17_王都へお使い
「──で、形はこんな風にするんです。」
「へぇ、確かに便利そうですぅ。……でもぉ、これだとこの部分の強度が難しそうですぅ。」
「う〜ん、そうだね……。」
ローエンタール家で気付けばもう新年を迎えていた。
ハック兄上と一緒に来たチーコは、あれからローエンタール家に入り浸っている。
そしてボクも、故郷のためと思い、便利グッズのアイデアを考えてチーコに説明したりしている。
遊戯盤の方については、そもそもこの国ではチェスや将棋のようなゲームは既に存在していたし、遊戯盤の概念も元からあったので、そこまで珍しいものではなかったのだった。
それに、ボクが他にすぐ考えつくゲームと言ったら、囲碁くらいしかない。
あれ、ルールが分かり難いから、取っ掛かりが厳しいんだよね……。
まぁ、それはそれで需要はあるかもだから、提案だけはしておくけどね。
ともかくゲームについては、後は孤児院の子達に任せた方が面白いアイデアを思いつくと思うんだよね。
なので、ボクはもっぱら便利グッズのアイデアを提案するようにしている。
アイデアと言っても、前世世界で存在した単純構造な物を思い出して語るだけなのだけど。
例えば、S字フック、洗濯バサミ、爪切り等、ジャンル問わず思い出しただけ語っている。
その中でも、素材の強度やら、加工が難しかったりでボツになる物も出てしまうので、多いに越した事はないだろう。
これらは、小道具の作成に慣れた故郷の工房に作成を依頼し、コヨリ商会で販売する事になるので、地元に貢献できた事にもなるはずだ。
「──おぅい、クロー。少し良いか?」
チーコと話している最中、セーム様から呼び掛けられた。
「はいっ。何でしょう?」
「お前達、悪いが王都へ使いに行ってくれんか?」
「王都ですか?またどうして?」
「うむ。春のゾマ祭の前に儂が派閥内を周る事は知っとるだろ?」
「はい。存じてますが。」
セーム様はカダー王国の西部を取り仕切る派閥の領袖だ。
領袖と言っても、別にセーム様自身は何事かを推し進めたりするような、積極的は野心が有るでもない。
やる事は貴族家を巡り、派閥内の意思疎通を図り、ついでに怪しい事をしてそうな者が居ないか監視するくらいだと言う。
また、カダー王国の一大イベントであるゾマ祭では、王家から各貴族家へ通達がされる事もしばしばある。
そのため、ゾマ祭当日になって突然の通知に戸惑う者が出ないように、事前に通達内容を周知しておき、不満等が無いか聞いて周る事もされているのだ。
「それに向けて、今年のゾマ祭でどのような話が挙がるのか、そろそろ王家にお伺いしておく必要があるのだ。そのための書簡を届け、返事を持ち帰って貰いたい。」
「え……、王城に行くのですか?」
「安心せい、そこまでは求めておらん。クトーガー伯爵の屋敷まで持って行ってくれれば、そこから先はあちらの執事がやってくれる。後は数日待って、王家からの書状が届いたら、それを持ち帰ってくれれば良い。」
クトーガー伯爵とは、セーム様のご長男が継いだ爵位、つまり昔セーム様が就いていた爵位だ。
「……それって何日くらい掛かりますか?ルミの予定日が今月末なので、それまでには帰ってこれますか?」
「あちらの回答次第だな、ここを出てから戻るまで二週間は掛からんと思うが。……それでもギリキリかもな。」
確かに、予定日的には間に合う計算だけど、ルミが初産な事を思うと、予定よりも早まる事だって十分にあり得る。
「……セーム様?」
ルミの一大事に間に合わなくなる可能性を示唆され、ボクは思わずジト目になってしまう。
「いや、仕方あるまい?まさかカイルにそんな事をさせられんし、ハックもまたハスト子爵領へ行くしで、あと信用出来るのはクロー達くらいなのだ。」
「……はぁ、分りました。ルミの大事までに間に合うのであれば。皆もカダー王都は観ておきたいでしょうし。」
まぁ、セーム様のおっしゃる事も分かるし、色々とお世話になっている身だ、無下には出来ないか。
「すまんな。寝泊まりはクトーガー伯爵の屋敷に頼って良いからな。」
「それは気を遣わせちゃう気がしますね。あちらとはあまり面識もありませんし。」
「うむ、そうか。あっちも、儂の使いと知ると気を回しそうだな。路銀は渡すから、王都で宿を取るか?」
「そうですね……。そう言えば、王都のローエンタール邸は、今どうなってるのです?」
ボクはふと、国を追われる原因になったあの時の屋敷がどうなったか気になって聞いてみた。
「ああ、あれなぁ……。お前が活躍してくれたせいで、無事に事故物件となってしまって、買い手もつかないので、管理人に住まわせて残しておる。」
う゛……、そりゃそうか。
あれだけ死人が出てしまったら、事故物件と言ってしまって何ら差し支えない。
「それは、あの……、申し訳ありません。」
「謝るな。お前が悪いわけでは無いからな。むしろ、クローには感謝しとるよ。」
そう語るセーム様は、とても優しい表情だった。
「それにしても、ボクが言うのも何ですが、あそこで寝泊まりするとか管理人は随分と肝っ玉の座ったヒトですね?」
あそこは三階建ての雰囲気あるお屋敷だ、そこで大量の死者が出たと聞いたら、並の神経の者は住もうとは思わないだろう。
「なにせ金も掛からず、見た目は良い屋敷に住めるのだからな。ほれ、お前がオーナーをしていた店があったろ?あの店の若い衆に希望者を募っていただいたのだよ、王妃様にな。」
「あ〜……。あの店の新人なら、金も無いし夜はあまり家に居ないしで、事故物件でも気にしないかもですね。」
「部屋は余っとるだろうし、お前達も使っても良いぞ?」
「嫌ですよ。気持ち悪いとかでなく、そんなヒト達が住んでる所に女ばかりのパーティで泊まるとか、ちょっかいを掛けられたらどうするんですか。」
「うむ。まぁ、そうか。」
セーム様も冗談でおっしゃったのだろう、顔が笑っていた。
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「──という訳なんだけど、行っても良いかな?王宮からの回答を待つ間は、王都を見て回れると思うんだ。ボク以外はカダー王国の王都トロリスへ行った事ないよね?」
その日の夕方、皆が揃った所でボクはセーム様から言われた件を口にした。
「そうだな。セレナもそうだよな?」
最初に答えたヴェロニカさんは、セレナさんに話を振った。
「はい。一月以上ここでお世話になって、旅が久々に感じますね。」
「私達ももちろん初めてですし、異論は無いですわ。」
次にティアナさん達も王都行きを同意してくれた。
スノウノさん、フラウノさんも頷いてくれている。
「当然、オレも付いて行くっすよ。」
最後にリックが元気良く答える。
リックについてはもう、断られるとは思っていなかったけどね。
「じゃあ、明日は王都に向かおう。さっさと行って、ルミの予定日までには帰って来たいからね。あと、往路・復路は『重力制御』を使うから、今夜はゆっくり休んでおくように。」
「おお、やっと長距離試せる!」
スノウノさん、嬉しそうだ。
この一ヶ月で、皆が『重力制御』を使えるようになっていた。
この辺りを軽く回ってみるくらいはしたけれど、町から町へのような長距離移動はした事が無かったので、ウズウズしていたようだ。
「ところで、クロー君は王都に住んでいたのですよね?」
ここでフラウノさんが質問してきた。
「はい、そうですね。去年の春まで半年くらい。」
「……では、顔を知ってる方も多いでしょう。変装は必要そうですね。」
「う゛……、そう、なりますね。」
忘れてた、そういう心配もあるのか。
「そう気にするな。そこまで長居する予定でもないんだ。ちょっとの辛抱じゃないか。そんな軽いお使いで問題なんか起きるはずも無いしな。」
あ……。
なんか、ヴェロニカさんのその発言で、何かのフラグが立ってしまった気がする。
……何となく不安を感じるものの、ボクらはその翌朝に王都へ向かった。




