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「ここにいたんだね! 二人とも」

  ピンクブロンドの少女は、フェリクス殿下とハロルド様を目にして、彼らの傍に駆け寄った。

「っ……」

  軽く肩がぶつかったが、どうやらリーリエは気にしていないらしい。

  私は気にしないけれど、これを公爵令嬢相手にやったら危険だと思う。

  そして私のことは目に入っていたはずなのに、あまり気にしていないのか、目を合わせることはない。

「まあ、少し用事があってね」

  殿下は先程まで愚痴を言っていた相手が目の前に居るからか、少し気まずそうにしている。

「勉強を教えてもらおうと思っていたのに」

「殿下は、執務などでお忙しい。別の者に頼むことをおすすめする」

  ハロルド様は言いにくそうな殿下に代わってきっぱり断った。

「あ、でも今は休憩なんだよね?」

  そして、チラリと私を見たリーリエは、私の持っている有名菓子店の箱を見て目を輝かせると近付いてくる。

「いいなあ! 王室御用達のお菓子!」

  目をキラキラさせた少女は、何かを期待するようにチラリと私を見る。そしてようやく気付いたように話しかけてきた。

「あっ。挨拶遅れてた。私はリーリエ。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします。ジュエルム様……ですよね。お話はかねがね」

「やっぱり私のこと知ってたんだね。よろしくね! 堅苦しいからリーリエで良いよ。同い年くらいじゃない」

「ではリーリエ様と」

  陰りのない笑顔は裏表などなさそう。可愛らしい仕草だし、揺れるのは綺麗なピンク色。

  初対面にしてはフレンドリーすぎて、私は内心慄いていたけれども。

  人の顔を窺うような癖がついてるからかな。

  リーリエ──リーリエ様はこう、向かうところ敵なしって感じがする。

  さすがヒロイン。

「……ねえ、そこにあるのって」

「……? ああ」

  有名菓子店のデコレーションケーキに目がチラチラと。

「召し上がりますか?」

「良いんですか? ありがとうございます! ちょうど三つあるし、二人も食べない?」

「え?」

「は?」

  男性陣二人の反応は芳しくない。

  こちらを気にする素振りからして、私に悪いとでも考えているのだろう。

  まあ、確かに甘い物に目がないとは言え、リーリエ様は正直すぎたかも?

  空気が固まるのも嫌なので、私は努めて明るい声で言った。

「私のことはお気になさらず。よろしければ、皆さん方でどうぞ」

「良いの?」

  私はこの間、お兄様に大量のプリンを送られたので、それを一日ずつ食べていこうと思う。

  メルヴィンお兄様のカロリー攻撃は昔からなので慣れているし、ここ数年では魔法薬を開発して、カロリーを抑える効果を持つものを作り出した。見た目がおどろおどろしいので、門外不出だけど。

「レイラ嬢……」

  お気になさらずとも良いのに。

  殿下はこちらをかなり気にしていたようなので、仕方ないから私はプリンを出して、皆様方の皿やフォークを用意する。

「その、すまない……。よければ俺のを」

「私もプリンを食べるのでお気になさらず。私の兄のカロリー攻撃があるので、消費してくれると助かります」

  ハロルド様は甘いもの好きなはずなのに、遠慮して譲ってくれようとしている。

  なんだろう。この微妙な空気。

  リーリエ様は気に留めてないけど、男性陣が何かを言いたげに彼女を見ていた。

  私はそこまで気にしていないのに。


「あっ。これ、すごく美味しい! デコレーション部分も美味しいし、何より可愛い!」

  草花をモチーフにした淡いデコレーション部分もきちんと美味しいと話題の品らしい。

「……っ!」

  ハロルド様はその美味しさに幸せそうな顔をしつつ、ハッとしたようにこちらを眺めたりしている。幸せと罪悪感の間を彷徨っているらしい。

  こちらにトコトコ近付いてくるとケーキの一口分を切り分けたフォークを差し出して。

  え? どういう状況? いわゆる『あーん』というものである。子どもでもあるまいし。

「食べるか?」

「え、いらないですけど」

  素の声が出た。

「……そうか」

  すごすごと引き下がる彼だけど、そういうことを平然としてくる辺り、天然だなあと思う。

  こちらはプリンを口に入れつつ、その滑らかな甘さが脳内まで広がっていく心地にうっとりとしていた。

  お兄様の選ぶお菓子は美味しいなあ。

  うちのお兄様は高級店だけではなく、市井のクチコミで有名な知る人ぞ知る名店などにも詳しく、一見さんお断りの店などから購入してくることもある。

  私を喜ばせようとスイーツ発見機と化している。

  そういえば、今朝お兄様から来ていた手紙を開けるの忘れてた。後で確認しておこう。

「レイラさん。そのプリンは?」

  どうやら甘いものが好きらしく、リーリエ様は話しかけてきた。

「ああ……これは…」

  まだ残っていたと伝える前に、フェリクス殿下が窘める。

「リーリエ嬢。さすがにこれ以上は無礼だよ。もうそのケーキもご馳走してもらっているのだから。それと、レイラ嬢は許してくれているみたいだが、彼女は伯爵令嬢なんだ。あまり失礼を働いてはいけない」

「え? ごめんなさい。……でもそこまで言われる程、失礼なことは……」

  貴族社会には疎いらしい。後半ごにょごにょとしていたが、殿下の目が細められるのを見て黙った。

  こういうのは見ず知らずの私が何か言うよりも、親交のある相手からのアドバイスの方が良いだろう。

  それにあまり私も余計なことを言ってシナリオに巻き込まれたくないもの。

「私たちの場合は、固くならず楽にしてくれとこちらから言い出したのだから良いとして、彼女は何も言っていないのだから、距離感を間違えないように」

  なんだろう。フェリクス殿下が、おかんに見えてくる。

  横でうんうんと頷いているハロルド様は、おとんだろうか?

  原作とはまた違った関係性になっていることは分かった。

  二人の好感度はどう見てもあまり上がっていない。



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