08_閑話_七人の御使い
はい、あれは半年前の事です。
私は自分の店の買い付け先からの帰途に着いていました。
そして、店のある町まであと半日の距離で山賊に遭ったのです。
一応、こちらも冒険者を連れてはいましたが、こちらは私含め五名、対して山賊は十人程居りました。
しかも、相手もなかなか強そうで、こちらの雇っていた冒険者では勝つのは厳しそうに思えました。
幸か不幸かこちらは男性だけでした、下手な抵抗さえしなければ危害を加えられる事は無いでしょう。
そう私は判断し、山賊と睨み合っていた冒険者達にそう告げようとした、その時──
彼女ら、「御使い様」達が舞い降りたのです。
私には一瞬、何が起きたのか分かりませんでした。
そんな私を余所に、彼女らは山賊をバッタバッタと倒してゆきました。
あまりの事態に、ウチの冒険者達も呆然としておりました。
やがて、山賊全員をのして縛り上げると、最も年若い少女の容姿をした御使い様が申されました。
「怪我をしている方は居ませんか?」
怪我をしている者が居たら、治癒すると申されたのです。
ただ、こちらは誰も戦いには参加していません、当然、怪我をした者も居りませんでした。
その事を伝えると次に御使い様は、縛り上げた山賊共を町まで運べるかお聞きになりました。
先程もお話ししたように、こちらは仕入れから帰る途中です。
荷台に空きはありませんし、有ったとしても十人もの山賊を追加で乗せては、馬で引くのは困難です。
そうお答えすると今度は、御使い様は私の店は何処かとお聞きになられました。
私は、この先半日程の距離の町に店を構えている事と、店名をお伝えしました。
それを聞いた御使い様は、荷馬車の荷台に入られました。
そして、出て来た時には荷馬車から積み荷が全て無くなっておりました。
「積み荷はお店に届けておきます。貴方達は山賊達をお願いします。」
そうお告げになると、御使い様方は飛び去って行かれました。
後日、私どもが山賊を役所に引き渡してから店に着くと、確かにあの時の積み荷が倉庫に置かれていましたよ。
えっ?御使い様達の容姿ですか?
そうですね……、主に応対して下さったのは、少女の姿をした黒髪の方でした。
山賊と戦って下さったのも、この方です。
あと二人、戦いに加わっておられたのが、全身をフードマントと服で隠した方と、唯一の男性の方です。
男性の方は言動から察するに、従者だったのではないでしょうか。
もう一方は、戦いの中で手や顔の一部が見えました。
どうやら獣人だったようです。
私の思い込みかも知れませんが、あれは猫……、いや、獅子獣人であったと思います。
……そうです、リプロノ王国の、初代国王陛下と同じだと思います。
そう言えば、御使い様達は北から南に向かっているようでしたし、ひょっとしたらリプロノから遣わされた初代様の化身だったのやも知れませんね。
その他にも四名、降り立った御使い様が居りました。
その内の一人は獅子獣人様と同じく、全身を隠された方でした。
少女の御使い様と話す様子から、この方も女性だったと思います。
少女の御使い様と話されていたのがあとお一人、お優しそうな表情の方が居りました。
私は物語等に登場する泉の精霊を連想してしまいましたね。
残るお二人は、剣士の出で立ちでした。
その片方の方が、これが目の覚めるような絶世の美女でした。
金髪碧眼、高い鼻、ウェーブの強く掛かった毛先、メリハリのあるシルエット。
剣を置いてドレスを纏えば、貴族様、いや王族の女性と言っても通じる程の容姿だったと思います。
……あとお一方?
……申し訳ありません、他の方が強烈過ぎて、最後のお一人については印象が残っておりません。
ただ、皆さん美女ばかりであった事は断言出来ます。
(追記:同行していた冒険者の証言によると、あと一名は聡明そうな黒髪の美女であった、とのこと。)
……先日の「あの事件」との関連、ですか?
う〜ん、私は事件の事はつい最近耳にしたので、何とも言えないのですが……。
そうですねぇ、あの御使い様達であれば、話に聞くような事をなさっても不思議ではないと思いますよ、ええ。
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この証言から周辺の町で聞き込みを行ったところ、同様の集団が王都方面へ向かっていた事が分りました。
しかし、その痕跡は王都近くで途切れます。
以後、「あの事件」が発生するまで、この「御使い様」と呼称される集団が目撃される事はありませんでした。
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「……どう思う、イリス?」
「いえ、どうもこうも……、特徴が話に聞くクロー君のパーティと一致するじゃないですか。」
ここはカダー王国、国王ニゴウの私室である。
カダー王国北部で目撃されたという、「御使い様」と呼称される一団についての調査報告書を渡され、それを一読したイリス王妃は、ハッキリとクロー達だと断じた。
「だよなぁ……。」
王妃も自分と同じ考えであると知り、国王ニゴウは溜め息をついた。
「この頃に何とか彼らと接触出来ていれば、彼らをこの国に留めておくことも可能だったかもなぁ。」
「セーム殿の所に連絡しても駄目だったのでしょう?難しかったのでは?」
ニゴウのボヤキをイリスが否定する。
「……と言うかお前の方こそ、実は隠れて接触していたりしてないのか?」
「陛下に隠し事などする筈ないじゃありませんか。それに、そんな野暮な事は出来ませんでした。」
「野暮な事?」
「ふふ……。動向を探るくらいの事はしていましたよ。」
「……まぁ良い。それにしても、とんでもない事になったなぁ。まだ後始末が終わらぬしな。」
「そうですね。でも、彼らの関与が確定した訳ではないのでしょう?」
「その結論は、そっちの調査が終わらんとな……。」
立場上、迂闊な事は口に出せないもどかしさに、国王ニゴウは頭を掻きむしるのだった。




