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UN:KNOWN 2  作者: エイト
2/5

激情、劇場

 茜は宣言通りビースト・フォームへとなろうとしており、茜自身もそうなるであることを疑わなかったのであるが……残念ながらそのようなご都合主義の展開になることはなかった。茜がビースト・フォームを宣言すると同時に先ほど、華麗に参上し見事に美香のピンチを救った女性が走り出し、その拳を茜の腹目掛けてくりだしたのだ。ビースト・フォームになることに精神を集中していた茜は判断が一瞬遅れたのだが、避けることはできなかったもののガードは間に合った。それでも、吹っ飛ばされたが。

「てめっ。なにやってんだよ」

 茜は反則だろ、といいたげな眼で臨戦態勢を取っている女性を睨みつける。

「残念ながら、獣になるのは勘弁願いたい。よい思いでがないからな」

 その時の女性の眼は、別段睨んでいるというものではなかった。だが、何故か茜はその眼に気圧される。侮蔑、軽蔑。その種の感情が宿っているであろうことは容易に伝わった。だが、このまま美香とこの女の二人を相手することは茜にとっては不可能だった。特に、この女。茜はビースト・フォームにならずに相手にできる気がしなかったのだ。

「チッ」

 舌打ちをする。とにかく、距離を詰められてはやられる。相手の能力は鉄。とにかく、格闘戦だけは避けたい――最悪、格闘戦をするにしてもビースト・フォームでだ。今のままではなぶり殺しにされるだろう。

 ならば。

 速攻。

茜は両手を地面につける。再び、猫のフォーム。そして、一気に飛びかかる。

「ああっ!!」

 茜のわき腹に激痛が走る。気づいた時には、茜は地べたに這いつくばっていた。肩腹を抑えながら頭をフルに回転させるが何が起きたのかわからない。何故、自分がダメージを受けたのかわからない。

「おい、おい。そんなに痛かったか。それはすまない」

 上から先ほどの女性の声が降ってくる。

「だが、あれだ……楽に殺そう」

茜は必至に逃げようと足掻くが身体が思うように動かない。ダメージははるかに内側に蓄積されているらしく、すさまじい吐き気に襲われる。

「待ってください」

 その時、美香の足音と共に懇願するような声がした。

「待ってください。お願いします。その子を、その子を殺さないでください」

「ん? 何を言っているんだ? 殺さなくてどうする。お前もこいつに殺されそうになっていたじゃないか?」

 と、理解不能といった顔で美香の方を見る。それは美香、自身もよくわかっていたのだが……だが、頭よりも身体の方が先に動いたとしかいいようがなかった。美香は――今まで何人かの能力者と対峙したことはあったのだが、誰も殺していなかった。それが、こちらでは異常だとしりながらも、異端だと知りながらも。まだ、美香は人間を捨てていないのだ。だが、人間であろうと殺されそうになった相手を果たして赦すということはできるものであろうか。もしかしたら、美香は人間でもないのかもしれない。まさに例えるならば、聖人という言葉がよりしっくりくるだろう。

「お願いします。その子を殺さないでください」

 美香はなおも懇願を続ける。

「お前の知り合いかなにかなのか?」

 そうでなければ納得できないと言った風に聞く。

「違います。でも、殺す必要はないと思います」

「おいおい。勘弁してくれよ。殺さなければ、こちらが殺されるだろう。お前が殺すんじゃない。わたしが殺すんだ。見たくなければ、さっさと立ち去れ」

 と鬱陶しそうに女性は言うのだが、美香は引かない。

「お願いします。殺さないでください」

「いずれにしろ、こいつを殺さなくてはこの場の収集がきかないだろう。それはどうする?」

 とここで長話するつもりは毛頭ないのだろう、早々に選択肢を奪う。この場を何事もなかったかのように収集するには、すくなくともこの場にいる能力者の命を一つ捧げなければいけない。つまり、この女性は間接的にお前が代わりに殺されるのか?と冗談交じりで聞いたのだ。それは、品のないジョークのつもりだった。それ以外の意味などないはずだった。だが、美香の答えは女性の品のないジョークを者の見事に吹き飛ばしたのだ。

「……わかりました。代わりに、わたしを殺してください」

「……。お前、何を言っている?」

 呆れでもなんでもない。女性はまるで宇宙人とでも話しているのかと錯覚してしまった。それほどまでに、異常。それほどまでに、異端。これはなにかのドラマなのだろうか?そうでなければ、こんなセリフが出てくるだろうか?わたしは役者なのか?しかも、悪役の……。

「わたしを殺してください。だから、この子は見逃してやってください」

美香の目はまっすぐに女性を見ている。嘘、偽りなどまるで感じられない。もしこれが嘘、偽りなのだとしたら役者どころの話ではないだろう。

「待て、待て。わたしがお前を殺す理由などない。わたしは、わたしは自分が気にくわない奴を中心に……」

 いつのまにか、立場が逆転していると女性は思う。一切ブレることのない視線。本当にこの女は意味がわからない。心底、そう思った。

 だからこそ、油断した。思考が混乱していたからこそ。

 状況と思考がまるで一致していなかった。

 気づいた時には、女性は膝を地面についていた。そして、左脚には今まで感じたことのない激痛が走っていた。脚からどくどくと血が流れ出ていくのがわかった。

 そして、目には、横から美香に飛びかかろうとする茜が写っていた。白い毛で覆われた右手の爪には赤い血が根元の部分まで付着していた。おそらく、かなりの力でえぐったのだろう。そして、その爪を美香の胸元へと――。

「ああっ!?」

 女性の予想とは真逆のことが起こった。あろうことか、美香はすんでで後ろへと半歩ほど下がり避けたかと思うと、そこから上体を下げ茜の懐へと飛び込み見事な上段回し蹴りを披露したのだ。

 茜は再び何が起きたのかわからずに吹き飛ばされる。

「お願い。引いて!」

 美香の叫びともとれる声は茜の耳に届いた。だが、茜はそんな気は全くないようで、猿並みのジャンプ力を披露して空中へ――そして、でんぐりがえしのように頭を胸の辺りまでもってきてかかえるようにしたかと思うと、全身から細く鋭い針のそうな棘が飛びだした。その姿はまるでハリネズミのような。そして、そのまま回転したかと思うと一直線に美香へと突進する。

 これは、もちろん脅しの一撃でありこんな直線的な攻撃で美香を仕留めようとも仕留められるとも考えていなかった。当然のごとく美香は避けるだろうから避けた瞬間に再び猫になって襲いかかろうとしていた。だが、そうはならなかった。なぜならば、美香は上段回し蹴りを鋭い棘が脚にささるのをもろともせずに、先ほどよりも数段上回る力で茜の身体を蹴り飛ばしたからだった。

「はあっ、はあっ」

脚から血が流れているのもかまわず、美香は茜の身体が飛ばされていった方を見る。茜の身体は隣のビルの二階の窓ガラスを突き破り奥へと飛んでいき、今は姿が見れない。とにかく、今ので諦めてくれたらいい。そう、美香は願った。

「あんた、相当やるなあ。あいたた」

 鉄の女は顔を歪めなだら言う。少し顔色が悪く先ほどまでの元気はまったく感じられないが脚を鉄に変えたことから失血が止まっているようで、しばらくは大丈夫だろう。すくなくとも、立てるほどまでは。

 美香は二つミスを犯していた。

 一つは茜を完全にキレさせてしまったこと。すくなくとも、自分を見失ってしまうくらいに。

 もう一つは茜にビースト・フォームへとなる時間を与えてしまったこと。ビルへと吹き飛ばされた茜には十分な時間があった。

 だから。

 これから。

 本当の地獄が始まるのだ。

 不完全な存在がさらに揺らぐのだ。それは、獣か。人か。果たして、どちらなのか。それともどちらでもあるのか。いや、獣と人は同種ではない。獣は人ではなく、人は獣ではない。よって、どちらでもあるということは、どちらでもないのと同じである。では、それは一体なんなのか。何がそれを確定するのか。それが、これから始まる。

 揺らいだ存在は確たる存在へとなるのだろうか?

 それとも、不完全そのものがその存在が確たる存在であると証明する唯一であり絶対のものであるのだろうか。


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