24_ニグラウス領へ
「良かったのですか?セシルさんへフォロー無くて。」
「うんっ!仕方ないかなって。ゴチャゴチャ説得されても考えを変える気は無いですし。」
セレナさんの問いにキッパリと返答する。
声が大きくなっているのは、感情の現れではなく、単純に大声でないとお互いに聞こえないからだ。
昨日、あのあとクトーガー伯爵邸をすぐにお暇したボクらは、宿屋で一晩を明かし、ニグラウス領へ向けて経った。
王都からやや南西の方向の街道沿いを、現在、『重力制御』を使用して移動している。
ボク、ヴェロニカさん、セレナさんはまだ移動中も話す余裕があるけれど、ティアナさん達三人は付いて来るのがやっとのようだ。
もちろん、彼女らに合わせてスピードは抑えている。
殿にはリックに居てもらい、三人に異変が有れば伝えてくれる事になっている。
ニグラウス領までは、普通に歩いて三日と言われているので、朝からこのまま休み休み行っても、夕方には着けるかも知れない。
ルミの出産予定日まで、もう日がない。
さっさと片付けて、出来る事ならルミの近くで出産を見届けたい。
(ボクが出産に立ち会うのは違うと思うので、する気は無いけれど。)
「しかし、行ったとしてどうするつもりだ?たかだか七人の加勢なんて、焼け石に水だろ?」
ヴェロニカさんが移動しながら聞いてくる。
「一応、考えてはいます。当然、兵士と戦う気なんて、欠片も無いですよ。でも、ボクとヴェロニカさんなら、違う加勢の仕方があるでしょう?」
「あぁ……、まぁ、そうだな。」
ボクの答えに、ヴェロニカさんは何となく察したのか、曖昧に応えた。
「私も付いて来て良かったのでしょうか?」
「セレナさんも十分助けになりますよ。ヴェロニカさんが全力を出すなら、それをフォローするヒトが必要になりますから。」
「そうだな。それに最近、ワタシは自分が小心者だと気付いたんだ。クローが別行動する事があっても、セレナが一緒に居てくれるなら安心できる。」
荒事となればどうしても戦力外となるセレナさんが不安を口にする。
そんなセレナさんに、ボクもヴェロニカさんも口々にセレナさんの必要性を説くのだった。
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「止まって!皆、地上に降りて!」
夕方近くになって、ボクはあるものを見つけ、皆に指示を出した。
「……どうしたんですの?」
ティアナさんがボクの指示の理由を聞いてきた。
「この先に道を塞ぐように兵士が居ます。多分、三貴族側の領軍です。」
「「──っ!!」」
ボクの言葉で皆に緊張が走るのを感じた。
「ちょっと、様子を見てきますね。」
周囲を警戒して、特段危険の無いことを確認したボクは、一人で様子を確認に向かう。
遠巻きに見ると、セシルさんの言っていたように、街道を完全に封鎖するように兵士が待機していた。
朝に遠目でチラッとだけ見えた国王軍とは全体的な色合いが違う。
装備についても、国王軍に比べるとやや統一感の無い感じ。
それでこの時期にこの辺りに展開しているのだから、まず三貴族側の領軍に違いあるまい。
その兵士達は確かに街道沿いを塞いでいるのだが、道を外れれば簡単にその包囲網を掻い潜れそうだ。
ボクはついでに思い切りジャンプして、鳥の飛ぶ高さまで上昇した。
見下ろすと、ずっと先に水に囲まれた区域が見えた。
あれがニグラウス領の領都なのだろう。
位置関係を大まかに把握してから、ボクは皆の元に戻った。
「どうだったっすか?」
ボクが戻ると、まずリックが尋ねてきた。
「聞いた通りの状況だね。この先の道は三貴族の兵士に封鎖されている。けど、そこに力を注いでもいられないのだろうね。道を外れて迂回すれば、ニグラウス領都へも辿り着けそうだ。」
「では、このまま向かいますか?」
ボクがそう言うと、フラウノさんがこの後の行動を尋ねてきた。
「いや、今日はこの近くの町か村で休もう。朝から移動しっぱなしで、皆疲れているし。そんな状態では、それこそ何も出来ないよ。」
ちょうど直前に村があった筈だ、あそこで休ませてもらおう。
「そんなにゆっくりしていて大丈夫ですの?」
今度はティアナさんが聞いてきた。
「大丈夫。一日二日の遅れは仕方ないよ。どの道、国王軍という後ろ盾が無いと、ボクらだけではどうしようもないからね。」
「そう、ですわね……。」
この日、ボクらはこの近くの村の一画で野宿をさせてもらった。
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翌朝。
「さあ!今日はまず、ニグラウス領に入って隠密行動です。現状把握に努めますよ!そして、早めに切り上げて、適当な場所で休んだ後、明日の明け方前が本番です。」
ボクは起き抜けの皆にそう説明した。
「隠密……、昨日の移動とは違うの?」
スノウノさんが真っ先に質問してきた。
「そうですね。基本的には『重力制御』より、『空間把握』を多用する事になります。水攻めとなっている区域の周囲に展開している領軍を避けながら、状況を把握していきます。当然ながら、バレては元も子もないですから。」
「ん、分かった。」
「基本、ボクが周囲を探って皆に指示します。ただ、皆も可能なら周囲を探って下さい。ボクだって完璧な訳ではないですから。あとヴェロニカさんは、どちらかというと『魔力感知』を使用して、魔術系の警戒をしてもらえますか?」
「ああ、承知した。」
ヴェロニカさんは了解してくれた。
魔力系の感知能力では、エルフに敵う種族は居ないからね。
「まぁ、三貴族側に魔術師が居ないのでなければ、あまり意味は無いかもですけど。でも、軍にも魔術師は居るかもですし、魔物と遭遇する可能性もありますからね。」
「そういえば、魔物に遭ったらどうします?」
フラウノさんが聞いてくる。
領都の周りは基本的に森だ、魔物に遭遇する可能性は低くはない。
「逃げます。幸い近くに兵士がたくさんいるのですから、彼等に擦り付けましょう。」
「分りました。」
普段なら、余程の数か強さの魔物でない限り自力で倒すのだけど、今はそんな事をしている余裕はない。
兵士さんに本来の役目を果たしてもらおう。
「じゃあ、行きましょうか!何より、自分達の安全を最優先で!」
「「はいっ!!」」
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この日、ボクらは三貴族の領軍の警戒網を掻い潜りながら、ニグラウス領の周囲を一周してみた。
そして、軍が展開している陣形、「水攻め」の要となる即席ダムの様子等を見て回る。
大まかな状況を確認した後は、土魔術で簡易的な穴を掘り、その中で夜明けまで隠れ休む事にした。
そして空が白み始める前に、行動を起こすのだった。




