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彷徨う道標 退魔師編  作者: sola
3/15

出会い

あの日の翌日、僕は部屋から出た。

あの最中のトイレや水を飲みに行くときのそれとは意味が違う。

そして住み慣れた我が家であったが、その全てがまぶしく感じられた。



あの日から数日が過ぎてからの話。





僕は両親の勧めもあり、予備校に通うことになった。

家に閉じこもって勉強するよりも、気分転換にもなるだろうというのがその理由だった。


その予備校は電車で1時間ほどのところにある都会の大手の老舗予備校だった。


予備校の入学届けを出しに母親が一緒に行くことになった。

入学金は当時の僕には大金で、それで母親が一緒に行くことになったのだ。



電車に乗る前に銀行やら市役所やらへ寄ったので

予備校に到着したのは既に夕方だった。


「う~ん・・・都会はやっぱ沢山いるなあ・・・」


母親に気取られないように歩くことで精一杯だった。

既に僕の周りにはおびただしい数の霊が周回している。

何気に後ろを振り向くとぞろぞろと物凄い数の霊がついて来てる・・・


「こんなところに通っても大丈夫なんだろうか・・・」


僕は心の中で考えていた。



予備校は分かりやすい位置にあった。


警備員の人に尋ねると、受付は1Fのロビーだと分かった。


1Fの受付ロビーに向かった。

ロビーは全面ガラス張りで中の様子がよく見える。

ロビーの中には2組の先客がいた。


1組は父親と来ていて、現在受付中。

もう1組・・・正確には1人だったが、僕と同い年ぐらいの男の人がその後ろに並んでいた。




ガラスの自動ドアが開き、ロビーに一歩足を踏み入れたとき、


「妙だ・・・」


僕はそのときにいつもと違う感覚に襲われ、ロビー内を見渡した。

外とロビーではまるで空気が違った。


もちろん陰湿な感じや、重苦しい感じとかではない。

逆に妙に空気がハレているのだ。


このような都会の中では、神社仏閣以外でこんなにハレた空間を感じたことはなかった。

つまり邪気や邪なモノがまったく存在していないのだ。


僕と母親は受付の反対側にある入学手続きの用紙に記入していた。


その間僕はある人物に注目していた。

その人物とは、今受付で並んでいる1人で来ている彼だ。

彼の周りだけ、妙に空間が違う。

それは澱んだ水のなかで、まるでそこだけ清流が湧いているかのようだった。



前の1組が終わり、その彼が受付に進んだ。



用紙に記入が終わり、僕と母親は受付に向かった。


その彼に近づくにつれ、都会に到着してから僕にまとわり憑いていたものが、急に僕の後ろに移動し、集まった。

このロビーに入ってすぐに、『気』の弱いものは既に消えていた。

残っているのは『気』の強いものだけだった。


彼の、その周囲に広がる空間に入るとどうなるのか・・・凄く興味があった。

母親に振り向く様な感じで後ろを振り返りながらその空間に入ると、残っていた『気』の強かったものが全て消滅するのが見えた。



それは以前僕を助けてくれた霊の消え方とは違った。



もっと・・・こう・・・


・・・表現が難しい。



強いて言えば、僕のときには霊が自ら消えた感じがしたが、今のは強制的に消させられた・・・

と言えば良いのだろうか・・・

もしかすると今の消え方では、おかしな話だが霊自身が消滅させられたことすらも気付かなかったかもしれない。




ふと意識を戻すと、受付で彼と受付の人がなにやらもめていた。

よく聞くと、なにやら職業の話をしている。


「この様なご職業は・・・」


しかし彼は


「でも他に書きようがなくて♪」


と意外にも明るい。




「少し時間が掛かりそうだね。」


と母親と話をしていたら、彼と話していた受付の後ろの職員が


「後ろの人、こちらからどうぞ。」



と言うので、僕は彼の横から用紙を手渡そうと、用紙を差し出した。



ふと右下に目をやると、彼の記入した用紙がある。


見てはいけないとは思いながら、彼に対する興味を抑えることが出来ず、ちらりと見てしまった。

さっと目を通すつもりだったが、僕はある欄に目が釘付けになった。


両親の職業


父親 : 退魔師

母親 : 巫女


本籍 : 青森県○△□……



僕は心の中で叫んでしまった。


「た・・退魔師!?!?!?・・・青森県!!!」


普通の、常識ある人なら親の職業に冗談でも「退魔師」なんて書かない。

しかし、先ほどのあれを見てしまっては信じざるを得ない。


「なるほどな・・・通りで・・・」


僕は覗き見を悟られないように何気ない態度で無事、用紙を手渡すと、後ろにいる母親の元へ戻ろうと、彼に背を向けたその時、


「君もそうなんだ」


ポツリとまるで独り言を言うかのようにつぶやいた。


反射的に僕は彼の方を振り向いてしまった。



すると彼は僕を見やると僕の方に向き直り、


「僕は氷室聖(ひむろ ひじり:勿論仮名)、これから宜しく。」


と手を差し出した。


僕は恐る恐る手を差し出し握手を交わした。


「ぼ、僕は那乃・・・那乃御楷です。」


見かけよりもがっしりとした手。

しかも今まで交わした事がないほど、グッと手を握ってくる。

僕もそれに応えてしっかりと手を握り返す。



「へー凄いね君、よく僕の声が聞こえたなって思ったら、凄いキャパだね。」


彼の言っている意味が分からない。


怪訝そうな顔をすると、


「僕は名乗っていない。」


「?」


「僕は心の中で挨拶しただけだよ。」


「!!」


「それに、さっきもね。」


僕は驚きを隠せなかった。さっきとは「君もそうなんだ」っていうのも心で言っただけだったのか!?




そして彼は言葉を続ける。


「実は君がここに入ってくる前から分かってた。

普通呪われてでもない限りはあんなに連れてないし。

それでも君は平然としてる。

分かっているのかな?

とさえ思ったよ。

だから試しに『気』を放ってみた。

君はロビーに入ったとき中を見回したろ?

でも、ただこのロビーが珍しいのかな?とも思ったよ。

だって僕の気を受けても平然としていたからね。

そしたら逆に僕が君に注目されちゃった。」


といって笑った。


「これで僕の『気』が見えている・・・少なくとも感じていることが分かった。

それに君は、僕の『気』の中に入るときに、君の背後に回りこむ浮遊霊を意識してたろ?

しかも入る直前に後ろを振り返ったからね。

そしてその浄化を見た。

そこで君は思索にふけった。

これで君には僕の『気』が見えているって思った。

そして霊が見えていることも分かった。

だって感じてるだけなら何も振り返って見ることまではしないだろ?

そして何か以前同じような体験をしたか・・・行ったかは分からないけれど、

少なくとも浄化に思い当たる節があるんだって分かった。」


少し間をおいて、


「だから君も僕と同じ側の人間だって分かった。」


そこまで言うとやっと手を離し、今度は僕の母親に、


「これから那乃君と一緒に勉強させていただく氷室です。よろしくお願いします。」




といって頭を深く下げた。



ちょうどそこに


「氷室さん、たった今確認が取れました。あとは料金の支払いで入学手続きが終わります。」


かれは受付窓口の方を向きながら


「だから言ったでしょ♪」


そういうと彼は、財布からお金を出し、受付人に渡した。


「領収書を発行しますね。学生証は後で郵送します。」


彼は財布をしまいながら短く返事をすると、再び僕の方に振り返り、


「また今度ゆっくり話そうよ。」


そういうと彼はロビーから去っていった。


僕は少し混乱しながら、


「世の中には凄い人がいるんだなあ・・・僕と年も変わらないのに・・・」


圧倒されっぱなしだった。

僕は殆ど喋っていないのに彼の推理でどんどん話が進み、それがまるで僕のことが解っているかのように次々と当てていった。








「さっきの子知り合いなの?

ずっと手を握ったまま・・・何話してたの?

でも今時珍しい若い人ね。挨拶もしっかり出来るし。」


母親は彼を気に入ったらしい。



いずれにせよ、僕も彼もこの予備校の学生(?)になる。

この建物の中でいずれは出会えるだろう。


淡々と手続きが進み、手続きが済むと予備校を後にした。




その後母親と久しぶりに外食をして、帰路に着いた。





その夜、僕は部屋の中で今日のことを考えていた。


退魔師なんて小説や漫画の世界の話だと思っていたからだ。


「あの『気』が、プロの技なのか・・・浄化って言ってたよな。」


僕の知っている限りでは青森県というと恐山の口寄せ、つまりイタコと呼ばれる方たちのことだけだ。

もちろん詳しくなんて知らない。

もしかするとイタコの中にも退魔師のような事を生業にしている方も居るのかもしれない。

だがそれらは全て女性だ。


しかも彼はまだ若い。

いや若すぎると思った。



色々考えた後で、再び最初から思い返してみると、


「あ、父親が退魔師っていうだけで、彼が自分で退魔師って言った訳じゃなかったな・・・」


と気がついた。


「しかし、、、母親も巫女かあ・・・」


いずれにせよ彼が霊能者のサラブレッドであることには間違いない。




そこで再びはたと気がついた。


「でもなんで予備校?」




考えれば考えるほど謎が深まるばかりだった。








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