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  お兄様と街中をデートすることになった。

  それだけでお兄様は魔王のようなオーラを引っ込めてくれるのだから、なんというか我が兄ながらシスコンにすぎる。

  傍から見たら、私もブラコンに見えるだろうなあ。

  とりあえずお兄様のご要望で、眼鏡を外し、久しぶりにめかしこんでいた。

  でも眼鏡は念の為持ち歩くことにする。

『兄と二人きりか……。難儀なものだ……。私はご主人を陰ながら守るとしよう』

  いつものように私の影に溶け込んでいるルナは、鼻先だけ出してそんなことを言う。

  そんな狼は、お兄様をかなり警戒しているらしい。

「守るって……。一応身内なのだけどなあ。……そういえばいつも思ってたんだけど、何故鼻先だけ出してるの。可愛いから良いけど」

『もし()()()()()()()()()厄介だから姿をなるべく隠すようにしている。鼻だけなら見つけにくいし、声をかける時も闇属性が居ない時を見計らっているぞ、ご主人。私は健気だろう?』

  精霊は基本、契約者にしか見えないし感じ取れないが、同じ属性の者の場合、魔力量や熟練度などにより精霊の声や姿を感じることが出来るらしい。叔父様などが例だ。ルナが教えてくれた。

「お兄様は土属性だからないと思うんだけど」

『まあ、念の為だ。()()()()()()()()

 例外? 例外って何だろう?

 何かを見落としているような気がしたが、よく分からない。

「なるほど?」

  なので、とりあえず納得しておくことにした。

  大体服を着替え終えたところで、何の伺いもなくドアがバタンと開いた。

「レイラ! 丁度着替え終わった頃だよね!」

「きゃあああ! お兄様、せめてノックはしてくださいませんか!? 着替えていたらどうするのです!」

「大丈夫。レイラが着替えるタイミングは分かっているからね。レイラが靴下を脱ぐタイミングから、白衣を脱ぐタイミング、その呼吸の一つ一つも全て──」

  変態だ!

『やはり、こやつが一番危ないのではないか? 今更ながら、出かけるのはやめた方が……』

  心做しかルナの声が震えている気がした。

「さあ、行こう!」

  むんずと手を掴まれてしまったらもう逃げられない。

  あっという間に馬車に乗せられ、気が付けば街中に居た。

「ここが王都! ふふ、この日のために仕事を詰めて来た甲斐があった!」

「そういえばお兄様。領地から出ていても良いのですか?」

  メルヴィン兄様は、そっと私から目を逸らす。

  その行動に私は全てを悟った。

「無断外出なのですね……」

「いやいや! この外出は僕にとってとても有意義なものなんだ! レイラ成分が足りなければ僕は生きていけない! 君の写真だけではそろそろ限界なんだ」

『まずこの男をどうにかした方が良い気がする』

  影の中からいつも鼻先だけ出しているルナだったが、今回は鼻先すら出さずに影の中から呟いていた。ルナから怯えの気配を感じる。

  闇の精霊を怯えさせるお兄様って……。

  でもお兄様の見た目は極上のため、街中の女性たちがお兄様を見て、うっとりとしている。

  本性はアレだが、そんな事実は皆知らない。

「レイラは可愛いものが好きだろう? 最近この辺りで話題の女性向け雑貨屋があってね。そこではオリジナルアクセサリーに名前を入れてもらえるそうだよ」

「あっ……」

  ゲームシナリオで生誕祭のデートの際に、お揃いの指輪を作るというイベントがあったのを思い出す。

  その反応に、お兄様はにっこりと笑った。

「是非、僕とレイラのお揃いアクセサリーを……」

「私は! ペンダントが欲しいですわ!」

  兄よ。それを妹相手にするのは止めてくれ。切実に。アクセサリーをペアにするのは恋人同士では普通だけど、兄妹では寡聞にして聞かない。

「そうか、残念。ならば僕もお揃いのペンダントを……」

「お揃いの羽根ペンと日記帳を買いましょう!」

  せめて文房具にして欲しい。半ば叫ぶようだったが、何故かお兄様は、へにゃりと笑った。

「レイラからお揃いを提案されるなんて……」

  何故、このお兄様は恍惚としていらっしゃるのだろう。

  やはり幼い時にお兄様とずっと一緒に居たいとか結婚したいとか言ったのがいけなかったか。

「日記帳なら、今日あったことを書き留めて、今後に生かすことが出来ますから」

「うん。レイラとの蜜月妄想を書き留めるに最適だ」

『本当に、良いのか? これを野放しにして』

  ルナの声が本気である。

「……」

  とりあえず全てを聞かなかったことにして微笑んだ。

  世の中、そういったフリで回っているものだと、私はよく知っている。

「さて、着きましたよ!」

「さて、行こうか」

  お兄様が私の肩を抱き寄せてくるのをさり気なく避けていたら、悲しそうな顔をされた。

  代わりに手を繋ぐということにしてもらえば、彼は幸せそうに微笑んだ。

  お兄様って、少しチョロい。それで良いのだろうか。

  可愛い店の中。ピンクや水色の色が溢れ、ハートや花のモチーフのアクセサリー、パステルカラーのメッセージとイラストが描かれたティーカップ。服を着たテディベアたち。

  小さな女の子と男の子が手を繋いでいるデコレーションケーキに、色とりどりな日記帳。

「日記帳ですよね。お兄様。このピンクと青の日記帳などどうでしょう? 可愛いというよりもオシャレな雰囲気で、これならお兄様も使いやすいですよ」

  シンプルなレースの飾りがついた日記帳には簡易的な鍵が付いていた。

「良いね! 鍵が付いていて、レイラのあれこれを閉じ込める……みたいなのが背徳的で」

「次は羽根ペンですね! 今度はお兄様が選んでくれたら嬉しいです」

  細かいことを気にしていたら、この人の妹で居ることは出来ないのである。

  期待するように見つめれば、お兄様は簡単に乗せられた。

「期待してて。本気出すからね」

「お兄様のセンスは素晴らしいですから! 楽しみにしています!」

「……! 待って、本気で選ぶから」

  あのシスコンな兄が! 私の手を離した、ですと!?

  どうやら本格的に至上の羽根ペンをお揃いで選ぶらしい。

  その瞳は真剣で、今がチャンスとばかりに私はお兄様から離れた。

  可愛らしいマカロンの詰め合わせを眺めながら、医務室に置いておくお菓子にこれも買っていこうかと手に取った。

  マカロンは甘く、可愛らしくて目が惹かれてしまう。

  いつも医務室を溜まり場にしようとする男性陣には可愛すぎるかもしれない。

  でも、ハロルド様辺りは好きそう。女子が食べそうな甘ったるいお菓子も大好物な彼のことだ。これを出されても躊躇はしないだろう。

  ふふっと笑みを浮かべてしまう。

  いつの間にか彼らは私の日常になっていて、それが少しくすぐったい。

  たくさんの色が入っているタイプにしようと手を伸ばそうとして、誰かの手が偶然に触れた。

  どうやら隣の人も手に取ろうとしたらしい。

「申し訳ございません……!」

「いえ。こちらこそ、申し訳な──え?」

  ぱっと身を引いた私は、隣に居る人物を見た瞬間に硬直した。

  相手の方も硬直していた。


  ローブで顔を隠した彼の双眸は、金髪碧眼。美しくも凛々しい色は王家の色と同じで。


  何故? 何故、彼はここに居るの?


  思わず後ずさった。


「貴女は……、何故……」


  驚きに目を見開いたフェリクス殿下は、お忍び中だったのだろう。

  服もお忍び用のものに替えていて、きらびやかさは、少しだけなりを潜めていた。

  何故、こんな場所に居るのか分からなかった。

  女子が好みそうな店なのに。


  少しずつ後ずさった私は、混乱したまま走り去った。

  自分が素顔を晒していることを知っていたから。


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