第204話 未来は分からないけど
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真夏の焼ける様な日差しの下で、本日はVBの倉庫に来ていた。メンバーは俺と美佳子と田村さんだ。
今回の目的はグッズ類の整理と、各在庫の確認だ。今日は部活が無い日だったから、朝からこうして手伝う事が出来る。
2人でやるよりも、3人でやった方が楽だしな。それに力仕事もあるわけだし、男の俺が居た方が良い。
倉庫として使っている建物は一応エアコンが付いているけど、あまり効きが良くないから地味に暑い。
体感で言えば大体27℃ぐらいの暑さだ。動くと暑く感じる室温で、こうして動くわけだから少し辛い。
「咲人~そこの棚の上にある無地の箱取って~」
「これの事?」
「そうそう。美沙都ちゃん、受け取ったら箱の中身を数えてね」
「わかりました」
あんまり重くは無かったけど、箱自体が大きいので小柄な田村さんには少しキツイか。すぐ側まで運んであげて、段ボールの蓋を開ける。
中身はVB所属ライバー達のミニタオルだった。どうりで見た目のわりに軽いわけだ。そのまま田村さんと2人で、中身をキャラ毎に数える。
箱に美佳子の字で手書きされた、最終の在庫数とズレは無い様だ。全て数え終わったら、田村さんが綺麗な字でノートに記録する。
同じ様な作業を3人で順番に捌いていく。10年近く活動して来ただけに、園田マリアのグッズ数はかなりのものだ。
VBそのものは約3年前に設立されたので、全員分のグッズも合わせれば相当な量になる。
「あっ! これって……やっぱり! 中学時代に買えなかったマリアちゃんの缶バッジ!」
「ああ、それは売れ残った最後の1個だったね。もう商品ページ消しちゃったから、美沙都ちゃんにあげるよ」
「えっ!? い、良いんです……か?」
「捨てるぐらいなら、あげた方が良いからね」
結構年季の入った箱から出て来た、手のひらサイズの缶バッジだ。普段あまり見ない衣装だなと思ったら、当時の限定デザインだったらしい。
流石は古参ファン、良く知っている。まあこれだけグッズがあれば、売れ残った商品ぐらい出て来るよな。
そしてどこかで見た記憶があるなと思ったら、前に棚卸を手伝った時か。そう言えば似た会話をした様な気もする。
結構古いグッズの中には、もう作れないものもあるらしく貴重だ。生産していた工場が潰れたり、大人の事情だったり理由は色々とあるらしい。
「でもどうして残してるんだ?」
「単独イベントが出来るぐらいになったらさぁ~ビンゴの景品にしようかなって」
「リアイベ!?」
古参ファンが真っ先に反応している。そっかイベントかぁ、確かに大手の事務所がやっているよな。
VBでも単にお金だけで言えば、今でも会場の規模を小さくすれば出来るらしい。まあね、そりゃあ東京ドームとか幕張メッセとかはキツイよな。
その規模だと相当な稼ぎが必要だろうしなぁ。もちろん美佳子はかなりのお金持ちではあるけど、大きなドームでイベントはリスキーだそう。
貸し切るだけなら美佳子でも出来るらしいけど、そこでライブだグッズ販売だと色々やろうとすると規模感が合っていないんだって。
イベントを進行するスタッフも雇わないといけないし、機材だとか音響さんだとか挙げ出すとキリがないらしい。
なのでVBの規模でもイベントがやれる小規模の会場を、幾つか既に見繕ってはいるそうだ。そういう方向性も考えていたんだな。
「すぐにはやらないけどね。メンバーのスケジュールもあるし」
「それもそうか」
「残念……」
期待していた田村さんが悲しそうにしていた。まあ仕方ないよなぁ、寺町こなたを演じている稲森さんなんて、絶賛就活の真っ最中だ。
その状況でリアルイベントなんて厳しいだろう。ちょっと遊びに出かけるのとは訳が違う。
まあでも大きなイベントが出来る様になるぐらいに、VBが大きくなったら良いよな。
これだけ美佳子が頑張って大きくして来たのだから、行ける所まで行って欲しい。収入が云々じゃなくて、美佳子の活躍が見たいから。
誰もが名前を知っている様な大きなドームで、いつかそんな日が来たら良いな。そんな簡単に出来る事ではないだろうけど。
「やる気はあるから、もうちょっと待っててね」
「はい!」
「立ち直り早いね!?」
やっぱり濃いなぁ田村さんのキャラが。美佳子の影響なのか元々こうなのか。もしかしたら両方かも知れない。
意外性と可能性の塊すぎる女子だったんだなぁ。どんどん田村さんの印象が変わっていく。
もう当初の小動物みたいなイメージは消えかかって来た。なんて言えば良いのだろう? 典型的な園田マリアリスナー?
人として参考にしているのが美佳子だから、どうしても似た様な感じになるのだろうか。
そう言えば美佳子のリスナーって、美佳子みたいな女性が結構居たっけ…………いやいやいや、まさか田村さんもそうなるなんて事は……ないよな?
「あのさ、田村さんって整理整頓とか、得意?」
「どうだろう? わりと得意、かな?」
「そ、そっか。じゃあ大丈夫か」
よくよく考えたら田村さんは、整理収納アドバイザーなんて資格を持っているぐらいだ。
美佳子の様に、とりあえず適当に寝室へポイしたりしないだろう。普段の生活から考えて、特に雑で不器用なイメージはないし。
ティッシュが見つからなかったからと、ハンバーガーショップの紙袋で床を拭く事はないだろう。
お酒とタバコは未成年だから無理だけど、成人後にどうなるかは分からない。でもなんか嫌だなぁ、酒とタバコに走る田村さんは。
このまま綺麗な田村さんでいて欲しい。美佳子が汚いって意味ではないけど、美佳子が汚くするからややこしい。
「どうしたの咲人? ボクと田村さんを交互に見て?」
「いや、何でもないんだ。気にしないで」
「そう?」
美佳子が伝染するというまさかの未来だけは来ない事を祈りつつ、俺は2人を手伝い続けた。本当に、大丈夫……だよな?
次回の205話で4章は終了となります。
206話からの5章ですが、当初の想定より大幅に変更を入れました事をご報告いたします。