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彷徨う道標 退魔師編  作者: sola
13/15

心霊相談事務所 前編

お清めから数週間が過ぎていた。

僕ら4人はいつもの喫茶店でコーヒーを飲みながら話をしていた。


女子寮のお清めが済んだ後から、寮の子たちや寮の子の友達からの個別の相談が相次いでいた。

しかも大抵この喫茶店で話を聞くことが多い。

この日も一段落した後だった。


「もう・・・きりがないね。」


と僕が言うと、


「確かにここ連日だもんね。」



目黒君がため息混じりでそれに続く。


相談事と言っても、もちろん単に勘違いしているケースや思い込みのケースが殆どだが、

中にはやはり心霊スポット絡みで連れてきちゃっている子もいて、その場で御祓いするケースもある。

女の子の中にもこういった話が好きな人がいるんだな・・・と正直びっくりしていた。


しかし僕たちに理解を示してくれることはありがたいが、逆に多すぎるのもまた困ったものだ。

多い日にはそれこそ朝から始まり夕方までずっと相談を聞いていた日もあった。



「しかし何で僕らがここに居ることが分かるんだろう?」


と目黒君が言うが、そう言われてみるとそれもそうだ。

ここのマスターからも


「昨日君たちの事を探していた子が居たよ。

最近君たちが居ないときに君たちを訪ねてくる子が多いね~

モテるね~!」


とまで言われている。


「お清めの件で、最初にここで話し合いをしたからかな?」


「でもそれじゃ僕たちがここに居るっていう説明にはならないよ?」


確かに不毛な会話である。

誰にも分からないことだからだ。


「でもこのままじゃ授業が受けられなくなっちゃう・・・」


「それが問題だよね!」




学業が本分であり、その為にわざわざ予備校に通っているのだから問題である。

もっとも相談なんて無視してしまえば良い事なのだが、人間関係とは違って事は大変だ。

そこが悩みの種でもあった。



「そこで提案があるんだけど~」


珍しく今日は静かだな・・・と思っていた長内君がやっと口を開いた・・・と思ったらとんでもない事を口にした。


「このまま二人で心霊相談事務所でも開いちゃうっていうのはどお?

あ!マスターコーヒーお代わり♪」


そういうと、


「で、俺と目黒を雇って~ね!

交渉とか段取りとか、マネージャーの仕事は俺たちでやるからさ~♪

この四人で心霊相談事務所を開くのよ!」


するとなんと氷室君までもが


「それ良いかもね!」


などと言い始める始末だ。

僕は氷室君の生い立ちを知っているので、


「でもそれじゃ本末転倒じゃ?」


と言うと、


「あ・・・そうだね・・・

でも・・・こういう理由で始めるなら良いのかも?

やっぱり血かな♪」




「本末転倒って?」


僕と氷室君の話を聞いていた長内君が不思議そうに尋ねる。

僕が慌てて、


「ううん!

大した事じゃないよ。

ほら!えと・・・

こういった『力』って普通の人に避けられちゃうでしょ?

だからさ・・・」


「・・・良く分からないけど、その『力』が人の役に立つんだよ~!」


まったく説明になっていない僕の話に、なぜか長内君はこれ以上突っ込んでは来なかった。

しかもいつもより長内君の熱弁に力が篭っている。

「じゃあこれで決まりね!」


長内君が待ってましたとばかりに話をまとめようとする。


「こういうのはデリケートな問題だから、今決めちゃうことはないと思うよ。」


僕の困惑した表情を見て取ったのか、目黒君が助け舟を入れてくれた。

正直なところ僕は悩んでいた。

僕はこの『力』を今まで嫌っていた。

確かに氷室君がその『力』の使い方の方向を示してくれているし、現実にこの職業が成り立っていることも教えてくれた。

確かに人の役に立つ仕事(?)でもある訳なのではあるが、僕は複雑な気持ちで一杯だった。


僕が黙っていると、今度は氷室君が


「うん。

こういうことは勢いで決めるものでもないし、

強制させるべき物でもないしね。



興味本位で出来る仕事じゃないからさ。

それに・・・」


「そ・・・それに!?」


長内君が食いつく。

ここでなぜ氷室君が最初に肯定しておきながら、話を変えたのか・・・

その理由は後日分かる。



「それに、常に死と隣り合わせの仕事だからね。」


「・・・そ・・・そうだよね・・・

俺はマネージャーだからそこまでじゃないけど・・・

ナナイちゃんと聖ちゃんは最前線だものね・・・」

「いやいや、一番最初にヤバイのがそのマネージャーさんさ♪」


氷室君がさらりと言う。


「ええええっ!?

な・・・なんでっ~!?」


「だって、一番最初にそういった問題を抱えている人から依頼を受けるんだろ?

それに君や目黒君は、僕とナナイ君と親交があるから僕らの残留思念が付いている。

しかし君たちはこの方面の『気』が弱い。

除霊の話をしているときにその「相手」はなすがまま除霊依頼を聞き入れると思う?

相手は君に付いている残留思念を察知して敵とみなす。

しかし君自身には『力』はない。

すると、真っ先に対象になるのは・・・」


「いやあ~~~~~!その先は言わないでえ~~~~~~~!!!!」


長内君が耳を塞ぎながらもんどりうって目黒君に寄り掛かる。




「なるほど・・・適正が求められる・・・ということですね。

この間話してくれたように・・・」


と長内君をどかしながら目黒君が真剣な目で聞く。


「うん。

だから大抵依頼を受ける人は

お弟子さんか、本人が直接、ということが多いよ。」



しかし、ここで諦めないのが長内君の凄いところだ・・・

再び身を乗り出して両手をテーブルにつきながら


「じゃあさ~

取り敢えず仮っていうことで、試しにやってみるっていうのはど~お?」

それを聞いていた目黒君がなかば諦め顔で、


「お前・・・その性格どうにかした方がいいぞ・・・」


「何言ってるのさ~

諦めたらそこで終わりなんだから~!

俺は諦めないもんね~♪

俺はマネージャーがダメでも、

所長でも事務でも会計でもなんでもやるぞ~~!」


「所長って・・・おま・・・」


「何よ~文句ある?」


確かに長内君のこの性格に僕も助けられた訳だし、

それにこの常に前向きな性格は羨ましいとさえ思う。

それに、よくよく考えてみると、このメンバー構成は非常に良いと思った。

ムードメーカーで常にポジティブさで貫く長内君。

冷静で状況把握が上手く臨機応変に対応できる目黒君。



実践経験が豊富で、実力、知識共に優れる氷室君。


しかし僕は・・・どんな位置あるのだろう?

『見える力』はあっても、制御は出来ない、使いこなせない、知識もない・・・

その上、出来れば平穏な普通の暮らしがしたい・・・


何もかもが中途半端だった。


確かにここ数ヶ月で僕の周囲の境遇が180度変わったといってもいい。

しかし、心の変化までがこれについていけるのかどうかは別の話だ。


僕が思案している最中も話がどんどん進んでいた。

この辺りは長内君の面目躍如というところか・・・


しかし・・・

「・・・・・

・・・・・

・・・・なんだから!!

俺がなんで宣伝してると思ってるの!?」


「おまっ!!!!!」


目黒君が絶句する・・・無理もない・・・

はっと気が付き慌てて口を塞ぐ長内君だったが既に遅い・・・


「お前が言いふらした張本人か!!」


目黒君が席を蹴り立ち、指差しで長内君を激しく叱責する。

しばらく目黒君に言われるまま、失敗したーという感じで下を向きながらモゾモゾしていたが、意を決したように隣の席で立っている目黒君を見上げると自分も立ち上がり、


「それもこれもナナイちゃんと聖ちゃんの為でしょ!

せっかくこ~ゆ~『力』を持ってるんだもの!

この『力』をもっと有効に、そして人の為に使えるんだから!



それにこうした方が受験と相談とどっち付かずにならなくて済むんだから!」


「だけど人それぞれだろ!

それをなんの相談もなく勝手にお前が決めるなよ!」


険悪なムードが漂い始めた。

二人が激しく言い合い、まさに一触即発の状況に陥ってきた。


この状況を一変させたのが氷室君だった。


「なるほど♪

これで最近相談が多いのか分かったよ。」


そういうと氷室君は席を立ち、


「二人ともありがとう!」


二人に深々と頭を下げた。


「何でこんなヤツに『ありがとう』なんですか!?」


二人はお互いに声を荒げる・・・

すると氷室君は二人に


「僕は正直嬉しいんだ。

ナナイ君もだと思うけど、

僕たちの事でこんなに真剣になってくれること自体が・・・ね。

君たちと知り合ってからの僕の生活は一変した。

今までの考え方さえもね。

こんなに真剣に考えてくれる人なんていなかったんだ。

僕を・・・ナナイ君を受け入れてくれて・・・」


そこまで言うと氷室君は下を向き、右手で目を拭った。

しばらく氷室君は声を押し殺して泣いていた。



そして再び顔を上げると、にこやかな笑顔で


「二人ともありがとう!」


そういって右手を差し出した。

二人は黙ったままだった。


「僕からもお礼を言わせて!」


僕も今、この二人のやり取りを見ていて、胸が熱くなっていた。


氷室君の気持ちは痛いほど分かった。

僕は今まで上手く人とは付き合うことが出来なかった。

もちろんこの『力』だけの問題ではないかも知れない。

この二人の様に、知っているのに・・・いや知っている上で尚、何の偏見も持たず、ごく普通に接してくれるというのは、本当に・・・幼馴染を除いては、まずなかったと言っていい。




四人は握手を交わした。

僕たちは二人のおかげでより強く絆を深めることが出来た。




しばらく二人はばつが悪そうにお互いをチラチラ見ていた。

僕も氷室君も静かにそれを見ていた。



そんな中、やはり再び最初に口を開いたのは長内君だった。


「より団結が深まったところで!

実は~

既に何件か正式に受けてきちゃってるんだよ~!

っていうか~今後はちゃんと依頼を受ける形でしか相談は来ないようにするから~」



「ホント調子のいいヤツだな!」


苦々しく目黒君が毒づく。


「気が早いというか君らしいというか・・・」


氷室君も苦笑してる。


しかしそれを意に介することなく長内君は続ける・・・


「二つは・・・寮の子で、もう一つがうちの予備校の生徒の友達の大学生。

うちの寮の子の方は、一つが寮の子本人でもう一つは寮の子の友達だって。」


「ということは、ここ数日とさほど変わらないっていうこと・・・かな?」


氷室君が尋ねると、


「そそそ!

今までど~りって言うことよ♪」


「なんでお前が仕切ってるんだよ!」


目黒君が的確なツッコミを入れる。


「い~じゃない!

そ~と決まったら早速人助けよ!人助けっ!!」


「俺にはお前が楽しんでいるだけのようにしか見えんが・・・」


「人助けには変わらないでしょ!?

目黒は早くメニューを用意しなさい!!」


「何で俺が!?」




「だってもうすぐここに来るんだから!!」


「えええええええっ!?」


これには一同びっくりした。

それであんなにムキになって話を押し進めてたんだな・・・

というか、今までの事といい今回の事といい、長内君・・・絶対商売向いてるよ・・・




もう今まで通りに戻っている・・・


目黒君と長内君が言い争っているのを氷室君が楽しそうに見ている。

僕はその光景を眺めながら、

このまま永遠に時が止まってしまっても良い・・・とさえ思った。



こんな気持ちになったのも初めてのことだった。







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