13_リックの一日
「ん、ん〜〜っ!……はぁ。」
寝起きの伸びをキめてベッドから降りる。
うん、こういう生活も悪くないっすね。
ここはローエンタール子爵様のお屋敷っす。
オレは使用人用の部屋を与えられて、一人で寝起きしてるっす。
このお屋敷に来てから半月、ようやくこの生活にも慣れてきたっすね。
「お、おはようリック。毎朝早いね。」
庭に出るとそこには既にカイルさんが立ってたっす。
「おはようございます。いや、カイルさんの方が早いじゃないっすか。」
「ははは。まぁ、日課だからね。」
そう言うカイルさんは、今日も爽やかだったっす。
「「おはようございますっ!」」
おっ、コウ、コンジー、コンラッドも丁度起きて来たっすね。
彼らはセーム様の護衛の三人。
普段から寝食を三人で行動するように言われてるらしいっす。
彼らも元孤児、お世辞にもお上品な所作が出来ているとは言えない。
なので、三人で行動した方が互いに監視し合う事になって、誰かがおかしな行動をしようとしたら気付けるだろう、という意図らしいっす。
あと、集団行動というものに慣れさせる意味もあるのだとか。
「おはよう。じゃあ、そろそろ体を動かしていくか。」
「「はいっ!」」
カイルさんの言う通り、オレらは各自で体をほぐし始めたっす。
そしてある程度、他の使用人も集まったら、カイルさんの号令に合わせて一斉に同じ動作をする「体操」が始まるっす。
その頃になると、ティアナさん、スノウノさん、フラウノさんも起きて来て、「体操」に参加するっす。
この「体操」には、オレもティアナさん達もすんなり馴染めたっす。
何故なら、ここに来る前からオレらもやっていたから。
そう、クロー発案らしいんすよね、この「体操」。
別に強制じゃあないんすけど、屋敷の使用人で参加出来る者はだいたい参加してるという話っすね。
皆と一体感が出るとか、本格的な仕事を行う前に体を軽く動かすには丁度良いとかで、皆気に入ってるみたいっす。
もちろんオレも毎回参加してるっすよ。
そうして体をほぐしたら、剣術の練習。
これは、カイルさん、オレ、護衛の三人、そしてティアナさん達の八名で行うっす。
しっかりと基礎練習をこなしてから、模擬戦。
やはりカイルさんはデタラメに強いっす。
そのカイルさんに初戦で一本取ったスノウノさんも流石っすね!
「ニャーッ!どーしても勝てないニャーッ!!」
でも、それ以降はどうしても勝てないらしいっす。
カイルさん曰く、「身のこなしは流石に獣人だけあって素晴らしい。純粋な身体能力は私以上だろう。でも、それに頼り切りになって、肝心の「読み」や「戦術」が疎かになっている。」とのこと。
ちなみに、本気になったクローは、その「戦術」でカイルさんから一本取った事があるのだとか。
普段、オレらと模擬戦をしてもティアナさん達にはなかなか勝てないあのクローがどうやって勝ったんすかね?
あと、さらに余談っすけど、護衛の三人はオレやクローとだいたい同じくらいの強さっす。
「……おはよ〜。」
そうこうしているとクロー、ヴェロニカさん、セレナさんが来るっす。
クロー達三人は、ここに来た初日に言ってたように、付近の別の家を借りてすんでるっす。
そこから毎日通って来てるんすよね。
「クロー君、遅いぞ。せめて一回、本気でやって行こう。」
「あ、はい!」
……最近のクローは、朝はいつも疲れてそうなんすよね。
カイルさんに嗜められて、やっとシャキッとしたっす。
ここに来た翌日に女装をさせられて、それで落ち込んでるのかとも思ったっすけど、違うみたいだし。
直接聞いても、曖昧な答えしかしてくれないんすよね。
ただ、カイルさんとセーム様は察しているようで、何も触れないんす。
……まぁ、体調が悪かったり、困った事があるのじゃなければ良いんすけどね。
カィンッ!キンッ!ガッ!
…………すご!
目で追うのがやっとの速さの応酬っす。
クローはカイルさんが「本気で」と要望した時だけ、模擬戦で魔術を使うんすけど、レベルが高すぎるっす。
チラッと横を見ると、ティアナさん達も護衛の三人も、言葉も無く見入ってしまってるっす。
どうやら屋敷のヒトの中では、カイルさんだけクローが魔術を使える事を知ってるっぽいんすよね。
だからクローも、カイルさん相手だと本気でやるんすね。
「腕は鈍っていないようだねっ!」
「必死なだけですよっ!!カイルさんの本気とか、洒落にならないんですからっ!」
結局、その戦いはナタリーさんが朝食が出来た事を告げに来るまで続いたっす。
終わった時には、クローはもちろん、あのカイルさんも肩で息をしていたので、やっぱり凄い遣り取りだったんすね、あれ。
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そんなこんなで、ようやく朝食。
ナタリーさんの料理はいつも、何を食っても美味いっす。
しかも、体を動かした後なので、余計に美味しく感じるっす。
その後は、各自別れて持ち場に。
オレ、クロー、ティアナさん、カイルさんは、セーム様の書斎に。
フラウノさん、セレナさんは、執事さんの事務仕事のお手伝いを。
スノウノさん、ヴェロニカさんは、ナタリーさんに従ってメイドとして働いてるっす。
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「──で?なんで王妃様や副宰相様からボクの動向を尋ねる書簡が届くのですかねぇ?」
「知らんっ!知らんぞ儂は。まだ何も伝えておらんからな?そもそも、お二人も年末のお忙しい時期だぞ。そんな時期に儂が、手間を増やさせるような真似をするものか。」
「なるほど、確かに。……まぁ、多少心当たりもあるので、仕方ないですね。」
心当たりとはセシルさんの事っすかね?
「なんだ脅かすな。それにしても無視は出来んし、どうしたものかな……。こちらも年末は何かと忙しい。」
「人手はあるのです。手分けして進めましょう。」
カイルさんの前向きなコメントが心強いっす。
「それにしても、ハック兄上はまだ戻らないのですか?」
「ああ、どうやらハスト家にもついでに挨拶に行き、そこで気に入られてしまったらしい。まぁ、さすがにそろそろ戻るだろうが。」
そう言えば、クローのお兄さんが居るとか話してたっすね。
半月経って、まだ会ってないっすけど。
「……なんでそんなことに?」
「というか、お前のせいでもあるのだぞ?」
「ボクの?!」
セーム様の返しにクローが驚くっす。
「お前の残した政策書だ。あれをハックは律儀に読み込んでなぁ、必死で勉強したんだよ。その一部を披露したら、ハスト家の当主がいたく気に入ったようでな、あれこれ連れ回されてるそうだ。状況を伝える文にそう書いてあった。」
「いや、あんな大雑把な走り書きを基に、一人で勉強してそこまで自分のものにしたのなら、それはハック兄上の才能ですよ。ボクの残したものなんて、きっかけにすぎないでしょう。」
話を聞く感じ、クローのお陰な気がするっすけど、クローはこういう時、自分の手柄とは言わないんすよね。
クローの謙虚さなんだろうけど、クローのすごさを主張したい側からすると、歯がゆいっす。
「……でも、もしハスト家が兄上を欲しいと言ったらどうします?」
「もちろん快く送り出すとも。同じ子爵領でも、こちらは領内で目立った問題など無い土地だ。一方、ハスト領は旧ホーンテップ領を併合したばかりで問題山積みだ。人手も欲しいだろう。まして解決策の提案が出来て、そこの地理にも明るいハックのような者は、喉から手が出るほど欲しいだろうさ。ハックの活躍の機会は、あちらの方が多そうだ。」
……なんか、根本的にクローと似てる気がするんすよねセーム様って。
自分の育てた部下が惜しいと思うより、その部下がより活躍できて成長できる方を選ぶ所とか。
護衛の三人もそうっす。
あれも、若人を育てようとしてるみたいじゃないっすか。
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そこうして昼をだいぶ過ぎた辺り。
オレはその日新たに必要となった物を買い出しに行くっす。
「大丈夫?一人で行ける?」
「大丈夫っす。行った事ある店ばかりっすから。」
クローの心配に笑顔で答えるオレ。
てか、クローが付いて来るとなるとマズいんすよね。
クローが来るとなると、クローはこの辺りでは顔が知られているので、女装して付いて来る事になるんすけど──
──可愛いんすよね……。
クロー本人は普段通りの感じっすから、当然、素のまま優しいんすよ。
表情も作ったりしないし、いろいろ構ってくれるし、笑顔がまた可愛いし……。
こんなの性癖が歪んじゃうっすよ!!
普通に「リック」と呼ばれただけで、語尾に「♡」が付いてるように聞こえるし!
……なので、女装したクローと二人きりの状況はダメっす、絶対。
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さて、買い出しが終わると、夕食まで離れで魔術を教わるっす。
ナタリーさんから料理を教わるのも捨て難いんすけど、冒険者としてより有用なスキルとなると、魔術になるんすよね……。
なので、クローやセレナさん、ヴェロニカさん、そしてティアナさん達三人で集まるっす。
コンコンッ!
「リックっすけど、入って良いっすか?」
一応、今はティアナさんら三人が使ってる場所なので、気を遣うっす。
カチャッ!
「いらっしゃい。どうぞ入って。」
「は、はいっす。」
どういう訳か、開けてくれるのはだいたいティアナさんなんすよね。
オレの事をライバル視と言うか、気にしてるらしいんすけど、嫌われてるってのとも違うみたいっす。
嫌われてるなら、普通は積極的に関わっては来ないと思うんすけど、ティアナさんは事ある毎にオレに関わって来るっす。
それも、突っ掛かって来るとかじゃなく、今扉を開けてくれたような、何気ない事で関わって来るっす。
かと思えば、表情はいつ見ても強張ってるというか、不機嫌そうというか、嫌われてるとも思えなくもない表情をしてるんすよね……。
これ、どう受け止めるのが正解なんすかね?
分からないので、今は何事も無いように、そこには触れずにいるっす。
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そして夕食になり、食べ終わった後は、食器を洗ったりするのを手伝ってから、各自バラバラになるっす。
クロー達は借家へ。
ティアナさん達は離れへ。
そしてオレは使用人室へ。
自室では、可能であればその日習った魔術について復習したり、書き残したりしてから就寝するっす。
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セーム様も、ナタリーさん始め他の使用人の方々もお優しい方達ばかりで、とても居心地が良いと感じてたっす。
クローが残ると言うなら、喜んで賛成しちゃうくらいには気に入ってたっすね。
ただ結局、そうはならなかったんすけどね。




