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彷徨う道標 退魔師編  作者: sola
14/15

心霊相談事務所 中編

カランカランカラーン


僕が思いに耽っていたとき喫茶店の入り口が開く音がした。

みんなが振り向くと、そこには先日お清めの時に居た女の子が立っていた。

長内君がその子の傍により


「さささ!こっちこっち!

長内心霊相談事務所にようこそ!」


「なに決定してるんだよ!

ってか何で長内なんだよ!!」


すかさず強烈な目黒君のツッコミが入る!



「い~じゃない!

っていうかその話は後々!!!」


「っていうか普通なら那乃氷室心霊・・・とかにするだろ・・・普通・・・」


「ブツブツ言ってないで席を用意!用意!!」


「何で俺が・・・」


正直僕はあっけにとられて何も言うことが出来なかった。

氷室君を見ると大笑いしている。

・・・別段文句もないようだった。

数日間はこのような依頼者の話を聞き、それに対応するといった日々が続いた。

長内君の交渉術と氷室君の的確な判断と浄化能力のおかげでまずまずの滑り出しだった。

しかし



この楽しくも充実した日々の崩壊の序曲はこのとき既に最終章を迎えようとしていた。



僕が最初に氷室君の異変に気がついたのはさらに数日後のことだった。


一通りの対応を済ませ、閉店(とは言ってもいつもの喫茶店の閉店時間だが)した後、

僕は氷室君の様子がいつもと違うことに気が付き声を掛けた。


「氷室君、なんか最近痩せてきたね・・・

というかやつれた?」


そういうと目黒君も


「ここのところ連日だからな・・・

少し中断した方が良いんじゃないか?」




「そうそう!聖ちゃんはうちの事務所の要なんだからっ!

無理して体調を崩しちゃだめだよ~!」


すると氷室君は、


「大丈夫。

ちょっと夏バテしちゃった♪」


と言っていつもの様に笑った。

しかしその笑顔にはいつもの元気はなかった。



その翌日から事務所は一時臨時閉店に決定し、しばらくみんなで休養することにした。



氷室君は翌日予備校に来なかった。

次の日もその次の日も氷室君は休み続けた。


僕たちは氷室君を心配し、予備校の総務へ行って彼の住所を尋ねてみた。

今まで僕たちは氷室君の部屋に遊びに行ったことがなく、誰も氷室君の部屋の場所を知るものはなかったからである。


総務は実に事務的な対応だった。


「そういったことはお教えすることは出来ません。」


もちろんそれが当たり前の対応なのだが、僕たちは心配のあまり食って掛かってしまった。


「もしかしたら病気で身動き出来ないかもしれないんだぞ!!」


しかし総務の態度は変わらず、逆に僕たちは「厳重注意」を受けてしまった。






氷室君が予備校を休み始めてから既に一週間が経とうとしていた。

彼は依然として登校してこない。



ちょうど午後の授業が始まった頃だった。



《ナナイ君》



僕の頭の中で声がした。


「氷室君!大丈夫なの!?」


僕はびっくりして声を出して返答してしまった。

周囲も驚いて僕を見る。

先生にも


「お前こそ大丈夫か?」


と言われる始末だ。

長内君は流石に察知し小さな声で


「大丈夫なの!?今どこにいるの?」


と囁いた。



僕は長内君に手でちょっと待っての合図をすると心の会話に集中した。


《今、○○の駅のホームにいる。今から来れる?》


《うん!!今から行く!!ちょっと待ってて!!!》




僕は長内君に


「ちょっと行ってくる!後で連絡するね!」


と耳打ちし、

トイレに行くと言って教室を飛び出した。



その駅は予備校のある駅から5駅離れた駅だった。

そこには以前よりもましてやせ細った氷室君がホームのベンチに腰を掛けていた。

僕を見るといつもの様に片手を挙げ、


「やあ!

久しぶり。

元気だった?」

挨拶はいつもと変わらなかったが、声がまるで変わっていた。


「元気だった?じゃないよ!!

今までどうしてたの!?

それに何!そのやつれ方は!?!?!?」


それだけではなかった。

彼のあの澄み切って流れるような『気』が殆どない。

たまにちろりと顔を出す程度だ。


僕がそのことに気が付くと、氷室君は大きく嘆息して、


「・・・流石に僕も、

今回は参ったよ・・・」


と遠くを見るような目つきで僕に話した。


「今回のこと・・・って・・・

例の相談事務所の事?」



「ううん・・・

そのことじゃないよ。

そうじゃなくて・・・」


ここで一息入れ、少し険しい表情になり目を細めた。


「僕の居場所が感づかれてた・・・」


「誰に!?」


「僕の・・・婚約者さ。」


「婚約者!?

というと・・・あの巫女さんの?」


「うん・・・そう。」


「押しかけてきたの!?

っていうかどうやって住所を!?」


「まさか!

本人が直接来たわけじゃないよ。

生霊でさ。」


「生霊!?」


「初めて婚約者の顔を見たよ♪」


と言って力なく笑った。

そして


「もちろん最初のころは夢の中に現れた。

そして戻ってくるように僕に言ってきてた。

でも僕は今の生活が気に入ってるから戻らないって断った。



そしたらしばらくは大人しくしてたんだけど、先週からだっけかな?

今度は生霊で来るようになった。

これには参ったよ。」


「でも生霊なら祓えるんじゃ?」


「もちろんね。

でも、祓ってしまうと相手は死んでしまう・・・。」


「死ぬ!?

あ!・・・そか・・・『生』霊・・・なんだもんね・・・」


「僕は生霊の本体を殺さずに祓う方法を知らない。

だから、夜な夜な現れる彼女から身を守るために毎日結界を張り続けていたのさ。

もちろんこの結界に彼女の生霊が触れると死んでしまう。

だから一瞬たりとも気が抜けない。

彼女もそれを知っていて、あえて触れようとしてくる。

もちろん結界を解いてしまえば良いのだけれど、

そうすると今度は僕の身体を乗っ取ろうとしてくる。

だから結界を解くことが出来ない・・・」


「ま・・・毎日・・・それを!?」


「うん。」


そういうと彼はベンチにもたれかかり、上を見上げたまま目を閉じた。

そのまま寝てしまったのか気を失ってしまったのか分からないが、しばらくの間そのまま動かなかった。

僕は彼の隣に座ると、彼の手を握り先日の『黒い影』の時の様に意識して彼に『気』を送り続けた。



彼が再び口を開いたのは、日が傾き空が夕焼けに染まり始めた頃だった。




「ありがとう。」


それが最初に彼が言った言葉だった。


「君に『気』の操り方を教えてあげるよ。

ま、基本だけどね。

そして『気』を隠したり出したり出来るようにならないとね。」


しばらくそのままの状態でいたがゆっくりと頭を起こし、僕の手を解き手の平で自分の顔を覆った。


「連日だからね・・・

流石に僕も参った。

代々力を受け継いで来ただけはある。

ハンパじゃないよ・・・彼女は。

それで仕方なく、家を出て初めて父さんに電話をしたよ。

本体を殺さずに生霊を返す方法を聞く為にね。」


そう言うと手を下ろし目線を足元に落とした。


「『お前が帰ってきて修行をするなら教えてやる。』

ってさ・・・」


そう言って僕を見た。

そして再び視線を逸らし、しばらく彼は考える様に間を置いてから、


「『このままだと二人とも死んでしまうぞ。』

って言われた。

僕が死ぬだけなら問題はなかったんだ・・・

ただその巻き添えで彼女まで死んでしまう・・・

電話してから数日悩んだ・・・

そして今日、父さんに電話したんだ。」


彼はゆっくりと身体を起こして前を見据え、そして静かに言った。



「帰るよ・・・ってね。

でも、数日は待って欲しい、帰る準備をしないとならないからって。」




色々な意味で衝撃的な内容だった。

しかし、予備校を休む前の彼を、そして今の彼を見ると、とても「帰らないで!」とは言えなかった。






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