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23_副宰相の手紙

──クロー君、君がこの手紙を読んでいるという事は、君が今回の事態を訝しみ、行動を控える選択をしたか、またはその主旨の発言をしたという事だろう。

リスクを考えればその判断は間違いではないし、妥当なものと言える。


なので、君の判断材料を増やすため、あるいは私の助かる可能性を僅かでも上げるため、今回の事態について私の知り得る範囲で伝えようと思う。


事の発端は、昨年のセーム様襲撃事件以降に監視を強めていた例の三貴族が、怪しい者達と接触している事が発覚した事だった。

調べたところ、相手は帝国の関係者である事が分かった。


これとは別に、ソダ宰相様からも、国境付近の帝国側に不穏な動きがある事が伝えられていた。

その他諸々を勘案し、私は三貴族の一連の行動は、私を亡きものとし帝国に寝返るためのものだと推測した。

この手紙を君が手にしているという事は、私の推測が残念ながら的中してしまったという事だろう。


となれば、私がまず考えるべき事は、彼らがどうやって私を害しようとしているかについてだ。

ハッキリ言ってしまえば、手段など無数にある。

その全てに応対するなど不可能だ。

また、何も具体的な行動をする前に三貴族を処分する事も、これも私の権限では不可能だ。


だからと言って、むざむざ害されるのを無策で待つ訳にもいかない。

こちらも分不相応ながら副宰相という立場を賜わっている。

そんな私が突然害されれば、動揺が広がり、国政は混乱し、それこそ彼等と帝国の思う壺だ。


そこで、対策として彼等にワザと隙を見せる事にした。

具体的には、前に君から聞いた「水攻め」の策、あれの警戒を解いた。

すると彼等は、しめしめと一度失敗した策に再び手を出し始めた。

こうなれば、いつどの様にこちらに手出ししてくるか、おおよそのあたりが付けられる。

後はタイミング良く私が手薄になって見せるだけで、彼等を誘い出せるだろう。


帝国も冬場に敵地に攻め込む愚は犯すまい、動くのは春先以降になる筈だ。

三貴族はそれまでに結果を出さねばならない状況で、彼等も後がない。

こちらの誘いには確実に乗ってくるだろう。


こちらも手は打ってある。

事前に国王軍の一部を出して貰う手筈は付けてある。

私は三貴族の攻めにしばし耐え、彼等に賛同する貴族が無いか見届けた後に、国王軍と内外からの挟み撃ちにしてやる作戦である。

勿論、春先に帝国の侵攻があるまでには片を付けるつもりだ。


さて、そこでクロー君への話と移る。

今、君がこの状況で何らかの活躍をしてくれたのならば、国として君の事を非常に評価し易い状況だと言える。

君の指名手配も取り下げる事が出来るし、事と次第なよれば、私を始めこの国の要職に付く者の元に士官する事も出来るだろう。


これは私見だが、君のような才気ある若者が不当に在野に置かれ、その才覚を発揮する機会が無いというのは、この国にとって宝の持ち腐れだ。

なので君には是非、この件に積極的に関わってもらいたい。

別途、情報屋経由でもこの話を届けていたのだが、もう届いているだろうか?


どうか君がこの件で目覚ましい活躍を遂げ、君の罪を晴らし、晴れてこの国で今後とも腕を振るってゆけるようになる事を願っている。


グレン・ニグラウス


==========


「アホかぁーーっ!!!」

読み終えたボクは、思わずそう叫んでいた。


「ク、クロー?どうした?」

「クロー君……?」

ボクの様子を見て心配になったのだろう、ヴェロニカさんとセレナさんが声を掛けてくれた。

見れば二人だけでなく、リックやティアナさん達も不安そうな顔でこちらを見ている。

う……、その顔を見ると罪悪感が湧く。


はぁ……、一旦、落ち着こう。


「……セシルさん?」

「は、はい、何でしょう?」

「ジンジャーの町で、ボクは国政に関わるような仕事に就く気は無いと、ハッキリ言いましたよねぇ?」

「えっ?ええ、もちろん、そうお聞きしましたし、グレン様にもそうお伝えしました。」

「じゃあ、なんでボクに活躍の機会を与えようとか、士官先がどうとかが書かれてあるんですか、これに?!」

「い、いえ、確かにお伝えはしましたよ。けれどグレン様は伯爵家の生まれで、根本から貴族の価値観が染み付いてらっしゃいます。貴族家に生まれたなら、家に仕え、国に奉仕するのが最高の誉れである、とのお考えなのかと存じます。」

「……そうか、根本的に価値観がかけ離れてるのか。」


ボクはセシルさんの見立てを聞き、酷く納得してしまった。

同時に、この先いくらボクが言葉を尽くしても、副宰相様はただボクが謙遜しているだけだと解釈してしまう、というようなビジョンしか見えず、脱力してしまった。


例えこの件に関わり、全て終わった後で士官をお断りしても、副宰相様はその事を無かったものとして、また士官の話を持って来るのだろう。

そんな未来を想像できてしまい、辟易としてしまう。

この先、ボクがカダー国内に居続ける限り、副宰相様にそんなアプローチをされ続けるのだろうか……?


……。


「……分りました。ニグラウス領へ行って、やれるだけの事はしましょう。」

「本当ですか?!ありがとうごさ──」

「ただし、副宰相様とはお会いする気はありません!ボクが行くのはあくまで、そんな貴族同士のいざこざに巻き込まれて苦しんでいる領民の方達を助けるためです!」

セシルさんの言葉に被せるように、ボクは牽制のつもりで喋った。


「は?領民?」

「そうです。冬のこんな時期に周囲を水と兵士に囲まれて、何処にも逃げられないという、心細い状況に置かれているニグラウス領の領民を、いち早く開放してあげるためです。」


副宰相様の領は流通の要所と聞いている。

それならば、冬の間の備蓄は十分だろう。

まぁ、その品を売り抜けようと考えていた商人達は大損しそうだが。

それ以上に可哀想なのが、何の落ち度もないのに町を包囲され、恐怖を味わっているであろう領民の方達だ。

中には子供や老人も居るだろう。

そんな人々が訳も分からず耐え凌ぐ日々を過ごしていると思うと、居たたまれない。


「いや、しかし……。」

「大丈夫です。副宰相様の作戦の邪魔はしませんよ。……国王軍はもう動くのでしょう?」

「はい。副宰相様がニグラウス領にお戻りになってそろそろ半月が経ちます。国王軍もそろそろ動き出すものかと。」


「……今思ったのですが、「水攻め」ってかなりの長期間包囲する事を前提にした作戦ですよね?何故、三貴族はそんな作戦を選んだんでしょう?春先までなんて、もう間が無いのでは?」

「本来は仰る通りなのですが、土地柄、周囲全てが水没する訳ではないのです。そんな僅かな道から断続的に急襲や火を掛ける等のハラスメント行為を続ければ、春先辺りには副宰相様側が疲弊して折れるとの読みなのだと思われます。」

「え……。」

「まぁ最悪、三貴族は帝国の侵攻のある春先までその状況を維持できればそれで良いのです。それで十分に「ガダー王国側を混乱させる」事に成功したと言えるのですから。彼らの領は副宰相様の領の隣りであるため、兵站の心配は無用ですしね。」


「……ちょっとちょっと、断続的に兵士が攻めて来たり、火を放たれるのが織り込み済みって……、それってつまり、兵士でない領民に犠牲が出る事も織り込み済み、って事じゃないですか!」

「「……っ?!」」

ボクの指摘に皆が息を呑んだ。


「は……、あ、いや、しかし、この国が帝国の侵略を防ぐため、最小限の犠牲というものはどうしてもやむを得ないものなのですよ。」

やむを得ない犠牲、か……。

前世オジサンの世界では、「コラテラル・ダメージ」とか呼ばれてたっけ……。

やはり戦争のある世界では、普通に存在する概念のようだ。

「……そうですか。そういう風に、副宰相様もお考えなんですね。確かに、貴族でありながら、自ら釣り餌という危険な立場に立って、その「やむを得ない犠牲」の中に含める差配ができる所は尊敬に値します。それでも多数の民衆に犠牲を出す案なんて、賛同できません。」

「クロー様……。」

セシルさんもそれ以上、説得の言葉が出てこないようで、黙ってしまった。


「セシルさん、副宰相様に今度会ったら伝えて下さい。ボクは、この件が片付いたら、春先にはこの国を出ます、と。」

「「えぇ〜〜っ?!」」

ボクの宣言に、セシルさんだけでなく、この場に居る皆が驚きの声を上げた。

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