33_振り返り
「はいっ!今日は王都であった事とかの、振り返りを行うことにします!」
皆が集まると、クローはそう宣言したニャ。
「ええと、一連の事について、各自が持ってる情報を持ち寄って、情報共有と総括を行う、という事で合ってますか?」
「はい、その通りです。」
クローのセリフにフラウノが補足して尋ねると、クローはそれを肯定したニャ。
私はスノウノ、ティアナ様の忠実な従者。
……忠実、はちょっと嘘かニャ?
言いつけをそのままにはやらない事もあるから。
でも私なりに、心から敬愛しているニャ。
今は夕方、昨夜のルミさんの出産騒ぎの余韻で、みんなゆっくり休んでやっとこの時間に集まったニャ。
昨夜はバタバタしたニャ。
それでも私とティアナ様とフラウノはまだましな方だった。
ナタリーさん、ヴェロニカ、セレナはもっと大変そうだったニャ。
何よりルミさん、ずっと唸り声が聞こえてすごく心配になったニャ。
……っと、いけないいけない。
まだ、ボーッとしてる?語尾に「ニャ」が付いてる。
気を抜くと無意識につけちゃう、この国に居る間は付けない事に馴れないと。
「──え〜、まず第一に、先日はボクの我儘に付き合わせ、危険な目に合わせてしまって申し訳ありません。」
初っ端、クローが頭を下げた。
「まぁ、我々は……。」
「今更だし、クロー君に付いて行かない理由もないですしね。」
「っすよ!」
それに対してヴェロニカ、セレナ、リックは、付いて行くのが当然といった調子で返した。
「クロー様、頭を上げて下さいまし。
わたくし達も協力したいと思って付いて行ったのです。
頭を下げていだくた理由なんてありませんわ。」
続くティアナ様の言葉に、私とフラウノは黙って頷いた。
「……はい、ありがとうございます。
でも、今このパーティの主導権は何となくボクが握っている状況なのです。
だから、皆を巻き込んでしまった事、反省はします。
皆も、反対意見は出してもらって全然構わないですし、危険なクエストなら一時離脱する選択肢も考慮に入れて下さいね。」
「承知しましたわ。」
「はい。」
「うん。」
クローのセリフに言葉を返したのは、ティアナ様、フラウノ、私の三人だけだった。
ヴェロニカ、セレナ、リックは何も言わずクローを見ていた。
「──さて、ここからが本題です。
ニグラウス領での話になりますが、この一件で一番不可解だったのが、あのエルフが何故ヴェロニカさんの秘密を知っていたのか?という点です。
これについて、皆の意見を聞きたいです。
と、その前に、ボクが知ってる限りの、関連情報を説明して行きますね。」
そう言うとクローは、自分が体験した事を、取り出した小さめなボードに書き出しながら、順に語っていった。
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1.一昨年の剣術大会
ここでボクは間違って優勝してるのですが、三貴族側はその事を知ってます。
2.その直後マフィア襲撃
この際、ボクは『闇纏い』を使った姿を、捕らえられてたヒト達に見られています。
ただ、暗い部屋だったので、多分、黒装束と認識されてとた思います。
3.三貴族当主襲撃
この時は、三貴族の当主達の前に、『闇纏い』を使った姿で現れてます。
「ベグナルド」を名乗ったのは、この時しかありません。
4.ジンジャー領の騒動
この時は、『闇纏い』を使った姿を魔王教徒と白日騎士団の面々に見られています。
※この後、ヴェロニカさん、セレナさん、リックと順に出会って、「北の山脈」まで行きます。
5.ハンデスの町
「北の山脈」からの復路。
ここでヴェロニカさんが誘拐されてしまい、『闇纏い』の姿でエルフの里からの刺客と思しきエルフ二人を強襲しました。
この二人には、痛手は負わせたものの、逃げられてます。
6.コラペ王国式典
ここに居る皆は知ってる騒動ですね。
この時も、ボクは『闇纏い』を使って、その姿を魔王教徒に目撃されてます。
7.ニグラウス領での内乱
つい先日の出来事です。
ボクとリックが『闇纏い』を使って、大勢の兵士達に目撃されてます。
この時、ボクらを「ベグナルド」と呼ぶ、魔王教徒の魔術師に襲われました。
補足
ボクが『闇纏い』を使った姿を「ベグナルド」と呼ぶ事にします。
上記のいずれの場合も、「ベグナルド」=「クロー」とはバレてはいない筈です。
ただ、ジンジャー領の白日騎士団の一部や、副宰相グレン様は何か勘付いてるかも知れません。
**********
「──とまぁ、こんな所ですかね?」
クローの説明が終わった。
「……こうして改めて、まとめられるとすごいな。」
「去年の春から秋にかけた半年の間にあった事なんですよね、これ?」
ヴェロニカ、セレナが呆れたようにつぶやく。
「ずっとエルフに後をつけられていた、という事は考えられませんか?」
ティアナ様が挙手してクローに疑問を投げた。
「それなら、他にももっと機会があった筈です。
ニグラウス領でも、それこそボクやリックを無視してでもヴェロニカさんを確保したかったでしょう。
ところが話を聞く感じ、ヴェロニカさんを見つけたのは偶然のようだった。
ずっと尾行されていたにしては、反応が変ですよ。」
「確かにそうですわね。」
クローの説明にティアナ様が頷いた。
クローの言う通り、コラペの王都から此処に来るまでとか、此処に来てからとか、尾行されていたなら他にチャンスはあった筈。
じっ……。
私はクローのボードをじっと見てみた。
……なんか、何かが気になる。
「それにしても、よくもまぁ「魔王教」絡みの事にばかりぶち当たりましたね。」
「そうなんですよね。改めて見返すと、偶然とは信じてもらえないくらい遭遇してますね。」
フラウノの言葉に、クローも同調した。
……っ?!あ、何かピンと来たかも!
確かにクローにとっては、本当に偶然なのだろう。
だけど、これって──
「本当に偶然と思われてないんじゃない?」
「えっ?!」
私の発言にクローが驚く。
「……ジンジャー領の一件から、ヴェロニカに会うまでって、どれくらい?」
「え?……えっと、二週間くらいですかね?」
「エルフの里の諜報能力がどのくらいか分からないけど、それだけ近くに居たなら、ジンジャー領の時からヴェロニカと「ベグナルド」が一緒に居たと思われてても、おかしくない。」
「「──っ?!」」
私が放った言葉に、皆が息を呑んだ。
「……そうか、言われてみれば確かに、そう誤解されても不思議じゃない。」
「ジンジャーでヴェロニカが居た状況で「ベグナルド」が現れた。
ハンデスの町でも、ヴェロニカが拐われて「ベグナルド」が現れた。
コラペ王都ゴスンでも、ヴェロニカが居る時期に「ベグナルド」が現れた。
だから今回も、ヴェロニカと「ベグナルド」がセットだと思われて、「ベグナルド」の近くに居たエルフが、「紅の魔王」の継承者ヴェロニカだとバレたんだと思う。」
「……。」
クローは私の予想が的を射てると思ったのだろう、言葉を無くしてる。
「いっそ、「紅の魔王」の継承者が出す魔術兵が「ベグナルド」だと思われててもおかしくありませんね、これ。」
沈黙を破るように、セレナが口を開いた。
「ああ、そうか。エルフの里の連中も魔術兵がどんなものか、具体的には知らない可能性もあるのか。
そりゃあ、「クラゲ」より「ベグナルド」の方が魔術兵っぽいよな。」
セレナの言う事に、ヴェロニカも納得したよう。
……その「クラゲ」っての、まだ見た事ないから、ちょっと気になる。
「……なるほど、相手の視点で考えるのは、なかなか難しいですね。
でも、お陰で疑問もある程度、解消できた気がします。」
クローも割と鋭いし、ヒトから見た視点を意識できる方だと思うけど、自分が体験した事だと、どうしても主観が入っちゃうから。
「あの、クロー。」
「ん?なに、リック?」
「……ニグラウス領でエルフの里のヒト、あの美人エルフにヴェロニカさんの居場所がバレた訳っすけど、此処とか襲撃されないっすかね?」
「う〜ん……。
それは、すぐには来ないと思うよ。
きっと、里の方に判断を仰ぐだろうし、その里はリプロノでも北西の方にあるらしいから。
きっと、遣り取りをするのでさえ、月単位の時間が掛かる。
それに加えて、ヒトを集めたりしていたら、準備が出来る頃にはボクらは此処から居なくなってるよ。
そんな状態で意味も無く暴れれば、エルフ全体の評価が落ちて、エルフの里は同族から恨まれてしまう。
そんな馬鹿な事は、流石にしないんじゃないかな。
……多分ね。」
うん。
リックはこのローエンタール領の皆が、巻き添えで被害を被るのを気にしてるみたい。
だけど、クローの言う通り、私達が……、というかヴェロニカが居なくなっていれば、そんな馬鹿な事はしないと思う。
「……となると、やはり当初の予定通り、春には此処を発たなくてはな。」
ヴェロニカがちょっと残念そうに言った。
「そう言えば、その後の行き先は決めているんですの?」
それを受けて、ティアナ様がクローに訪ねた。
……酷いことを言うと、ヴェロニカさえ居なくなれば此処は安全だと思うから、ティアナ様は此処に残っても良いのに、ごく自然に付いて行く考えになってるみたい。
「また、コラペに行くか?でも、あちらの方が「魔王教」が活発だしなぁ……。」
「いっそ、東の荒野を突っ切って、行ける所まで行ってみましょうか?」
ヴェロニカとセレナの方は、一緒に行動する以外の思考は無いっぽい。
あれこれと行き先を考えてる。
「いえ、それじゃあ、結局、逃げ回るだけです。
確かに旅先としては面白いかもですが、逃げ回りながらじゃ楽しめませんよ。
だからボクは、いっそ攻めに転じたいと思います。」
「えっ?!攻めって……、どこを?」
クローの発言に驚いたフラウノが聞き返す。
「エルフの里の方は、正直、まだ実力が足りません。
攻め入るのは無理です。
でも、人族が中心となってる「魔王教」の本部を叩く事は出来るんじゃないかと考えてます。」
え、まさか……。
「ボクはこの先、帝国に向かって、「魔王教」本部を見つけ出し、叩くつもりです。
エルフの里も、便利な手足として使っている「魔王教」が無くなれば、身動きが取れなくなるでしょう。
里と言うくらいなのですから、裂ける人手は多くない筈ですから。」
やっぱり帝国に行くつもりニャ、クローってば!
「……ですが、これはボク、ヴェロニカさん、セレナさんの未来のためにする事です。
つまりは、またボクの我儘です。
他の皆を、ボクの我儘に付き合わせるつもりは──」
「水臭いっすよ、クロー!
クローもヴェロニカさんもセレナさんも、オレの大切な仲間っす!
正直、家族とも思ってるんす。
それを見捨てるなんて、あり得ねーっすよ!
当然、オレも付いて行くっす!」
「……やれやれ。リックはそう言うと思ったよ。」
リックが熱く語る言葉に、クローは呆れるように、安心するように肩をすくませた。
「わたくしも行きます。」
「えっ?ティアナ様?」
続けて放たれたティアナ様の言葉に、フラウノは驚いた。
でも私は、なんとなくそう言うと思ってた。
「大恩あるセレナさんとクロー様のためなら、何処までもお供いたします。
それに──」
ティアナ様は一瞬だけリックを見た。
「……?」
リックはそれに気付かずに、言葉を切ったティアナ様を不思議そうに見ている。
あー……。
なにこの流れ?
なんかムカムカするニャ!
「ティアナ様が行くなら、私も行くニャ!
帝国だろうが、「魔獣の森」たろうが、地の果てまでだって付いて行くニャ!」
私は雰囲気をかき消すように、そう力強く宣言した。
「そうなると、私だけ残るとか言えなくないですか?……いえ、ティアナ様に付いて行くつもりなのは、私も同じなんですが。」
フラウノも、やれやれといった雰囲気で、同行する旨を語った。
結局、私達七人はクローの言った目標のため、帝国に向かう事になった。
ぶっちゃけ、帝国がどんな所か、不安もあるけど、楽しみな気持ちもある。
……え?
ヴェロニカとセレナ?
そんなの、クローの隣りでただ穏やかに微笑んでいたニャ。
あの二人は、クローと離れるつもりなんて、微塵もなさそうだったニャ。




