Yoffleside
悪魔の科学者。
ウンコ=シタイナー博士は由緒正しきドイツの名家。
ウンコ=シトンネンスタイン伯爵の系譜に連なる者だという。
ウンコ=シトンネンスタイン伯爵は19世紀ドイツの貴族。
名領主と名高い、厳格な方であったそうな。
それはこんな、真夏の一夜。
ウンコ=シトンネンスタイン伯爵は使用人どものこそこそ語る、妙な噂を耳にした。
いわく。
このゲリビンジャーブルク城は、「出る」のだという。
尻からゲリビンジャーが出るのではない。
かつて、謀叛の疑いをかけられ一族郎党、刑に処された、ヨッフル家。
その美貌に聞こえたヨハン=セバスタン=ヨッフル夫人、その幽霊が出るというのだ。
夫人は在りし日、この城からの脱出を計り。
午前2時。
大広間にて捕らえられ、その場で首を跳ねられたという。
その夫人の幽霊が。
今でも午前2時になると、首を抱えて大広間に立ち。
「嗚呼。今日も2時だわ。」
怨めしげに、呟くそうな。
厳格で知られた気難しい、ウンコ=シトンネンスタイン伯爵のこと。
たいへん怪しからん。
この蒸気機関車の走る時代に。
そのような、前時代的な怪談話なぞ。
怪しからん、怪しからん。
烈火の如くお怒りになり。
よし。
かくなる上は余自ら。
そのような怪異なぞないということ、証明してくれる。
一同に言い放ち、真夏の夜のゲリビンジャー城。
大広間、寝ずの番に付くのであった。
さて。
時は過ぎ、タイム・ハズ・カム。
今宵も午前2時はやって来る。
憮然とした瞳で空中を睨むウンコ伯爵、此は摩訶不思議。
白く沸き立つ湯気か陽炎、もやもやもやと。
人の姿を形作り。
女性の影、その身体には首がなく、小脇に抱えた美しい顔。
憂いの声で、細く呟く。
「嗚呼。今日も2時だわ。」
怪しからん!
怪しからん怪しからん、怪しからん!
ウンコ伯爵、自慢の懐中時計を取りいだし。
烈火の如く、お怒りになる。
貴様、なんと心得るか。
既に午前2時26秒。
30秒も過ぎておるわ。
非科学的な、幽霊風情の分際で。
時間を守らぬとは何事か。
余を愚弄するか、馬鹿者めが!!
翌晩から。
午前2時になるとゲリビンジャー城の大広間では、ウンコ伯爵御手製の仕掛け時計が大音響で。
ジリリリリリリとベルを鳴らすようになったという。
以後。
ヨッフル夫人の姿を見たものはいない。
「…と、いうのが。この家の祖先が100年ほど前、世界初の目覚まし時計を発明した経緯なのだそうな。」
悪魔の科学者。
ウンコ=シタイナー博士は静かに笑う。
「まあ…私としてはね。首のないご婦人が毎晩現れる方が、よっぽど目覚ましになるんじゃないかと。思うのだがね。」
ウンコ博士の眼鏡が、はげ頭の反射で白く輝く。
はあ。
生返事をしつつ。
この博士。
またろくでもない発明をするんじゃなかろうか。
そっちの方が。
ぼくとしてはよっぽど、恐ろしかったりするのだぜ。
(了)