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44_後日談(帝国軍戦)

「──と、これまでが、偵察と捕虜の帝国軍兵士との話をまとめた内容となります。」

「……何故その様に淡々と説明が出来るのだ、ソダ?」

一通り戦場の様子を語ったソダ宰相に、国王ニゴウは疑問を投げ掛けた。


ここはカダー王国、王都トロリスにそびえる王城である。

現場の始末を終えて、結果の報告に来たソダ宰相の話を、グレン副宰相を含む閣僚数名で聞いていたところである。


「何故と申されますが、こんな事を感情込めて情熱的に語る爺いの話など、聞きたいとお思いになりますか?」

「……悪かった、許せ。」

問い返されたニゴウ王は素直に己の否を認めた。


「はい。

いえ、語った内容が信じ難いものである事は、わたくしも認めます。

ですが、複数人の異なる立場の者から、全く同じ内容が語られたのです。

これが事実であると認めざるを得ないでしょう。」

ソダ宰相は、あくまで事実の報告を行っているものと答えるのだった。


「その、「白い衣の集団」の容姿は分かっているのですか?」

話を聞いていたグレン副宰相が、ソダに問い掛けた。

「ふむ、何と答えたものか……。」

「……?」

珍しく言い淀むソダに、グレンは首を傾げる。


「そうですな……、戦場に現れた推定七名については、遠目と白い衣のせいで容姿も肌の色すら分かりません。

ただ、一人だけやや小柄な者が居た事と、一人背の高めの者が居た事は分かっております。

しかし──」

「なんだ?

気になるではないか。」

言葉を区切ったソダの物言いに、ニゴウが続きを催促する。


「決戦の日。

……帝国兵をあらかた倒し、あるいは捕虜として捕らえた夕方頃、戦場の傍らでひときわ強い光が放たれたそうです。

偵察の兵士が確認しに行くと、そこには白い衣を身にまとった女性七名が、並んで眠っていたと言います。」

「七名の、女性?」

ニゴウがオウム返す言葉をソダは肯定する。

「はい、全員女性です。

目を覚ました後に確認すると、彼女達は北部の村々で強制徴用された村娘達とのことでした。

……まあ、酷い扱いをされていた様です。

しかし、彼女達は決戦の日の前夜から以降の記憶は無かったようです。

そして、目を覚ました時には、生傷だらけだったと云うの身体もほぼ完治していたとか。」


「「……。」」

ソダの説明を聞き、その場の皆が絶句してしまう。


「……つまり、その女性達に御使い様が宿り、帝国軍の司令官周りを吹き飛ばし、役目を終えた後にその身が浄化され還された、と?」

男共が絶句する中、この場で唯一の女性である王妃イリスが、七人の村娘に起こった事象を推察してみせた。


「出来事をそのまま解釈するとそうなるかと存じます。

と言いますか、そのように喧伝した方が、国内向けにも今回の戦いに箔が付きますし、国外向けには良い牽制となるでしょう。

我が国に攻め込めば神罰が下る、とね。

なので、その通り有効活用させていただくつもりです。

彼女らは、わたくしがこちらに戻る際に同行させ、現在はゾマ教本部に預けております。」

「……その言い方では、今回の件に他に解釈の余地がある、と言ってるように聞こえますが?」

ソダの言い様にイリスは違和感を覚え、問い質す。


「……他の解釈については、むしろイリス様の方がお詳しいのでは?」

「どういう意味だ?

イリス、お前また私に隠し事でもしておるのか?」

ソダがイリスに問い返す言葉を耳にしたニゴウは、前科の多い妻に言葉を向けた。


女性として貴族社会を生き抜き、王妃の座に就いたイリスである、夫の知らない情報網をいくつか持っている。

しかし、そこで知り得た情報のうち、夫に知らせるものを選別するのは、別に意地悪からではない。

ただでさえ国王という重責を担っている夫に、無用な手間や心労を掛けさせないための、それはイリスなりの優しさであった。


一方、イリスが個人的な趣味・趣向から集めている情報もあり、そういったものは基本的に国王を含めた他者に伝えるものではないと考えていた。

そんな情報の一つが、クローとその仲間達の動向である。

元々が趣味の一環で集めた情報であったので、イリスは国王ニゴウに伝える意識が無かった。

しかし最近、その情報が国政等に関わってしまう事態が発生し、結果、国王には後出しで伝える形になってしまった事を、ニゴウは「また隠し事」と称していたのであった。


「ええと、私が特に気に入っている冒険者パーティが、ほぼ同時期に戦場となった地域を通過したらしい、という事は聞き及んでいます。

その事でしょうか、ソダ殿?」

「「──っ?!」」

流石にこの場で名を出すのはマズいと思ったのか、イリスは敢えて名前は伏せたのだが、ニゴウとグレンはクローとその仲間達の事であるとすぐに思い至った。


「そうです。

確か、その者達はニグラウス領の騒動の際にも暗躍しておったとか。

しかも、半年前には北東部の方で「御使い様」とされた目撃例もあると聞き及んでおります。

人数も丁度七名、偶然にしては出来過ぎではありませんか?」

「……安易に神の御業と考える事を良しとしないのであれば、その線が有り得るかも知れませんわね。

敵方に捕らえられた者を身代わりにして、その娘さん達が今後、手厚く保護されるように取り計らうというのも、私の知る人物が考えそうではあります。」

ソダの考えを、イリスも肯定する。


「ふむ。

……まったく、惜しいことをしたものですなぁ。

彼ら程の者達であれば、国内に留まって貰うだけで、今後も国にとって有益な働きをしてくれたでしょうに。」

「ぐぅっ……。」

ソダの皮肉に、クローが再び国を出る原因の一つとなったグレン副宰相から、ぐぅの音が上がった。


「ソダ殿も彼らのことを知ってたのですか?」

グレンがこの件で気に病んでいる事を知っているイリスは、援護の意味合いも含みソダに質問した。

「わたくしは、直接はそのパーティの内一人の少年を、一昨年の剣術大会で、陛下の隣で見ただけですがね。

ああ、一言、二言、言葉は交わしましたな。

……あの時、彼は陛下から直接士官の話をいただいたのに、それを蹴った。

それだけで彼に名誉欲や出世欲が無い事は分かりました。

ならば、それ以外の方法で望めば良いものを、とは思いましたがね。

……後からアレコレと言っても、詮無き事ですが。」

どうやらソダも、一昨年の剣術大会優勝者ロープとクローが同一人物である事は知っているようであった。


「……話が逸れましたな。

わたくしが言いたいのは、今回のような奇跡が次も訪れるという期待は持てない、という事です。

下々の者達向けにはいくら話を盛って伝えてもよろしい。

しかし、我々のような政を行なう側の者は、次に同じ事が起こらぬよう内政と外交努力を行ってゆかなくてはならぬのです。」

今後も安直に奇跡に頼る事の無いようにと、ソダはこの場に居る者に釘を刺すのだった。


「うむ、その通りだ。

この話は、この場ではここまでにしておこう。

ソダ、続いて北部の戦後処理の見通しについて聞かせてくれ。」

ニゴウはソダの言葉を肯定する。

それと同時に、七人の御使いについては一旦打ち切って、戦争の後始末の話をするようにゾダを促した。


「はい。

北部で帝国軍が通過した村々はことごとく壊滅。

これは帝国軍捕虜を用いて復興させてゆく予定です。

捕虜にした一部、貴族家出身の者については、身代金の交渉を行います。

また、追撃を行う過程で、帝国との係争地を大きく取り込みました。

これにより、我々が奪取した係争地と、コラペ王国シルバラード領に挟まれた帝国領地も、近々、統治者が逃げ出すものと思われます。

ただ、帝国南部と相対する国がカダー王国だけになるのは我らの負担が大きい。

そのため、この領地はコラペ側に統治を委託する交渉を行います。」

「うむ。

領地に関しては宰相の判断に任せる。

しかし……、壊滅したという村の被害はどんなものなのだ?」

「被害に遭った村は八つ。

生き残った村民もおりますが、合わせて二百近い人命を失ったものかと。」


それを聞いたニゴウは、沈痛な面持ちで手元の書類を見下ろす。

「……立場的には、その程度で済んだ、勝ち戦であったと喜ばねばならんのかな、私は。」


ニゴウの言う通り、国民全体から見れば二百という数は取るに足らない数である。

そしてニゴウは国王として、国民全体を向いて政を行ってゆく立場にある。


「陛下、お言葉ながら……。

例えば「勇敢」とは、「無謀」なことでも、「臆病」なことでもありません。

「無謀」と「臆病」の狭間のどこか、均等の取れた境地い至った者こそが「勇敢」と讃えられるのです。」


「ん?……ん、まぁ、そうだな?」

ソダが思わぬ事を言ったため、ニゴウは思わず顔を上げ、ニゴウに目線を向けて答えた。


「今の陛下のお気持ちも同様です。

「無慈悲」ならば犠牲者を悼む気持ちは持たないでしょう。

逆に「繊細過ぎ」れば、悲しみに暮れ、国政さえ手に付かない有り様となるでしょう。

どちらに傾き過ぎても、そのような者を王の器とは、わたくしは思いません。

どちらにも偏ることなく、国務と向き合おうとするそのご姿勢こそが、国王としての理想に最も近いお姿であると、わたくしは確信いたします。」

「……っ!」

ソダの云わんとする意図を理解し、ニゴウはハッと目の覚める思いがした。


「それは、永く国政に携わり、人を悼む気持ちも摩耗してしまった私には至れぬ境地と云えます。

陛下に於かれましては、どうかその気持ちをお忘れなく持ち続けていたたけますよう、お願い申し上げます。

それで御心がご疲弊あそばされるようならば、その負担は我ら臣下が肩代わり致しましょう。

その為にこそ、我等は居るのです。

其の事、御心置きいただきたく……。」

ふと見れば、ソダだけでなく、グレンを含めたこの場の全員が、真剣な眼差しで自分を見ている事に、ニゴウは気付いた。


「そうだな……。

ソダよ、そして皆も、この国難に共に立ち向かってくれる事に感謝する。

大事は済んだのだ、後は後始末のみ。

もう少しだけ私に力を貸して欲しい。」

「「はっ!!」」

ニゴウの言葉に、この場に集う誰もがハッキリと力強い返事を返した。


ニゴウが国王に即位してから十年以上が経過している。

それ以前から、イリスは妻としてニゴウの傍らで彼を支えていた。

即位当初のぎこちない様子もあった夫が、今では国王として毅然とした振る舞いが出来ている事に、イリスは心の中で感動していた。


これまで辛い出来事もあったが、ニゴウが居たから耐えられたと思う事も多々ある。

それに報いる為、これから先も、妻として王妃としてニゴウを支え続けようと、イリスは改めて思うのだった。


**********


結局、昨年の秋からこの春に掛けて、カダー王国の公式な文書にクローの名が載る事は無かった。

クローの名がカダー王国の記録に現れるのは、もう少し先の事となる。


しかし少なくともこの時点で、クローの名は国王、王妃、宰相、副宰相といった、国の最重要人物の脳裏に刻まれていたのは確かであった。

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