移動速度を考える~徒歩~
ファンタジーな世界で冒険の旅! 追放されて隣国へGO! 創作をしていますと、旅の移動速度は気になる要素ですよね。今回は徒歩移動に絞って、調べたことを書き出してまいります。
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人間(徒歩)の移動速度
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◆時速5㎞
※ゆっくりのんびり歩くのではなく、せかせか早歩きくらいで時速5㎞
(参考までに:走る場合)
フルマラソン42.195kmの平均完走時間
男性:4時間30分くらい
女性:5時間10分くらい
つまり、時速8~9㎞くらいで走っているのですね。いろ~んなサイトを斜め見して、おおよそこんな感じでした。ちなみに、フルマラソン自体の制限時間は6時間(練習もせず、ぶっつけ本番で走って完走できるほど、フルマラソンは甘くないです。上記の時間は、走る練習した人のもの……たぶん)
なお、現在のマラソン選手は時速18~19㎞で走れるらしいですよ。わぁ~、速い!
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徒歩で一日どれくらい進めたか?
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◆約50㎞(※あくまでも計算上)
※作者(女性)の経験上、一日30kmでも相当キツい。ヘロヘロになります。
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実際の旅人はどうだった?
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【参考1】日本・江戸時代
江戸時代、旅人は明け六つから暮れ六つまで歩いた、と言われています。とはいえ、江戸時代の旅人が電波時計を持っていたはずもなく。感覚的には、『外に出て、手の平の皺が目視できる時間帯』に歩いていた、らしいです。当然、日の長くなる春と短くなる冬とでは、歩ける時間に大きな差がありました。
一日50kmというのは、日中12時間(朝6時~夜6時、ご飯やトイレ他休憩時間に約2時間)歩いた場合、かつ歩く人間が元気ピンピンな場合の移動可能距離です。
もちろん、昔の道は舗装された平坦で歩きやすい道ではないでしょうから、実際はもっと短い距離しか進めなかったと思われます。ヨーロッパでさえ、近世になっても道と言えば石畳とか泥道ホコリ道が普通でした。
靴だって、スニーカーじゃなくて草鞋、革靴、木靴(あと、下手したら裸足)だとしたら、耐久性や脚への負担も現代とは比べものにならないでしょう。
※ちなみに、草鞋は宿場ごとに買い替える消耗品(宿場間の平均距離は約10㎞)でした。
日本の旧中山道において、標高差約800mを登って降りる和田宿~下諏訪宿間(道のりにして約22㎞)の移動時間の目安は約9時間。ルート上に宿はおろか民家すらなく、中山道屈指の難所でした(※後に、旅人救済のため避難小屋が作られたり、西餅屋という休憩所ができました)。今でも、このルートを通る公共交通機関はありません。
また、江戸時代の飛脚は24時間で200㎞、東京~大阪間を三日で移動したといわれています。時速8㎞くらい。なお、一人が長距離を走ったのではなく、一人あたり5~10㎞を走るリレー方式でした。
〔蛇足:経験談〕
道路の発達した現代、東京都日本橋を早朝に出発すれば、夕方には埼玉県大宮駅までたどり着けるとのこと(旧道云々に拘らず、観光もそこそこに、せかせか歩けばの話。作者のダーリンが歩いて実験済)。距離にして約30㎞。グーグルさんによれば、徒歩6時間27分で行けるとのこと。
作者(※女性)も二十代の時、朝10時くらいから夕方18時くらいまでリュック背負って旧道ウォークしましたが、比較的平坦な道路でも、20㎞超えると疲れが気になりだし、35㎞歩いたら足腰背中はボロボロです。
夏とか、ペットボトルの水(500mlじゃないよ、2lのやつ)を一人で一本あけて、さらに買い足さないと干からびます(夏に熊谷を歩く無謀をしました)。普段サラダばっかり食ってるモヤシ女が、ボリューミーな味噌カツ定食を完食する異常現象が起きます。連日歩くとかマジ悪夢(新婚旅行――フランスの田舎でこれをやった)。これが歩き旅の現実です。
恵まれた現代の環境でも、徒歩の長距離移動は大変キツいものです。
【参考2】世界各地の移動記録
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歩行者:時速4-6㎞、一日の行程25-40㎞
走る人:時速10-12㎞、一日の行程50-65㎞
(徒歩? 馬?)
あまり急がず、供を連れ荷物をもった《平均的な旅人》(例:商人):一日の行程30-45㎞
(かけ足※注1)
インカ帝国の早飛脚:時速10㎞、一日の行程240㎞(※注2)
〔参考資料/『叢書・ウニベルシタス274 中世の旅』ノルベルト・オーラー著 藤代幸一訳 法政大学出版局〕より抜粋
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※注1)インカには騎乗に適した家畜がおらず、車輪も使われていなかった(ウィキペディアさより)
※注2)ウィキペディアさんによると、インカ帝国の早飛脚の時速は13.3㎞という記録もあります(Chala~Cuzuco間)。また、インカの道には半レグア(約2.78㎞)ごとに飛脚小屋(中継点)があり、一人当たりの走行距離は短かったようです。だからスピードが出せたのかな? また、一日の移動距離は約167㎞という記録もあったり、約278㎞という記録もあったりします(いずれも16世紀の記録)。なお、輿に乗った王様の行列は一日に約22㎞移動できたらしいです。
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まとめ
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物語の中で快適で安全な歩き旅を実現するには、以下の四つを整えることが大事!
①平らで、よく整備された道
②歩きやすい靴
③飲料水
④適度な休息
①が欠ければ、移動距離は稼げません。
現代の道はアスファルトで舗装され、ぬかるみに足を取られることはほぼありません。川には、多少の増水ではビクともしない橋が架かっています。苦労して山越えなどしなくとも、ショートカットできるトンネルが掘られています。宅地造成のため、削られてしまった山だってあるでしょう。
物語の舞台を『中世ヨーロッパ風』と設定したとき。その世界はきっと山あり川あり――山は土砂崩れを起こすし、川は雨で増水すればたちまち渡れなくなってしまいます。んじゃ橋をかければいいじゃないかって? ノンノン! デカくて立派な橋かけるにはお金も技術も要りますし、犠牲も出ます。加えて、渡し船制など旅人を運ぶビジネスが成立している場合、それで十分地元経済が潤うので、為政者は敢えて川に橋をかけなかったりするのです。
おっと脱線! ②がなければ……防水性も大事ですね。雨や雪でぬかるんだ道とか辛そうです。③は生命線です。それを考えれば、水魔法って便利そうです。重い水を持ち運ばずに済みますし、安全で衛生的な水が手に入るんですから(たぶん)。
それから④。例えばの話、二十日間休みなしで仕事をし続けたら、どうなるでしょう? 疲労困憊でぶっ倒れませんか? 旅だって同じです。休みもなく何日も強行軍を続ければ、身体が参ってしまいます。長い距離を移動するのであれば、こまめな休憩は必須です。
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平均データはあてにならない
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結局、これなのです。『平均』はアテにならない。だって、現実の旅は環境の整えられた『競技』ではないのですから。
マラソンランナーがいくら時速18~19㎞出せるからといっても、それっていくつもの条件が揃って初めて実現できるんですよ。また、いくら練習を積んだ彼らでも、何日も連続で走り続けられるはずがありません。
マラソンランナーの速度は無理でも、江戸時代の飛脚の時速8㎞くらいなら出せるんじゃない? いえいえ! 彼らは短距離のリレー方式であのスピードなのです。一人が長く歩き続ける旅の移動速度に、彼らの基準を当てはめるのは無理があります。
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どんな移動手段でも『不測の事態』は起こる
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進む道の安全が脅かされる事態(盗賊、戦争など)が起こる、悪天候、疫病、天災……旅路を阻む要因は、数えきれないほどありました。
また、地図や標識が不完全な世界では、正しい方角へ進むことだって簡単ではありません。
異国の地を訪れたなら、現地の宗教だって旅の障害になり得ます。例えばキリスト教の『安息日』。これは『休んでいい日』ではなくて『休まなければいけない日』です。店はもちろん、渡し守だって営業してはいけないのです。
一日に進める距離が50㎞というのは、理想も理想。一日30㎞でさえ、進めたらラッキーなくらい。このペースを保つのは、現代でもかなりキツいのです。
ファンタジーの世界でよく『追放』が出てきますよね。推定運動不足の貴族令嬢に徒歩旅をさせようとしたら…………ガクガクブルブル。
肉離れで地に頽れることがないよう日頃からウォーミングアップにウォーミングアップを重ね、旅装も整えてあげましょう。夜会後ハイ追放! だと、重たいドレスにヒールのパンプス……歩くのなんて無理無理。せめて編み上げブーツを装備してあげて。 さらに、追放は酷暑と極寒でない日に。なおかつ一日以内(人間は水を飲めないとすぐ死ぬ!)に馬車なり白馬に乗った王子様にレスキューしてもらわないとヤベぇです。行き倒れて物語が終わります。
こうして考えてみますと、現代の私たちは、便利で安心安全な世界に生かされていますね。ありがたやありがたや……。
とはいえ。
創作する物語において、史実にピッタリ寄り添う必要はありません。
魔法やその世界の常識・慣習は自由に設定可能です。移動速度にしろ、『現実の人間』に絶対合わせる必要はないのです。ファンタジーな世界なのですから、『強化人間』や『身体強化魔法』などによる「人間離れした人間」が出てきたっていいのです。
史実はあくまでも参考程度に、『設定』をあれこれ練るのも創作の楽しみですよね!
今年の投稿はこちらで最後です。次回更新は年が明けてから。帰省しているので、手もとに資料がないんだよ~(>_<)
皆さま、良いお年を!