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彷徨う道標 退魔師編  作者: sola
2/15

たすくるもの

今日の話は、先日の話からの続きになる。

表題の「たすくるもの」とは「助くるもの」と書く。






先日の母校での件のあと、しばらく部屋に篭っていた。


妹が同じ高校に入ったので、両親も噂を耳にして僕を放っておいてくれた。



部屋の中で、一日中今まで僕が他の人から受けてきた事が走馬灯のように甦り僕を苦しめていた。



いつ寝て、いつ起きたのかも分からない日々が続いた。



今で言う引きこもり状態だ。



ただ、僕の場合、普通言われる引きこもりとはちょっと違ったと思う。


人によっては幻視や幻聴などが起こるというが、僕の場合、浮遊霊をどんどん引き込んでしまった。

思考がマイナスになると、どんどん惹きつけてしまうらしい。


ただでさえ『見える』僕には、部屋の中を徘徊するそれらが幻視でも幻聴でもないことを理解していた。



部屋中溢れかえる程の浮遊霊が集まり、身動きできないほどだった。


霊が僕の身体をすり抜けていこうが何をされようが、僕はそのとき恐怖心というものが、なんだか心からすっぽりと抜け落ちていたようで、なすがまま、ありのままを受け入れていた。


いつもなら霊が身体に触れようものならとんでもないことだった。

冷っとして触られた部分だけに鳥肌が出来る。

実際にその部分に触れてみるとひんやりとは違う冷たさが残る。

そして力が抜ける。

ごっそりと体力を奪われてしまうからだ。

しかしそのときにはそれさえも感じなかった。



ただ、一日、走馬灯のように廻る苦しみで一日が終わる。

こんな日が何日も続いた。





どれぐらいの日が経ったのだろう。


僕はふと、ここに集まってくる霊の事を考えるようになっていた。



「どうしてここに集まって来るのだろう?」


「ここに来る前はどこにいたのだろう?」


「何を考えているのだろう?」


「何を言いたいのだろう?」


「どうしてこの世に留まっているのだろう?」


「こんなに集まって・・・霊同士ではぶつかったりしないのだろうか?」


などなどだ・・・



もちろん応えなんてない。


ただ、観察していると、霊同士はお互いが見えていないのか、感じないのか分からないが、お互いがぶつからずにすり抜ける。


「そうだよな・・・でないとこれほどの数がこの部屋に入れるわけがないものな・・・」


変に納得する僕がいた。




霊にも色々な形や感じのするものがいることも解った。


形だけでも実に様々だった。



まるで生身の人間と見まごうばかりのものもいれば、形が崩れてしまっていて、男か女か以前に、人だったのかどうかさえわからないものいた。

中には丸くぷるっとした・・・そうだ、以前見たことがある、あの形をしたのものもいた。

やはり部屋の上辺りをぐるぐる回っている。


もちろん動物もいた。

はっきりと犬の形をしていたり、猫、鳥など実に様々だった。



それらはまた様々な感じをするものがいて、そしていろいろな動きをしていた。


見られる、もしくは近寄って来るだけで冷たく暗い・・・陰湿な感じを受けるものもいた。

悪意を周囲に撒き散らしているものもいた。

逆にまったく僕を意識しておらず、ただ普通に散歩でもしているかのようにぐるぐる部屋の中を徘徊しているものもいた。

ただ部屋の隅にじっとしているものもいた。

なぜか僕に興味津々のものもいた。

近寄っては遠のき、再び近寄って来ては遠のく。

そのくせ決して僕の身体に触れようとはしない。

まるで子供が知らない人に出会ったときのような感じだ。


その逆で僕にぴったりとくっついて、決して離れようとしないものもいた。

それは僕が部屋に引きこもったとき、一番最初に来たものだった。

僕の右の肩に頭を乗せただ座っている。

女性のようだが顔はよく分からない。

ぼうっとしていて焦点を合わせられないからだ。

髪はセミロングで上は淡い青味のかかったグレーのタートルネックのセーターの様なもの、下はエンジのスカートを履いていた。



中には僕に対し強烈に悪意というか敵意を感じるものもいたが、


「なぜそんなに悪意を持っているの?」




と、ずっと問いかけているうちに、数日後に徐々に見えにくくなり、やがては消えてしまった。


消えていく数と、新たに現れるものが交錯し、いつも部屋は溢れていた。




夜は、僕が敷きっぱなしの布団に入ると、覗き込むように見るものもいて、慣れるにしたがってなんだか気恥ずかしささえ覚えた。


朝になるとあれほど溢れかえっていたのに、その数が半分以下になる。


「朝はやっぱり弱いのかな?」


などと考えていた。


いつも僕にぴったりと寄り添っていた彼女は僕の右傍らに座って、じっと僕を見ていた。

僕が起きて座りなおすと、いつものように僕にぴったりと寄り添う。

なんだか不思議な感じだ。

僕がトイレなどに立つと、頭をまっすぐにして座っている。

トイレから帰って引き戸を開けるとその状態で座っている。

まるで僕の帰りを待っているかのようだ。


始めの頃は少し距離を措いて座ったが、なぜかじっと見つめられているようで仕方なくその隣に座りなおす。

すると再び僕の右肩に頭を乗せ、ぴったりとくっつきじっとしている。


ずっと座っていると身が持たないので、ゴロリと横になり漫画を読むこともあった。

彼女はそのときにも僕の方をうつむき加減でじっとみている。

最初の頃は気にも留めなかったが、いつもそうされていると霊であってもなんだかこれが普通の感じになってくる。

そう思いながらいつもの様に座りなおした。





夜になると再び部屋はいつもの様に溢れかえる。

昨日までいなかったものばかりだ。



その時にはまったく気付きもしなかったが、いつの間にか僕を苦しめていた走馬灯は少しずつ廻らなくなってきていた。





しばらくして、部屋の様子が少しずつ変わっていることに気が付いた。

いつも悪意を撒き散らしているものからの、その悪意が薄まっているのだ。


ふと周囲を見渡すと、いつもなら徐々に集まってくる霊の数が少ない。


「ずっと僕のところにいて飽きたのかな?」


などと考えていた。



夜になってそれが異変になって現れた。




みんな・・・薄くなっている・・・

しかもあれだけ部屋中溢れかえっていたのに、夜だというのに今では半分ほどに減っている。


慌てていつも僕にぴったりと寄り添っている彼女をみると、良かった・・・大丈夫だ。

薄くなっていない。


この部屋にいる限り、常にぴったりと寄り添うその霊に、僕は愛情にも似た感情を持ち始めていることに気が付いた。

僕がほっと安心したその瞬間、その身体が・・・少しずつ薄くなり始めた。



僕は気が動転した。

しかし僕にはどうすることも出来ない。


「消えないで!」


必死に心の中で叫んだが・・・必死になればなるほど彼女の身体は薄くなり、

遂には僕の目の前で消えてしまった・・・


僕はあまりに突然のことにしばし呆然としてしまった・・・


気が付くと僕は涙を流していた。

後から後から涙が溢れてくる・・・


どれぐらい経っただろうか、僕が涙を拭い、顔を上げたときには、

部屋の中で僕一人だけがぽつんと座っていた。




そして気が付いた。


僕の中にあった、先日のことや、小学生のときのこと、その他、僕のこの能力のために負わされてきた辛く悲しい気持ちが、軽くなっていることに。



「もしかして・・・」


「僕は霊たちに助けられたのかもしれない。」


僕はそう思った・・・



それは・・・

今だからこそ言えるが・・・




周囲の悪意を向ける霊は僕に対する周囲の気持ちを表し、そのことに対してきちんと前を向くこと。

子供のように近寄っては遠のく霊は好奇心のある人や、仲良くなりたい人たちもいるということ。

そして僕に無関心の霊は、僕が思っていたほど周囲は僕のことを気にしていないということ。


を教えてくれた・・・


そして、僕にぴたりと寄り添ってくれていた彼女は・・・

僕に感情を思い出させ、僕をずっと支えてくれていたんだと・・・実感した。




そして僕は・・・声をあげて泣いた。


他の人から見たら、きっと、遂に気が狂ってしまったのではないか・・・と思うほど泣いた。


たとえ霊たちにはそんな気がなかったとしても、僕にはこの部屋に集まってくれた霊は、

結果的に僕を救ってくれた。

















程なく僕は予備校に通うまでに復活した。


この経験は今の僕を支えてくれる大切な思い出だ。

このことに感謝し、そしてこれからも感謝を忘れない。



後に修験者にこの話をしたが、その話は、またいずれ・・・






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