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07_ローエンタール領への道

「あはは〜!すごーい!!もっと飛ばせ〜!」

「みんなと距離開いちゃうからダメッすよ!」

スノウノさんがノリノリで叫ぶのを、リックが嗜める。


ここはもうカダー王国内だ。

ボクらは久々に『重力制御』を使用した移動をしている。

ティアナさん達三人はまだ魔術を使えないので、ティアナさんをヴェロニカさんが、フラウノさんをセレナさんが、スノウノさんをリックがそれぞれおぶって移動している。

余ったボクは、『空間把握』と『熱源感知』で周囲を警戒しながら先導している。

……余ったと言うか、ティアナさん達の誰かを僕がおぶるのを、ヴェロニカさんとセレナさんが渋った結果なのだけどね。


「これが魔術の為せる業なのですね。凄い機動性です。」

「二人だと負担がやや大きくて長距離は厳しいがな。……それにしても、ティアナは体つきも派手だったんだな。」

「急に何を言い出すんです、ヴェロニカさん?!」

ティアナさんの方はヴェロニカさんがおぶっているので心配は無さそうだ。

ヴェロニカさんの正直な感想は聞かなかった事にしておく。


「……これ四人とも出来るのですね。これで逃げられたら、絶対に追い付けないですよ。今更ですが、モヤの町で合流を許して貰えて良かったです。」

「そうですね。私もフラウノさん達と出会えて良かったと思います。……出会いはやや不本意な形でしたが。」

「あの日の事は本当に申し訳ありません。命令に逆らうという事など考えられず……。」

「はい、それも分かっています。そもそもあれは、私の実の父親が下手な事を考えたのが原因なのですから。それに、それがあったからクロー君と出会えたと考えると、悪いことばかりでも無かったと思えますし。」

フラウノさんをおぶるセレナさんの方も、『重力制御』にも大分慣れてきていて、不安は感じられない。

時折聞こえる会話も、ほのぼのしていて安心出来る。


「こんなの、ほぼ空を飛んでるようなものニャ!これをもうすぐ私も使えるようになるなんて、ワクワクするニャ。」

「ちょっと、あまり動かないで欲しいっす。俺も、ヒトを連れてこれ使うのは、まだ慣れて無いっすよ。あと、語尾戻ってるっすよ?」

スノウノさんとリックの組み合わせは、正直、一番心配になる。

スノウノさんははしゃぎまくっているし、リックはまだ『重力制御』を習得してから日が浅い。

……というか、スノウノさんに『重力制御』教えて大丈夫かな?

手綱の外れた若犬の如く、我先に飛び出して行っちゃいそうで怖い。

そこはティアナさんに、飼い主としてしっかり調教してもらう事にしよう。


「そう言えば、なんでこんなに急いで移動する事にしたんだ?」

集まって一時休憩となったタイミングで、ヴェロニカさんが聞いてくる。

「う〜んと、まずティアナさん達には先に『重力制御』を最初に覚えて貰おうと思っているので、それに慣れて貰いたい意味合いがありますね。」

「ふぅん。最初に機動性を上げたいという事か。」

「それと、いい加減肌寒くなってきて、上空を移動するにはギリギリの時期だと思うんですよね。まだ降らないでしょうが、雪でも降られたら足止めされちゃうので。」

「確かに、厚着してましたけど、跳んでる時は寒く感じる程でしたね。」

話を聞いていたセレナさんも、感想を述べてきた。

加えて言うと、カダー王国のお金はあまり多く持ってなかったので、寒さ対策に服を買い足したりするのは不安だった。

「あと、もっと国の中心部に行くと交通量も多くなります。そうなると『重力制御』での移動は、目立ち過ぎると思うんですよね。」

「あ〜……。確かに、ここはまだ国の端、有り体に言えば辺境だ。森を跳んで移動する集団が居ても目立たないか。」

「そういう事です。」

うん、本当なら先に理由を説明すべきたったな。

でも、二日連続で羞恥責めをされた後遺症か、言葉少なくなってたので、そこは許して貰いたい。

今日、思い切り体を動かして、少しは気が紛れたけど、まだ鬱憤は溜まっている気がする。

「なるほど、それが理由の全てですか?……いえ、クロー君は考えてる事を一部隠す癖がお有りのようなので、気になりまして。」

ここで、フラウノさんが思いついたように、他意無く聞いてきた。

うっ、鋭い。

でも、ちょっとそれはあまり言いたくないと言うか……。

「……いえ?何もありませんよ?」

しまった、最初の「いえ?」で声が裏返った!

「……クロー?隠し事はいかんなぁ?」

「そうですよ。水臭いじゃないですか?」

ボクの発言に違和感を感じたのか、ヴェロニカさんとセレナさんが圧を掛けてきた。

──仕方ない、二人には打ち明けるか。

「……ちょっと、こっちへ。」

ボクはヴェロニカさんとセレナさんを連れて、少し離れた場所に移動した。

「な、なんだ?改まって。」

「ええと……、簡単に言うと、そろそろ我慢も限界が近いです。」

「「──っ?!」」

ボクが小声で答えると、二人は驚いて固まってしまった。

「あの、それは性的な意味で、ですか?」

「そうです。」

「「……。」」

「だって、ですよ?あれから毎日、キ、キスをしまくっているじゃないですか?いい加減、ボクの理性も保ちませんよ。だから、少しでも早くローエンタール領に着きたいんです。」

「ああ、うん……。」

ボクが力説すると、ヴェロニカさんは視線を反らして、気まずそうに頷いた。

特に濃厚に求めて来るのがヴェロニカさん本人である自覚はあるらしい。

「あの……、それなら、目的地まで我慢する事なく、甘えてくれても良いのですよ?」

セレナさんは、ボクの気持ちを推し量って優しい提案をしてくれる。

しかし──

「──ダメです。甘えるのと約束を違える事は同じではありません。」

「約束、ってそんな大げさな……。」

「勘違いしないで下さい。もし、二人が我慢出来ないと言っても、約束を破る云々とは思いません。でも、ボクがそれを言い出すのは違うと思うのです。ボクはただでさえ二人とお付き合いするという、誠実さの欠片も無い事をしています。その上、約束を違えるなんて、信頼の根底を揺るがす最低の行為だと思うのです。」


そう、これは信頼や誠実さ、と言った類の話だと思っている。

ヒトとヒトとの信頼とは、結局、約束を守る事の積み重ねで築かれてゆくものだ。

多少の失敗で約束を守れなかった時、それを許してもらえるのも、それまで築き上げてきた信頼があるからこそだ。

まぁ、ボクのこの見識は主に前世オジサンがビジネスマンとして育んできた思考なわけだけど、ビジネスだろうが恋愛だろうが、ヒトとヒトの信頼関係の築き方に違いなんてある筈がない。

別にヴェロニカさんやセレナさんが、ボクの事を信頼していないとか、二人がちょっとの過ちも許してくれないような、心の狭いヒトだと思っている訳じゃない。

ボクが気にしてるのは、ボク自身が自分の事を信頼出来なくなる事だ。

例え二人が許そうとも、約束を反故にする自分を自分が信用出来るはずがない。

そして、自分で自分を信用出来ないようなヒトが、他人から信用されるわけがない。

だからボクは、どんな小さな約束でも、それを破るような事はしない、したくない。

それが唯一、二人と付き合う事を決めた不誠実な自分が信頼を築いてゆくための方法であると思っている。


ちなみに、ボクが何故「約束を破る事」に強い忌避感を抱くのかというと、それも前世オジサンの経験に由来する。

まず、オジサンの接してきたニュースに企業の不祥事と言うものがあった。

そんなニュースを聞いて思っていたのが「長年かけて積み重ねた信頼を足蹴にした企業は、積み重ねた以上の年月を掛けて反省を実践して、初めて信頼を取り戻せる」という事だった。

例えば十年もの間、消費者を騙してきた企業は、口先でどれだけ反省の意思を示しても、信用なんて出来ない。

その信用は消費者を騙してきたのと同じ以上の年月を掛けて、誠実に商売を続ける事でしか、信頼を取り戻す事なんか出来ないと思っていた。


この考えは、母親の浮気の件でも同様に思えた。

少なくともオジサンの知る限り、父親は浮気もしない、家庭に対しては誠実な人物だったと思う。

そんな父を、母親は裏切ったのだ。

二十年近く積み上げて来た家族としての信頼を、母親は裏切った。

ならば、例え戻ってきて反省の弁を述べたとしても、二十年したらまた同じ裏切りをするかもしれない。

その信頼を本当の意味で取り戻すには、母親は戻ってきてから先の二十年を誠実に生きて証明するしか無い、と思っていた。


……おっと、いけない。

久々に前世オジサンの思考を深く呼び起こしたせいで、意識までそっちに引っ張られそうになってしまった。

兎に角、裏切りには相応の報いがあると思うボクは、自分も同じ様に思われると考えている。

だから極力、約束を違えるような事はしたくないのだ。


「──分りました。クロー君の考えを尊重します。まずは早く目的地まで着きましょう。それまで私達も極力、自重する事にします。」

「へっ?……あ、セレナ、ワタシ達も、か?」

「そうです。何か問題でも?」

「い、いや。別に……。」

……最近、セレナさんの圧が妙に強くなってきてる気がするんだよね。

普段優しいだけに、変な凄みがある。

いつもは穏やかなヒトの方が、怒らせると怖い、そんな事を実感させられる。


とは言え、これで話し合いも終わった。

……。

心の弱いボクは、どこかで「私達の方が我慢出来ないのでしましょう」と言われるのを期待してしまっていたが、流石に女性からそんな事を言う発想は無かったようだ。

まあ良い。

取り敢えずローエンタール領まで急ごう。


**********


「──あっ、ゴブリンの群れだ。」

「たぁぁぁっ!」

「お、おいっ?!クロー?」

ヴェロニカさんのセリフも聞かずに、ボクは突貫する、


バキッ!グシャ!ドゴッ!ズバッ!ガンッガンッ!


「……。」

「──もうっ、最期の方しか参加出来なかったニャ。」

「ああ、すみませんスノウノさん。次に何か見つけたら、一緒にヤりましょう。」


**********


「あ、山ぞ──」

「行きますよっ!スノウノさんっ!」

「了解っ!突貫ニャ、リック!」

「えっ?!俺もっすか?!」


バキッ!グシャ!ドゴッドゴッ!!ガキンッ!ボキッ!


「「……。」」

「「よっしゃぁ!」」

パンッ!

他の皆が若干引き気味な中、ボクとスノウノさんはテンション高く勝利のハイタッチを決めていた。



こうして、欲求不満と望まぬ女装により鬱憤の溜まったボクは、同じく望まぬ変装で不満の溜まったスノウノさんと共に、見掛けた魔物や盗賊を一匹逃さず狩り尽くすことでストレス発散をしながら、ローエンタール領を目指すのだった。

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