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21_情報屋(後編)

「いやいやいやいや!!えっ?普通に大問題じゃないですか?!そんな話をなんでボク個人に伝えようとするんですか?!」

「さあな。意図までは知らねぇし、興味も無い。……てか、興味云々でやってたら、命がいくつあっても足りねぇからな、この仕事。」

「そりゃそうでしょうけど……。」

そんな事を伝えられたボクはどうすれば良いやら。


「まぁ、下手に騒げば混乱が生じ兼ねない話だ。ある程度、伝えるヒトを絞るのは間違いじゃねぇだろ?」

「それはまぁ、確かに。でも、それにしたって、ボクから関係する貴族家にでも伝えろとでも言うのですか?」

「そうしたって構わないが、事が事なだけに、そっちは王宮からも話は行くだろう。ここでお前さんに伝えなくちゃいけない理由は別なんじゃないか?」


別の理由?


今回、ボクが王都に来た目的の一つは、王宮からセーム様へ伝える書簡を預かる事だ。

そこまでの事態であるなら、王宮側も帝国の動きを掴んでいるだろうし、書簡でも触れている事だろう。

ただし、そうだとしたらボクがその事を知るのは、ローエンタール領に戻った後の事になる。


この情報を今、ボクに伝えようとしている何者かは、少なくともそれでは遅いと考えているのだ。

ボクが王都を離れる前に、ボクが王都に居る間にボクにこの事を知らせたかったのだ。

そして、ボクが王都に居る間に、何某かの行動を起こす事を期待しているのだろう。


……は?


いや、意味が分からない。

「じゃあ、何ですか?ボクに、このまま国境付近まで行って帝国軍を殲滅して来い、とでも言うのですか?」

「いや、それは知らんし、そんな無茶言ってどうなるもんでもないだろ?」

「……なら、本当に何をしろと言うのか分からないのですが?」

「そりゃあ、まぁ、そうだよなぁ。」


ああ、もうっ!

段々腹が立って来た。

「だいたい、帝国だっておかしいですよ!今、カダー王国に攻め込んでも、四十年以上昔の戦争の再現になるだけじゃないですか?!」

「……そうだな。攻め込んだは良いが、拮抗して時間が掛かり、その結果、西方諸国に背中を蹴り上げられる。前回の再現になるのが目に見えてるな。」

情報屋の彼も、ボクの意見に同意してくれた。

少なくとも、ボクの基礎となる考え方がおかしい訳ではなさそうだ。


「けどなぁ……。元々、帝国は戦争・拡張を前提にした国だ。それが四十年以上も内部で不良貴族の粛清やら、国力増強とかで戦禍を避けて来たんだぜ。あちらの皇帝もよく抑えつけたものだよ。しかも、帝都から遠い南部はただでさえ言う事聞かないアホ貴族が多いってのに。」

「……じゃあ、あちらは新たな策がある訳じゃ無いんですね?新たなドクトリンが考案されたとか、技術的なブレイクスルーが起きて、パラダイムシフトされたとかでもないって事で良いんですね?」

彼の言い方からして、帝国が技術的に進んでしまい、カダー王国軍を圧倒できるようになった可能性は無さそうだけど、念の為、聞いてみる。

「待て待て分からん!知らん用語を乱用しないでくれ!……まぁ、そうだなぁ、何らかの技術革新があったとしても、実際に軍で運用出来る程になってたら、他国の上層部は嗅ぎつけるだろう。だがオレの知る限りでは、そんな話は聞かないなぁ。」

ありゃ?

ボクも焦って前世オジサンの知識を口にしてただろうか?

でもやはり、そういった懸念は無いらしい。


「じゃあやっぱり、ただ死者を積み上げるだけの戦争が起きる、って事ですか?」

「落ち着けよ。技術革新以外にも、戦況を有利にする要素ってものはあるだろう?」

「というと?」

「陰謀詭計といった腹芸さ。例えば、帝国が攻め込んで来る前に、カダー国内を混乱させておく、とかな。」

「──っ?!」


なるほど、言われてみれば技術革新なんかよりもそちらの方が遥かに簡単だろう。

しかし、混乱させると言っても、地方でボヤ騒ぎみたいなものを起こしても仕方がない。

やるならもっと国政の中心にいる人物を巻き込まなくては。

ボクの知り得る範囲でそんな要素を考えると──


…………あれ?


「……ん?どうした、クロー。黙り込んで。」

暫く黙り込んでしまったボクを心配したヴェロニカさんが声を掛けてくれる。


「……ファウル、アーベルパルナ、フィボッチ。」

「「……??」」

ボクが呟いた単語に、皆は意味が分からずにポカンとしてしまう。

「……なんですか、その言葉?」

セレナさんが声に出して聞いてきた。


ただ、それに答える前に、ボクは情報屋の彼を見る。

「……。」

彼は表情を崩さない。

まるで、その言葉がボクの口から出るのを待っていたようであった。


「……前々から疑問だったんですよ。一年前、セーム様が狙われた時、黒幕の貴族家達は何故そんな無意味な事をするのかと。あんなの、例え成功したとしても、精々、副宰相様の施策が実施されるのを先送りするくらいの効果しかない。」


仮に襲撃が成功したとしても、生前にセーム様が認めていた施策であれば、ご子息であるクトーガー伯爵様が必ず後を引き継ぎ、副宰相様と協力して実現なさった筈だ。

良くて半年、施策の実施が後ろ倒されるくらいのものだったろう。

そんな事をして、黒幕の貴族家に何の利があるのか?


「──だけどもし、彼らの目的が「混乱した状況を作り出す事」であったとしたら、彼らはその目的を果たした事になります。」

「……?どういう事ですの?」

ボクが何を云わんとしているか分からず、ティアナさんが問い掛けてくる。

「あの貴族家達が、裏で帝国と繋がっていて、帝国が攻め入り易いように、カダー王国の内部を混乱させようとしていたのであれば、話の辻褄は合うと思うんですよ。」


「「……えっ?」」


ボクが予想を口にすると、皆は驚いた表情を浮かべた。

情報屋の彼を除いて。


「……オレもそう思う。そして、そこに付け込んで帝国が攻め込んで来たら、それに応戦しようと展開したカダー国軍の背後から、裏切り者の貴族家が不意打ちして挟撃の形になる訳だ。そうなれば、戦略的にも、戦術的にも遅れを取ったカダー王国軍は、すぐにボロボロになるだろう。西方諸国が介入してくるより前に、片を付けられるという寸法さ。」

そしてやはり彼も同じ考えに行き着いていたようだった。


「……あの売国奴共っ!!」

情報屋の彼に予想を肯定され、思わず口調が荒くなってしまう。

そうと分かってたら、こうなると分かっていたなら、去年ボクが王都から逃れる前に、もっと徹底的にアイツらを潰してやる事も出来たのに!


「……あいつら、またセーム様を狙うつもりですか?」

ボクは、なんとか怒りを抑えて彼に聞いてみる。

「いや、前と今じゃ状況が違う。奴等もわざわざ冬場に遠出する程の余裕は無いだろう、時間的にも、コスト的にも。」

「じゃあ、狙われるのは……。」

「副宰相様、だろうなぁ。」


彼の言葉で、一昨年の夏、副宰相様にボクが忠告した時の事を思い出してしまった。

あの時のように、再び目標は副宰相様に戻った訳か。

そして、それはつまりあの頃には既に、売国奴共は帝国と繋がりがあったと言う事に他ならない。


……この世には自領の民衆を拐い、人身売買組織に売り飛ばすような人非人な貴族も居るのだ。

自国に見切りを付けて、他国に寝返ろうとする貴族が居る事だって、何ら不思議な事じゃないのかも知れない。


「──分りました。念の為ボクから関係する貴族家を通して副宰相様にお伝えしてみます。……今話した事が全てボクらの妄想であったならば、それに越したことはないですが。」

クトーガー伯爵家の執事さんや、セーム様経由でなら、副宰相様へも話が通るかもしれない。

自分の故郷であるこの国が、混沌とした事態になるのをむざむざ見過ごす気には無なれなかった。


「あ〜……、うん。まぁ、何もしないよりは良いやなぁ。」

だけど彼は、ボクが思ってたより微妙な表情で答えてきた。

なんだろう、あまり意味がないとでも思ってるのだろうか?


……てか、今更だけど「彼」とか呼ぶの面倒だなぁ。

「話は変わりますけど、何か貴方を呼ぶための仮名とか無いですか?なんと呼べば良いか困っちゃぃすよ。再会できた記念に教えてくれません?」

「ああ、そっか……。そうだな、じゃあ「カニスパイダ」で良いぜ。」

「分りました、カニスパイダ。また、何かあったらここに聞きに来ても良いです?」

「いや、用は済んだんだ。暫くはまた、俺はトロリスを離れさせてもらう。」

「分りました。ではまた、縁があれば会いましょう。」

「ああ。息災でな。」


こうして情報屋カニスパイダとの再会は終わった。

正直に言ってボクなんかの手に負える話ではないので、ボクらはその足でクトーガー伯爵家に相談に向かう事にするのだった。

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