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09_先触れ

「ちわ〜っす!となたか居ませんか〜?」

「……はい、どなたですか?どのような御用向きで?」

俺が声を掛けると、門に併設された小屋から二十代半ばくらいの警備兵らしき男性が二人と、それより若い俺と同い歳くらいの男子が一人顔を出したっす。

「はいっす。え〜っと、リックと申します。こちらのセーム子爵様と面会を希望するヒトからの遣いとして参りました。」

「面会……?失礼ですが、どちらの貴族家の遣いでしょう?または、商会の方ですか?」

警備兵の片方のヒトが応対してくれたっす。

「あ、いや、貴族家でも商会でも無いっす。以前にこちらに住んで居たヒトで……。」

「??……失礼だが、来る先を間違えてないか?ここは役所ではなく、ロイエンタール子爵様の私邸だが。」

「あ、はい。間違えてないっす。ええと……、言い方がまずかったっすかね?このお屋敷で以前住んでたヒトの遣いで来たっす。」

「「……。」」

警備兵の二人は顔を見合わせちゃったっす。

怪しまれてるっすよね。

まぁ、俺みたいな見た目普通の兄ちゃんが、貴族様の屋敷に来る理由なんて考えつかないっすよね。

「ええと、一応、その方のお名前はお伝えしてみます。何という方です?」

今度は俺と同い年くらいの男子が聞いてきたっす。

「はい、クロー……、クロー・ホーンテップっす。」


「ええっ?!ク、クロー様ぁ?!……え、クロー様が帰って来られたんですかっ?!」


わぁっ……、驚いた?!

クローの名前を聞いて、急に男子が叫んだっす。

この反応は、ちゃんとクローの事を知ってるっすね。

「はい。それで、訪問して良い日にちとか聞きたいんすけど……。」

「ちょ、ちょっと待って下さい!今、家人に伝えて来ますからっ!絶対そこに居て下さいね?!」

な、なんか勢いが凄いっすね。

「あの、警備兵とか呼ばれるのは、その、困るんすけど……。」

「そんな事は絶対にしませんっ!二人も、彼を引き留めておいて下さいよっ?!あ、でも、くれぐれも丁重に!」


ドタドタドタッ!!


……なんか、凄い勢いのまま屋敷に入って行ったっすね。

まぁ、屋敷の中から兵士を呼ばれる事は無いっすよね、きっと。


……。


えっと……。

「あ〜……、お二人は兵士のようっすけど、子爵様の門番もするんすか?」

どうしたもんか分からず、思わず話し掛けちゃったっす。

「あ、ああ。俺らはこの領の領軍に所属する兵士だ。領主様をお護りするのも仕事の内なのでね。」

「へぇ。さっきの男の子も同じっすか?なんか身なりが違ったっすけど。」

「いや、彼はセーム子爵様の護衛だよ。付き人や側近みたいな立場かな。本来、セーム様に付き従ってお護りする役割りだが、自領の屋敷に居る間は危険もまず無いので、持ち回りで門番もしているのさ。そして、それだけでは手持ち無沙汰になるので、俺らが小屋で読み書きなんかも教えてたりもするんだ。」

ああ、常に門に立ちっぱなしなわけじゃないんすね。

「そういう所もあるだろうが、ここはそこまで求められては無いな。一応、小屋の中からも、出入りが無いかは見ているけどね。」

なるほど。

少なくとも、屋敷の主は見栄えを気にするヒトではなさそうっす。

「……ところで、さっきの彼は、護衛にしては若い気がするんすけど。」

「そうだな。彼は最近雇われたんだ。旧ホーンテップ領出身で孤児だったそうだよ。」


──っ?!


なんか、孤児と聞くだけでだいぶ親近感が湧くっすね。

「冒険者ギルドで孤児に剣術を教えてたヒトが居たみたいでね、そのヒト経由で紹介されたそうだよ。」

「……え、でも貴族様がわざわざ元孤児を雇わなくても良いじゃないすか?それなのに、なんで……。」

「う〜ん、ウチのセーム様はあまり護衛を付けたがるヒトじゃないんだよ。けれど最低限は付けないと、周りが心配するからと雇うようにしたらしいんだ。それなら、少しでも若人に機会を与えようとしてるんじゃないかなぁ?」

なんか、クローと通じる所がありそうなヒトっすね、子爵様って。

「……まぁ、俺らが勝手にそう思っているだけだがね。さっき、ここで合間に読み書きを教えてると言ったろう?それがあるので、ここの門番には読み書きがしっかり出来る者しか立候補出来ないんだ。」

「へぇ。でも、やる事多くて危険も伴うのでは、結構大変な仕事っすね?」

「そうでもないさ。退屈はしないし、屋敷の方達も人当たりの良い方ばかりだ。偶に差し入れを貰う事もあるよ。」

「あと、セーム様に直接声を掛けてもらえる事もある。だから、ここの門番をするのは、兵士の中でも結構人気が高いんだ。一週間毎の持ち回りなんだか、次に俺らがここに立つのは一ヶ月以上先になるだろうな。」

なんだかんだ兵士さん達も饒舌に話してくれるっす。

……でも、話を聞く感じ、ホント良い人っぽいっすね、子爵様って。

クローが信用するのも分かる気がするっす。

話聞いてるだけで俺の中では好感度上昇したっす。


「──バッッカモンッ!!!」


…………。


あれ?なんか好感度が下がりそうな声が、屋敷の方から聞こえた気がするっす……。

「……えっと、あの声は、セーム様、か?」

「だな……。どうかされたのか?」

ああ、やっぱり子爵様の声だったんすね?

……なんかちょっと、会うのが怖くなったっす。


「──クロー様が近くまで来てるんですね?!クロー様?!」

「落ち着きなさい!お腹の子に障りますよ!……まだ先触れです。本人は来ていないですから。」

「ですが……。」

「ナタリーさん、ルミの事頼みます。」

「はいよ!ほら、こっちに来な。大丈夫、クロー君は逃げたりするもんか。」


……。


なんか、玄関の辺りも騒がしいっすね。

どこかで聞いた名前も聞こえた気がするっす。


「……騒がしくてすまない。ここの者はクロー君の事になるとムキになる者が多くてね。」

少しすると、身体のガッチリした男性が現れ話し掛けて来たっす。

見るからに強そう……。

俺も多少は剣に自信を持てて来たっすけど、このヒトには敵わなそうって思うっす。

「私はカイル、セーム様の付き人だ。君が先触れだね?」

「あ、はいっす!リックっす。クローの冒険者パーティの一員っす。」

「そうかリック。では、すまないがいくつか質問させて貰って良いかな?」

「はいっす。」

「では、クロー君は近くに来ているのかな?」

「あの、それは言えないっす。」

「ん?」

ここで俺はカイルさんに近付き、声を小さくして言ったっす。

「……クローって、お尋ね者なんすよね?警備兵を呼ばれてクローが捕まると困るっすよ。」

「ハハハッ。そうか、クロー君はその後を知らないからな。大丈夫、少なくともロイエンタール領ではクロー君を捕えようとする兵士は居ないよ。……ひょっとして、わざわざ先触れとして君を寄越したのも、それが理由だったのかな?」

カイルさんの言葉に少しホッとした俺は、普通の距離に戻って答えたっす。

「はいっす。あと、仮に子爵様が居ない間に訪ねるとゴチャゴチャしそうだとも言ってたっす。」

「……違いないな。なにせ、先触れだけであの騒ぎだ。」

カイルさんが屋敷の方に目線を向けるので釣られて見てみると、入口付近の窓からこちらの様子を伺っているヒトが何人か見えたっす。


……。


ええと……。

ク、クローってば好かれてるっすね。

「うん、君が嘘を言っていないのはなんとなく分かった。そこで相談なんだが……。」

「……?はいっす。」

「……今日にでもクロー君に来てもらう事は出来るだろうか?」

「あ〜……、呼べるっすけど、ウチは俺入れて七人っすよ。流石に迷惑じゃないすか?」

「大丈夫だ。クロー君のお仲間なら夕食と寝床まで世話するぞ?」

おおう、すっごい高待遇っすね。


「では、ちょっと失礼するっす。」

俺は空に向かって手を掲げた。


「『灯り』!」


ポンッ、ポンッ!


放ったのは初歩の魔術である『灯り』を二つ。

打ち上げられた『灯り』はそのまま上昇すると、鳥が飛ぶくらいの高さでパッと弾けたっす。

「うっし!二つとも成功!」

これ、『灯り』を改造して合図として使えるようにした魔術らしいっす。

なので、本来の『灯り』よりちょっと難しいんす。


「……今のは、魔術かい?」

「そうっす。二つ上げる事で「来てくれ」って意味で使うっす。」

ただ二つ上げるだけじゃなく、ちゃんと揃って同じ軌道で上げた場合は「危険は無い」事を表してるっす。

逆に、『灯り』が弾けなかったり、あべこべの方向に上げちゃうと、「危険な状況」であると受け取られちゃうっす。

「それはクロー君に教わったのかい?」

「はい、そうっす。あと、剣術とか読み書き、料理とかも教わってるっすね。」

「……やれやれ、あの二人は本当に似てるなぁ。」

ん?

カイルさんがポツリと呟いたっす。

ひょっとして、クローと子爵様の事っすかね?

……て事はもしかして、カイルさんも子爵様に色々と教わったのかも知れないっすね。

「彼が魔術師だという事は、屋敷の皆には言わないで貰えるかな?本人の口から言われるのは仕方ないがね。皆も驚くし、彼を引き留めに掛かるかも知れない。」

クローを引き留められると面倒っすね。

クローも知ってる人達から言われるなら、心が揺れちゃいそうっす。

……まぁ、でもそれでクローがここに残ると決めたなら、俺もそれに従うっすけどね。

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