また“残された何か”があると思う」


 三人は台地を後にし、再び歩き出した。影と星が交わるその先へ。次の交点を探して。

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