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彷徨う道標 退魔師編  作者: sola
7/15

邂逅

「さて・・・どれからにする?」


彼はいつもの様に屈託のない明るい表情で僕に語りかける。

僕が一所懸命に頭の中を整理しようとしていると、


「じゃあまず僕の話をしよう。」


そういうと静かに話し始めた。


「僕は・・・もう君は見たと思うけど、両親はあのような職をしてる。

父さんが退魔師、母さんが巫女。

もちろん母さんは現役ではないけどね。




うちの家系は代々退魔師の家系で、母方の方は代々巫女をやっている。

結婚は、うちの家系に男の子、母方の家系に女の子が生まれたら、その時点で決まる。

好きとか嫌いとか、相性が合うとか合わないとか、本人の了承など一切関係なく・・・ね。


うちの家系に女の子が生まれると、母方の家に養子に出す。

母方の方で男の子が生まれると・・・別の血族の中から血筋のいいのを見つけてきて次世代の子を産んでもらうそうだ。


そうやって代々『力』を高めているらしい。


だから僕にも婚約者がいる。


僕よりさきにこの世に生を受けている人なんだけど、その人が生まれた時点で、うちの家系に男の子が生まれたらその男の子と結婚すると決まっていた。


で、僕が生まれてきたってわけさ。」


彼はここまで言うと背伸びをして手すりに両手をかけた。


僕は想像はしていたけれども、そのはるか上を行く彼の生い立ちとその家系に、正直なところこれが現代の話なのだろうか?とさえ思った。

そんな僕を尻目に彼は話を続ける。


「僕には結婚の自由はない。

もちろん僕の婚約者にもね。

この『力』を絶やさないように、そして『力』を強めていくことだけが僕と僕の婚約者に与えられた使命なんだ。」


遠い目をしながら淡々と話す。

いつものあの屈託のない表情は影をひそめていた。


「小さい頃から修行の毎日だった。

小学、中学までは義務教育といわれて、両親もしぶしぶ通わせてくれたけど、朝起きてから学校に行くまで、そして学校から帰ってきて寝るまでが全部修行だった。



僕は修行が嫌で嫌で、寝る時間を削って勉強をした。

いつか両親から離れてやろうってね。

そして親に黙って高校の受験をした。

かなり怒られちゃったけど、僕は普通の人みたいに普通の生活がしたかった。

ただそれだけの理由だったんだ。」


ふと彼が視線を下に落とした。

しかし今の彼にはその街並みは映っていそうにはなかった。

そして少し間をおいてから、


「僕が15になったときだったかな?

初めて僕に婚約者がいることを教えられた。

彼女は僕の2つ年上だって聞いた。

もちろん会ったことなんてない。

でも僕が成人したら結婚する決まりなんだ。

とだけ教えてくれた。


それからの修行は更に厳しくなって、僕はたびたび学校を休むようになった。

それでもなんとか卒業出来て、本格的な修行に入るっていわれたとき、


僕は黙って家を出たんだ。


とにかく家を出たかった。


どこか遠くに行きたかった。



そして普通の生活を送りたかった。



家を出てきたのはこの理由だけなんだ。」






僕は、僕の生活とは、いや僕の世界とはまったく違う別の世界の話に何も言えず、何もすることが出来なかった。


「僕がこの予備校に来たのも、別段意味があってのことじゃないんだ。

偶然にこの街に来て、見回したらこの予備校が目に入って、それでその足で受付に来たのさ。

そして君と出会った。

だからほんのちょっとでも時間の差が合ったら、今こうして話すこともなかった。」


そういうと彼は僕の方を振り返った。

その顔にはいつもの屈託のない笑顔が戻っていた。


「正直びっくりしたよ。

僕の一族以外で、君のような人がいるなんて・・・うちの母方にもそうは居ない。」


そういうと彼は空を見上げた。


「なんの考えも持たずに飛び出しちゃったけれど、君に会えて凄く嬉しかった。

家を飛び出した甲斐があったよ。

この世には僕と同じような人が居る。

僕一人じゃないんだって思ったもの♪」


そういうと彼は僕の方を向いてにっこりと微笑んだ。


「僕が君に会ってびっくりしたことはいくつかあるけれど、

ひとつは、修行もしていたように見えないのに気道が開いていること。

これは僕も初めてみた。

だって『気』が漏れ放題に漏れているんだもの。

だから最初遠くから浮遊霊の山がこっちに、つまりあの受付にだよ。

に向かってきたときには正直何事かと思っちゃった。

で、君がロビーに入ってきたときになるほど・・・と思ったんだ。

あれだけ『気』を放出させていたら、それに惹かれてどんどん集まって来ちゃう♪

僕が知りたかったのはこの点だね。

何か身に覚えない?」



僕は今までのいきさつを全部話した。

かつてお尻のあたりから背中を通って頭蓋に抜けて飛び出してった話もした。


彼は面白そうに僕の話を聞いていた。

そして、


「おおお!!

やっぱりあったんだ!

その後から沢山ついて回る様になったでしょ♪

そうか~やっぱり君は天然なんだね!!


きっと僕の父さんが聞いたら、養子にくれ!!って君のご両親に迫ると思うよ。」


そして


「それもさることながら、驚いたことは、ず~っと『気』を放出していて、何気ない顔をしてる。

僕が凄いキャパだね?って言ったのを覚えてる?」


「!確かにそう言われましたよね。

でも僕には何を言ってるのかさっぱり・・・」


「だろうね♪

普通・・・というか普通の人はまずやらないし、やれって言っても出来ないけれど、

気道を開ける修行をするんだ。

早い人で5年ぐらいかな?

遅い人だともっともっと沢山時間が掛かる。


気道が開いた人は、出来るだけ『気』を漏らさないように溜めて練っておく。

修行の為もあるし、何事か起こったときのためにね。

君みたいに出しっぱなしだとすぐに枯渇して、僕らでも下手すると寝込んじゃうんだ。

中には再起不能になった人もいた。

僕は修行中そうなった人を何人も見た。

それぐらい凄いことなんだよ。」



「そしてさっき、黒い影みたいなのが、背骨に入り込もう入り込もうとしてたって言ってたでしょ?

それは君の気道に入り込んで、君自身を乗っ取ろうとしてたんだね。

気道に入られちゃったら祓うのが大変なんだ。

言ってしまえば同化しちゃうんだからね。


しかし御神木で清めるっていう考えは凄いな~♪」


そういうと彼は腕組みをしながら何度も頷いていた。



そして彼は腕組みをしたまま、僕の方を見やり、


「でもこれであらかたの聞きたいことへの答えになったでしょ?」


「確かに!」


僕はあらためて彼の話術に感心した。


「あとは・・・」


「うん。女子寮のことだね?」


僕が頷くと彼は


「あれは裏庭さえきちんとして、お清めして、お供えしていたら、あのあたりの守護神として守ってくれるよ。

君もあの子たちには会ったんだろ?」


「うん。神気がうっすらと全員についてました。」


「流石だね!

やっぱり君だと話が早い♪」




僕はここで思い出した。


「そうだ、今度裏庭の掃除とお清めをするんだけど、そのときに氷室君も一緒に来てもらないかな?」


「いつ?

良いよ♪

君が行くなら僕も行く。

日にちが分かったら教えてね。

でも早い方が良いよ。」


「うん。

そう伝えとくね。」


ふと彼が何かを思い出したように考え込んだ。


「どうしたの?」


僕が尋ねると、


「うん・・・

やっぱりきちんと浄化しないとダメかも。」


僕はびっくりして


「ええ!?

龍神を!?」


すると彼は首を振りながら


「違うよ。

あの黒い影のこと。

写真に写っていたのはその一部だから、本体をきちんと浄化しとかないと・・・

そこに来る人たちから『気』を奪ってどんどん大きくなっていくからね。



また君の知り合いのようなことになっちゃう。

そのとき君のような人がその場にいるとも限らないし。」


僕はびっくりして聞き返した。


「確かに・・・でもあのポラロイド写真が黒い影の一部だって!?」


「うん。

あれは本体じゃないよ。

本体は写真を写した場所にいる。」


「あのさ、氷室君」


「なあに?」


「そのポラロイド写真を撮ったのは僕の知り合いなんだけど、その人はその場所を知ってるんだ。

だから、その人に場所を教えてもらって行くことが出来ると思うよ。」


「ほんと!?

じゃあ今度紹介して♪

一緒に行こうね♪」


そういって彼はエレベーターの方へ足を向けた。

が、再び途中で何かを思い出したように、


「あ、そうだ。」


後をついていくように後ろから向かっていた僕に振り向きながら言った。


「僕や、うちの家系の事を知っているのは、

君と、後は一部の政治家たちだけだよ。

だからこのことはその彼には内緒にしといてね♪」




「政治家!?」


「うん。

あの世界はやっぱり凄いよ。

僕が家に居たときなんか、毎週のように誰かしらが来てた。

テレビでよく見る人とか、あまりテレビに映らない人とか・・・

うちの家系は元々時の政治家のお抱え退魔師だからね。

そりゃもう浄化してるときは凄いよ~~

僕が小さいときにはそれを見て泣いたもん♪」


彼はそういうと笑った。


しかしその言葉でなんとなく理解した。


しかし、理解した内容は伏せておく。





その5 『邂逅』 完




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