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45_落花流水

「ふぅあぁぁ〜〜っ!

……ああ、よく寝たぁ!」

ボクは宿屋で目を覚ました。


ここは帝国軍に出くわす前に泊まった宿屋だ。

どうやってここまで戻って来たかは、なんとなく覚えている。


壊滅した村を見付けたボクらは、そのまま帝国軍本体を追った。

勿論、簡単に見付ける事ができた。

そして、ひとまずボクとリックで司令部へ侵入し、あからさまに囚われていた女性七人を救出。

その際、魔術師に気付かれてしまったので、そちらはボクが各個撃破した。


ここで完全に、帝国軍に対して情けは不要と分かったため、ボクはしっかり魔力回復するために、翌朝まで休んだ。

そして起きて、司令部へ魔術をブッぱ!

その一発でアッサリ魔力切れになったボクは、そのまま夕方まで仮眠。

起きたところで、女性達をカダー王国軍に発見させ、戦場を離脱。

そのまま、直前に泊まった宿屋に逆戻りしたのだった。


「ん、起きたか、クロー?」

ヴェロニカさんの声がする。

声の方を向くと、ヴェロニカさんが椅子に座って魔導書を読んでいた。


「……おはよう、ヴェロニカさん。

魔力切れから目覚めたその場にヴェロニカさんが居るのは、これで二度目ですね。」

「ん?……ああ、ブレッド領での事か。

懐かしいな。

そして、意識はハッキリしたようだな。」

「はい。

ハッキリというか、スッキリですね。」

囚われていた女性達を帰した時は、まだフラフラだったからね。

それに比べれば、本当にスッキリした。


「……何ですか。

私の知らない話で盛り上がるなんて、拗ねますよ?」

セレナさんがコップを持って来ながら、可愛いセリフを言った。

「あ、どうも。

すっごい喉が乾いていたんですよ。」

ボクはセレナさんからコップを受け取り、中の水を一気に飲み干す。


「すまん、セレナ。

セレナに会うちょっと前の、ワタシとクローが出会ったばかりの頃の話なんだ。」

「ああ、巨大な猪を狩った時の話ですか。」

「その後、その時の冒険者がオークに襲われたのを助けに行った時だな。」


「ぷはぁっ!

染み渡りますね。

……というか、ボクはどれだけ寝てました?」

喉が潤うと、途端に心配掛けた時間がどれ程だったか気になってきた。


「昨日の夜に宿に着いて、そのまま一日寝てたな。

今は夕食の頃合いだ。

丁度良い、リック達にも声を掛けて、皆で夕食にしよう。」

「……そんなに寝てたんですか。

心配掛けてすみません。」

「なに、魔力切れを見たのは初めてじゃないしな。

それにあんな魔術を使ったんだ、それくらい負荷が高いという方が納得するさ。」

「ま、何にせよ、リック君達を呼んで話しましょう。

皆もイロイロ聞きたがってましたし。」

ボクとヴェロニカさんの会話を、セレナさんが打ち切り、そのままボクらはリック達の居る隣の部屋へ向かった。


**********


「美味しいっ!

今日のはティアナさんが作ったんですか?」

「はい。

スノウノやリックの手も借りましたけれど。」

ボクが賛辞を送ると、ティアナさんは照れたように謙遜する。


食事の用意はリック達がやってくれていたので、そちらの部屋で皆で食べる事になったのだった。


「ううん。

私達はアレコレ用意するのを手伝っただけ。

メインはほとんどティアナ一人で作った。

ねっ?」

「……っすね。

オレはホントに、横で別の事しながらチラチラ見てただけっす。」

スノウノさんとリックがそう言うなら、そうなのだろう。

三人と再会した頃と比べると、格段に上手になっている。


やっぱり冒険者は自分の食事の世話ぐらいは自分で出来なくちゃ。

ティアナさんは実家に帰ればそんな事をする必要なんて無いんだけれど、出来るからって不利になる事なんて無いしね。


「……それで、クロー様。

あの魔術についてお聞きしたいのですが。」

皆がひとしきり食べた頃、ティアナさんがそう切り出して来た。

「ああ、アレね。

……お恥ずかしながら、ボクが組んだ見栄え重視の浪漫系の魔術ですよ。」


「「……っ?!」」

ボクの解答に、皆が息を呑むのが分かった。

ただ、一人だけ驚かない人が居た。


「……やはりクローのオリジナルか。

あんな魔術、他では聞いた事が無いからな。

……相当、魔力効率悪いだろアレ?」

ヴェロニカさんだけは驚かず、ため息混じりにそう聞いてくる。


「悪いですね〜。

ホント、見栄えばっかり拘って組みましたからね。

やろうと思えば、アレより魔力消費も少なく、かつ、威力は倍以上の爆裂魔術も使えるんです。

でも、それだと「神や天使といった類いを敵に回した」感の演出が弱くて、帝国軍に精神的打撃を与えられませんからね。」

「……アレより、高威力?」

ティアナさんがか細い声で、驚いたように繰り返す。


アレこと『桜花爛漫』は、まだボクがホーンテップ領に居た頃、前世オジサンの意識が強かったボクが、前世のアニメで見た格好良い魔術のイメージを目指して組み上げた、趣味感全開の魔術だ。

パーツ毎に試した事はあるのもの、結合して発現したのは今回が初めてであった。

使ってみた感想は……。


馬鹿みたいに魔力を消費するから二度と使いたくない、だった。


途中、花びらが舞う光景は綺麗だったけど、使ってるこっちは魔術に集中しなくちゃいけないからそれどころじゃなかったし。

加えて術者の隙が大き過ぎる。

皆がフォローしてくれなかったら、あの場で矢で射られていたか、魔術を放たれて吹き飛ばされたか、使い終わった後で昏倒したところを捕まって、拷問の末殺されてたか……。

アレ一発で魔力切れになってしまうのが兎に角痛い。

結局、昨日あの後はずっとリックに担がれていたしね。

……まぁ、一回でも使える機会があっただけでも、時間を掛けて魔術を組んだ甲斐があったと思うことにする。


「……あんな長距離から司令部を狙い撃ってあの破壊力なんて、クロー君が戦争に加担したら、加担した陣営は必ず勝ってしまいますね。

数日に一度しか使えないとしても、破格の性能です。」

「すごかったニャ。」

フラウノさん、スノウノさんが素直に褒めてくれる。

でも、申し訳ないけどそれはボクにとって、あまり嬉しい言葉ではなかった。


「嫌ですよ、戦争に関わるなんて。

例え祖国のカダー王国の事であっても、ルミやカイルさん、セーム様とかに関わる事でも無ければ、基本静観しますよ、これからも。」

「え?

じゃあ今回だけ特別だったって事っすか?」

「いや、そうじゃなくってね──」

リックの言葉にちょっとズレを感じたボクは、ちゃんと説明する事にした。


**********


──ボクとしては、「戦争」は軍と軍が衝突する事だと思ってる。

その過程で民間に被害が及ぶ事もあるのも、ある程度仕方ないと考えている。

けれど、無辜の民を標的にして危害を加えるような集団は軍とは呼べない、呼びたくない。


軍とは、国家が民草の安全と、国の威信を守る為に、公的に用意した暴力組織の事だ。

だから他国とは言え、治安維持の妨害もしていない、脅威にもならない民草を手に掛けてしまったとなれば、それはもう軍とは言わない、暴徒と呼ぶのが適切だと思う。


山賊という害悪を退治しても、当人以外の誰も文句なんて言わないでしょ?

そしてその際の戦いは「戦争」とは呼ばない。

今回の事もそれと同じだと、ボクは認識している。


あれは「軍」ではなく、「暴徒」だった。

そしてそんな「暴徒」は、奴らを指揮する「煽動者」を抜けば、簡単に「烏合の衆」と化す。

まあそうなっても、流石に数が多くてボクらの手には負えないから、治安維持の専門家であるカダー王国軍に後はお願いするしかなかったけどね。


確固たる意思の元で統率された軍に、「烏合の衆」が勝てる道理は無い。

結果は、火を見るよりも明らかだったね。


**********


「──そんな訳で、ボクは今回、「暴徒」の始末を行うカダー王国軍の手助けをしただけ。

戦争になんか手を貸してないんだよ。」


「そ、そうっすか……。」

「「……。」」

ボクが語った言葉に思うところがあったのか、リック以外はしばらく口を閉ざしてしまった。


「ま、まぁ、昨日の話はこのくらいにしておきましょう。

クロー様、もう良い時間ですし、今夜のお話を──」

やがて、ティアナさんが話を変えようとしたのだけど──


ガシッ!!


ん?

な、なんか結構な勢いで肩を掴まれた?!


「──すまない。

今日はまだクローも本調子じゃないし、早めに休ませる。」

「申し訳ないですが、今日の「お話」は無し、ということでお願いします。」

ヴェロニカさんとセレナさんはそう言うと、支える様にボクを立たせた。


「えっ?あの、クロー様どこか具合が──」

「うん、分かったニャ。

片付けもやっとくから気にしなくて良いニャ。」

ティアナさんも何かおかしいと思ったのだろう、声を掛けて来た。

が、スノウノさんがティアナさんの言葉の途中で制して、話を打ち切ってしまった。


「すみません。

では、甘えちゃいますね。」

「さあ!行くぞ、クロー。」

「え、あの……。」

そのままボクは、三人用の部屋へ連れられて行くのだった。


**********


「……あの、そんなにボクの体調が悪そうに見えました?」

部屋へ戻ったボクは、二人に聞いてみる。

自覚なく体調悪そうにしていたのなら、注意したいし。


「……違うぞ、クロー。」

「具合がおかしいのは、むしろ私達の方です。」

ヴェロニカさん、セレナさんが続けざまに語る。


「えっ?!

昨日、何かあったんですか?!怪我とか?」

「そうじゃない。

……ワタシ達は変わってしまったんだよ、クロー。」

「正確には、「変えられてしまった」。

この冬の間に……。」


え……?

な、なんか二人が意味深な言い方をし始めたんですけど?!


「……年末はまだ遠慮があったのに、年が明けてからは歯止めが無くなったように求められたからな。」

「一日に何回も、それが毎日の様に……。

私達、すっかりそれに慣れてしまったんですよね……。」


ギシッ!


二人は交互に話しながら、ボクが腰掛けるベッドに、ボクを挟む形で座る。


……あ、これはまさか。


「それでも昨日まで、移動してる間は気にならなかったんだぞ?

けれど今日一日、ベッドで無邪気に眠るクローを眺めていたら……。」

「なんかこう……、どっと感情が溢れてきてしまいました。」

そう言う二人は、ボクにしなだれ掛かり、熱っぼい表情で上目遣いにボクを見詰めてくる。


Oh……


ダメだ、もう二人を止められる気がしない。

何なら別に止めたい理由も無い。

ただ……。


「あ、あの、分かりましたから、せめて体を拭かせて──」

「大丈夫だぞ、クロー。

ワタシ達なら、クローが起きる前に綺麗にしているからな。」

食い気味に言ってくるヴェロニカさんの呼吸が荒い。

もう、我慢の限界っぽい。


「そ、そうじゃなくて!

ボクが拭きたいんですよ。

ずっと寝てた訳だし。」

「心配しないで大丈夫ですよ、クロー君……。」

セレナさんは落ち着いた様子で、宥めるように言ってきた。


良かった、こちらはまだ冷静かも──


「そんな事、私もヴェロニカさんも気にしませんから。

というか、望むところですから!」


そんな訳が無かった!!

なんでそんな聖母スマイルで際どい発言するの、この聖女様?!

……あと、頷かないでヴェロニカさん!!


「クロー……。」

「クロー君……。」


ポスンッ!


ついに二人に押し倒されたボクには、もう抵抗する術は何一つ残されていなかった……。


「ア゛ーーッ!!」



**********


一方、四人部屋に残った面々。


「クロー様、大丈夫かしら……。

あんな魔術を使ったから、反動でも……?」

「ん、クローは大丈夫。

おかしなとこは無かったと私も思うニャ。

むしろ、様子がおかしかったのは、ヴェロニカとセレナの方。」

ティアナの不安な声に、スノウノが答える。


「様子が、ってそれはそれで心配じゃないです?」

聞いていたフラウノが、スノウノに再び問う。

「あの二人、やけにクローの事を目で追ってたニャ。

あれは多分、発情じゃないかニャ?

だからさっさと部屋に──」

「わーっ!!分かりました!

分かりましたから止めなさい!」

「うニャ。」

不躾な事を言い出したスノウノを、ティアナが慌てて制した。


「そういう事なら納得ですね。

……でも、それにしては隣が静かじゃないですか?」

「……多分、『防音』とか使ってると思うっすよ。」

尚も三人に言及するフラウノの疑問に、無言を貫き黙々と片付けをしていたリックが答えた。

そして言い終わると、再び会話に関わらないように片付けを再開するのだった。


「リ、リックも会話に混ざって良いのですよ?

片付けなら、後でわたくし達も手伝いますから。」

「いやあの……、そう思うなら気まずくなる話題は勘弁して欲しいっす。」

「あ……。」

ティアナの気遣いは、残念ながら空を切った。


二人の会話が不調に終わったのを確認したスノウノは、コッソリと舌を出すのだった。

「ベッ。」

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