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05_再訪(中編)

「おや、今日はずいぶん混んでますねぇ。」

そのヒトは穏やかにそう言って室内を見回した。

そして、ボクと目が会った。

「……クロー様?!」

「やっぱり、セシルさんだ。」

セシルさん、ボクの実家ホーンテップ男爵家で執事をしていた人物だ。

だけど彼は今は……。

「──話を聞いていて。」

ボクはそれだけヴェロニカさんとセレナさんに告げると、立ち上がりセシルさんを連れてギルドの端へ向かった。


「なんでセシルさんが此処に居るの?!セシルさんは今は投獄中のはずでしょ?!」

そう、本来牢屋に居なければいけないはずのヒトなのだ。

なにせホーンテップ男爵家当主であり、ボクの実父であるナグラの言いつけに従い、人身売買組織と取引を行っていたのだから。

まあ、使用人が主人の命令に逆らえる筈もないので、その分減刑されたそうだけど、それにしたってセシルさんにとっては終身刑に等しいくらいの期間は投獄される筈だ。

それが服役から一年足らずで此処に居るというのは、理屈が合わない。

「勿論、わたくしはまだ罪を償いきれてなどおりません。しかし、とある御方の計らいで、その方の命令に従うならば娑婆へ出る事を許す、と言われまして。」

「とある御方?」

「副宰相グレン様です。」

あ……。

まさか……。

「……わたくし如き老骨に何をお望みかは分かりませんでしたが、わたくしでお役に立つ事があるのならばと、お話をお受け致しました。そして、最初に命じられたのが、この町を訪れクロー様にお会いするまで滞在せよ、との御命令だったのです。」

「えっ?!まさか、一人で来たの?」

カダー王都からここまで歩くのは結構な距離だし、人気のない山道では魔物が出る事もあるだろう。

「あ、いえ。同行して下さった方もおります。その方達は近くの別の町に散らばりました。定期的に連絡係の方がいらっしゃるので、それで状況をお伝えします。」

「そっか、良かった。」

副宰相様もそこまで無茶振りする方ではないらしい。


「それにしても、まさか町に着いて二週間足らずでクロー様とお会い出来るとは思いませんでした。年単位での滞在も覚悟しておりました。」

「……ひょっとして、ボクと会えたらまた牢に戻されるの?」

「いいえ。この任が終われば、副宰相様のお屋敷で執事の一人として手助けして欲しいと云われております。わたくしがまずお屋敷の仕事を覚え、それを後進に教えてゆく役割を担って欲しい、とのご希望でした。」

ああ、それはまったくセシルさん向きの仕事だ。

それを上手に行えるヒトって、案外少ないと思うんだよね。

後進の育成って、結構に重要な役目の筈なんだけど。

「そっか、ボクのせいでまた牢に戻されちゃうのでなくて良かった。」

「周りに頼りにできるヒトもおらず、町を出るのも魔物に会うため出れない、という現状も牢とそこまで大差ないと思っておりますけれどね。わたくしとしても、せめて最期は祖国の地で迎えたいと思っておりましたので、ホッとしております。」

「そっか。……このままカダーに戻るの?」

「いえ、連絡係の者にお話しして、周囲の町に散った者達と合流しての帰国となります。」

「……本当にボクを探してたんだね、副宰相は。でも一体何のために?」

「……わたくしはある程度、副宰相様からクロー様のカダー王国内での行動をお聞きしております。正直、配下にお迎えになりたいと思われるのも納得かと。」

……へっ?

「剣術大会優勝、人身売買組織の壊滅、セーム様襲撃を企てた三貴族家当主への報復、等々ですかね。」

げっ、グレン様そんな事細かに調べてたの?!

「そういった武力面を除いて考えたとしても、セーム様の相談役をなさっていたり、王妃様に気に入られる程の社交性もおありです。中でも副宰相様が一番気に入られていたのが、規格統一の重要性のお話だったとか。」

えっ?な、なんだっけ、それ?

「クロー様が王妃様にお話されたそうですよ?箱のサイズを統一し、それを基に輸送のためのインフラ整備の基準を策定する事で、抜本的な効率化を計れると。」

あー……、言ったかも。

前世オジサンの世界でも、輸送のためダンボール等のサイズが統一化されており、それに車の荷台等のサイズを合わせる事で、最小のスペースに効率的に荷物を積める事が出来るようにされていた。

まぁ、そこまでは求めないが、参考に出来る面もあるだろうと話してみたのだった。

「副宰相様ご自身の自領は流通の要所であるそうで、流通に関わるご提案の出来る者は特に重要視なされているとか。」

「……でも、副宰相様の多忙エピソードはちょくちょく耳にしてたんだよ。ボクはそこまで真剣に国に奉仕するなんて出来ないし、興味ないかな。」

上司が夜遅くまで長時間働く人だったりすると、部下も強制的にそれに倣うしかなくなる。

前世オジサンの職場がまさにそんな感じだった。

ボクはそういうのは遠慮したい。

この後セシルさんは副宰相様の元に戻ってボクの言動も報告するのだろう。

この際、いろいろお断りアピールをしておこう。

「そうですか。承知いたしました、その旨お伝えいたします。」

「うん、お願い。……ところで、次に連絡係のヒトが来るのはいつなの?」

「十日に一度程の周期で回るそうなので、三日後ですね。」

「分かった。じゃあ、ボクらは二日後までは町に居るよ。その間に答えられる事は答えるから。」

まぁ、マフィアを壊滅させたり、貴族に報復とかは何らかの罪に問われそうなので、公式には認めないけどね。


「──ねぇ、セシルさん。」

「はい、何でしょう?」

「もし、副宰相様の想像通りだとしたら、ボクのせいでホーンテップ家が廃爵になった事になる。そしたらセシルさんは、ボクの事を恨みますか?」

ボクはセシルさんの目をじっとみつめて、そう聞いた。

セシルさんは一瞬、目を見開いたけれど、すぐ元の表情に戻り、少し間を置いてから答えた。

「──これまで、誰にもお話した事はありませんでしたが、クロー様には先代様のお若い頃の面影がございます。」

「先代、って事はボクの祖父にあたるヒトの事だよね?」

「はい。わたくしがホーンテップ家に仕え始めた十七の頃の話です──」


わたくしと先代様は同世代でした。

歳は先代様の方が上です。

その頃の先代様は快活で、見習いのわたくしにも言葉を掛けて下さるような、お優しい面もございました。

……ですが、男爵家の内情をお知りになるにつれ、気難しい性格に変貌されてゆきました。

後になって思えば、お父上、クロー様の曽祖父にあたる方からマフィアとの繋がりを明かされ、苦悩なされた結果だったのだと思います。

そして、私が執事としてその事を知る頃には、組織と手を切ることも出来ぬ程に、ホーンテップ家は組織と深く関わるようになっておりました。

何せ当時の組織はトロリス流の草の根抗戦活動が行われる前の、最も勢いのある頃でした。

あの頃の組織は、貴族であっても報復を恐れて、おいそれと手は出せない状態でしたから。

そのため、先代様も組織と手を切る事は出来ずに、終生、組織との取り引きを続けておりました。


そんな先代様の若き日の面影を残すクロー様が、先代様の続けた負の連鎖を断ち切り、清算なされたのは、もはや運命であったと感じております。

きっと、先代様も草葉の陰からクロー様の行いを称賛されている事でしょう。

もちろん、わたくしもクロー様の事を誇りに思っております。


「──そんなわたくしが、クロー様に恨みを抱く事など有ろうはずがございません。……そう言えば、わたくしの囚われた牢に、差し入れをして下さった事もございましたね。」

ああ……、そんな事もしたな。

同時に捕らえられた父親と長兄の事はどうでも良かったけど、セシルさんの事だけは気掛かりで、セーム様経由で様子を聞いていたんだっけ。

「……そっか。まぁ、副宰相様のご想像が当たっていたら、という仮定の話なんだけどね。」

「はい、そうですね。承知しております。」

ボクの言葉に、セシルさんは穏やかに返事を返してくれた。


「皆さんっ!只今、料理が出来上がりました。久々にオーク肉が大量に手に入りましたので、沢山作ってありますよ!」

キャロットさんの明るい声がギルドに響いた。

此処に来るまでに狩ったオークを、話の前に全てギルドに売っていたものだろう。

「待ってましたぁっ!私もう腹ペコじゃよ。思いっきり食べるけんね。」

それに一番に飛び付いたのはノエルさんだった。

他の冒険者さん達もそれに続いて注文している。

「じゃあ、そろそろ戻って一緒に食べましょう。」

「……同席して宜しいのですか?」

「もちろん!こんなに長々と話し込んじゃったのに、席を分けたりしたら、それこそ変に思われるよ。」

「分りました。」

ヴェロニカさんとセレナさんはこの会話を聞いていたはず、セシルさんを不審に思う事はないだろう。


ボクとセシルさんが席に戻ると、いつの間にか団員さんの数が増え、ヴェロニカさんとセレナさんが話を聞かれていた。

「あっ!戻ってきた。てか、二人ってどんな関係なの?」

戻って来るなり、フリージアさんがボクらの関係について尋ねてきた。

「ボクが飛び出した男爵家の執事だったんですよ、セシルさんは。今聞いたら、男爵家で事件があって、実家は廃爵になったそうで。」

「えっ?!やっぱり貴族様だったの、クロー君?」

「元貴族ですよ。家は出ちゃいましたし、その家も無くなったそうなので。……というか、「やっぱり」って何ですか?」

「そりゃあ、クロー君落ち着いてたし、教養もありそうだったから、庶民じゃ無いよねぇと皆で噂してたんだよ。」

ああそれ、この旅の途中でちょくちょく言われてたっけ。

この先、カダー王国に入ってからそんな事で怪しまれたら、巡り巡って犯罪歴のあるボクの正体がバレることになり兼ねない。

やっぱり変装とかした方が良いかなぁ。


「お〜いっ!だれか手伝ってくれ!オークの量が多くて、一人じゃ捌ききれねぇよ!」

ボクらが話してると、奥からギルドマスターが顔を出して泣き言を言ってきた。

相変わらず解体作業もしている変わったギルマスだ。

オーク四体は流石に一人では荷が重かったかな。

「あっ、じゃあ俺手伝って来るっすかね。解体もやってみたいっす。」

それにリックが興味を示した。

相変わらず向上心が高いなぁ、見習わないと。

「え〜?ここにいてよ〜。もっとお話ししよ〜?」

「そ〜そ〜。」

そんなリックは対面に座った団員さんに呼び止められてしまっている。

「はいはい、ウチのリックはお触り厳禁ですよ〜?それと──」

そう言いながら、ボクはリックの後ろまで歩いてゆき、中腰のままのリックの肩から片手だけ手を伸ばして、抱き締める格好で言葉を続けた。

「──リックはボクのですから、お譲りできませんよ〜。」


「「──っ?!」」


あ、周囲が皆固まった。

……まぁ、良いか。

「ほらっ、リック行ってきなよ。」

「あ、ああ、はいっす!」

リックの肩をポンと叩いてそう言うと、弾かれるよいに行ってしまった。

ちょっと過保護が過ぎたかな?

でも、リグレット様の誘いさえ断ったリックが、団員さん達になびくとは、流石に思えないんだよね。

なのでボクはリックに助け舟を出した形だ。

しかし、ただお断りするのでは角が立ってしまう。

そこでワザと女子の皆さんの妄想を刺激するような言い回しをさせて貰った訳だ。

一種のリップサービスとでも言おうか。

「……一応聞くが、冗談だよな?」

え……。

ボクが席に戻ると、ヴェロニカさんが心配そうに小声で聞いてきた。

「……そうですが、あれ?ボクってそこまで信用無いです?二人に対して誠実に相対しているつもりですけど。……まぁ、二人のヒトを好きになっている時点で誠実じゃない、と言われてしまえばその通りなんですが。」

「いや、うん、分かってはいるつもりだが……。」

「クロー君とリック君、すごく仲が良いから、偶に心配になっちゃうんですよね……。」

ヴェロニカさんとセレナさんが心配しちゃうほどだと……?

「分りました。二人を心配させてしまうような事はしたくありません。同じような冗談は、今後は控えるようにしますね。」

「ふふっ、モテる男はつらいねぇ、クロー君。」

ボクらのやり取りを見ていたノエルさんが、わざわさ食事の手を止めて茶化してきた。

「いいえ。互いの理解を深める事は楽しいですよ。ノエルさんだってそうでしょう?だからこそ、団員の皆に好かれているのだと思いますよけど。」

「……うん、そうじゃね。」

そう言うと、ノエルさんは満足げな笑みを浮かべた。


そんなボクらのやり取りを、セシルさんはただ穏やかに見守ってくれているのだった。

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