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UN:KNOWN 2  作者: エイト
4/5

真理、心理

「待て待て。なんだこりゃあ……」

茫然と、まるでいきなり異世界につれてこられたようなコメントをする。冗談まじりのような言い方しかできない。

「こんな……あのクソガキにこんなことする精神力があるわけねえだろ。一体、どうなってやがるんだよ」

 鉄の女の言葉に美香も理解を示す。

 こんなことができるはずがない。

 だが、実際に茜は――茜であろうその怪物は――やってのけた。なにもかもがデタラメだ。

「おい。どうする?」

「どうするって……どうなってるか、一体、どうなってるか……」

「目の前に起こってることが事実だろ? 受け入れる受け入れないはどうでもいいんだよ。どう対処するかが、今は重要なんだよ!」

「…………」

 美香が言葉を失っていると、茜が右手を前に出すのが見えた。

 二人にはそれが何のための動作かわからなかった。だが、それが確認できたと同時に二人はまるで何かに操られるように左右に飛んだ。

 直後。再び爆音。

 駅の後ろ半分が跡形もなく吹き飛んだ。

 二人は言葉を失った。それほどまでに、絶大で絶対的で絶望的な力。二人に絶望すらも与えない。二人に現実すらも認識させない。ただ、ただ。非現実を与えるのみだった。


「ここは……え? どこ? わたし、殺されたの?」

 暗く閉ざされた、何も見えない世界に茜はいた。

「目が覚めたかい? 大丈夫……君は殺されてないよ」

 声が聞こえたと同時に茜の前に見知らぬ男が姿を現した。鎧かぶとを身に付け、腰には刀がぶら下がっている。茜は一歩、下がった。確かに一歩下がったのだが、男との距離は広がらない。もう一歩、下がる。だが、それは同じことだった。男の方が自分と合わせるように進んできているのではと思い、もう一歩、下がってみるが男の脚は一歩も動いていなかった。

 茜は警戒しながら話しかける。

「あなた……誰? ここはどこ?」

「俺は……なんというか……お前の持っている能力の要というか能力そのものだよ。まったく、お前は自我が強くてなかなか出てこれなかった。やっとコンタクトがとれて嬉しいよ。ここがどこかというと……ここはお前の精神世界さ」

「能力の要? 本体ってこと?」

「ああ。本体だ。俺がいるからこそ、お前は獣の能力が使えるんだよ」

「……。精神世界ってのは? 心の中ってこと?」

「その通り。ここはお前の心の中だよ。実に暗いなあ。何も見えない。お前、夢とかあんのか? そもそも、お前、死にたいだろ? 何故死なない?」

 茜は言葉を失った。

 そう。初めて自分の前に現れた男がいきなり自分の心理を言い当てたのだ。言葉を失わざるを得なかった。少しの間をあけて、

「別に……そんなこと思ってない」

と男に向けていう。それは、同時に自らに向けても言っていた。

「ははっ。隠す必要なんてない。全然、恥ずかしいことでも悪いことでもないさ。誰だって思うことだよ。俺はお前の精神世界にいるんだ……お前が何を考えているかなんて手に取るようにわかるさ」

「お前はずっと前から死にたいと思っていた。その思いは日に日に強く、強く。だが、お前は死ねなかった。だろ? 別に恐くわない。そんなことは関係がない。じゃあ、何故、お前は死ねなかったのか? 教えて――「うるさい! うるさい! 黙れ!」

 茜は両手で耳を塞いだ。だが、男からの声は聞こえる。

「――やろうか? くく。まあ、俺が教えるまでもなく、お前自身、すでに気づいているだろうがな。お前はな、知りたいんだよ。どうして自分は死にたいのか、を。それを知りたいんだ。だから、お前はまだ生きている。違うか?」

 突然、目の前の真っ暗な世界にまるで映画館のように映像が流れた。

 茜はその光景を見て、茫然とした。

 破壊。駅が、街が、破壊しつくされている。

 壊れたビル。

 散乱する瓦礫。

 あちこちに立つ煙。

 動かない人間。

 降り注ぐ雨。

 なにもかも、壊れている。

 壊れて、壊れても、

 さらに壊れる。

「何、これ?」

 目を大きく見開いて、茜は呟く。その声が聞こえなかったのか、男は聞き返す。

「ん? 何て?」

「何、これ? 何で?」

「すごいだろ? 全て破壊そうじゃないか? 邪魔になるものは取り除こうじゃないか? いらないものは消そうじゃないか!」

「……っっ! ……ダ、ダメ。ダメよ」

 茜は顔を左右に振った。

 拒否。否定。

「ダメ、ダメ、ダメよ。何で?」

「ダメって? 何がダメなんだよ。お前、人間なんて、虫けらのようにしか思ってなかったじゃないか? あのお前はどこにいったんだよ。受け入れようぜ。あのお前を。いざ、やってみると、想像を絶するあまりに否定したくなる気持ちも理解できる。だが、これはお前が望んだことなんだぜ。他の誰でもない。今、ここにいるお前が望んだことなんだ。大丈夫、すぐに慣れる。今ある感情はすぐに快楽で満たされる」

「違う、違う。こんなの、違う。っっっあああ!」

茜は握り締めた拳を男の顔面に突きつけた。男は全く動じない。まるで痛みを感じていないかのように。男は左手で茜に突きつけられた拳の手首を掴んだ。茜は拳をひっこめようとするが、相当の力なのだろう全く動かすことができない。

グギッ。

そんな聞いたこともないような音が茜の耳に届いた。同時に手首に激痛が走った。

「ホント、人間ってのは理解できないねえ。お前、普段、冷静な時にはいつも人を殺すことを考えているのに、今みたいに感情的になったら、全く対極的な行動を取る。ホント、理解不能だよ」


 美香と鉄の女はかろうじて生きていた。まさに、奇跡。生きていることが不思議なくらいだった。だが、その奇跡もいつまで続くかわからなかった。

 最初、駅を破壊した時も自分たちを狙っているのだとばかり思っていた二人だったがどうやら茜は自分たちを狙っているわけではなかった。ただ、目についたものを手当たり次第に破壊しつくす。ビルだろうが、木だろうが、自転車だろうが、人だろうが。とにかく何でも破壊する。まるで、自分の思う通りにいかなかった子供が手当たり次第にやつあたりしているようだった。だが、茜は子供ではない。そして、人間でもない。その力は怪物。そして、彼女の世界は子供のように狭くはない。彼女が認識できるものは子供のように狭くはない。彼女の世界には多くのものがあって、多くの人間が生きているのだ。彼女の壊そうとしている世界は一人の人間が壊そうとするには広すぎるのだ。

「くっそ、くっそ! 何なんだよ!」

 鉄の女はいらだちを隠しきれない。自分の非力さを痛感するからだ。何もできない。何もできないということが、こんなにも辛いということを初めて実感した。そして、それは美香も同様だった。全く、太刀打ちできない。近づくこともできない。右手を薙ぎ払うだけで、茜の周りのものはいとも簡単に吹き飛んだ。右手から放出される赤い玉は全てのものを粉々に吹き飛ばした。茜に向かって飛んでくるものは、近づくにつれねじまがり最後にはあとかたもなくなった。一歩、一歩、進むごとに地響きさえする。

 ただ、一つ、気づいたこともあった。それは、茜が正気ではないことだ。今の茜は自分の意志でこれらのことをやっているわけではない。だが、それがどうした。だから、それがなんだ。二人には茜のことなど考えている余裕はなかった。


ドカ、ドカ、ドカ、ドカ。

茜は鎧を着た男に馬乗りになって何度も何度も顔面を殴り続けた。兜は茜が馬乗りになった直後、早々に投げ捨てた。おかげで、最初殴った時よりははるかに殴りやすかった。殴る度に右手には激痛が走った。だが、そんなことはどうでもいい。そんなことはどうでもよかった。右手がどうなろうが、茜は気にしなかった。

「はあっ、はあっ、くっ、はあっ」

何度も何度も殴り続ける。だんだんと右手の感覚がなくなってきていた。ただ、殴るという単純な動作の繰り返しがこんなにも辛いと茜は感じていた。だが、一向に手を緩める気はないようだ。もう、拳には力は乗っていなかったが茜は殴り続ける。

一方、鎧の男は茜のなすがままだった。何も抵抗しない。逃げようともせず、反撃しようともしない。殴られるのみ。

茜の動きが鈍くなってきた時、男は茜の両手を掴んだ。茜は必至に抵抗するが、敵わない。

「ははっは。はは。いいだろう。わかったよ、お前に任せてやるよ。このままお前を喰って俺がこの身体を支配してやろうかと思ったが、ホントにお前は自我が強い奴だな。少し、気にいった。さあ、お前がどんな選択をするのか、見せてもらおうか」

「ちょっっ――」

 茜の言葉も聞かずに男は姿を消した。

 

「あっ」

 茜が気づいた時、辺りはまるでたった今、戦争が終わったばかりのようなひどいありさまだった。目につくものは全て破壊しつくされている。ここが今まで自分が住んでいた街だとは到底思えなかった。

「ぐううううう」

 背後から女性のうめき声。茜が振り向くとそこには鉄の女がいた。全身を鉄で覆って、右手で左肩を抑えている。彼女の左肩から先はなかった。

 苦痛に歪む顔。茜が右手を上げようとした時、激痛が走る。見ると、右手の手首の辺りがはれていた。先ほど、鎧の奴にやられたところだ。

 茜は本能的に理解した。

 自分のやってきたことは、例え、自分が望んだことでなくとも赦されることではないということを。そして、どうあっても誰も赦してはくれないであろうことを。こんなことになって、わたしが逃げたら、一体、みんなの憤りはどこへゆくのだろうか。犠牲になった人たちの感情を誰が受け止めればいいのだろうか? だから、茜は一瞬で決断した。迷いなどない。

 だって、わたしは、ずっと――

 間違っていてもいなくてもどちらでもいい。

 ずっと、ずっと、ずっと――

 これがわたしなのだから。こういうラストもありだろう。

 ――ずっと、死にたかったのだから。

 さあ、悪役になりきろうか。

 そして、みんなを救うのだ。


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