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天使の羽  作者: みーたんと忍者タナカーズ
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序 第1章 沙希とみさき 1

書き終えたのは10年前のオリンピックのあと。

浅田真央選手が銀メダルをとったあとすぐ。

ほぼほぼ時系列で物語が進行します。

つまりあのころあった事実がそのまま書き込まれていて、浅田真央選手が金メダルを取るのか、取れないのか、確認にて書き終えました。


スケートの話は後半のメインストーリー。

前半は重く、後半はほのぼのする話です。


魔法のアイランド総合ランキング4位獲得!(2013年10月)


-序―


人は空を飛びたいと願い続けてた。

だけど自力で飛ぶ必要のなくなった人は、空の飛び方を忘れてしまった。

だから人の背中に生えた翼は退化して、誰の目にも見えなくなってしまった。

でも誰もが翼をもち、今もなお目に見えない翼を羽ばたかせている。

だから私は翼を羽ばたかせ、空へ飛び出す準備をしている。

不安だらけの明日へ飛び出すために。

まだ見ぬ明日が希望に満ちているように。


第1章 沙希とみさき


「もしも背中に翼が生えていたら、何がしてみたいって?」

車椅子に座った少女、石渡沙希。

「それはね……」

沙希はじっとその様子を眺めていた。

「羽を広げて……、飛んでみたい……」

なぜって……?

病院の屋上で今まさに一人の女性が柵を越え、沙希の方を見ていた。

沙希のママ奈菜は、柵越しに沙希に笑いかけた。

そして翼を広げ、跳び出した。

そのまま沙希のママは沙希の視界から消えた。

ママの弱弱しい顔が浮かぶ。

「あなたは何も悪くないのよ。悪いのはきっとママね」

抜け落ちた羽根が風の中で舞っていた。

「ごめんね、沙希、もう、疲れたの」

ママの目から涙がこぼれ落ちた。

もしも、足が悪くなかったら、ママに駆け寄ることができたのに。

もしも、翼があったなら、羽を広げて、ママの側まで飛びたっていたのに。

地上に落下する前に、ママを抱きしめてあげたのに。

私の背中には羽が生えてない。

死にゆくママに駆け寄ることも、歩くことだってできなかった。


石渡沙希が中塚総合病院に運び込まれた時、沙希の母親奈菜は半狂乱で救急車から跳び降りてきた。

 医師一年生の中塚みさきに、「あんた、医者でしょ。沙希を治して」と、血のついた手で掴みかかった。

みさきは思わず躊躇い、黙り込んでしまった。

沙希は大急ぎで病院に吸い込まれていった。

オロオロするみさきを見かねた看護婦長の真田かんなが、泣きじゃくり、叫ぶ奈菜を宥めつつ、落ち着かせた。

みさきはその様子を感心して見ていた。

「お前もそのうち普通に対処できるようになるよ」

みゆきの父で院長の中塚隆人が背中を叩いた。

沙希の緊急手術にあたったのは、みさきの母親小春だった。

外科としての腕は父親の隆人以上で、わざわざ小春の腕を頼って、日本中から患者が集まるほどだ。

そんな母親の小春を、みさきは医師としては尊敬していた。

ただ母親らしさを小春に感じたことはなかった。

みさきにとって、小春はいまだに母親というより、きびしい指導者のような威圧感を感じながら、接していた。

中塚総合病院は、みさきの祖父の代から続く、都内屈指の病院である。

父の隆人は院長、母の小春は第1外科の医師である。

そういう家庭環境のせいか、みさきは子供の頃から、医者になることを宿命付けられていた。

いつからそう思い始めていたのかは曖昧だが、みさきはそれなりのプレッシャーを心に秘め、医者を目指して頑張ってきた。

 だから医師免許を取得した時は、嬉しさ以前にホッとした。


沙希が手術室に入ってから、1時間以上たっていた。

 やっと落ち着いた母親の奈菜。

 かすり傷程度の傷を負っていたが、事故を起こしていることは間違いがない。

 奈菜はこまごまとした検査を受けた。

 異常はなかった。

 軽い怪我があるくらいで、看護婦が包帯を巻く程度の手当てをした。

 MRIや、レントゲン写真などを見せながら、異常がないことを伝える間も、奈菜は沙希のことを心配していた。

 それが少しみさきには煩わしかった。

 問診中、みさきはカルテを見て、少し驚いた。

 24歳か……。

 ギャル風の格好をしているせいか、かなり幼く見える。

 2歳下か……。

 みさきは妹のひなたを思い浮かべた。

5つ年下の妹。

みさきはひなたのことが心配で仕方なかった。

ひなたが途中で少し道を踏み外してしまったからだ。

それは別に不良になったというわけではない。

みさきが母親と常に比較されたように、ひなたもみさきと比較された。

 常に姉より成績が伸び悩んでいたひなたは、高校生になった頃から、成績が急降下し始めた。

 誰もそのことを責めたわけじゃない。

 母はみさきには厳しかったが、ひなたにはかなり放任主義だったように思えた。

 それでも医者にならなきゃというプレッシャーを感じていたのだろう。

ひなたは自身の真面目さのせいで、自分を追い込んでしまったのかもしれない。

みさきにはひなたの気持ちがなんとなく理解できる。

だからこそ目を背けていられなかった。

ひなたは高校を卒業すると、自ら介護士の専門学校へ進んだ。

 そのことで少しホッとした。

そして近いうちに、中塚総合病院に勤務することが決まっている。

 ひなたにはこのまま落ち着いてほしいと思ってる。

 ひなたは自分を卑下するところがある。

 そのせいで引きこもりがちな性格だ。

 介護士学校に入ってひなたは少し明るくなったようだ。

 きっといい友達ができたのだろう。

 最近になってひなたが笑うようになってホッとしていた。

そんなひなたより、目の前の母親奈菜は若い。

ひなたは21歳、みさきは26歳である。

 お医者さん1年生とはいえ、もう26歳。

 恋人はいても、結婚はまだ考えられない。

 母親の奈菜は24歳。

それで小学生の母である。

 あの女の子は8歳か……。

 とすると、16歳の時に産んだんだ……。

できちゃった婚なんだろう、きっと。

子供っぽい。

こんなんで子育てなんて、ちゃんとできたんだろうか。

 自分に置き換えて考えてみると、有り得ないことだ。

それは目の前の奈菜だけじゃない。

 子供なのに、子供を育てている親を見ると、無責任さを感じずにいられない。

 それはみさきの中にある消せない想いだ。

 というのも両親は学生結婚なのだ。

 しかもデキ婚。

 両親の時代でも珍しいことではない。

 デキ婚そのものに反対というわけでもない。

 しかし両親は本当に結婚したい気持ちがあったのだろうか。

 たまにそう思う。

 私ができたから、結婚したのではないか。

 後悔したことはないのか。

 母親が家事をしないのは後悔の裏返しではないのか。

 母が自分に厳しいのは、したくない結婚をしたせいなど、いろんなことを考える。

 それらがすべてがマイナスに思える時がある。

 常に父が折れているのは見慣れている。

 圧倒的に恐妻家で、父が母の尻にしかれているのだが……。

 だからといって、両親が仲が悪いわけじゃない。

 いや、むしろ仲がいいくらいだ。

 ただ、私が男だったら、母親みたいに仕事しかしない母親は許せないと思う。

 私が結婚したら、専業主婦になりたい。

 これはみさきの本心だ。

 じゃあ、なんで医者になったんだろう。

 なりたいと思ったことは一度もない。

 それでもなるのが当たり前だと思っていたことは確かだ。

 両親の敷いたレールの上を歩いて、一度も挫折をしたことがない。

 でもみさきの心の中は常に自問自答の繰り返しだった。



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