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  陰りのない笑顔で帰るリーリエ様。申し訳なさそうな顔で帰るフェリクス殿下と相変わらず無表情のハロルド様を見送った後、片付けをして、兄様からの手紙を読もうと何気なく開いた。


『迎えに行くよ』


  白い封筒に白い便箋、その一言だけが中央に書いてある。


「怖っ!」

『いつも言っているだろうに。あの兄から離れなければ、ご主人は酷い目に遭うと』

「いや、でもまさか……。迎えに行くよって何なのかしら? え? いつ来るの? 今日来るの?」

『とりあえず、そなたの叔父にでも確認したらどうだ? 私室に篭っているだろう』

「そうね……」

  もしかしたら何か聞いているかもしれないと希望的観測で、ドアの外からノックをして声をかける。

「叔父様。今良いかしら? 少し聞きたいことがあって」

『反応がないな?』

  中からは物音がしない。いつの間にか外出したのだろうかと恐る恐るドアを開けると、中に居た人物と目が合った。




「手紙の通り、迎えに来たよ」




「いやああああああ!」

『ぎゃあああああ!!』


  私の悲鳴とルナの悲鳴が重なった。


  何故って? そこに居たのは正真正銘、私の兄の、メルヴィン=ヴィヴィアンヌ伯爵令息その人だったからである。


  震える私に近付くと、頬にちゅっと唇が触れた。

「怯えてるレイラも可愛いなあ。この顔を見たいがために、忍び込んだ甲斐があった。久しぶり! 元気していた?」

「お兄様! 悪趣味です! 私を怖がらせてどうするおつもりで!?」

「怯えてるレイラはね、若干涙目になりそうなのを無意識に堪えようとして、眉間に皺を寄せるんだけど、それがまた可愛いんだ。今日も可愛い」

  抱き締められて、会いたかったと何度も言われる。

  お兄様は幼い頃から私に優しくて、すごく良くしてくれるけど、たまに色々な意味で怖いので気が抜けない。

  結果、叔父様を相手にするのとは違い、いつ頃からか敬語で話すようになった。

  物心つく前に積極的に遊んでくれたのは、セオドア叔父様とメルヴィン兄様なのだ。


  だからお兄様のことは大好きだし、信用もしているし、心を許せる兄ではあるのだけど。

「僕以外にレイラを怖がらせるものがいたなら、絶対に許さない。可愛いレイラの表情は僕だけのものだ」

  こういう発言をするので、やはり怖い。

  ドン引きしたような目を向けてしまいたくなるのも仕方ない。

  何言ってんの? と言わんばかりの目を向けてしまうと、それはそれで問題が出てくるのでしないけど。

「それより、先程の男たちは誰だい?」

  お兄様の目のハイライトが消えている。

  人を一人殺してきたみたいな顔をするのは本気で止めて欲しい。

  こういうことをするから、叔父様に来るなと言われるのでは?

「兄様。女の子も居ました」

「居たかもしれない。だから何?」

「ご懸念されたことはないかと……」

「駄目なんだ。君の可愛らしさは眼鏡ごときじゃ阻めない! もし、殿下とその騎士が君に惚れてしまったらどうするんだ!」

  痛い! 痛い! 痛い!

  体を拘束されたまま、締めつけられていって窒息しそうだ!

「ないです! ないですって! 殿下には一目惚れした相手が! 居るので!」

『相手はご主人だがな』

  ルナは余計なことを言うのが好きらしい。そんなことは良いから、早く離して欲しい! 助けて欲しい!


「こらこらこら。さすがに目に余りますよ。メルヴィン」

  目の端で紫色の光が現れたと思えば、気が付けば白衣姿の叔父様の腕の中に居た。

「叔父様! 助かったわ!」

  歓喜の声を上げる私。

  兄様は、床に座り込み、紫色の透明な鎖で拘束されていた。

「叔父上! 僕のレイラとそんなに親しげに……! いくら貴方でも許せません。僕にはまだ敬語が取れていないのに」

  叔父様は辟易しているといったように、頭を押さえている。

「はぁ……。今まで誰も口にして来なかったことですが、ハッキリと言います。貴方の愛があまりにも重いから、レイラは萎縮しているのでしょう」

  更に追撃のようにこの一言。


「貴方のそれは病的です」


  言った。ついに言ってしまった。


  呆然としていた兄様だったけれど、ハッと何かに気付いたように独り言を続けた。


「そうか……僕の愛は重かったのか。レイラのせいで病気になるのなら、それも本望。……この鎖のように重い愛が、レイラの体を縛る……。もしくは、愛の鳥籠に閉じ込められ自由に飛翔出来ない美しい声を持つカナリア……。ああ、愛とは……、ふふふ、綺麗は汚い。汚いは綺麗」


「叔父様。余計に悪化したわ」

「申し訳ございません。言わなければ良かったと後悔しました。……まあ、貴女にはあの子が居るから大丈夫でしょう」

  あの子とはルナのことだろうけど、叔父様。

  精霊のことを口にした瞬間、幸せな顔をするの相変わらずすぎる。ブレない。


  とりあえず、この危険な兄様モードをどうにかしなければ。


「お兄様! 今は夕方ですが、せっかくお会い出来たのですから! 兄妹水入らずで! 街をデートしましょう? この街に来た時、真っ先にお兄様と色々回りたいと思いましたの!」



  ここまで言っておけば問題ないだろう。


  メルヴィン兄様は、チョロい。

  その言葉を聞いた瞬間、まるで浄化でもされたかのように、天使を思わせるような無垢で純粋で穢れなき……といったような輝く笑みを浮かべた。

  眩しくて目を逸らしてしまいそうなくらい。


「そうか! レイラのご所望とあらば、エスコートをしなければね。ふふ、僕とレイラが二人で街……。僕ら以上にお似合いなカップルは居ないだろうね」


  なんかもうなんでも良くなってきた。


  ちなみに、お兄様をどうにかしようとした結果、街でフェリクス殿下と眼鏡をかけていない状態で遭遇し、てんやわんやあるのだが。

  この時の私はまだ知らない。


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