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「有給で明日も休みですから……、その……そういうことは夜に……」


『ご主人、そういうのを自滅と言うのだぞ』


 ルナに突っ込まれ、私はハッとした。

 確かに! これは、私から誘っているようにしか思えない!!


 フェリクス殿下はきょとんとしていたが、すぐに嬉しそうに微笑むと、すぐ側に居た私をぎゅっと抱き締めた。

「良いの? 今日の夜に貴女を抱いても」

「……は、はい」

 抱くとか口に出されてしまえば、頭が真っ白になってしまって……。


 って! 今、私頷いた!?

「レイラに許された気がして、嬉しいな」

 フェリクス殿下の声は弾んでいて、本当に嬉しそうだ。

 フェリクス殿下が嬉しそうなら……私も……。

『ご主人、流されているぞ。完全に流されている』


 私はフェリクス殿下の嬉しそうな顔に弱い。

 私を抱き締めて、しきりに唇を寄せる彼に身を預けていれば、首筋に鼻先を寄せたところで彼は気付いた。

「首の横部分。よく見るとほんの少しだけ痕が付いてる」

 ちょんと首筋をつつかれて、彼の腕の中で私はピョンと跳ねた。

「あ、痕……!?」

 そこまで見てなかった!!

「も、もぅ! 殿下! そういうのはやめてくださいと! ……少し確認して参ります!」

 慌てて鏡を確認しようと、ソファから起き上がろうとしたところで、フェリクス殿下に体を抱き竦められた。

「行かないで、ここに居て。このまま、ここに」

 切なげな声にきゅんとした私は、「これからは目立つところに痕を付けるのは止めてください。……恥ずかしいので」と注意だけをした。


『ご主人、前々から思っていたが、そなた』

 知ってる。私がとんでもなくチョロいことは!


 フェリクス殿下は私の首筋を指先で辿って、満足げに息を吐いた後、ふと何かに気付いたようで、こっそりと耳元で囁いてきた。

 物凄く心配そうに、悩ましげに。

「でも、体は平気なの? もし昨日の後遺症が残っているのなら」

「後遺症って」

 先程まで嬉しそうだったのにひたすら心配そうな気配を纏ってそわそわとしている。

「気持ちが嬉しかったのは本当。だけど、無理をさせたい訳ではないから……」

「無理なんて、そんな……」

「これはからかっている訳ではないのだけど、レイラ。正直に答えて欲しい。……昨日のせいで辛かったりしない? 私はすごく気持ち良かったけど、そうやって私だけが気持ち良くなるのは違う……から。私はレイラのこと、思いやれてた?」

 彼の腕の中から離されて、真剣な顔で向き直ってくれたフェリクス殿下。

 直後、伸びてきた手にそっとお腹をさすられて、私は再び硬直した。

 これは、昨日の感想を聞かれている!?

 しかも、けっこう真面目な質問。


 そうっと顔を上げてみると心配そうなフェリクス殿下の顔。

「殿下は……昨日の夜、とても優しくしてくれました。それに初めては痛かったですが、……同時に気持ち良かったですから」

 恥ずかしかったけど、こう言った。

 ふるふる震える私に何を思ったか、今度の彼は掻き抱くように腕の中へと閉じ込めた。

「……良かった。ちゃんと気持ち良かったんだ」

 言葉にすることでようやく安心したのか、この部屋に入る前からの上機嫌な彼に戻った。


 たった今、私を押し倒した時に見せた熱は、今のところはもうなさそうでホッとする。


 もしあのまま身を任せていたら今頃は……。うん。昼間は良くない。

 剥き出しの男の欲というものに、私はまだ慣れていなかった。

「そういえば、フェリクス殿下。お仕事。早かったのですね?」

 途中で抜け出したのかと思っていれば、フェリクス殿下はサラッととんでもないことを言った。

「午前の仕事はとっくに終わってるよ。あまりにも進んだから、これ以上はやらなくと良いと皆が言ってて。午後になったらまた仕事に行くけど」

 この人、超人すぎやしないだろうか。


 その日、再び執務室に戻る殿下を見送って、この日は彼の部屋で一日中大人しくしていた。

 蔵書に興味深いものが多かったから、後は没頭するだけ。

『ご主人、久しぶりに羽根を伸ばせたのではないか』

「仕事とこんなに離れたのは久しぶりかも」

 学園の寮生活の時は、休みがあっても何となく医務室で過ごしてしまうことが多かったのだ。

 叔父様が昼食を抜いていないか気になって、つい医務室に顔を出してしまう。

 だから、今日みたいに部屋でひたすら読書をするのは新鮮だった。

 だけど、フェリクス殿下との約束を思う度に胸が高鳴って、息が苦しくなって、時折読書に集中出来なくなる。


 それからフェリクス殿下は夕方頃に帰ってきて、だんだん夜に近付くに連れて私の様子はおかしくなり。


 夜寝る前には、完全に茹で上がっていた。

 ガチャリ、と部屋の扉が開く音がして、ルナに「今日も外に出ていて」と囁いた。


 ああ。約束なんてしちゃ駄目だ。ずっとそのことばかり考えてしまうというか、頭から離れないのだから。


「レイラ」

「フェリクス殿下。お帰りなさいませ」

 何を言えば良いのか分からず、とりあえずそう言ってみたら。


「お帰り……か。部屋に居てくれたレイラの台詞だと思うと……」


 私の前まで素早く移動してきたフェリクス殿下は何故か顔を赤らめていた。

 え? 何故? 今の台詞のどこにそんな効果が?

 ただの挨拶なのに。

 何故?と戸惑っていたら、唐突に手が伸びてきて。

「え、殿──んんっ!?」

 突然壁に押し付けられて、唇を貪ってきたのだ。

 もう我慢出来ないと言わんばかりの性急さ。

 フェリクス殿下の様子が違う。

「んっ……ふ…」

 上手く鼻呼吸をしながら、受け止めて、数十秒程の絡み合った後、唇がそっと離れていく。

「今の、すごく可愛くて我慢出来なかった……」

 今の? 挨拶のこと? ただの挨拶なのに? それの何が彼の心を揺さぶったの?


 熱の篭った視線に射抜かれて、熱の篭った手に肩を掴まれて、熱の篭った吐息で耳元に囁かれる。

「レイラ……良い?」


 緊張しながらようやく頷いて。

 目の前の情熱的な目が細められて、今この瞬間から、私は彼のご馳走となったことを自覚する。


 この日の夜も、私は彼と愛を交わした。



R18版の方にこの後の続きが更新されています。

フェリクス殿下目線です。


2025/7/18 電子書籍化に伴い、削除させていただきました。分かりにくくて申し訳ありません。

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