水魔法について考える
数字だけはたくさん出していますが、内容は大変バカバカしい考察ですm(_ _)m
ファンタジーな異世界の細かい世界観、設定を詰めていくとき、『水』について考えることはありますでしょうか。
なんでこんなテーマで書きたくなったか。それは、物語の舞台を魔法ありの異世界にしたとき、魔法がその世界の文化や生活事情にどれくらい影響を与えるのかを、ふと考えてしまったからです。
ファンタジーの世界でよくある魔法は、火・水・風・土・光・闇、この六種類でしょうか。
ここではじめに考えるべきは、以下の事項です。
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①有を移動集約するのか。それとも、
無から有を生み出すのか
②有を無にすることはできるのか
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順番に考えていきましょう。テーマに従い、『水』について例を挙げていきます。
【①有から移動集約するのか、無から有を生み出すのか】
言葉の通りです。何にもないところに、あたかも手品のように、魔法で水を出現させるのか。それとも、すでに存在する水を魔法によってかき集めてくるのか。
これはとても大事なことです。
なぜなら、手に入る水の質と量に関わるからです。水魔法の内容が前者の場合、その水はきれいとは言いきれないですよね?
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有を移動集約するのか
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仮に、その水魔法が術者の近くにある水場から水を引き寄せるもの――要は、水の運搬の手間と労力を省くだけの魔法――だったらどうでしょう? 魔法で得られる水は、飲み水にできる綺麗な泉の水の時もあれば、ヘドロの上澄みのような汚水の時もありますよね? 街中で魔法を使ったら、それこそ鍋のスープにお風呂の水に……大変なことになりそうです。
魔法で得られた水の利用法は、水質の良し悪し次第です。飲み水にできるかどうか、どれくらいの量を得られるのかは、その世界の生活環境を左右しますので、とても重要です。
また、移動集約原理の水魔法ですと、魔法を使う度に、川なり池なりの水が汲み出されて減ることになります(その世界で質量保存の法則が成り立つなら、減りませんが)。コップ一杯程度なら微々たるものですが、昨今のファンタジーに見るような極大魔法だと、自然界への影響も計り知れないものになるのではないでしょうか。
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無から有を生み出す水魔法の可能性
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逆に後者――無から有を生み出す魔法――の場合ならどうでしょうか。
(※ここで言う『無から有』とは、いわゆる『魔力』という謎物質を『水』に変換する方式も含みます)
絶対とは言いきれませんが、水質に関しては『得られる水がきったない汚水かもしれない』という心配をする方は少ないと思います。
とりあえず、この方式で得られる水の水質を、飲み水にできる程度、と仮定します。
もしも魔法で水を得ることができるなら。
その世界の人々の生活環境、考え方にはどんな変化が訪れるのでしょう。
〔考察〕魔法で得られる水の量で、世界はどう変わるか
<レベル1:飲料水>
『その世界の住人全員が、飲料水を魔法で確保できる』
厚生労働省の提唱する、人間に必要な一日の水分量は、成人で約2.5リットルです。この2.5リットルのうち、食品から摂取できる水分が1リットル、体内の代謝で作る水が0.3リットル、飲み水として摂取できる水分が残りの1.2リットルとされています。
(資料1)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【一日に必要な水分量の算出方法】
体重(㎏)×年齢別必要量(ml)
〔年齢別必要量〕
~29歳 : 40ml
30~55歳 : 35ml
56歳~ : 30ml
新関西衣料サービス株式会社HPより
https://www.shinkansai.co.jp/news/1142
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また、人間の身体が一度に吸収できる水分量は200~250ml(コップ一杯程度)です。それ以上飲んだ水分は、尿として体外に排出されてしまいます。『飲み貯め』はできないのですね。
もし水魔法で、この『コップ一杯の水』が簡単に出せたらどうでしょうか?
食品から摂取できる水分も合わせて、2.2リットルの水――コップ換算で約10杯分、ペットボトル換算なら2リットルペットボトル1杯と500mlペットボトル半分あれば、一日の飲料水は事足りてしまうのです。
もちろん、暑い夏や湿気の多さで大量に汗をかく環境下にいるのなら、この限りではありません。
私は若い頃、炎天下の埼玉県熊谷市を重いリュックを背負って旧街道ウォーキングするという無謀をしたことがありますが(真似しちゃダメですよ!)、短時間で2リットルペットボトルを一人で一本空け、さらに500mlペットボトルを買い足しても干からびそうになりました。だって飲んだ端から汗になって出てしまうんです。当時、確か数時間は歩き続けたはずですが、これだけの量を飲んでも一度も尿意を感じませんでしたし、飲まなきゃ死ぬなと思いました。
繰り返しますが、一日2.5リットル・一回200~250mlというのは、汗をダラダラかかない環境下、での話です。
でも、一日2.5リットル――作中でうっかり『この世界には魔法が存在しており、コップ一杯程度の水を出すなら平民にでもできる』と書いてしまうと、極端な話、その世界では飲料水確保の努力や行動が不要になるわけです。
魔法で生きるのに必要な水(それも清浄な水)が得られるなら、飲み水が原因の食中毒や伝染病とは縁がなくなるでしょう。水質濾過の技術も生まれないかもしれません。
アルコール飲料が重視されなくなる可能性もあります。
中世ヨーロッパの歴史を眺めていますと、ワインやエール、ジンなど『お酒』の存在感が濃いですよね。なぜなら『お酒』は①生水に比べて安全で、②高価なパンが買えない庶民にとって栄養価が高く、③身体を温めてくれるからです。
水魔法で安全な飲み水が確保できるなら、少なくとも①の理由で『お酒』を求める人はいなくなるのではないでしょうか。
さらにさらに。ファンタジー冒険小説を書く上でこの設定なら、重い飲み水を持ち歩く必要がなくなりますね。謎物質『魔力』の補給だけを考えればいいので、いわゆる『魔力回復ポーション』さえ持ち歩けばOK?
自作の舞台設定を決める際、魔法でどこまで可能にするのかは、注意が必要ですね。
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<レベル10:生活用水>
『その世界の住人全員が、現代人並みの生活用水を魔法で確保できる』
グッとレベルアップいたしました。
レベル1は『飲料水の確保』でしたが、私たちが日々使うのは飲料水だけではありません。日本人はお風呂が大好きです。トイレも水洗、食器洗いに洗濯掃除。レベル10では、私たちが一日に使う生活用水について考えていきたいと思います。
(資料2)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【一人が一日に使う水の量】
世界平均:186リットル
◆世界各都市別使用水量(2018年)◆
東京(224)
ロンドン(140)
リヨン(150)
シンガポール(151)
メルボルン(145)
オークランド(179)
サンフランシスコ(233)
サンディエゴ(397)
〔単位:リットル〕
公益財団法人 水道技術研究センターHPより
http://www.jwrc-net.or.jp/map/shiyouryou_map.html
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上のデータを見てみますと、東京の使用水量に比べてヨーロッパの都市の使用水量は70リットル以上も少ないですね。これは、カラッとした気候かジメジメ多湿の気候か――つまり、お風呂習慣(たまのシャワーか、毎日湯に浸かるか)が関わってきています。
また、サンディエゴの使用水量ですが、内訳で最も多い(53%)のが、屋外使用(水まきとか)だそうです。暮らす環境によって、水の使い途も大きく変わるのですね。
一日に使う水の量の使い途内訳も書いておきます。
(資料3)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【一日に使う水の量の内訳(日本)】
風呂:40%(89.6)
トイレ:21%(47)
炊事:18%(40.3)
洗濯:15%(33.6)
洗面他:6%(13.4)
割合は東京都水道局HPより
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/shiyou/jouzu.html
()内の数値は(資料2)中、東京の数値(224)に上記割合をかけたもの〔単位:リットル〕
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魔法でもし、これだけの量の水が確保できるなら。
井戸を掘る必要って、ありますかね?
水道って要ります?
毎日綺麗な水で身体を洗えるなら、衛生面が著しく向上します。平均寿命が延びたり、乳児死亡率も低下するかもしれません。また、毎日洗濯できるならノミ・ダニに悩まされる生活ともサヨナラできそう(カラッと乾く――晴天が続くなど気候にも左右される)。洗濯技術が発達するかもしれませんね。
ご注意いただきたいのは、この時点では『排水』についていっさい考えていないことです。綺麗な水は魔法でいくらでも出せる。なら、汚れた水はどうするんですか?
そこら辺に垂れ流す? 全部川なり海に流す? 河川の悪臭がひどくなるかもしれません。また、排水技術が未発達のまま工業廃水とかが出てくると、凄まじい勢いで汚染が進みそうですね。
生活用水を魔法で賄えるようになった場合、その世界の人々の『汚染』に対する意識はどうなるのでしょう。人間は、本格的に困らないと「何とかしよう」とは思いません。困った原因がわからなければ、対策も打てません。排水技術を磨こうとすらしないかもしれません。気になるところです。
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<レベルMAX:人工河川>
『その世界の住人全員が、25mプール一杯分以上の水を魔法で確保できる』
<レベル10>の時点で、ファンタジーあるある『中世ヨーロッパ風世界観』は、史実を参考にできないレベルで変質してしまうと思われますが、いきなりMAXまでレベルをぶちあげます。もはや何でもありレベル……。
(※大雑把な数値を出したいので参考数値もおおよそになります)
プール一杯分の水ってどれくらい?
(資料4)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【一般的な25mプールの容積】
25m×16m×1.5m=600m3(60万リットル)
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何を検証しようとしているのかというと、魔法で人工河川を作る――国家規模の土木工事が何人でできちゃうかな? というのを知りたいわけです。
史実上の文明は、大河の流域に発生しました。川は生活用水、農業用水の供給源であり、条件にもよりますが、物流の要です。
人工河川――運河をらくらく作れてしまうのなら。
貯水目的のダム、要りますかね?
水道橋、造られますかね?
とりあえず、実在する運河を例に挙げてみます。
(資料5)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
道頓堀川 延長2.7㎞ 幅30~50m 水深3.5m
小樽運河 全長1.3㎞ 幅20~40m 水深2.4m
カナル・グランデ 全長3.8㎞ 幅30~90m 水深5m
コリントス運河 全長6.3㎞ 幅21~24m 水深8m
スエズ運河 全長193.3㎞ 幅205m 水深24m
パナマ運河 全長80㎞ 幅91~200m 水深(最も浅い所で)12.5m
〔数値の大半はウィキペディアさんより〕
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スエズ・パナマの大運河は置いておくとして、小規模(?)な運河の幅は狭いところで20~30m。水深は思っていたより浅い! 5mあればヴェネツィアのゴンドラは航行可能ってことでよいのでしょうか。
てことで、幅30m、水深5m、長さnキロの運河を造ると仮定して、容積は、
30m×5m×n×1000=150000n立方メートル
この数値を25mプール容積(600m3)で割ると、
150000n÷600=250n
つまり、人一人が水魔法で一日に出せる水量が25mプール一杯分だとすれば、1㎞あたり250人が水魔法をぶっ放せば運河の流量(小型の船が航行できる水量)を出せる……はず。
ちなみに、100mあたりなら25人で出せます。
だんだん何をやりたかったのかわからなくなってまいりました。でも続けます(意地)。
水を出しただけでは運河にはなりません。洪水が起こるだけです。運河を造るためには、地面を掘らなければいけません。
思い出してください。私ははじめに何と書いたでしょうか。
ファンタジーの世界でよくある魔法は、火・水・風・土・光・闇、この六種類。
そうです! せっかくですから、土魔法とやらの力も借りましょう。ここで使う土魔法は、移動集約型(無から土の塊を出すのではなく、そこら辺の土を移動集約、変形させる)とします。
ファンタジーでよくある土魔法(極大)といえば、泥人形の巨人です。運河をチマチマ手堀りする必要はありません。そこら辺の土を移動集約させてゴーレムを造れば、土がなくなった分だけ地面に大穴があきます(たぶん)。このやり方でいいじゃない!
人間一人が一日に移動集約できる土の量を、水の極大魔法と同様25mプール一杯分としますと、運河を造るためには、100mあたり25人の土魔法使いと25人の水魔法使いがいれば可能となります。
蛇足ですが。ガンダムの身長はおおよそ18mだそうです。幅と奥行きの数値がわからないので正確なことはわかりませんが、もし、一人あたり25mプール一杯分の土を移動集約・変形できるとしたら、三人くらい集まればガンダム(※泥人形)作れそうですね!
【②有を無にすることはできるのか】
運河やらガンダムの話を書きすぎて、最初のテーマを忘れかけておりました。
今までは、水を『生み出す』ことばかり考えてきました。次は、無から生んだ、もしくは既に存在する水を『消す』ことを考えます。
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もしも水を消せたなら
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極大魔法で放出した大量の水。バトルとかの後はどうなるのでしょう? そのまま残る? それとも、幻のように消えてしまうのでしょうか。
水を消せるか否か――豪雨や洪水からの復旧、屎尿処理に大きく影響を与えそうです。大雨で洪水が起こっても、脅威にはならないでしょうね。水の関わる自然災害での死者数が減りそうです。
処理に困る屎尿だって、魔法でパッと消して終わり。下水道は発達しないですね。便利かもしれませんが、肥料も失うので作物を育てる土壌はどうなるでしょう?
それから橋の存在意義。川の水が魔法で楽々消せてしまうなら、橋って要ります? 渡し船の需要、ある?
城砦の周りに水堀をめぐらせることも無意味になりそう。籠城戦の戦術にも影響しそうですね。
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まとめ
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たかが水、されど水……。水魔法は便利かもしれませんが、出せる水の量と後処理はよくよく考えないといけませんね。
この考察をやってみてひしひしと感じましたが、水魔法で出せる水の量はコップ一杯程度が無難です。世界の住民全員が水魔法の使い手なのも危なそうです。大魔法使いは幻のような存在に留めないと、世界の常識がひっくり返されてしまいます。
何より、極大魔法ならガンダムの泥人形を数人で作れそうなことが記憶に残りました。