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06_再訪(後編)

「では、明日は変装用の服を調達する事にします!」

ボクは宿屋の部屋に入るなり、皆に宣言した。

「はぁ?何を言ってるんだ、クロー?」

ヴェロニカさんが真っ先に疑問の声を上げる。

「いえ、カダー王国でボクはお尋ね者だという話はしましたよね?そうでなくとも怪しい子供と言われ、目立つので、もっと地味な様相にしておいた方が良いと思ってるんですよ。」

「ああ、そういう事か。」

ボクの簡単な説明で、ヴェロニカさんは納得してくれたようだ。

「じゃあ、お店を回る感じですか?」

続いてセレナさんにそう聞かれた所で、ボクはとある事に思い至った。

「そうですね……。あっ、この中だとセレナさんとスノウノさんも、ちょっとその格好では問題あるかもです。」

「はいっ?!」

「うにゃ?!」

セレナさんはゾマ・ヴォルフント教の司祭服、スノウノさんは猫獣人だ。

「あの、理由を聞いても?」

「はい。ボクも国を出てコラペ、リプロノを巡って気が付いたのですが、カダー王国って他の二国より差別と偏見が強い国なんですよ。」

「「ええっ!?」」

ボクの説明に皆が驚く。

うん、母国の事をあんまり悪くは言いたくないけど、事実だから仕方ない。


カダー王国は人族が中心となる一神教の国だ。

なので、自然と人族以外の種族への扱いが雑になる。

為政者もマジョリティ向けの政策を打ち出し、求心力を維持しなくてはいけないのだから、そうなるのも当然の事だ。

それどころか、人族同士ですらルミのように肌の色ごときで差別される事もあるくらいなのだ、そこに人族以外や多神教の者が入って来たらどんな反応になるかは、想像に難くない。

……思えば国に居た頃は、あまり獣人さんは見かけなかったなぁ。


ボクはそんな事を簡単に皆に説明した。

「──と言う訳なので、セレナさんはゾマ・ヴォルフント教の司祭であるとパッと見では分からない程度にはしておいて下さい。それと、スノウノさんは……。」

「……ニャ。」

「……ヴェロニカさんのようにフードとマスクですかねぇ。あと、その「ニャ」の語尾も止めましょう。いかにも猫獣人な言い方なので。別にそれ無しでも喋れるのですよね?」

「ええっ?!……うん、喋れる。騎士団に居た頃は、こんな感じで喋ってた。」

おお……。

語尾無しで喋ってるだけなのに、スノウノさんがなんか別人みたいだ。

「うん、良い感じですね。では慣れるなめにも明日からその喋り方にしましょう。」

「えぇ〜〜っ?!」

スノウノさんは悲鳴を上げるが、余計なトラブルを避けるためだ、我慢してもらう。


「さて、ところでボクの変装なのですが、どんなのが良いでしょう?流石にフードで顔を隠したヒトが三人居るとなると、それはそれで目立ちそうです。」

「ああ、まぁそうか。」

元より普段からフードを被っているヴェロニカさんが頷く。

「私達に聞くって事は、クロー君もアイデアが無い感じです?」

「そうですね。それもありますが、自分で考えるより、ヒトから見て納得できる方法の方が効果がありそう、というのもあります。それに、二人に不本意な変装をお願いする手前、ボクだけは自分で考えて、というのもおかしい気がして……。」

セレナさんの質問に対して、ボクが考えあぐねている旨を語ると、フラウノさんが手を挙げた。

「あっ、それなら私に案があるのですが。」

「えっ?どんなです?」

「はい、えっと──」


**********


翌日、ノエル伯爵令嬢宅兼南部白日騎士団寮。


「うんっ、良い!可愛いよ〜!」

「ねぇねぇ、こっちも着てみて!これこれ!」

「あっ、偶然非番だった私らだけが楽しんでたら、他の娘に妬まれて何されるか分からないから、明日も来てくれるよね?」

「…………はい。」

団員さん達に矢継ぎ早に言われながら、ボクは死んだ魚の様な目になっていた。

(くっ、いっそ殺せ!)

……いや、本当にそう願ったりはしていないが、恥辱で思わず有名なフレーズを思い出してしまった。

ボクは今、通称・騎士団寮で女装をさせられている。


女装については、フラウノさんの提案だ。

丁度ボクの髪も伸びているので好都合だと言われた。

それに、男性と女性では平均身長に若干の差がある。

同じ身長でもボクが女装すれば、若干、年上に思われてカモフラージュになるとのこと。

そして服を買うにしても、普通なら雑貨屋を巡り服を見繕う所だが、此処では裏ワザがあった。

それが「騎士団員に着なくなった服を売ってもらう」作戦だ。

雑貨屋を巡っても、一店舗毎に取り扱っている衣料の数は少ない。

それなら女性が多く住む騎士団寮で、纏めて売って貰った方が早いという事だった。

フラウノさん自身も、騎士団員であった頃、着なくなった服の遣り取りは頻繁にしていたらしい。


そして、いざ団員さんに聞いてみると、我も我もと各自が服を持ち寄って来てくれた。

その中からボクに合う物を選ぶため、実際に着てみせる事になったのだった。

ちなみに、女性ばかりの寮に一人で来る事など許されるはずもなく、ヴェロニカさんとセレナさんも着いて来ている。

その二人は団員さん達の後ろで、満足げな顔で後方腕組み彼女面をしている。


……ボクだって人並みに、彼氏として格好良く思われたいんですけどねぇ?

どちくしょう。


「……そう言えば、セレナさんは服を見なくて良いのですか?」

着替えの合間に、ボクは気になった事をセレナさんに聞いてみた。

「はい。私は着ていなかっただけで、司祭服以外も持っていますから。」

ああ、そうか。

女性なら普段着ないようなお洒落着を持っていてもおかしくないか。

「でも、クロー君が着ているのを見て、気になったのは買おうと思ってます。」

……うん。

見本になれるなら、良かったと思えますかね……。


バタンッ!!

「クロー君はこちらですかっ?!」

えっ?!

ああ、勢い良く入って来たヒトが居ると思ったらユノさんか──

「……くふっ!!」

えっ?な、なんかボクを見て膝から崩れちゃったけど……。

ボクの今の格好、そんなに変ですかね?

「……あの、大丈夫ですか、ユノさん?」

「え、ええ、大丈夫です。それより、ちょっと個別にお話がしたいのですが、良いですか?」

「へっ?……あの、こんな格好のままで良ければ、大丈夫ですが。」

そう言いつつ、ボクはヴェロニカさんとセレナさんに「聞いていて」と合図しておく。

「はい、構いません。お時間はさほど取らせませんので。」

ボクらは着替え用のスペースへ移動した。


「単刀直入に聞きます。クロー君は魔術が使えますか?」

「……まぁ、はい。一人で居た頃はパーティ勧誘されるのが嫌で隠してましたけど。」

「やはり……。私は、半年前にフリージアさんのお父上を助けた黒ずくめの魔物の正体は、クロー君ではないかと考えてます。違いますか?」

おっと?

そこまでバレてるとは思わなかった。

その事自体はバレても構わないのだけど……。

「……さて、何の事でしょう?」

「えっ?」

「ボクは良く分からないですが、あの時、軍に対しても何かしらの介入があったと言うじゃないですか?それまでボクのせいという事にされたら大変ですからね。そこは明確に否定させてもらいます。」

うん、余罪がちょっとあるんだよね。

流石に全バレするのは困る。

「いえいえ、そこまで分かっているなんて、自白しているようなものでは?」

「そんな事ないですよ。ボクはただ、祝勝会で団員さんに聞いただけですから。」

「……では、我々と出会った日に、我々と別れてから「フリージアさんが南の森に入って行くのを見た」と言っていたのはどうです?あの日の事は後からフリージアにも聞きました。とても普通では追い切れなかった筈です。よしんば追い付けたとして、フリージアを追っていた黒ずくめについて言及は無かったのは何故ですか?クロー君が黒ずくめの正体だからではないですか?」

ああ、そうか。

フリージアさんからも話を聞いたら、おかしいと気付いちゃうか。

「う〜ん、そう言われても、ボクとしては否定するしかないのですが……。そもそも、何故そこまでボクに拘るのです?そこまでボクの罪を暴いて捕えたいのですか?」

「な、違いますっ!」

わっと?!

ユノさんが大声を上げるイメージは無かったので、驚いてしまった。

「……す、すみません。でも、違うのです。私はただ、一言お礼が言いたかっただけです。……今、フリージアと共に在れる事、団長を悲しませずに済んだ事、それはあの黒ずくめのお陰と思ってますから。」

一転して声を小さくしたユノさんは、ハッキリとそう答えた。

「……そうですか。それなら、その思い伝えておきますよ。」

「えっ?」

「もし、その黒ずくめに会うことがあったら、ユノさんの思いをお伝えしますよ。それで良いですか?」

「……はい。お願いします。」

ユノさんはまだ何か言いたげであったが、それ以上追求してくる事はなかった。


その後、再び着せ替えが再開したけれど、そこには目を輝かせてフリフリな服を持ってくるユノさんの姿があった。

「ってか、ユノさんなんでこんな服を持ってるんですか?!」

「それは、可愛い服に憧れがあるからですよ!でも、長身の私には似合わないので、可愛い子に着てもらいたかったのです!」

「そんなキリッとした様子でカミングアウトされてもっ?!」


──結局、着せ替えは夕方まで行われ、続きも明日行われる事になってしまった。


ちくしょう。


**********


翌日。


「お初にお目にかかります。お噂はかねがね──」

「ちょっと、セシルさん?!連絡係の方は明日来る予定だったんじゃないんですか?!」

「はっはっは、予定の日付から前後する事など、よくありますよ。それに、わたくし一人が「クロー様と会った」と言っても、信じて貰えぬやもしれないじゃないですか?」

「だからって、こんな所で会わせなくても良くないですか?!」

ここは再び騎士団寮。

ボクが居ると知ったセシルさんが、連絡係の方と連れ立って訪問したのだった。

当然、ボクは女装した状態だ。

「大丈夫、大丈夫!全然可愛いよっ!」

正面では昨日参加出来なかったノエル団長さんが、大量の服を持って陣取っている。

「……うん、少年というのも悪くないねぇ。」

ノエルさんの横ではフリージアさんが不穏な目つきでボクを舐め回すように見ていた。

そんな団員さん達の後ろでは六人のパーティメンバが後方腕組み仲間面で、満足げに頷いていたのだった。


どちくしょう!

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