A tale of tragic love 〜とある人魚の物語〜
あるとても美しい月が昇っていた日。
私とあなたは巡り合った。
海辺の岩場に腰かけて、月を眺めていた時。
はじめは全く気付かなかった。
あなたは私に声をかけてくれた。
きっと・・・・人魚だとは思っていなかったのね。
「こんな晩に女の子が一人でそんなところにいたら、危ないよ」って。
気づいた時には、遅かった。
だって、隠れる前に見られてしまったから・・・。
私が「人魚」だって。
あなたは、私の姿を見て驚いていたわ。
きっと、怖くなって逃げてしまうんじゃないかって思って・・・悲しかった。
でも、あなたは逃げたりしなかった。
あなたは私を見て、「綺麗だね」って言ってくれたの。
すごく嬉しかった。
他の人に褒めてもらうなんて、今までなかったから。
私のこと、怖くないのって尋ねたら、あなたは言った。
「人魚がいるのは、海が豊かな証拠。海の神様が、恵みを施してくれているから」だって。
そして、あなたは私の腰かけている岩場に登ってきて、一緒に腰かけた。
なんだが、すごく不思議だった。
人間は、きっと人魚だと知ったら捕まえてしまうといつも思っていたから。
その後、一緒に月や海を見つめながらずっと話をしていた。
・・・時が止まってしまえばいいのにって。心から思った。
その出会いをきっかけに、私たちは毎晩のようにこの岩場で会うようになった。
他の人間たちに見つからないように、気をつけながら。
でも、いつまでもそんなことは、やはりできなかった。
あなたは、急にぱったり現れなくなってしまった。
私はとても心配したけれど、足がないから、直接陸の様子を見ることもできない。
だから、毎晩毎晩、約束の場所で待ち続けた。
夜が明けるたびに、海に帰りながら・・・・。
月に一度の満月の夜。
私は、月の力を借りて人の姿に変身することができた。
でも、その力が続くのは一日だけ。
次の日の夜には元の姿に戻ってしまうから。
時間が許す限り、あなたを探した。
慣れない足を酷使して、歩き続けた。
愛しいあなたに会うために。
だけど・・・・、すでにあなたは、私の手の届かないところへ行ってしまった。
村の人から話を聞いて、初めて知ってしまった。
一か月前に、この周辺を巻き込んだ戦争があって、国王から兵役の命が下されたと。
戦況は良くなく、・・・戦死してしまったと。
・・・・悲しかった。
村に住んでいるあなたのご両親から、小さな箱が渡された。
開けてみると、・・・そこには桜貝のペンダント。
戦争が終わって、無事に帰ってこれたら・・・
恋人に、このペンダントを渡してプロポーズすると言っていたと聞いたわ。
桜貝・・・・私が大好きな貝殻。
あなたと出会えた印として、記念に桜貝をプレゼントしたことがあったわ。
・・・覚えていて、くれたんだ・・・・。
涙が、止まらない・・・・・。
「必ず、迎えに行くから。」
あなたは、最後に会った日にそう言って帰って行った。
もし、戦争に行ってしまうってわかっていたなら・・・止められたのに。
・・・・嘘つき。
迎えに来るって・・・・約束してたじゃない。
私はその桜貝のペンダントを手に、海へ戻ってきた。
今でも、忘れたことはないわ。
あなたの、笑顔。
もう、見ることは叶わない。
でも、あなたに・・・会いたい。
・・・・・あなたの元へ
満月から少しかけた十六夜の月。
海は、とても穏やかに波打ち、月の光をきらきらと反射している。
一人の人間と人魚が出会った岩場。
今は、月の淡い光の中で、静かに波しぶきを受けてそびえている。
そこで、毎晩のように会っていた、二人の姿は、もう、どこにも見えない。
連載物を書いていて、ふと思いつきで書き上げたものです。あんまり関連性はありませんが・・・。