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彷徨う道標 退魔師編  作者: sola
12/15

女子寮

僕は始発で予備校に向かった。

折りたたみノコギリと鎌、そして軍手とゴミ袋を持参だ。


ほぼ5時に予備校ロビー前に到着すると既に、氷室君、長内君、目黒君、弥生さんが待っていた。


氷室君はかなりの荷物を用意していたので、それぞれ手分けして荷物を持っていた。


女子寮へのアクセスは本来ならバスらしいが、流石にこの時間では運行していない。

仕方なく徒歩で向かうことになった。

それでも30分もあれば到着してしまった。





その場所はここが都会!?

と言いたくなってしまうほどの『気』が満ちた場所だった。

しかし流れが悪く、澱みがちだ。

すると氷室君が


「ビンゴだね♪」


と僕に言って片目を瞑ってみせた。




その寮へ入るにはまずこの表の道路から門をくぐらなければならない。

門に書いてある「○○○○予備校寮」というプレートがなければちょっとした公園の入り口の佇まいである。

敷地からすると南にあたる。

そこを通り抜けるとちょっとした小さな並木が続き、通路は洒落た赤レンガ敷きになっていて緩やかな上り坂だ。

その為に表の道路からは注意しなければ奥に寮があるとはちょっと気付きにくい。

その脇の地面に街路灯が植え込まれている。

現在でも洒落たマンションの敷地のエントランスとして十分に通用する景観だ。

およそ15mぐらいの石畳を抜けると正面の女子寮が建っている。

そのレンガ敷きの道は右側に緩やかにカーブしている。

思っていたよりも大きな敷地である。

敷地構造は、敷地の南側が表側で、北側が裏庭になっている。

この敷地は長方形ではなく、少しいびつな形状になっている。

寮は北側にオフセットして立てられているので、門側から見ると表側の、つまり南側の庭しか見ることは出来ない。

表側の庭は東側に行くにしたがって緩やかに下っており、敷地の東南側はレンガ敷きのちょっとしたテラス風の広間がある。その周囲は庭園風な造りになっており、夏にはここでビアガーデンが開けそうだ。

手入れも十分に行き届いている。

寮は洋風5階建てで部屋は全室2Kだそうだ。

寮のエントランスはなぜか東側にあり、その為に門から寮のエントランスへは先程のテラス風の広間を抜けていくことになる。



門からの道がここに通じ、そこからエントランスまで続いている。

この道はやはりレンガ敷きであるが、左右につつじの小さな植え込みが続いていた。

エレベーターも完備していて見かけは寮というより洒落たマンションだ。

部屋数は見た限りではおよそ4~50部屋ぐらいだろうか?

管理人はエントランス横の部屋に在住でセキュリティーも万全。


確かに手塩に掛けた娘を都会に送り出す両親の気持ちになって考えてみれば、このような装備になってしまうのだろう。


しかし正直なところ、僕たちは絶句してしまった。

なぜ予備校でこれほどの女子寮が必要なのだろうか!?と・・・

まるでリゾートマンションの様だ。


もしかしたらあの馬鹿高い入校料の大半がここにつぎ込まれているんじゃないのか?とさえ思われるほどの豪華振りだ。


しかも男子寮は存在しないという・・・


話がずれてきたので元に戻す。



僕たちはエントランスから裏庭に通じる道を進み裏庭へと足を進めた。


「ああ・・・」


思わずため息が漏れる・・・

表のあの景観は一体なんだったの!?

といわんばかりの背の高い雑草が好き放題生い茂っていた。

どうやら管理人さんは裏庭の手入れまでは行き届かないらしい・・・


そこの手前あたりにひしめく団体を発見した。

ここに住んでいる女の子たちが既に待機していたのだ。

今回参加できなかった人を除き、総勢で30名弱。

参加した全員が目撃者たちであった。



「あ・・あの二人だ・・・」


「こわいな~」


囁きがあちこちで聞かれる・・・


しかし気を取り直して・・・この人数なら早く終わりそうだ。




全員が横一列になって一気に刈り込んでいくことにした。

敷地の北東側は植え込みがあったので、


「ここは後回しにしよう。」


と氷室君が提案し、草刈がスタートした。

流石に人数が人数なだけあって、順調に進んでいく。


途中に色々な設置物(?)が発見され、もともと裏庭にもベンチやテーブルなどが設置されていることが分かった。

水色と白を基調にした明るい色だ。

上の階の人が言うのには、確かにそのような感じのものがある・・・とは思っていたらしい。

これが出てきたおかげで女の子たちも気が乗ってきたらしく嬉々として雑草を抜いたり刈ったりしていた。

一種の遺跡発掘の様な様相を呈してきたことは言うまでもない。


3時間ほどであらかたの雑草が片付いた。

もう日もかなり昇っている。

見回してみると表庭よりかは質素ではあるが、それでも裏庭としては十分過ぎる程だ。


ついにあの残しておいた植え込みの場所だけになった。

そこだけは草ではなく、なんの木か分からないが何かを囲っている。

その中の雑草を取り除くと小さな社があった。

かなり痛みが激しく、ところどころ朽ちている。



その社の中には古い井戸があった。

その井戸には木で出来た蓋で塞がれていた。

この蓋も既に朽ち、ところどころ腐っている。


「そろそろ僕の出番かな?」


といって氷室君が腕まくりを始めた。


「何をされるんですか?」


心配そうに弥生さんが尋ねる。


「心配ご無用♪

静かに見ててね。」


そう言うとその蓋に両手を乗せて静かに目を閉じた。



しばらくの間全員が息を潜め氷室君の動向を見つめていた。



しばらくして彼は振り返り、みんなに説明を始めた。



「ここは良い場所だね。

風水で言うところの龍脈、地脈とも言うけど、まさにその上に建てられている。

僕は風水は詳しくないけれど、非常に良い『気』の流れを感じる。

もちろん今は詰まっているけどね・・・


この土地がいびつなのはきっとその龍脈の流れに沿ったものだからだろうね。

そして恐らくだけど門の近くに昔は小川・・・があったんだと思う。

今は見えなくなっちゃってるけどね・・・

そこからこの井戸までが続いている。

表の庭の広いテラスはその道を通す為に開けてあるんだと思う。



ここを建てた人が、ここに住む人たちの成功と発展を願っていたんだね。

予備校の寮の場所として最適な地相にしたかった・・・のか

この土地を入手して、調べたところ凄い土地だと気がついて、このように建てたのかは分からないけどね。」


そう言うと井戸を見やり、


「井戸とこの社は相当古いから、たぶん後者だな。

その小川が既に地表にはなく、唯一の通路がこの井戸になっちゃったんだね。

しかしこのように朽ちてきてしまった。

それでみんなに注意を促してたんだと思うよ。」



そういうと持ってきた荷物のなかから日本酒にお米、塩、団子(?)などを色々と取り出した。

みんなに整列するように言うと、お清めが始まった。


井戸の前に小さな祭壇を造り、そこに日本酒とお米、塩を置き、敷地の四隅に日本酒と塩でお清めを行った。

その様子は地鎮祭に似ていた。


小一時間ほど掛かっただろうか?

無事に終了すると、先程お供えした団子と日本酒を全員に配り、


「龍神さまに感謝し、みんなで食べましょう!」


そう言うと氷室君は団子を頬張った。


みんなもそれに続いた。

僕はそんな氷室君を見ながら、


「流石だなーやはり氷室君は別格だよ・・・」


としみじみ実感した。



しばらくするとこの場所の『気』がハレ渡った。

『神気』が満ち始めたといっても良い。



「なんか空気が・・・変わった?」


「草刈したからじゃない?」


「違うよそんなんじゃないよ!」


「ほんとだ!」


「なんか清々しいみたい!」


女の子たちの口々からこぼれる。

すると氷室君が


「寮の管理人さんに言って、この御社と井戸の蓋を新しくしてもらった方が良いよ。

勿論そのときには神主さんを呼ぶべきだけどね♪

それに裏庭の手入れもお願いしてみたら?

それと、月に2度、お酒とお米と塩を今みたいに祭ると良いよ♪」


すると長内君が


「それに・・・あの刈り取った雑草の山もね~♪」


振り返るとゴミ袋にいれてある雑草が山のように積んであった。










僕たちは寮の子たちに見送られながらあの喫茶店に向かった。

ランチを注文すると、


「今回は聖ちゃんの独壇場だったね!」


長内君はいつの間にか『氷室君』から名前の『聖』しかも『ちゃん』付けに変わっていた。

すると目黒君が、


「今回だけじゃないでしょ!」


僕もしみじみ思っていたので、


「やっぱり凄いな~!」


氷室君は

「別にたいしたことないよ。

たまたま知っていただけさ。」


と照れくさそうに笑った。



今回は前々日から引き続き今日も肉体労働だったので、今日はランチが終わったら明日のために休養しようということになった。




翌日のことだ。

弥生さんと数人の寮の子が僕たちの教室にやってきた。


「聞いてください!!!」


その声は驚きの声だったが、決して悪い方の驚きの声ではなかった。


「実は昨夜、またあの赤い光が出たんです!!」



「ええっ!?」


僕たちはビックリして声を上げた。


すると別の子が、


「今までのよりももっと光ってて、しかも大きいんです!

それが寮の周りをぐるぐる回っていたんです!!!」


「元気になったんじゃなあ~い?」


と長内君がいつものとぼけた口調で言うと、


「そうかもしれません!その後全員が見守る中空へ飛んで行ったんです!!」


「良かったじゃないですか!

きっと貴女たちに感謝してたんですよ♪」


僕は彼女たちにまとわりつく強い神気の香りにそう答えていた。







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