ドッペルゲンガー
高校生活はいろいろなことがあたっが、最後の最後で・・・
高校生活最後から予備校までの話。
幼稚部時代(幼少編参照)の同窓会を無事に終え、
その後、無事に高校受験に成功し、「見える」事以外は、ごく普通(?)の生活を送ることが出来た。
まあ、些細ではないことも度々ありはしたがそれでもつつがなく無事に高校を卒業することは出来た。
しかし大学受験には失敗し、浪人することになったが・・・
その卒業式のあと、クラスで卒業記念パーティーがあった。
僕のクラスで進路が決定していないのは僕をいれて6名。
みんな浪人だ。
全員で盛り上がり、来年この6人の進路が「決定しているだろうから」そのときにまた全員集まって飲み会をやろうということになった。
「来年また落ちたらどうするの?」
「落ちるぞ~~こいつらなら♪」
という声に、
「全員が決まるまで何回でもやるぜ~!」
となり今日のパーティーはお開きになった。
今回の話は、クラスの卒業記念パーティーの翌日の話であり、
最も辛い思い出のひとつでもある。
朝、母親に起こされた。
今日から高校へは自由登校で、実質行かなくて良い。
逆に暇なら来ても良いぞ、という程度だった。
だから春眠をむさぼっていた。
「う~~~ん・・・誰から?・・・今何時?」
「お前のクラスの水沢(仮名)さんだよ。」
大あくびをしながら時計を見やると朝の10時30分ごろだった。
眠い目をこすりながら受話器を受け取った。
「もしもしどうしたの?」
寝ぼけ状態でしがない挨拶。
しかし相手はまったく違った。
「どうしたのはこっちよ!」
「どうしたの???」
「どうしたもこうしたもないでしょ!!なんであんたあんなところに居たの?」
「んん?・・・いつ???」
「今朝よ今朝!」
「今朝???今電話で起きたんだよ・・・」
「???なに寝ぼけた事言ってるの!!
さっきお母さんと一緒に朝の買い物に行ったら、あなたが青白い顔をしてとぼとぼ歩いてたのよ。
お母さんと一緒に見たから間違いないわっ!
何かあったの???受験に失敗したから???」
「???」
「クラスメイトなんだから何でも相談してよ!」
「あの・・・」
「なに?」
「話が全然みえないんですけど・・・」
「はあ???何言ってんのよ!!!人が心配して電話してるのにっ!!」
何でも、その子が母親と朝食の買出しに出かけたところ、彼女の近所のスーパーの前の道を青白い、思いつめた顔をしてとぼとぼと歩いていたらしい。
声を掛けても見向きもせず、黙って重い足取りで静かに歩いていたそうだ。
母親とは「ミカイ君に間違いないよね」と確認したそうなので、間違いないと言う。
しかしちょっと目をそらした隙に見失ってしまったそうだ。
しかし、この話はこれだけに留まらなかった。
僕はそれから仕方なく起きて、部屋の片付けなどをしていた。
今度はフローリングではなく畳の部屋で、ベットではなく布団だ。
その布団をたたみ、そしてこれから使う参考書と、もう使わない参考書や教科書をダンボールに詰めていた。
僕の部屋は家の改装の後、元両親が住んでいた部屋に移っていた。
昼も過ぎた頃、再び電話が鳴った。
母親が
「先生から電話よ。」
「先生?なんで??」
「さあ・・・浪人の気構えでも教えてくれんじゃない?」
「なんだよそれ!」
僕は何も考えず受話器を取った。
すると
「ナナイ、お前大丈夫か!?」
「はあ?大丈夫ですよ。・・・って何がでしょう?」
「何が・・・ってお前・・・」
しばし先生は考えるように黙り込んだ。
そして・・・
「いいかミカイ、実はみんなが心配してる。」
「心配?受験のことなら大丈夫ですよ。気にしてませんから。」
「そうじゃない!今クラスの間で大騒ぎになってるんだ。」
「何がですか?」
「お前が・・・」
「はい・・・」
「自殺し・・・するんじゃないかってな・・・」
「ええっ!?」
「先生のところにな、今朝になって電話がひっきりなしに掛かってくるんだ・・・お前を見たってな・・・」
「はあ?」
「しかもみんな思いつめたような顔をしてたって言うんだぞ!!」
「そう言えば今朝、水沢からも電話がありましたよ。」
「それだけじゃない!クラスのほぼ大半のヤツがお前を見てるんだ!
今クラスにみんな集まってる。お前もすぐに来て説明しろ!!」
僕は何がなんだかさっぱり分からないまま、高校に向かった。
「あっ!ミカイ!」
「ナナイ君!!」
「お前一体どうしたんだ!?」
「良かった・・・生きてた・・・」
このクラスの騒ぎぶりに動揺した。
実際にはクラスの半分以上の生徒が集まっていた。
「一体どうしたの?何があったの?っていうか・・生きてて???」
すると元学級委員長の安藤君(仮名)が、
「・・・いいかミカイ・・・これから俺の言うことをちゃんと聞けよ、説明する。
ここに来ているみんなが、今朝、それぞれの場所でお前を目撃してる。
ここに今日来れなかったヤツもいる。」
「はあ???」
「お前が今ここにこうしているんだから、その反応は分かる。
しかしもう一度言うが、みんながお前を見てるんだ・・・」
説明されてもさっぱり僕には分からない。
僕がみんなの前に現れた・・・
どういうことだ?
「いいか、お前が現れた時間は、大体朝8時から9時の間だ・・・この時間内にここに居る全員の家の近くに行くことは出来ないだろ?
だからお前が自殺して、それでみんなの前に来たんじゃないか・・・って騒いでたんだ。」
「!?」
「だからお前がここに来てくれたことでみんな安心してる。」
みんながほっと胸をなでおろし始めたとき、
「ちょっとまって!」
そう口を挟んだのは水沢さんだった。
「自殺してみんなのところに顔を出したんじゃないのなら、じゃああれは何だったの?」
この場に居た全員の息が止まった。
「そ、そうだよな・・・」
「自殺者が現れるって言うのは聞いたことあるけれど、生きた人間が・・・なんて聞いたことないよ・・・」
「私・・・一体何を見たのっっ!?」
恐怖からか、一気に口々から不安が飛び出す。
「おいおいおいおい・・・シャレになってねぇぞ・・・ミカイ・・・お前・・・本物か???」
と僕の肩を叩いた。
僕の前に立ったのは仲の良い立原君(仮名)だ。
「本物に決まってるだろ!当たり前の事言うなよ!」
もう・・・というか元々話が見えない僕には何を言われているんだかさっぱり分からない。
しかし話の内容だけは分かった。
つまり、僕が今朝みんなの、それぞれの場所に同時に現れて、それを目撃したみんながここに集まった・・・
ということだ。
しかも僕を心配してくれて・・・
すると先生が、
「自殺してないって言うことが分かったんだ。見間違いっていうことで良いじゃないか。」
そして僕の方に振り返り、
「だがミカイ、見間違いでもこうしてみんなが心配してくれてるんだから、感謝しないと駄目だぞ。」
こうして一応幕引きになりそうになった時だ・・・
「ぼ、僕知ってるんだ・・・」
とボソリと声がした。
みんながその声の方を振り向く。
声の主は佐藤君(仮名)だった。
普段から物静かでクラスでも目立たない方だった。
「何を知ってるんだ?佐藤?」
立原君が聞き返す。
「・・・・・・僕・・・前に聞いた事があるんだ・・・」
「だから何をだよ!」
他からも声。
「焦らしてないではっきり言えよ!」
周囲から次々に言われて萎縮する佐藤君・・・
しかし発せられた言葉に一同が驚いた。
「だ・・・だからっ!ナナイ君は霊能者なんだ!!!!」
「はあ?何言ってんだ佐藤?」
「今時霊能者?」
「こんな時に何言ってるの?」
再び野次が集中し、ますます萎縮しているかに見えたが、
「僕は小学校の時に隣のクラスだったんだ!!!!」
半ばヤケともキレたとも言える様な・・・でも怯えた声で叫んだ。
シーンと静まりかえる・・・
「お、おい・・・こんなときに冗談なんて言」
立原君が制そうとした途中で、
「冗談なんかじゃない!!
小学校のときに、僕のクラスで・・・こっくりさんが憑いちゃった子がいたんだ。
その子を救ったのがナナイ君なんだよ!」
再びみんながざわつき始めた。
「こ・・こっくりさん!?」
「小さいときに流行ったあれ???」
「ま・・・まぢで・・・」
様々な声が上がった。
「でもあれってインチキなんでしょ?」
すると佐藤君が
「インチキなんかじゃない!その霊が憑いた子を連れに来た子から聞いたんだ・・・ナナイ君は霊が『見える』んだって!だからこれから御祓いをするんだって!!!」
「霊が見える!?」
「うん・・・それだけじゃないよ・・・その連れて行った子から・・・その子の家の話を聞いた・・・」
「な・・・なんて!?」
「早く言えよ!!」
恐怖がみんなを襲い始めていた。
「まるで・・・いろんな動物の死体や虫の死骸が沢山あって・・・薄暗くて墓場みたいだったって・・・
そしてナナイ君がお祓いしなくちゃ助からないって!!
それでナナイ君が御祓いして、でもこのことが学校にバレるとまずいからって引っ越ししてもらたんだって!!」
「違うよ!僕には御祓いなんて出来ない!御祓いした方が良いって言っただけだ!それに引越しなんて頼んでないよ!!!」
僕は思わず叫んでしまった。
はっと気がついたが、そのときには全てが遅かった。
教室内は凍りついていた。
先ほどまで隣に居た立原君でさえ、後ずさりして離れた。
しばらくの沈黙の後、
「お・・俺も同じ小学校だったけど・・・その話・・・知ってる・・・でも・・・それがミカイだったなんて・・・」
「う・・そ・・・・ほんとなの・・・それ・・・・」
「お・・・お前・・・な・・・何者だ???」
「い、今まで・・・俺たちを騙していたのか・・・?」
「そういえば・・・一緒に帰ったとき・・・誰も居ないのに何かを避けるような動きしてるの見たことがある・・・」
ふと先生の方へ視線を向けると、
先生までもが怯えたような目で僕を見ていた。
この瞬間、僕の高校生活で得た全てのものを失ったと実感した。
「小学校のときもこうだったよな・・・」
僕は黙って教室から去った。
PS.
僕がなぜクラスのみんなの前に姿を現したのだろうか?
無意識のうちに生霊で現れたと考えられなくもないが、その理由がさっぱり分からない。
それとも確かにあの時間帯は寝ていたので、もしかしたら無意識のうちに幽体離脱を起こしていたのだろうか?
この場合にしても、現れた理由は今も全く分からない。
こんな辛い目に遭うのであれば、こんな能力なんていらない。
これが僕の正直な気持ちだ。