04_再訪(前編)
おおおぉぉぉぉぉ……。
懐かしい!ジンジャー領都の町並みだ!
生まれて初めて国外に出て、最初に行き着いた町なので印象に強く残っている。
あれから半年くらい経ったのか……。
思い出すなぁ、ここでも色んな人と会ったっけ。
色んな人と……。
ん?
あ、あれ?
思い出すだけでも、結構女性と関わってた気がする。
ヴェロニカさんやセレナさんにその時の事を知られたら……。
一旦、ヤバいか?
いや、でもやましい事は何もしてないし。
やましい事……。
……。
一旦、ヤバいか。
まだ夕方前だし、急げは騎士団と鉢合わせにならずに冒険者ギルドに行けるかも知れない。
「……そう言えばクロー、ずいぶん髪が伸びたな?」
内心、焦り気味に冒険者ギルドに向かうボクに、ヴェロニカさんが話し掛けてきた。
「そうですね。そう言えば、旅に出てから一度も切って無かったですね。これまではルミに切って貰ってたので。」
確かにボクの髪は伸びていた、もう肩に掛かるくらいになっている。
最近は後ろで結ぶようにしているけど、いい加減切りたいな。
「へぇ……。」
「ルミさんに、ですか……。」
ん?なんか二人の反応が変な気がする。
気に障ったのだろうか?
「……なぁ、ならワタシが──」
「ああぁぁぁーーっ!!」
えっ、何?!
ヴェロニカさんが何か言いかけた時に、通りの先から大声が上がった。
ボクがその声の方を向くと──
あっ!!
「やっぱりクロー君!クロー君だよね、君?」
獣人系の騎士団員さんが仲間を置き去りにして駆けて来た。
確か──
「エイプリルさん?!」
「やっぱりクロー君だ!……ちょっと、すぐに団長に伝えて!私は冒険者ギルドまで連行しておくから!」
「は、はいっ!」
エイプリルさんは同僚さんに指示を出してこちらに近寄って来た。
てか「連行」とは穏やかじゃないですね?
「何言ってるの!私達の心を虜にして突然居なくなっちゃって、どれほど悲しんだ娘が居たか、分かってるの?!」
あ……。
「ほぅ……?」
「ふぅん……?」
……一旦、ヤバいか。
「いや、あの違うんですよ!いろいろ説明させて下さい!」
「……大丈夫だぞ、クロー。」
ボクの必死の訴えに、ヴェロニカさんが優しく答える。
「そう言えば、アプリコット公爵殿が言ってた話の件もあるな。ちゃんと話を聞くから冒険者ギルドへ向かおうか?多分、あの分だと他にも証人が来そうだしな。」
「ですね。」
Oh……
ボクは為す術なく冒険者ギルドへ連行されたのだった。
**********
「ほうほう、団長殿やその他の団員に囲まれ、楽しそうにしていたと……。」
「へぇぇ……。騎士団員の寮のようになっている所に行って、男の子一人で祝勝会に参加したんですね……。」
エイプリルさんの説明に、ヴェロニカさんとセレナさんがいちいち剣呑な反応をしてくる。
ちなみに、ギルドに入った所でヴェロニカさんはフードを外して、マスクのみ付けた状態になってる。
「……いや、でもボクを取り囲んで来たのはあちらですし、祝勝会の件は怪我した皆に、隠れて『治癒』をする為だったんです。そもそも、二人と出会う前の事ですよ。」
ボクは二人をなだめるため、必死で言い訳をした。
「まぁ、出会う前の事と言うのは分かるが……。」
「女性ばかりの中に、進んで身を投じるなんて、何かしらの期待をしていたのでは?と思えてしまうのですが。」
けど、やはり二人のモヤモヤは解消されないみたいだ。
「……確かに、当時は多少の期待はありましたよ、ボクも年頃の男子ですからね。それが無かったと言うと嘘になります。騎士団の皆さん、魅力的な方ばかりでしたし。でも今は、申し訳ないですが興味は持ってないです。大切は恋人の事しか目に入ってないですから。」
なら、もうあとは正直に言うしかないだろう。
今のボクは心の底から二人を大切に思ってる、それを伝えるしかない。
「……そうか。」
「……。」
あ、効いた。
二人ともボクの言葉に照れて俯いてしまった。
やっぱり、やましい事をしてないなら正直が一番だよね。
「……今、『治癒』と言ってましたか?」
「えっ?」
不意に後ろから声を掛けられ、驚く。
この声は聞き覚えある気がするんだけど……。
「急に居なくなるから……、心配したんですよ、クロー君。」
あ……、ユノさん。
なんか息切れしてますけど、走って来たんですかね?
「お久しぶりです、ユノさん。お元気そうで何よりです。」
「元気なんかじゃありませんでした!」
えっ?!
あ、あれ?ユノさんって、こんな直情的な感じでしたっけ?
もっとこう、知的で物静かなイメージだった気がするのだけど。
「一人旅だというクロー君が突然居なくなり、半年も行方知れずだなんて、嫌な想像が止まりませんでしたよっ!」
あ〜……。
まぁ、普通ならそんな考えになるか。
おまけに、ボクはジンジャー領ではギルマスとキャロットさんにしか魔術が使える事を言っていなかったし。
「心配掛けて申し訳なかったです。ちょっと「北の山脈」まで行って来たんです。その途中で旅の仲間とも出会いましたし、危険なんてほとんど無かったですよ。」
「……そうだな。「ウチの」クローに心配なぞ不要だぞ。」
「……そうですね。「ウチの」クロー君には私達が付いて居ましたしね。」
おや?
ヴェロニカさんとセレナさんがボクの言葉に乗っかって来た。
……妙に「ウチの」を強調している。
「「ウチの」って……、あの、貴女方は?」
「申し遅れたな。ワタシ達はクローのパーティメンバであり、かつ──」
「その中でも私達二人はクロー君の彼女でもあります。」
ユノさんの問いかけに、ヴェロニカさんとセレナさんがノリ良く答える。
「かっ、彼女……?!」
「「……っ?!」」
あ、あれ、なんだろう?
今、ユノさんだけでなく、周囲で結構な人数が息を飲んだように感じたけど……?
「そ、そんな……。」
フラァッ……
あ、ユノさんがっ!
「おっと、危ない!……なんだ、ユノか。どったの?」
ユノさんがよろめいたのを後ろに立ったヒトが支えてくれた。
この声、聞き覚えがある。
「……おお、クロー君かい?久しぶりだね。ってか、ユノってばどうしたの、コレ?」
やっぱりフリージアさんだ!
「フリージアさん、お元気そうで何よりです。お父様も息災ですか?」
「うん、ありがとう。お父さんも元気でやってるよ。……って、あれ?クロー君にお父さんの事、話したっけ?」
「あっ、いえ、祝勝会で聞いたんです。」
「あ〜、そっか。私は行けなかったんだよね〜。」
「ユノさんは、ボクに恋人が出来たと聞いて驚いたみたいですよ。」
「……あ、あ〜……、そっか、うん。分かった、ちょっとそっちに休ませとく。」
「──?はい、分りました。」
……なんだろう?未成年に年上の恋人が出来たというのが、倫理的どうなのか、って事だろうか?
とは言え、今はまだ健全な交際しかしていないので、問題になる事は無いと思うけど。
そういえば、フリージアさんか居るという事は、あの人も……。
「ああ〜〜っ!そのクルクルの髪、やっぱりティアナちゃんじゃ!」
思ったそばから明るく元気な声が響いた。
「ひぃっ!!シルバラード伯爵令嬢様っ?!なんで此処に?!」
そちらを向かなくても、誰が来たのかは分かっていたが、やっぱりノエルさんだった。
だが、ティアナさんにとっては驚くべき事であったらしく、悲鳴が上がった。
「なんでって、団長たるもの率先して町中を見回ったりもするよ!ギルドは良く立ち寄ってるから、お友達も多いしね!」
「……団長は単に書類仕事の息抜きをしたいだけだし。」
あ、メイさんも一緒でしたか。
確かメイさんは副団長になってたはず、ギャル口調で派手目な容姿なのに真面目っぽいんだよね。
「メイっ!」
メイさんを見つけたエイプリルさんが席を立ち、まるで飼い主を見つけた犬ののように、メイさんに駆け寄って行く。
相変わらず仲が良いなぁ。
「でも、なんでこの町に居るの?北部白日騎士団はクレソンに駐屯しとったはずじゃろ?」
「あ、あの、騎士団は辞めまして……。」
ノエルさんの質問に、ティアナさんが言い難そうに答える。
「ええっ、そうなんだ?!意外じゃね。でも、クレソンのおっちゃんは評判悪いし、仕方無いかね?……で、今は冒険者をしちょるの?」
「え、ええ。良いパーティに巡り会えましたし。」
「へぇ……。」
ノエルさんの視線がティアナさんから外れ、同席しているメンバーを見渡し……。
「あっ!クロー君じゃ!」
あ、見つかった。
「良かった。元気そうじゃね──」
ん?
エイプリルさんが席を立ったせいで空いた席に座ったところで、ノエルさんが言葉を戸切る。
そして不思議そうにじっとボクを見詰めた。
「──なんか、変わったね、クロー君。」
「えっ?!」
「変わったと言うか、素になったと言うか、前より表情がハッキリした気がする。」
ああ……。
そう言えば、半年前にボクに「もっと素直にしゃべって良いんだよ」と言ってくれたのがノエルさんだったっけ。
「……そうですね。あの頃よりは素直になった気がしますよ。大切な仲間も出来ましたし。」
ボクがそう言うと、ヴェロニカさんとセレナさんが両脇からボクに伸し掛かって来た。
ボクはすぐに何処かへ飛んで行く風船か何かですか?
てか、風船なら対面に座るノエルさんの大胸筋の方がそれっぽいですけど。
「……どこを見ている?」
ヴェロニカさんがジト目で睨んできた。
……何故分かる?!
くっ、女の勘恐るべし!
「あ、いえ。相変わらずスゴいなぁ、と。」
「おっ、見惚れてくれた?」
何故かノエルさんは嬉しそうに聞いてくる。
「あ、そういうのじゃないです。例えば、際立って身長の高いヒトを見かけて、思わず注目しちゃう感じですかね?そういうヒトが好みという訳ではなくても、ついつい見ちゃうじゃないですか?異性の胸のサイズの好みについて言うならば、恋人の胸のサイズがボクの好みのサイズですよ。」
「ふ〜ん……。」
「ほぉ……。」
ボクが早口でまくし立てると、なんとか納得してくれたのか、両脇の二人の重さが軽くなった。
「あはは。まぁ、クロー君は前からあまり私の胸には興味無さそうじゃったしね。仲も良さそうで羨ましいよ。」
「おっ、なに?わたしという者がありながら、浮気しようとしてる?」
ノエルさんの発した言葉に、ユノさんの介抱から戻って来たフリージアさんが茶々を入れる。
……だよね?冗談だよね、これ?
でも、前もこの二人は怪しかったんだよなぁ。
「フリージア、しっ!人前では言わないって約束じゃろ?」
ノエルさんもそれに乗っかって、ノリノリで明らかに仄めかすような言葉を返す。
表情は笑ってるので、やはりノリなのだろう。
……たぶん。
「そう言えば、最近この町に来て、クロー君がこの町に来るまで待ってる、って言ってるヒトが居るんだけど、もう会った?」
会話の合間にフリージアさんがそう切り出してきた。
ボクの事を知ってて、会いたがっているヒト?
「……いえ、会っていないし心当たりもありません。」
「そっか〜。だいたいこの時間にはギルドに顔を出すんだけど──」
カランッ
その時、丁度ギルドの扉が開き、ヒトが入って来た。
「ほら、あのヒトだよ。話をすれば……。」
フリージアさんに促され、ボクは件の人物を見た。
──は?
えっ?……いや、あり得ない。
あのヒトの事は、前世の記憶を取り戻す前から知っているけれど、今、此処に居て良いヒトじゃないはずだ。
ボクはしばし呆然としてそのヒトを見つめていた。




