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前編

「クレアリオ殿下。私との婚約を破棄してくださらないかしら?」

「えっ」


 僕の婚約者であるシルフィーナ・ヴァンジャンス侯爵令嬢が、突然にそう告げてきた。


「こ、婚約の破棄? ど、どういうことだい。シルフィーナ」

「…………」



 僕、クレアリオ・カールマインは、この国の王子だ。

 シルフィーナとの婚約は、恋愛から始まったものではなく政略。


 今日は、月に1度の婚約者同士の定例のお茶会で、僕達はいつも通りに従者を少し遠ざけて2人で席に着いていた。

 テーブルの上には彼女好みのお菓子を複数、用意してある。

 僕が用意させた物で新作のスイーツもちゃんとあるよ。


 メッセージのやり取りも、パーティーへのエスコートだって婚約が決まってから欠かした事はなかった。


 ……なのに、どうして婚約破棄を?

 僕は彼女に何かしてしまったのだろうか……。



「よ、良ければ。まず、そんな事を言う理由を教えてくれないか? シルフィーナ」


 僕の鼓動が速まっている。嫌な汗が背中を伝った。



 シルフィーナは、公爵家でこそないが諸侯の中でも有力な侯爵家の令嬢。


 実父である国王が決めた政略の相手だけあり、家門の力はとても強い。

 家柄は申し分なく、また彼女本人もかなり有能な女性だ。


 学業は優秀で、むしろ僕より上なぐらい。王妃教育の進みもいい。

 僕と違って、もうほとんどの王妃教育を終えていると聞く。


 王子より優秀なんだよ?

 これは婚約者であろうと、もう尊敬に値するとしか言えないね。



 また、他人の容姿を軽々に評価対象にするのも問題だけど、言わせて貰えば彼女は誰よりも美しい容姿をしている。

 少なくとも多くの美しい令嬢を見てきた王子の目線で見ても、彼女は国一番だ。


 世間から評価の高い母上には悪いけど、少なくとも僕の判定ではシルフィーナの勝ちだね。



 白銀の髪は美しく整えられたまま腰まで伸びている。

 きっと手入れに時間をかけているのだろうな。

 彼女本人もそうだが、彼女に尽くす周りの努力もあるのだろう。


 ルビーのような深紅の瞳は、そんな彼女の白銀の髪と白い肌にピッタリ合っている。

 彼女は素晴らしく完成されているんだ。


 もちろん体型などは、彼女本人の普段からの努力もあるだろうから……つまり、そこで内面も努力家だって窺えるプラス要素。


 運動をしない高位貴族は、エネルギーの消費が足りなくて太るからね。

 ほら。美味しい食事はだいたい太る要素が満載だし。



 着ている衣服も彼女にお似合いで、いつもパーティーで彼女の着るドレスを選ぶのは僕の楽しみのひとつだ。



 ……あっ。


 もしかしてドレスが原因だろうか。

 質素で飾らないドレスが好みのシルフィーナにいつも彼女が美しく映えるようなドレスを選んで贈っている。


『ドレスの好みが合わない殿下とは、もうやっていけませんわ!』とか、そういう?


 あわわ……!

 どうしよう、どうしようと、僕は外面だけは綺麗に王子様スマイルを整えつつ、内面ではパニックを起こしていた。


 そして、そんな僕に。彼女は。



「──私、人を殺めてしまいましたの。ですからクレアリオ殿下に相応しくありませんわ」


 そう、告げたんだ。


 ……婚約破棄と殺人の告白。どっちの方が衝撃だろうね?



◇◆◇



「人を……殺した?」

「はい」


 僕は、椅子に座ったまま、ゴクリと唾を呑み込んだ。



 我が国は、僕が王子というだけあって王政国家だ。

 そして爵位による身分制度があり、王族・貴族と平民が居る国。


 けれど、司法関係と宗教関係は、王権や貴族特権から独立している。



 つまり例え王子だろうが、侯爵令嬢だろうが『人殺しは罪』って事で取り扱われる。


 平民や下位貴族が相手だから、高位貴族や王族は、自由に人を殺してオーケーって事にはならない国だ。


 だから、もしシルフィーナが人を殺めたと言うのなら。


 …………。



 いや待て。

 この告白は、実際の罪を問う話じゃない。


 例えば罪にはならない殺人、正当防衛とかの線はないか?

 誰かを返り討ちにしてしまった。罪にはならない。捕まりはしない。


 けど、それで罪悪感を持たないかと言えば話は別になる。


 もしそうだとしたら。

 とにかく彼女は傷ついているワケだからメンタルのケア……。


 いやいや。


 違うな。そういうのも後だ。

 僕は事情をぜんぜん把握していないぞ。


 まずはシルフィーナの話を聞かなくちゃ。



「えと。何が、あったの? 話せるかな……。ちょ、直接話し辛いなら、そう。何かが起こったキッカケとかから話してくれる? そうすれば僕にも理解しやすいと思うし。今、ちょっと混乱……してるから」


「きっかけでございますか」


「うん。きっかけ。そうなる前の話、とか」


「そうですね……」


 僕は話しながらシルフィーナの様子を観察する。

 錯乱しているワケでもないな。


 彼女は至って冷静に見えた。

 ……けど、シルフィーナは王妃教育を受けた女性。


 普段は表情に感情を見せないんだ。

 時折、『氷の令嬢』だとか彼女を蔑む輩が居るけど、そういう連中は僕が本当にその表情を凍り付かせてやる事で帳尻を合わせている。

 皆が氷の顔になれば、お揃いで何も問題なくなるからね!



 とにかく彼女の表情が冷静だからって、彼女が傷ついていないとは限らないって事だ。

 表情まで作るのが優秀過ぎて、誰にも手を差し伸べて貰えないなんてのは言語道断。


 僕は彼女の表情だけで、彼女の内面を決めつける事は出来ない。



「きっかけは……、はい。ありました」

「あったんだね。何があったんだい?」


 物事は、たいてい些細な事なんだ。

 シルフィーナは、そういう些細な事も見逃さない観察力を持っているんだね。

 とても素晴らしい。



「母が一度、死にまして」

「ぶふっ!」


 危ない危ない。今、口に紅茶を含んでなくて良かったよ。

 何だって? 死んだ? 侯爵夫人が?


 一大事だよ! 些細なきっかけなんてもんじゃないよ!

 むしろ王子の僕にも伝えてくれ! 婚約者の母君だよ!?

 やる事がいっぱいあるよ! 真っ先に悲しんているシルフィーナの元に飛んでいったよ!



「ああ。ご安心を。今は生きていますから」

「そ、そう? 生きているなら、まぁ」


 いや。そういう問題か?


「え、一度死んだってどういうこと?」

「……実は、その。母に【呪い】が掛けられたのです」

「呪い!」


 呪い。王国では禁忌として扱われるものだ。


 我が国では、王族や高位貴族なんかは、教会に赴き、祝福をかけて貰う。


 祝福というのは、単なる精神的なものじゃなくて、実際に病気などから身を守る効果がある。


 祝福を扱える者は限られていて、たいてい見つかれば教会や貴族に保護されたり、囲われる。



 ……その祝福が使えるのは、実はシルフィーナもだ。

 ただ、彼女のそれは、とても限定的で、かつユニークな祝福となる。



「君の【呪い返し】の祝福で……侯爵夫人を救ったのかい? シルフィーナ」

「はい。その通りでございます。クレアリオ殿下」

「……そうか」



 ──呪い返しのシルフィーナ。


 あらゆる呪いを解呪して、撥ね退け、そして術者に返す(・・・・・)祝福だ。


 ただの解呪でも、防衛能力でもない。

 術者に、ほぼ自動的に呪いが返っていく、稀有な祝福持ち。


 シルフィーナが王子クレアリオの婚約者に据えられたのは、家柄や優秀さ、美貌など数多い長所だけが理由じゃない。


 その祝福を持つ彼女を王族に迎え入れ、傍に置く事も、きっと父上が彼女を選んだ理由の一つだった。



「侯爵夫人が呪いにかかり、一度は……息を止めた?」

「はい」

「だけど、きっと君が傍に居たから」

「はい。原因が明らかでしたので、すぐに母に掛かった呪いを祓ったところ、無事、息を吹き返したという次第です」

「そうか……。今、夫人の体調はどうなんだい?」


「問題なく。父が療養させてはいますが、元気に過ごしております」

「そうか。なら、ひとまず良かった。……よくやってくれた、と言わせてくれ、シルフィーナ。君は母親の命を救ったのだから」


「……ありがとうございます」

「うん」


 でも、困った。それがキッカケって事はだ。

 それに夫人は一度は息を引き取ったという。


 強力な呪いだったのだろう。シルフィーナでなければ救えない程に。


 そして、その【死の呪い】は術者に返ってしまった。

 つまりは……。


「それで君が、人を殺した、という事か」

「はい。クレアリオ殿下」

「……けど、それで君を責める者がどこに居る? まったくの正当防衛にして、その誰かは自業自得だろう」


「そうかもしれませんが……」


 それでも。シルフィーナが問題にしているのは、僕との婚約だ。

 彼女を追い落とそうとする者が、この問題をあげつらって婚約者の座を追い立てようとするかもしれない。


 じゃあ、僕は問題から逃げて、ここで彼女の婚約破棄を受け入れるか?


 ……そんな事が出来るワケがない!



「クレアリオ殿下」

「うん」

「実は、母の呪いを祓って今日まで。この王国で起きた理由の分からない死について調べてきたのです。この一週間の話でございます」

「理由の分からない死。つまり」

「……おそらく呪いで死んだ者達でございます」


 参ったな。

 そんな情報収集まで?


 シルフィーナはどこまで優秀なんだ。

 些細な事でも惚れ惚れしてしまう。


「こちらが、そのリストでございます。殿下」


 と、彼女は1枚の紙を差し出した。


「うん。見せて貰うよ」


 手に取った紙には、人の名前と身分が書いてある。


「そんなに居ないんだね」

「はい」


 書かれていた名前は……3人だ。



◇◆◇



「いずれも貴族令嬢なんだな……?」

「そのようです」


 伯爵令嬢。子爵令嬢。男爵令嬢。


 この3人。

 3人もの令嬢が、この1週間で死んだって言うのか?

 それはそれで大問題だな。


「あれ」

「殿下?」

「いや。彼女達の名前、いずれも知っているものだなと」

「……クレアリオ殿下は、国内の貴族や、その令息・令嬢のすべてを把握していらっしゃるからでは?」

「いやいや。そういうのじゃなくて。実際に面識があるんだよ」

「あら」


「うん……。故人の……名前を出して、怪しげな話をしては変な疑いが掛かるし、思い出して気分が悪くなるだろうから」


 こういう場合の気の遣い方ってどうすればいいのかな。

 分からない。

 自分が殺したと思っている者達だ。


 その背景が見えてくる程に罪悪感を拗らせるかもしれない……。



「彼女達の象徴的な髪の色で言おう。『緑髪の伯爵令嬢』と会って話したのは……、去年の夜会の時だね。覚えているかな? 祝祭の1か月前。

 僕達が、街にお忍びデートへ行った時だ」


「ああ……。クレアリオ殿下が王妃教育の予定を緩めて、連れ出してくださいましたね」

「うん。あの時は、王都の街並みがとても新鮮だった……」

「はい……。とても楽しく過ごせました」


「やはり偶には街に出て見るものだよね」

「そうですね。ただ護衛の問題がありますので、そう易々と叶う事ではありませんが」

「分かっているよ。だから簡単にパターンを読ませないように、決まったルートやスケジュールは選ばないし、出ていく街の警備人員は増強している」


「……そんな事まで? 気付きませんでした」

「僕はともかくシルフィーナに何かあるなんて赦せないからね。安全対策は入念にしている」


 そして毎回、同じ行動をしていれば僕らを狙うような者達に狙われるかもしれないので、街に出る時はパターンを変える。


 シルフィーナに違った日常を見せる為だから、千変万化なぐらいが丁度いいんだ。

 何だったら何も起きない退屈な時間を過ごしてもいい。


 彼女が傍に居るだけで、既に特別な時間だろう?

 護衛に負担もかけないし、もっともコスパのいい楽しみ方さ。


 彼女を見ているだけで飽きないから、良い景色の場所を探す事もない。

 まぁ、それではシルフィーナが楽しめないかもしれないから、ダメだけどね。



「それで夜会で出会った……、」

「ああ。『緑髪の伯爵令嬢』だね。彼女は印象深いよ。君に贈った純白のドレスにワインをかけようとした」

「ワイン? あら。かけられたかしら?」


「勿論、事前に防いださ! 君に不用意に近付く者なんて、男じゃなくても最大限に警戒するからね!」

「……警戒するのは良いですが、私がそれに気付かなかったというのは……?」


「君の不意をつこうと『緑髪の伯爵令嬢』は後ろから近付いてきていた。まっすぐに君だけを見つめて小走りに動いていたらしく、僕もすぐに気付いたよ」


「……はぁ」


「中身の入ったワイングラスを持つ手が、君の方に傾いた瞬間に、取り押さえて口を塞いだ」

「口を塞いだ?」

「うん。そして、すぐ近くに控えていた王家の影に彼女を引き渡し、連行させたよ」


「ええと。何故そのような……」


「せっかくのパーティーだよ? シルフィーナに少しでも不快な事などあってはいけないだろう。彼女は君の記憶にさえ残らなくて良いと思ってね」


「……殿下」


「でも、流石はシルフィーナだ。王家の影が静かに連行していくのにも気付いて振り向きそうになった。だから僕が君を後ろから抱き寄せ、振り向かないようにしたんだよ」


「……ああ。思い出しました。あの時ですね。それで抱きついてきたのですか」

「うん」

「私は、てっきり……」

「え?」

「いえ、何でもありません」


 シルフィーナは、氷の表情で押し黙る。

 不安にさせてしまっただろうか?


 こういう機会でもなければ、彼女にそういう事があったなんて悟らせはしないのに。




「ええと。とにかく彼女はそういう人だと」

「そうだね。でも、おかしいな」

「おかしい?」

「君を傷つけようとしたものだから、もちろん王家の影に徹底的に彼女を調べさせたんだ。それから二度と同じ事を起こさないように弱みも握っていた筈だし。なのに、今度は呪いなんてものに手を出したかもって?」


「……殿下」


「うん」


「……ええと。そうですね。そうしますと、彼女の狙いが母であったのはおかしい、とは思います。狙うとしたら私でしょうから」

「赦せないね」


「……殿下は、その後、彼女に何もされてませんよね?」


「え、うん。こうして名前を挙げられるまで存在も忘れていたからね」


「そうですか。それは良かったです。良かったのかしら?」


「シルフィーナが無事なら、それで」


「……殿下」


 うん。彼女の瞳は魅力的だ。

 表情を凍らせていても、結局、その魅力を隠せていないのだから彼女も苦労するだろうな。



「では『緑髪の伯爵令嬢』は関係ないかしら……」

「王家の方でも彼女の死因について、念入りに調査させておくよ」


「わかりました」


 とにかく、その彼女はシルフィーナの【呪い返し】で死んだワケじゃないだろうってのは分かる。

 侯爵夫人を狙う動機はなさそうだ。


 嫌がらせの為、にしては迂遠だと思う。



「次に青髪の子爵令嬢だけど」

「はい」

「この子は……、ええと。生徒会の部屋に無断で訪れた子だね。ほら、シルフィーナ。学園の生徒会で仕事を片付けた後、2人きりで過ごしていた事があっただろう?」


「……ほぼ毎日そうしているような気が致しますが」


「そうだね。シルフィーナと一緒に仕事をするのも良いけれど、手早く片付けて、ゆっくりと2人で過ごす時間は重要だから」


「私も、クレアリオ殿下と過ごす事を、とても楽しみにしております」


「本当かい? 何よりも嬉しい言葉だよ。シルフィーナ」


 僕は、その魅惑的な白い肌に赤みがかかる瞬間を見逃さない。


『氷の令嬢』なんて呼ばれる彼女だけれど、こんな風に、ずっと見つめていれば表情には変化があるんだ。

 その魅力に気付けない彼らや彼女らは、軽く見ても人生の8割は損をしてしまっているよ。



「はい。話を戻しますが」

「うん」


「『青髪の子爵令嬢』は、生徒会の教室に無断で……ああ、いらっしゃいましたね」

「そうだね」

「……あの方は、何故か、他の者が立ち入り禁止の筈の教室に入ってこられて……」

「ああ。僕にクッキーだかを作ってきたらしいんだ」


「……殿下は受け取りましたかしら?」

「受け取ったよ」


「……まぁ」


「そして、袋に入ったままで王家の影に渡した」


「えっ」


「当然だろう? 王族の僕が信頼している者以外からの、それも食べ物なんて口には出来ないじゃないか。毒じゃなくても、身体に悪かったりしたら問題だ」


「……私が作りましたクッキーなどは焦げていても平気で食されますが」


「ふふっ。シルフィーナが焼いたクッキーなら丸焦げでも美味しい。そう思わないかい?」


「丸焦げは流石に私も美味しくないと思いますけれど……」


「そうかな?」


 王子と意見が異なったなら、しっかりと自分の意見を言える。

 やはり素晴らしい女性だよね、彼女は。


 特にお菓子作りが少し失敗するのが可愛らしい。


 高位貴族なのだからクッキーなんて使用人に頼めば美味しく焼いてくれる筈だけれど、わざわざ自分で作る……そういう可愛らしい事がたくさんあるんだ、シルフィーナは。


 彼女の魅力的なところは挙げ始めたらキリがないのが困りものだね。



「……それで。ええと。そう。クッキー」

「シルフィーナの作ったクッキーは美味しかったよ。また作ってくれるかい?」

「それはもちろん」

「良かった」


「……ではなく。クッキー。『青髪の子爵令嬢』が作ったクッキーの話でございます。何かございましたでしょうか」


「ああ。なんでも惚れ薬が入っていたらしい」


「惚れ薬ですか……?」


「作った者の毛髪と、軽度の……これも呪いの一種かな。まじないを掛け合わせる事で、食べた者を惚れさせる効果があるそうだ」

「……そんなものが」

「うん。流石の僕も、少し迷ったよ」

「迷った?」


「僕がシルフィーナに作る……という考えが、浮かんでしまったんだ。すぐに撤回したけどね。そのまじないを聞いた時に、どうしても君の顔を思い浮かべてしまった……。すまない。シルフィーナ。本当に……」


 僕は、彼女に誠心誠意、頭を下げた。

 こんな事で赦して貰えるなんて思わない。けど。



「いえ。その話を聞いて一瞬、思い浮かべただけでそんな風に思い詰めなくても」

「……そうかな」

「はい。それに」

「それに?」

「……私も今、殿下と同じ事を思い浮かべてしまいましたので……おあいこでございます」


「シルフィーナが、同じ事。僕に惚れ薬入りのクッキーを作るのかい?」


「……ええ、まぁ、チラリと……思い浮かべてしまいました」


「シルフィーナ。またクッキーを作ってくれる? この子の案件の資料も渡しておくよ」


「資料はけっこうですし、クッキーは普通の物を作りますね」


「うん。嬉しい」


 どうやら僕の人生は、また最高の瞬間を迎えるようだ。


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