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11_お土産(後編)

「あと、コラペ王国の方が、お会いした方は多いですね。」

「お、おう。あ、ちょっと待て、息を整える。……よし、言ってみろ。」

セーム殿は人族では結構な高齢だよな?

あまり興奮させるのは、お身体に障ると思うんだが。

「では、貴族様関連だと、シルバラード伯爵令嬢で騎士団長のノエルさん。あと、アンズ・アプリコット公爵様御本人ともお会いしました。公爵様とは数日行動を共にしたので、詳しく話せますよ。」

「なんで一冒険者が公爵様と行動を共にする事になるのだ?!」

だよな〜。

ワタシも第三者として話を聞いたなら、そう思うだろう。


「う〜ん……、成り行き、ですかね?で、他に長耳猫族のマミーラ様とは、言葉は交わしてませんが、近い距離で対面する事機会がありました。あとは、ゾマ・ヴォルフント教の大司教パーシモン様、「神託の巫女」シオンさんともお会いしました。」

「ま、待て…………。はぁ?!巫女と言ったか?あれはあちらの教会がひた隠しにしていて、存在自体が機密扱いなのだぞ?!他に挙げた者達は辛うじて社交場での接点があるかもしれないが、巫女様に関しては関係者以外が会う事も許されんと聞いている。そんな方と何故会えたのだ?!」

ん〜〜……??

え、シオンってそこまで極秘扱いされるような者だったのか?

ワタシの印象では、司祭としてはちょっとだらしない、けれど憎めない感じの普通の娘だったが……。

横を見るとセレナやティアナも、驚きで目を丸くしている。


「そもそも先日、コラペ王国の建国記念式典というのがあってな、カダー王国からも来賓として出席した者がおったのだ。事前に内々に伝えられた話では、その巫女が公に姿を見せるという話だった。しかし、当日には何故か別の聖女とやらが現れたそうだ。だから、巫女は実は亡くなっているのじゃないか、とも囁かれておるのだぞ?」

あ、式典の話も伝わっているのか。

……となると、当然あの事も伝わっているよな?

「ああ、それは誤解ですね。少なくとも式典のあった時点では、シオンさんは生きていました。ちなみに、当日登場した聖女様のお名前は分かりますか?」

「うん?……え〜と、確か、セレ、ナ……、おい、まさか?!」

「はい。セーム様の目の前に座っている女性こそが、式典当日に天使様に連れ去られた聖女様です。」


「他国で何をやっとるんだ、お前はあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」


ハァ、ハァ……。

セーム殿がクローに激高する。

うん、それは驚くよな。

どう聞いたって、クローが何か裏で糸を引いていた様に感じるだろう。

「落ち着いて下さい。本当に成り行きなんですってば。まぁ、その辺はおいおいお話ししますよ。しばらくはこちらに居るつもりですから。」

「んっ?ここに?しばらくとはいつまでだ?」

「まず、ルミの出産は見届けたいのと、冬に何処かへ行くのも大変なので、春先までは居ようかと。」

……まぁ、大丈夫そうなら春先まで、とは事前に話していたが、それにルミさんの出産を見届けたいという話がしれっと加わったな。

「おお、そうかそうか!こちらは一向に構わん。春先までと言わずに、ずっと居ても良いのだぞ?」

セーム殿は乗り気だ。

「いえ、犯罪者を永く匿うのは問題もあるでしょう。それにボクも、旅生活が思いの外楽しかったのです。この旅で恋人も見つけましたし、もうしばらく、あちこち巡りながらイチャイチャしたいですよ。」

……ワタシ達と居るのが楽しいというのは嬉しいが、そんな明け透けに言うな、恥ずかしい。

「なにっ?!恋人だと?!」

「ど、どちらの方ですっ?!クロー様と恋仲になるなんてっ!」

あっ、ルミさんが激しく反応してしまった。

セーム殿を押し退ける勢いでクローの横に詰めて来た。

「ルミ、落ち着いて!身体に、お腹の子に悪いって!」

「これが落ち着いていられますか?!そもそも、お店を出すにしても男性ばかりのお店にするような、硬派なクロー様の事です、お仲間とやらも男性ばかりだと思っておりました。それなのに、見目の良い女性ばかり揃えてしまっている、って所からしてこちらはヤキモキしてるんですよっ!」

硬派かぁ……。

クローにそんなイメージは無いなぁ。

ワタシは出会った初期の頃から、「好みだ」等と言われてたしなぁ。

「いや、見た目で仲間なんて選んでないから、落ち着いてってば。」

「──ではお聞かせ下さい。恋人とはどなたです?まさか、五名全員ですか?それとも、リック君ですか?」

「ルミはボクにどんな可能性を感じてるのさ?!違くて、さっき言った聖女セレナさんと、エルフのヴェロニカさんだよ。」

クローの言葉を聞き、ルミさんがワタシとセレナに目線を向ける。

「……お二人、ですか?」

「う、うん。……それについては、言い訳しようも無いけど、そうだよ。」

「……。」

なんだろうか、ルミさんの沈黙が怖い。


「はっはっは、剛毅だなぁクロー。ま、ルミもそんなに目くじら立てるな。本人達が納得済みならば良いではないか。」

「セーム様は黙っていて下さい。」

「あ、はい……。」

え……?

子爵殿、何故そこで黙るのだ?!

使用人に「黙れ」と言われて黙る貴族とは……?

……ルミさんて、この屋敷でどんな立ち位置のヒトなんだ?

「──お二人には、後ほどお話があります。三人で語らいましょう。」

「「あ、はい。」」

ワタシとセレナは、その圧に負けて素直に頷くのだった。


「……あ〜、と、ところでクロー達は今日は泊まってゆくだろう?積もる話もあるしな。クローとその仲間なら、いつまでだって居て良いのだがな。」

空気が重くなったのを察したセーム殿が、無理矢理話を変えてクローに尋ねた。

「あ、はい。今夜はお世話になろうかと思います。だだ、ボクとヴェロニカさん、セレナさんは、明日以降は別の仮屋を借りようと思ってます。」

「ん?此処では何か不都合があるか?部屋は余っておるぞ……?」

「いや、その……。」

おい、口籠るな。

何か適当な事を言ってくれないと、さっきの事もあってルミさんが怖いのだが?

「何なら、離れを使っても良いぞ?どうせ、冬の間は誰も訪ねて来ることは無いだろうしな。」

「……いえ、そちらも申し訳ないと言うか。」

「んん?なんだ水臭い、何か懸念でも……、ん?なんだ、カイル?」

さらに言い募るセーム殿を、カイル殿が止めに入った。

「あの、クロー君達は付き合い始めて間もないのです。ならば──」


ゴニョゴニョ……


カイル殿がセーム殿にだけ聞こえるように耳打ちする。

……そうか、カイル殿とルミさんも、話を聞く限り付き合い出してまだまだ日が浅いのだったか。

なら、クローの云わんとする事も分かるのだろう。

……う、ちょっと恥ずかしいな。

「──う、うむ。そうかそうか、なるほど。それなら、まぁ、別の方が良いか。分かった、カイル、明日にでも手配してやってくれ。」

あ、セーム殿も察してくれたようだ。

「承知いたしました。」

「お気遣い下さり、ありがとうございます。」

事情を理解したセーム殿の言葉に、カイル殿が答えると、クローもそれに感謝の言葉を述べる。


「……あと、残りの者、特にセレナさんの隣のティアナさんは、コラペ王国のエシャロット子爵様のご息女でもあります。彼女と他二人には離れをお借り出来ればと思います。」

「……なんかもう、それくらいでは驚かなくなってしまったな。うむ、まぁ良い。ではそちらの子爵令嬢殿は、客人として饗そう。それで良いか?」

セーム殿もだいぶクローの滅茶苦茶に慣れてきたようだ。

そう考えると、こちらにいた頃のクローは、空気を読んでかなり自分を抑えていたのだろうな。

……少なくとも人前では。

「ええっ?!あ、あの、それは恐れ多いですわ!」

セーム殿の言葉を聞き、ティアナは恐縮してしまっている。

「なに、気になさるな。こちらとしても、他国の貴族家の話というのは聞いておいて損はない。国際交流をする際に、気付かずにそちらの貴族家が気に障ることをしてしまう、という事を回避出来るようになるからな。もちろん、他国に流せぬ話もあろうが、そんな事は無理に聞き出したりはせんので、安心してくれ。」

「ええと……。では、お世話になります。わたくしでお力になれる事があればおっしゃって下さい。ただ一方的に寝食をお世話いただくのは、心苦しいですので。」

「うむうむ、承知した。」


「……ところで、先触れの彼についてはどうするのだい?」

先程から唯一、名前の挙がらなかったリックについて、カイル殿が聞いてきた。

そう言えば、我々が着いた時に二人は意気投合して話し込んでいたなぁ。

「……あ!」

「ちょっ?!酷くないっすか、クロー?」

本気で忘れていたっぽいクローの呟きを聞き逃さず、リックがツッコむ。

「はっはっは。なあ、ならウチで働かんか?」

「「えっ?」」

セーム殿の提案に、クローとリックが声を揃えた。

「いや、カイルの下で動く者が欲しかったのだよ。普段はそこまで必要ではないのだが、ルミが身重な間はそこまで動き回らせるのは酷だ。なるべく側に居させてやりたい。となると、カイルの代わりに、カイルの指示で動き回れる者が欲しいのだ。」

「あれ?そう言えば、ハック兄上はどうされたのです?」

ん?兄上?

クローの兄も此処に居るのか?

「ああ、ハックはまた別口で、今は旧ホーンテップ領、現在のハスト子爵領へ遣いに行っている所だ。そっちの用事が多くなってな。その分、この領内での人手が欲しいのだ。」

「やるっす!将来のために、そういう経験もしておきたいっす!」

お、リックは乗り気のようだ。

「ん?将来?」

「リックはリプロノ王家第三王女リグレット様に気に入られて、配下として勧誘された事もあるんです。だから、そちらの道に進むことを考えての事かと。」

セーム殿の疑問に、クローが答える。

「……王女の肝入りか、なんかもう、何でもありだな、お前達。」

セーム殿の言葉には、何やら諦めのような響きが混ざっていた。


「ちがうっすよ!オレが考えてるのは、クローの事っすよ!」

「えっ、ボク?!なんで?」

「今は旅生活してるっすけど、いつかはクローも何処かに落ち着く場所を見付けるっす。そしたら、クローはそこで間違いなく、今のセーム様の様に指示を出す側になるっす。その時オレは、クローの指示であちこち飛び回る役目を果たせるようになりたいんす!」

「「「あ〜……。」」」

リックの予想に対して、この場に居るクローとリック以外の全員が声を揃えて同意の声を上げた。

「えっ?待って、皆そんな認識なの?!」

「そりゃそうだろ。例えば、誰かがやらなくちゃいけない、でも誰もが出来る訳じゃない事を、クローなら出来るという状況なら、お前ならやるだろう?」

「……それは、そうかも?……時と場合によるけど。」

ワタシが問うと、クローは何やらゴニョゴニョ言い出した。

往生際の悪い奴だ、素直にそうと認めればよいのに。

自分が上の立場になる事が、それほど想像出来ない事なのだろうか?


「ははっ、まあ何をするかは各自考えるので良いだろうさ。……それよりナタリー、そろそろ夕食の準備を頼むぞ。」

「はい、承知いたしました。今日はいつも以上に腕が鳴るねぇ。」

もう外は日が暮れ始めている。

それに気付いたセーム殿は、ナタリーさんに夕食の準備を指示した。

「やった!久々のナタリーさんの料理、楽しみにしてますね。」

「……クローがそんなに言う程なのか?」

ワタシは思わずクローに聞いていた。

普段のクローの料理でも十分旨いのに、そんなクローが喜ぶ程なのか。

「そりゃそうだよ。ナタリーさんは、ボクの料理の師匠なんだから。」

「「おぉ〜……。」」

クローの説明に、メンバーから感嘆の声が漏れる。

「ちょいと、クロー。あんまりハードル上げないでおくれよ。」

「大丈夫ですってば!」

なんだかクローもはしゃいでいる気がする。

やはりこの屋敷の皆に会えたのが、嬉しいのだろうな。


その日、ワタシ達は期待以上に美味しい料理をいただきつつ、夜が耽るまでセーム殿達と語らい続けたのだった。


…………。


まぁ、ワタシとセレナは、その日の夜にルミさんに呼び出された訳だが……。

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