手掛かり
ポラロイド写真の件があった後、暫く平穏な日々が続いた。
とはいえ毎日のように浮遊霊がまとわり付くのは変わらず、まあ周囲に悪さをするほどのものではないので放っておいている。
その横で長内君は必死な形相で、僕の周りにまとわりついているものを見ようと頑張っている。
暫く頑張った後に、
「ダメだあ~ぜんっぜん見えない・・・ほんとに沢山いるのお~・・・」
とさじを投げる。
「うん。今も長内君の前と後ろを通ってるよ。」
と言うと、
「うあああっ!!脅かさないでよっっっ!!」
大抵これに似たような会話が毎日のように、それこそ日課の様になっていた。
ある日長内君の友達という人にも会った。
もちろんオカルト関係の友達だ。
予備校のある駅から二駅先の待ち合わせの場所で、その友人を待っていた時、
「長内君、もしかしてあの人?」
と指差すと、
「そそそ!さっすがナナイちゃん!!もしかして彼にも霊能力があるの?」
と聞かれたが、
「いえ・・・黒い靄みたいなのが掛かってるから・・・」
「えええええええっ!!!!
あいつ、最近体調を崩してるんですよ・・・
やっぱり・・・」
「なんとかしないとね・・・」
長内君がその友人にかつての経緯を話し、さっそく先日の御神木のところへ向かった。
幸いにも先日の黒い影ほど禍々しくなく、御神木に清めてもらう事が出来た。
その友人が
「すげーな・・・こんな事が出来るなんて・・・
なんか身体が軽くなった!!」
と騒ぐ横で長内君が
「だろ~!ナナイちゃんは凄いんだから!!
もう興味本位で心霊スポットなんか行っちゃだめだよ!」
「お前自分の事は棚に上げて偉そうだなっ!!」
「俺はもう行くの止めたもん!ナナイちゃんの側に居た方が何倍も凄いし安心だし。」(おいおい・・・
「じゃ俺もそうしようかな!」(をいをい・・・
その友人の名は目黒幸一(めぐろ こういち:仮名)。
驚いたことに同じ予備校に通っていた。
なら待ち合わせを予備校にすれば良いじゃん・・・
こうしてもう一人、新しい仲間が出来た。
やはり仲間がいると心強い。
一人で悩まずに済む。
しかし、今だに『彼』とは接触することはおろか、見かける・・・いや・・・感じることさえなかった。
梅雨も本番を迎えた頃、
僕は用事があり、2、3日ほど予備校を休んでいた。
その日午後になってようやく予備校に行く事が出来た。
駅を降り、商店街を歩いていると、人ごみの向うやあちこちで僕と同世代と思われる人たちが走り回っている。
誰かを探しているのか?
そう思いながら僕は何気にそれを見ていると、前のほうから長内君と目黒君が走ってきた。
そして僕を見るや否や
「居たあ!!!!!!!!!!!!!!!」
「みんな!!居たぞ!!!!!」
あっという間に数人の人に囲まれた。
なんだなんだ?と思っていると長内君が
「ナナイちゃん!ここ数日どうしてたの!?
って言うか、ちょっと大変なことになってるんだよ。大至急来て!!!」
そういうと僕の手を引っ張るようにして走った。
途中で長内君が、
「うちの予備校の女子寮に出るんだって!
しかも目撃者がほとんど全員なんだよ!!
みんな気持ち悪がっちゃってて・・・」
女子寮に幽霊!?
なんかお決まりのパターンだな・・・
などと思っていたが、
その前に・・・うちの予備校って寮があったんだ!!
今更ながらにビックリした。
程なくしていつも利用している喫茶店に連れてこられた。
長内君が入り口のドアを開けて中に入り、
「遅くなってごめん!居た居た!!連れてきたよ!!」
その喫茶店はほぼ女の子で埋め尽くされていた。
その女の子たちは、女子寮に住んでいる子たちだった。
「弥生ちゃん、この人がナナイちゃん。
凄い霊能者だよ!!」
ええっ!?
「ナナイさん、何とかしてください!!
このままじゃ気味が悪くて住んでいられません!!」
この子が女子寮を代表して説明してくれた。
名前を中川弥生(なかがわ やよい:仮名)。
「僕は霊能者って言うほどじゃないですけど、僕に出来ることなら・・・
とりあえずどんな事が起こったのか教えてください。」
要約すると
深夜、寮の裏手側の部屋の窓から赤い光の玉の様な尾を持ったものがす~っと飛ぶのが見える。
飛跡は縞々に見える。
たまにぐねぐね飛んだり部屋に入ってきたり、これを全員が目撃。
しかもここ暫く毎晩の様に起こる。
色は赤、もしくはオレンジ色のときもあり、黄色い時もある。
ただし現段階で、別段これといって被害はない。
寮の敷地構成は
寮の裏手の庭が、手入れをされていなくて生い茂っている。
という感じだった。
僕は彼女たち全員を見渡した。
不思議なことに誰にも邪なモノがついていない。
これだけ一箇所に集まっているにもかかわらずにだ。
逆に先程の御神木にも似た『気』の感じもわずかに香る。
しばしその『気』に思いを巡らせながら感じてみた。
そして、
「多分ですが、それはその地を守護する龍神かと思います。」
守護しているかどうかは、本当は分からなかったが、彼女たちをこれ以上怖がらせないようにつけ加えた。
しかし彼女たちにその神気の香りがついていることから考えると、少なくとも彼女たちはその『気』に守られている。
それで話を続けた。
「ここにいる全員から神気の香りがかすかにしています。
普通こんなことはありえません。
邪なモノでわざと神気に似せた香りをさせるものも居ますが、僕は先日御神木から神気を受けてきたばかりなので、間違いありません。
ですから全員がこの龍神の加護を受けています。」
僕は一旦ここで一息入れ、コップの水を飲んだ。
彼女たちからざわめきが立った。
「ただ裏庭・・・」
僕がそう言い始めた途端、
「裏庭の井戸に草木が生い茂っているので、それを綺麗に掃除して清めないとならない・・・」
弥生さんが口を挟んだ。
僕は
「おお!良く分かりましたね!!
恐らくこの龍神はその井戸に居る、もしくは通路にしています。
この井戸からの出入りがし難くなっているので、それを伝えているのだと思います。」
さらにざわざわとはじまる。
「うそ・・・」
「なんで・・・」
「なんで二人とも同じことをいうの・・・・?」
僕が
「二人?」
そういうと、弥生さんが、
「実は一昨日にも、この話を聞いてもらった人が居るんです。
その人も貴方と同じことを言ってました。」
僕はピンっときた!!
「もしかしてその人・・・氷室・・・さん?」
「どうしてそれを?」
「やったあああ!!!!ついに見つけた!!!!」
僕は思わず立ち上がって叫んでしまった。
「お知り合いなんですか?」
「いえ、予備校の入学手続きの時に偶然僕の前に並んでいて、ちょっとお話をした程度なんですけどね。」
「彼も同じことを言ってました。」
僕はビックリした。
「え!?なんて?」
彼女はアイスコーヒーをストローで吸うと、
「彼には申し訳なかったんですけど・・・
正直心霊関係の方というのは信じていませんでした。
ですので、他の人にも聞いてみようって思っていたら・・・
『疑うのは自由だけど・・・そだ、この予備校にもう一人居る。彼にも聞いてみたら?』
って言われて・・・名前を聞くと、
『名前を教えたら彼と僕が裏で繋がってると思われちゃうだろ?
浮遊霊をたくさん引き連れているから、霊感のあるヤツならすぐに分かるよ。
僕も予備校の入学手続きの時に会っただけだけどね。』
と言われました。
私達にはそんな力はありませんから、心当たりのある人を探そうということになって、
それで手分けをして探していたら長内君と出会って、
そうしたら、多分あなただって言ってくれたんです。」
「そうだよナナイちゃん!霊を連れまわっているなんていったらナナイちゃんしか居ないでしょ!」
長内君が目を輝かせながら言う。
「あのね・・・」
「っていうかその氷室さんはどこに?なにクラスに居るんですか!?」
長内君の話を受け流しつつ僕が尋ねる。
「確か文Ⅰだったと思いますよ。」
ようやく彼の手掛かりを掴んで有頂天になる僕。
弥生さんが
「二人が同じ事を言ってくれたけど、彼の霊感って・・・」
と言い始めたので
「彼は正真正銘のプロです。僕の様な素人じゃありませんよ。」
僕はそう言うと喫茶店を後にした。