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連投失礼します。
戦闘描写は今回で一区切りです。
その人物の武器は、剣とつくもの全て。
普通の剣だけでなく、重いはずの大剣も扱える。
しかも元々の身体能力が凄まじいために、魔力で強化すると、とてつもないことになるだろうと思ってはいた。
実際に戦ったところを見たのは数回。
いつもは己の剣のみで闘い、余程のことがない限り魔術を使わない。
そんな彼が、魔術を使っていた。
大剣に纏っていた雷がまだバチバチと音を立てている。
「まさか、あんたが1人で奮闘しているとは思わなかったな、レイラ君」
「ハロルド様?」
ザリっ、と大剣が地面を擦る音。私の身長よりも大きな大剣を構え、吹き飛ばしたばかりのケルベロスを見据えるのは、癖のある紺色の髪をした青年。
「思わず見とれる程の戦闘だったぞ。模擬戦の際に魔獣の首を刈り取っていたのは、これが本来の戦い方だからなのだな。もっと観察していたいところだが、そうも言っていられないようだ」
「再生していきます……!」
切断しても傷が塞がっていくのだから、心が折れる。
「騎士としては少々あくどいが、ここは袋叩きといくか、レイラ君」
「この際、1番大きなアレだけを目標にしましょうか。それと炎を吐くので喉を狙いましょう」
「攻撃を塞ぐのか! 分かった!」
獣の無数の目がこちらを見ているが、あの大きな3つ頭の魔犬をどうにかしなければ先に進めない。
今のところハロルド様の雷に反応しているケルベロスの背後へと私は回り込む。
忍び寄り首を刈り取る戦法に慣れている私が先だ。
背後から強襲するために、音と気配を極限まで削り取った私が動いた。
「はっ!」
背後から3つの首全てに大鎌を引っ掛けてから、こちら側へとぞんざいに引きずり出す。
首の柔らかな部分を狙ったが、首はあっさり刈り取れるはずもなく、血が飛び散った。
それを目にしてすぐにとびすさった私の後に、雷をまとわせた大剣を振るったのはハロルド様。
「はぁあああっ!」
バチバチと光が弾け、ぶちぶちと何かがちぎれる音と共に、聞き苦しい獣の叫び声が響き渡る。
私が付けた傷の跡に一寸の狂いもなく、さらに傷口を抉ったハロルド様の攻撃には無駄がない。
1つ1つの攻撃が重いのだ。
叫び声を上げて狂ったように暴れるケルベロスの牙や爪を軽々と弾きながら平然としている。
これがハロルド様の魔術……。
いつも剣だけで解決する彼の攻撃魔術を見るのは初めてだった。
肉を焼くような焦げた臭いと血の臭いが混じり、巨体が崩れ落ちるが、私たちはいったん距離を取る。
「回復はしているが、今の攻撃方法が効いているようだ。繰り返すぞ」
「はい!」
私は近くの魔狼の背中を踏み台にして跳躍し、空中でクルクルと回転しながら斬り掛かった。
ぶつかった反動を利用して、すぐに間を空けて、その横をハロルド様が閃光を身に纏いながら突っ込んでいく。
私の付けた傷跡をなぞるように正確に大剣を叩き込む。
どんどん増えていく他の魔狼たちは片手間で切り伏せていく程度だが、ハロルド様はそれだけで充分だった。
一振りするだけで、その雷撃は私の何倍もの魔獣を屠っていくのだ。
直接当てなくてもその風圧だけで、敵はなぎ倒されていく。
「すごい……」
呆気に取られながら私も大鎌を振るう。
ちらりと後ろを確認して、ルナが人々を守っているのを確認してホッとする。
何度も連続斬りを繰り返して、交互に攻撃をする。
やはり2人居ると良い。もう片方が気を引いてくれるからだ。
「レイラ君。敵の動きが遅くなっているようだ。挟撃だ」
「はい。合図をお願いします!」
「……1、2、3……今だ!」
巨体が大きく息を吸い込んだ瞬間、2人は同じタイミングで両側から殺気を膨れさせる。
「ああああっ!」
「はっ!」
私が首を固定して首元を刈り取り、ハロルド様は足元を切り裂いた。
上下から攻め、一気に畳み掛ける。
『えげつないな……』
ルナがそういうくらい、ハロルド様の猛攻は凄まじかった。獣の足元を切り刻むスピードがもはや人間ではない。
私の攻撃よりも一撃一撃が必殺技過ぎるのだ。
足元が崩れ落ちれば、後はこっちのものだった。
「見つけた。核だな」
一際大きな化け物を倒し、彼は満足気にため息をついて、大剣を再び振り回して、増えていた魔獣をまた減らしていく。
私と背中合わせになりながら端的に会話をした。
「ハロルド様。中央にある召喚陣を見てください。最初の頃と比べれば薄くなっているのです。そろそろ魔獣の召喚の上限になるかと」
今回の召喚陣は近付けないばかりか、なかなか確認出来なかったが、どうやら破壊されないように保護されているようだった。
「そろそろこちらにフェリクス殿下も向かっておられる。それまでは俺1人でも問題はないだろう」
え?
「あの……ハロルド様。殿下が来ると仰いましたか?」
「ああ。他にも数箇所、市井の民が囚われていた場所があってな。それらの対処は殿下とノエルが手分けして行っている。最も酷い場所であるここへは俺が遣わされたという訳だ」
嘘でしょ!? 数箇所と言っても数はそれなりに多かったはずだし、それらをたった2人で虱潰しにして行ってるの!?
2人の魔力が強いことは知ってはいたけれど。
「匿名で通報があってな。騎士が派遣されているから、被害者の保護もここ以外は進んでいる。幸い、死人はゼロだ」
手際が良い。もしかしたら死者がゼロで済ませられるかもしれないのだ。
それにしても驚いたのは、リーリエ様はどこへ行ったのだろう?
物語通りであれば、彼はリーリエ様を守っているはずだ。
「リーリエ様はどうされたのです?」
「ユーリ殿下と騎士たちが護衛として傍に居るだろう」
会話をしながら敵の攻撃を凌いでいるから、驚いた拍子に攻撃が急所から逸れるところだった。
あれ!? ぶっ壊したのは私だけど、まさかそんなことになっているとは!
「……!?」
なに?
ふいに、ぶわっと濃厚な魔力の気配が漂って来る。
武器を振るいつつ、召喚陣を見やるも何もない。
いや、そもそもこの魔力は禍々しいものではなくて、どちらかと言えば清廉な透き通った魔力で。
ふと、辺り一面にぶわっと蒼の炎が燃え盛った。
「嘘……、何これ?」
炎が蒼いだけではない、氷のように冷たい炎らしき何かが、周囲の敵を一掃したのだ。
ちろちろと肌に触れる蒼の炎は冷たいけれど、私たちを害するものではない。
ただ、増えに増えた魔狼の断末魔の叫び声が辺り一面から聞こえるだけで。
「この強力な魔力は一体何なの……」
物理法則などねじ曲げたような炎の魔術。
吹雪が吹いた後みたいに、この場の空気の温度が下がり、氷を丸ごと孕んだみたいな炎は今もまだ燃えている。
周囲の魔狼はやがて動かなくなり、凍傷を負っていく。
ハロルド様は「ああ」と慣れたように頷くと、その答えを口にした。
「フェリクス殿下の魔術だ」
『人間とは思えない程の魔力量だな』
それは、ルナにもそう言わしめる程の干渉力を持った、純粋に強すぎる魔力の気配だった。




