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女性偉人短編

雪の花嫁

作者: 白百合三咲

公式企画5作目です。

オーストリー王室でありハプスブルク家のルドルフ王子とマリー・ヴェッツゥラ男爵令嬢のうたかたの恋。 

 

1889年1月31日

「ミリー、そっちはどうだ?」

「できたわ。どうかしら?」

「美しい。これでマリーも天国に行けるな。あっちでルドルフと一緒に過ごしてるといいな。」

 私は今恋人のジャン・サルバトルと一緒にマイヤリングに来ています。目の前で花嫁衣装を着て横たわるのは私の親友マリー・ヴェッツェラです。

 



 私ミリー・スチューベルはロンドンからこのオーストリアにやってきました。幼い頃に見た絵本のバレリーナの人形に憧れ、ウィーンの国立バレエ団の研究所に入所、そのままバレエ団に入りました。

入団して8年目の冬、私は初めて主役を手にしました。演目は「ジゼル」公爵との身分違いの恋ゆえ命を落とす街娘を演じました。

 公演初日。終演後に劇場の支配人から君に会いたい人がいると言われ、劇場の応接室へと通されました。

「はじめまして。ミススチューベル。」 

そこにいたのはジャン・サルバトル大公でした。今日の公演には国王一家と親戚一同がいらしてるというのは耳にしていました。 

「サルバトル大公閣下。お会いできて光栄でございます。」

「そんなに堅苦しくならないで。」

大公様は私の演じるジゼルを見てファンになったとおっしゃりました。

話してみると大公様は気さくな方でした。 

「また、君と会いたい。」 

そう言って彼は連絡先を渡すと帰っていきました。 

私がその後観劇のお礼の手紙を書くとすぐに返事が来ました。 

「2人きりで会いたいと。」 

時折喫茶店でお茶をしたり、街の花売り娘から買った花束をプレゼントしてくださったりと市民達と同じようなデートを楽しんでました。平民である私の前で横柄な態度を取るようなことはなく優しく紳士的な方でした。

私達が惹かれ会うのに時間はかかりませんでした。

「ミリー、ルドルフが今度ホーフブルク宮でお茶会を開くことになったんだ。」

ルドルフというのはオーストラリアの皇太子ルドルフ殿下のことです。殿下はジャンとは従兄弟同士であり、一番の親友です。

「それでミリー、君にも来てほしいんだ。」

ホーフブルク宮のお茶会に?私は最初は戸惑いました。着ていくドレスもありませんし、平民の私には場違いになるでしょう。 

 しかしジャンがどうしてもと言うので着いていくことにしました。ジャンが選んでくれた水色の淡いドレスを着て。




 私がマリーと出会ったのもルドルフ殿下のお茶会です。

お茶会は私とジャン以外招待客はなく、ルドルフ殿下の部屋へと通されました。

殿下の傍らにピンクのフリルのドレスを着た少女がいました。

「今日は君達に紹介したい人がいるんだ。」

殿下から紹介されたのが傍らにいる少女マリー・ヴェッツゥラ男爵令嬢でした。ウィーンの中でも指折りの富豪ヴェッツゥラ男爵の長女です。彼女は私の2つ年下です。



 数日後バレエ団の公演の後私に面会に来てるという人がおりました。

(ジャンかしら?)

そう思って応接室へと行くとあの娘がおりました。お茶会のときと同様ピンクのフリルのドレスを着てました。

「マリーお嬢様。」

「マリーで構いませんわ。ミリーさん。」

「ではマリー、今日はどうなさったの?」

「ごめんなさい、突然押し掛けてしまって。わたくし貴女と仲良しになりたいのです。」

マリーは私と文通がしたいと言ってきました。


 マリーへの手紙にはジャンのことを書きました。公演に花束を持って観に来てくれたこと、オペラを観に行ったこと、それからジャンの軍隊の仲間とピクニックに行ったこと等。

その度マリーは羨ましいと返事をくれました。ルドルフ殿下にはベルギーの王家から嫁いだ妃ステファニーがおりました。政略結婚で互いに愛情がないことは周知の上です。しかし人目のつくところで会うことはできません。

 マリーは殿下の従姉妹ラリッシュ夫人の手助けにより、ホッフブルク宮の殿下の部屋でひっそりと会っているといいます。

 王子様との身分違いの恋はバレエでも描かれるように女の子なら誰でも憧れるものでしょう。しかし実際のところは甘いだけでなく、寂しさが伴うものなのでしょう。




 1889年1月も終わりに近づいた頃私はマリーとウィーンのデパートに来ていました。マリーは殿下にホッフブルク宮の舞踏会に誘われたそうです。1月26日に行われる舞踏会は皇帝陛下が主催のもので有数の貴族達が招待されるのです。マリーが招待されたということは殿下との関係が公認のものになる。その時はまだ私はそんなことを考えていました。

私はマリーのドレス選びに付き合うことになりました。

「ミリーさん、私この三日月の髪飾りに合うドレスにするわ。」

マリーの髪には黄色い三日月の髪飾りが見えました。

「マリー、その髪飾りどうなさったの?」

「ルドルフがわたくしにプレゼントしてくださったのよ。」

マリーは嬉しそうに話します。

私は三日月に合わせてドレスを選びました。夜空をイメージした青いドレスを。

「これだと少し暗いわ。ルドルフに見せるのですもの。もっと華やかなものがいいわ。」

マリーはピンクのドレスを選び試着室に入ります。ドレスを着て試着室から出てきたマリーは本物のプリンスのようでした。

 




 1889年1月31日。マリーから手紙が来ました。それも郵送ではなく朝一で私の家まで使用人が届けてくれました。

封筒の中には手紙の他にマリーが殿下からもらった三日月の髪飾りも同封されていました。






「ミリーさんへ

  今日はホッフブルク宮の広間で舞踏会でした。ミリーさんと一緒に選んだピンクのドレスで行きました。ルドルフは広間へやってくると真っ先にわたくしをダンスに誘ってくださいました。

 ルドルフとのダンス。夢のような時間でした。ルドルフはわたくしを家族に紹介して下さりました。皇帝陛下と皇后陛下。お2人はわたくしを快く受け入れてくださいました。しかしステファニー皇太子妃からの鋭い視線にはひやりともしました。

 ルドルフは一度皇太子妃とは離婚を考えて下さいました。しかしベルギー王室からの反感を避けるため教会からの許可はおりませんでした。

 だからわたくしとルドルフは二度と帰らない旅に出ます。マイヤリングで。あの場所は雪景色も美しくルドルフも一度わたくしを連れて行きたいとおっしゃっていました。わたくしは今不幸には思ってはおりません。ルドルフと永遠に一緒にいられるのですから。 

 この三日月の髪飾りはミリーさんに差し上げます。どうかわたくしとルドルフのこと忘れないで下さい。うたかたの友情をありがとう。さようなら。

  1889年1月30日 マリー・ヴェッツゥラ」




 私はその日のうちにジャンと共マイヤリングの別荘へと向かいました。殿下の遺体は既に王室関係者によって運び出されマリーの遺体だけが横たわっておりました。

私とジャンはマリーに花嫁衣装を着せます。それから

「マリー、これは貴女のものよ。」

マリーの髪に三日月の髪飾りを翳しました。

「ミリー」

ジャンがやってきます。

「マリー、美しい花嫁になったね。向こうでルドルフと幸せにな。」

私とジャンは部屋を後にする。私達は南の島で新生活を始める予定です。きっとオーストリーには戻ることはないでしょう。

「ミリーさん、ありがとう。」

ミリーは親友の声を聞き振り向く。

そこには満面の笑みを浮かべ横たわるマリーの姿があった。窓の外はマリーとルドルフの結婚を祝うかのように雪がしんしんと降りつもっていた。


                 FIN

ジャンの恋人ミリーは実在の人物です。

踊り子であり、ジャンと結婚し南の島へ移りました。

 宝塚作品にも描かれています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 秋の公式企画から拝読させていただきました。 ヨーロッパ史にはあまり強くないので新鮮で興味深く読みました。 友を見送り、自らも旅立つ主人公に幸あれです。
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